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その後は一応大人しく勉強会は進んだ。
彼は唸りながらも、真面目に勉強を教わってくれる。
まあ確かにちょっと飲み込みは悪いかもしれないけれど、でも一度コツを掴めば驚くほど考える。
この高校に入れただけはあるんだな、などと失礼なことを考えてしまう。
勉強会は夕方5時半まで。
学校が六時には閉まってしまうので、それまでとなる。
「とりあえず宿題も作ってきたから、明日までやってきてね」
「げっ! …お前って大人しい顔して、結構厳しいよな」
それでも渋々とノートを受け取ってくれるあたり、一応勉強を教える人として信用してくれたみたいだ。
「でも龍雅くんって勉強苦手みたいだけど、やり始めると集中力があるから大丈夫みたいだね。この分なら、赤点も逃れられるよ」
「そっそうか?」
「うん」
力強く頷いて見せると、彼は嬉しそうに笑う。
「良かったぁ。流石に留年なんてカッコ悪いしさ」
…そこまで思うなら、アキちゃんに教えてもらったほうが良いと思うけど。
「でもお前も勉強教えるの、上手いよな」
「そっそう? でもいつもはアキちゃんに教わってばかりだから…」
「アキちゃん?」
はっ! …言ってしまった。
彼の眼が再びつり上がる。
…きっと誰のことか、分かってしまったんだろう。
「えっと彰人くんのこと…だけど」
声がどんどん小さくなっていくのは、彼の発する空気が暗く重くなっていくせいだ。
「…ふぅん。高校生にもなってそんな呼び方しているなんて、気持ち悪い」
ぐさっ!
こっ言葉の刃が胸に突き刺さった。
しかも『気持ち悪い』って言われたの、二回目だし…。
彼は勉強道具をカバンに入れると、とっとと生徒指導室を出て行った。
…きっとこの勉強会が終わったら、また前のように口もきいてもらえないんだろうなぁ。
……でもやっぱり、『アキちゃん』って呼び方は変えた方が良かったかも。
ずっとこの呼び方だったけど、彼の言う通り、男子高校生を呼ぶものじゃないよな。




