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悪役令嬢のため滅亡した国  作者: 五月秋高


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5/10

紅い鴉ふたり

読者の皆様方大変おまたせしました。

今回は相当に血なまぐさいため、年齢の低い方、そういう表現が苦手な方は避けていただくほうが無難です。次話の冒頭にダイジェストを入れる予定です。

(6/9ネタくさいところを修正しました)

「準備できた?」

「ああ、いつでも行けるよ」

「あたしが言ってるのはね、今から、人を斬れるか?ってことよ。いまさら言うのもなんだけど、今が引き返せる最後の時よ?あいつらに直接恨みがあるのはあたしのほうだし」

「気持ちも準備できている、鴉の片割れだけ行かせるわけにはいかないよ」

「そう、ありがと」

「ならそろそろ行こう、待たせると悪い」

「誰を?」

「あいつらを迎えに来た死神のみなさんを、さ」

「そうね。せいぜい真っ赤に化粧して送り出してやりましょう」


* * * * * *

 

 近衛兵団は現在、王都とグラスマイン領の境界あたりにある砦にやってきていた。

 名目上は遅々として進まないグラスマイン領制圧軍の援軍ということになっているが、実のところは新近衛兵団長の指揮の元、半ば独断で進軍していた。目的はグラスマイン領での略奪である。

 先日に王都で貴族が不審死する事件があった。本日の時点では解らず後日にはっきりしたことだが、彼らはグラスマイン領を分割して与えられた貴族らだった。しかもいち早く王家にすり寄り旗幟を明確にした者らだった。

 旗幟を明確にするそれ自体は悪いことではない。時制をいち早く読んで行動したという意味ではもたもたしているよりもよほど良い。だがそれが自分の身をさらけ出すこととなってしまった。「出る杭は撃たれる」である。

 事件のせいで治めるべき領地が宙に浮いてしまっていた。一瞬であるが政治上の空白地であり、誰のものでもない。そこでこの近衛兵団が動いた。誰のものでもないなら、俺たちが奪ってもいいのではないか?と。

 近衛兵団は近衛というくらいなので王都から離れられない。なので土地はいらない。ほしいのは金と女、そして近衛という暴力でもって蹂躙をしたいのだった。


 近衛兵団はグラスマインの乱の後、半分になった。半数が左遷、あるいは辞めたのである。当時の近衛団長もまた左遷され、現在はグラスマイン領制圧軍の軍団長という名の尻ぬぐいをさせられている。

 残っているのは皇太子の命でグラスマイン館に突入し老若男女問わず斬り捨てた連中、そして当時の副団長であり、率先して皇太子に従っているため昇格し近衛兵団長となった前団長の息子のベイドである。

 半分残ったことで分かる通り、事件以前から皇太子による近衛の私有が浸透しつつあった。事後、横車に耐えられなかった面々や不満、反抗を抱いた面々が辞表を提出、残ったうちでも身中の虫になりかねない者は左遷された。前団長も左遷組である。そして残っている今の面々が近衛と言いながらも皇太子直属になりつつある兵らであった。


 

「明日には領地に入れそうだな。あそこは金細工で有名だからな、さぞかし金目のものが手に入るだろうぜ」

「流石ですな団長。ぜひおこぼれを我々にも」

「おこぼれ?馬鹿を言うな、自分の分は自分で盗れよ。フハハ」

「グラスマインの遺産、さぞかし我々が有効に活用してやろうではありませんか」

「そうだな。俺の装備も館襲撃の時に持ち出したものだ。あのグラスマイン家のものだけあってすごいぞ。まったくバカな奴らだよ、皇太子に諫言して目をつけられたせいであんな目にあってはな。娘を嫁がせるからといってよけいなことをするから、な」


 夜更け、砦の上層の会議室で団長らは酒を飲み騒いでいた。テーブルの上にはこぼれ、床には空瓶が転がっている。何人かは泥酔しその辺で寝ていた。到底、砦という軍事施設の様子とは思えない。

 

