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「こらっ! 翔!」
「助けてもらって、何て言い草だっ!」
松原くんと千波くんが彼に怒鳴りつける。
「ああ、まあアキちゃんはともかく、僕は筋肉とかつきにくいタイプだから」
「でもタクは強いぞ。県大会で3位以内には必ず入るしな」
「アキちゃんは1位か2位だもんね。いっつも準決勝で負けちゃう」
「それはお前が本気で戦わないからだ。スピードはお前の方が上なんだから、本気を出せば優勝できる」
「そっかなぁ…」
それでも一度も勝てたことがないから、まるで夢みたいな話しだ。
「あっ、みんなは大丈夫だった?」
改めて彼らに聞くと、みんな首を縦に振る。
まあ何かする前に倒していたし、大丈夫だとは思っていた。
そこへちょうど、彼らが乗るバスが到着した。
「あっ、もう行った方が良いよ。騒ぎになると、マズイだろう?」
彼らにバスを指さすと、慌てて乗り込んで行く。
「あっ麻野…」
「龍雅くん、今日はありがとう」
「えっ?」
お礼を言うと、彼は驚いた。
「最後はみっともないところを見せちゃったけど、楽しかったよ。新しい友達もできたし、コレは本当。試験、良い結果が出ていると良いね」
「あっああ…」
未だぼんやりしている彼の背を押し、バスに乗せる。
「それじゃあ、ね」
「うん…」
彼らを乗せ、バスは動き出した。
「…タク、俺らも逃げるぞ」
…そうだね。『逃げなきゃ』だ。
僕はアキちゃんと視線を合わせ、こちらに向かってくる警備員から逃げる為に、全力でその場から走り去った。
どうか監視カメラに映っていませんように!…と願いながら。




