せかめつ!3ー2 『赤森由依の推理 ~ターザン少女とゴム鉄砲~』
「本当? でも、どうやって」
説明を乞うと、由依は壁に寄りかかって気取ったように足を組む。カーテンを手元にたぐり寄せて、推理を始める。
「簡単なことさ。ただこの窓から、飛び降りた。カーテンを命綱の代わりにしてね」
「命綱?」
「そう。このカーテンには、普通とは違う弾力性が強くて丈夫なゴムが中に入っている。燐は君たちの前を通り過ぎてここ音楽室に入り、すぐにカーテンを端っこのいくつかだけ残してレールから外す。それを地面から三階までの高さと同じぐらいの長さのところで腰に巻くか掴むかして飛び降りるんだ。勇気はいるけれど、ゴムの弾力が落下の勢いを殺して、無事に着地は成るという算段さ。
仕上げにカーテンの端っこを思いっきり下に引っ張り、パチンコかゴム鉄砲の要領で出てきた窓へ向けてはじき飛ばして中に入れる。これで現場は再現できる。どうだい、単純だろう?」
確かに単純明快で簡単な解答だった。けれど、気になるところはいくつかある。ホームズに対するワトソンのような心地でわたしは由依に尋ねる。
「でもさ、そんなことしたらレールのところが壊れちゃわない? 燐ちゃんは小柄だけれど、それでも人ひとりの体重を支えるのはきつそうだけど」
カーテンレールには歪み一つ無かった。
由依は間髪入れず答える。
「それなら問題ない。僕は一度、新棟の方の教室でやんちゃな男子がカーテンに掴まって『ターザンごっこ』をしているのを見たことがあるんだ。もちろん星降より明らかに大柄な少年だった。意外と耐久性があるんだよ。
最後に一つ付け加えれば、君と終が音楽室に入るまでに一連の作業を終えられたかどうかだけれど、それもあまり問題にならない。僕たちはずっとこの音楽室には足を踏み入れてなかったわけだからね。いわばブラックボックス。素早く事を起こせるように、万全な準備を整えるチャンスはいつでもあった。――以上、説明終わり」
わたしには、もうぐうの音も出なかった。
「すごい。由依ちゃん、探偵みたいだね」
由依は顔を背けて照れるように笑みを浮かべた。
「いやいや、推理の域にも達していない自明の理だよ。四角い積み木を積んで塔を作るがごとく、さ。それよりも」
表情が消える。
「考えなければならないのはここからだ。どうして彼女は、こんな大がかりで危険の伴う手段を使ってまで、僕たちの前から姿を消したように見せなければならなかったのか――」
「ちょっと待って」
わたしの背後で終が言った。今まで気配がまったくなかったような気がした。
由依は口をへの字に曲げた。
「なんだい」
「こっちに来て欲しい。少し、聞きたいことがあるから」
そして、わたしと由依の返事を待たずにくるりと振り向き歩き出した。
由依はため息をつき、小さくぼやく。
「やれやれ、面倒なことになりそうだ」