 その瞬間まで誰もかれも、明日の略奪に胸を膨らましガヤガヤと笑いあっていた。


 突然、砦の門が爆発した。

 閂は真ん中から折れ、両開きの扉の片方が中庭に吹き飛んでいる。立ち上る煙とキナ臭い匂い、何かが力づくで扉を外側からぶち破ったのである。


「なんだ、何が起きた?」


 兵の中でも外壁などで警備していた運の悪い連中、つまり酒にありつけず素面の連中が門を見やる。

 煙で視界の悪い中、門の残骸を潜り抜けてゆっくりと人影が現れた。数は2。

 ひとりは鈍く黒く光る板金で全身を覆っている何者か。顔も鋼板で覆い性別も分からないが、背丈はさほど高くもなく板金鎧を着ている割に大男というわけでもない。だがその右手に身の丈ほどもある長大な、これも漆黒の両手剣を握り肩に担いでいる。鎧には装飾もないが、両手剣の峰には赤の地に金字で二重螺旋が描かれている。

 もうひとりもまた上から下まで漆黒の、こちらは小柄な女性である。黒いスカートに黒い服、黒の軍用コートを纏い、鴉の羽のように黒く長い髪を頭の後ろで纏めている。その瞳も黒、闇の中に色白の顔だけが浮かんで見えた。左手には隣の鎧の騎士よりも長大な杖のようなものを立てて持っている。先端からは白い煙が立ち上っていた。


「な、何者だ!!」

「何者?あなた何者って聞いたの?」

「そうだ、お前たち、何者だ!」

「はぁ……」


 黒いコートの女性が大げさに肩を竦めため息を付く。隣の黒騎士もうなだれた様子で首を横に振る。


「あなたたちバカなの?いやバカでしょ。普通、常識的に考えて」

「扉ぶち破って入ってきた奴らは」

「敵に決まってるでしょ」


 まず正面にいた不幸な1名が、女性から向けられた杖状のものから轟音を立てて飛び出した何かに貫かれた。ろくに鎧も着てなかった彼は半ば胴体がちぎれて吹き飛び、真後ろに居たもう一人にぶち当たって倒れる。


「て、敵襲ぅぅぅ!!」

「いまさら遅いよ」


 勇敢にも警告を発した勇者はそのせいで黒騎士に目をつけられた。両手剣を構え黒騎士が疾走する。板金鎧を着ているとは思えない重厚だが速い足取り。大上段から振り下ろされた両手剣が受け止めようとした剣ごと彼を脳天から股間まで真っ二つにする。

 二つに分かれた彼から噴き出したねっとりとした赤い紅い液体が、黒騎士を赤黒くまだらに染めあげた。


「ヒッ!」

「僕ばかり見てていいのかな?」


 逃げようと背を向けたひとりの頭が微塵に砕ける。延長上には女性の長い杖。


「残念だけど、ひとりも逃す気はないの。好きなほうを選んでね。山麓を斬る硬い稲妻(カラドボルク)か、山脈を貫く鋭い弾丸(カラドボルク)か。もれなくどちらかを全員にプレゼント」


 短剣でも振るうかのような速さで振られた両手剣が兵士を縦に横に分割していく。基本的に両手剣とは遠心力と重量で押し切るものであまり鋭くない。鈍器とまでは行かないが鋭さは二の次の武器である。それが軽装とはいえ鎧ごと人体を切断している。切れ味が尋常でない。それが高速で振られるとなれば腰の引けた一般兵士などでは止めようもない。

 一方、女性の方も剣呑である。両腕で構えた長い杖の先端を向けられたものは轟音とともに身体の一部を砕け散らせて吹き飛んでいく。詠唱もなく炎も氷も雷撃も出さず、ただただ杖の先が無残な死を告げていく。杖先から逃げまどい右往左往する奴らが数秒ごとに一人づつ、赤く砕けて倒れ伏していく。


 この侵入者はたった二人である。対して砦に詰めている兵士は250人を超えている。慌てず対処し、一斉に掛かっていたならば討ち取ることも出来たやもしれない。だがそうした場合でも最初の十数人はかくのごとく死んでいた。ましてや実戦に出たこともなくただ訓練だけ行い、ルールに基づいた大会や貴族の威に物を言わせた試合、ろくに武器も持たない民衆、女子供。そんな弱者しか相手にしたこともない形だけの近衛兵では。

 逃げないだけまだ案山子のほうがましである。



「おい、いったい何が起こってる!」

「て、敵襲です。何者かわかりませんが、砦に入り込まれています。死傷者多数、みんなやられてます」

「くそっ、一体なんだっつうんだ。山賊なわけねえしな、帝国の侵攻か?グラスマイン領の残党か?」

「わかりません。ですが侵入者はもう屋内に入り込んだようです」

「くそっ、各階で迎撃させろ!俺はここで指揮を執る」


 不利な現状報告にいら立ったベイドは酒で酔いつぶれていた連中を叩き起こし会議室から蹴りだす。残ったまだまともな数名に酒臭いテーブルを部屋の隅に押しやらせスペースを作ると、部屋の片隅に置いた長櫃から武装を取り出させた。

 下層でしていた喧騒がだんだん上がってくる中、武装を整え終わった面々が戦々恐々として待ち続ける。

 ベイドも秘蔵の霊薬を飲み、酔いを抜いていた。

 やがて閉じられた会議室の扉の前まで騒ぎが到達し何か重いものが扉に打ち付けられる鈍い音がした後、喧騒が途絶えた。


「なんだ……どうしたんだ?」

「おい、ちょっと見てこい」


 扉に一番近いとこにいた運の悪いひとりが恐る恐る扉に近寄っていく。扉の隙間から廊下を覗こうとして目を当てようとして屈んだところで、扉が横向きに両断された。漆黒の刃が頭頂部の毛を剃り落としてしまう。


「うひぃぃぃいい!?」

「邪魔だ」


 扉を跨いで入ってきた黒騎士に蹴り飛ばされ、彼は部屋の隅のテーブルの角で頭を打って失神する。

 彼はとてつもなく幸運だろう。死神のお目こぼしか女神の気まぐれか命を永らえた。


 黒騎士は赤騎士となっていた。いったい何人斬ればそうなるのか、頭の先からつま先まで赤く塗装されていて所々には肉片もついている。持った両手剣(カラドボルク)も赤黒く、柄を汚さないため下げられた切っ先からはボタボタと粘着性の赤い液体が滴っている。


「さて決着の時間ですが、近衛兵団団長ベイドとその仲間、ということでよろしいか?」

「てめえ何者だ!!」

「この状況で何者だも何もないと思うけど、いちおう名乗っておこうか。カラスと呼んでもらおう。……まあすぐに呼ぶ必要もなくなるけどね」

「鴉だと?バカにしやがって。相手はたった一人だ、野郎どもやっちまえ!」


 流石に黒騎士も連戦に次ぐ連戦で肩で息をしている。疲れを見て取ったベイド側近の4人が一斉に飛び掛かり、そして斬り倒された。


「スキあり!」


 4人の後ろから斬りかかろうとしていたベイドに逆に黒騎士が斬りかかる。4人目を斬り下げた刃を返して下段から振り上げ斬ろうとした両手剣がベイドの構えた盾に弾かれた。


「おおっと危ない。流石はグラスマイン家の盾、頑丈でいい仕事をするな」

「その盾、グラスマイン卿の愛用品。……貴様グラスマイン卿の装備を盗んだな」

「おうよ、反逆者の装備をもらって何が悪い。盾だけじゃねぇ、この剣も、鎧も、この魔法の指輪も、さっき飲んだ霊薬も、全部奪わせてもらった」

「貴様……」


 黒騎士とベイドが抜刀したまま睨みあう。ベイドとて近衛としての訓練は積んでいる。それなりとはいえ腕に覚えはあり、少なくとも近衛の中では1対1では一番強い。グラスマイン家にあった奪った武具が高性能であるため技能の底上げはされている。普通ならかなり手ごわいはずであるが。


「一つ貴様に言うことが出来た。……いい鑑定眼してるな。どれも卿が王都に置いていた中でもおそらく一級品だろうさ。ものを見る目あるよ」

「ハン、びびったか?俺はグラスマインの親父も娘もどっちも嫌いだったが、あそこのこういう品はいい。いずれ皇太子が新しく作られたやつをくれるだろうが、楽しみだ」

「皇太子が?」

「そうともさ。(さか)しらぶったあの親子、黙って皇太子に従っていればいいものを無駄に反抗しやがって。特に娘の方、女のくせに武芸?前線で活躍?ふざけんなよ。女なんてのはベッドの上でアンアンやってればそれでいいんだよ」

「……ほう?」

「顔だけは良かったからな。あのまま皇太子の嫁に来れば俺も味見する機会があったかもしれねえ。ああいう気の強い女を組み伏せるのもまた一興だったかもな」

「……そうか」

「なんだ羨ましいか?残念だったな、あのクズ女は墓の下だし、お前は今から墓の下だ」

「……笑わせるなマネキンが」

「マネキンだと?」

「グラスマイン卿の武具は確かにいい品だろう。だが中身のお前はどうだ?いくらいい品でも限度ってものがあるぞ。鎧掛けよりいい仕事ができるのか?ベイド」

「言いやがったなテメエ!」


 再び部屋の真ん中で二人が切り結ぶ。鴉の両手剣がベイドの鎧を削り、ベイドの片手剣が鴉の鎧を滑る。丁々発止と切り結び火花散らす二人。


「どうした?何人も斬って疲労困憊の僕だがまだ立ってるぞ?やはりマネキンには無理か?」

「ほざくな!すぐ首を落としてやる」

「マネキン野郎に何が出来る?せいぜいこのカラドボルクの錆くらいがお前にはお似合いだ」


 剣撃と舌戦の応酬が続く。そこに、


「ちょぉっと待ったぁ!」


 黒づくめの乱入者が扉から飛び込んできた。黒騎士が怒鳴る。


「遅い!」

「ごめーん。馬車がめちゃ混みで」

「お前は何を言ってるんだ」

「そこは男の子なら、いや今来たとこだから、でしょう。気が利かないわね」

「どこの物語のセリフだ……」


 黒騎士が剣を下ろし後ろに下がる。


「ベイド、残念だが。本当に残念だが。メアリー姉さんを侮辱した貴様を斬れなくて本当に残念だが。……本命が来たようだ」

「ちょっとクロウ、あなたベイド斬ろうとしたの?こいつは、こいつだけはあたしの獲物だって言ったじゃない」

「ああそのつもりだったけど、ちょっとこいつがさ」

「言い訳無用。……けどまあ、間に合ったから良しとしましょう」


 退いた黒騎士に代わって長い杖を前方に構えた黒づくめの女性が進み出る。ベイドとの距離は15歩。


「なんだお前。この黒騎士の連れか?なんかどこかで見たことある顔だな」

「あんたの汚いツラと比べたら雲泥の差だけど、判らない?」

「……メアリーの奴に似てるな。グラスマインの血族の者か?全員殺したはずだが」

「ご名答」


 胸を張り、黒く燃える瞳でベイドを睨み、宣言する。


「あたしはグラスマイン家の庶子、マリア・グラスマイン。あなたたちが殺したグラスマインの一族の最後のひとりよ」

「ちっ、逃した奴がいやがったか」

「いいや。あなたがたはひとりも逃しはしなかった。もともとグラスマイン血族の者はそう数が多くないし、王都屋敷には不運にもその全員が居たわ。一族全滅」

「じゃあお前は何だ?」

「現当主だったグラスマイン卿はずいぶん長い間子供に恵まれなかった。だから妻の遠縁の者を妾として持ち、孕ませたのがあたしよ」

「妾か。側室じゃねえんだな」

「メアリーができたからね。運がいいのか悪いのかほぼ同時期に正妻と妾に子ができて、母上も憚ったんでしょうね、表向きの肩書を望まず妾の身分に留まったのよ。もともと使用人だったしね」

「ずいぶん詳しく教えてくれるな。どういうつもりだ?」

「あなたには知っておいてもらわないと困るからよ」

「困る?何がだ、俺に取り入ってグラスマイン家を継ぎたいのか?そりゃあお前、それならこの状況は好都合じゃね?良かったな、グラスマイン家を牛耳れるぞ」

「……」

「どうした?図星刺されたか?話の内容によっては皇太子に口効きしてやるぞ?」

「ふざけんな」

「は?」

「ふざけんじゃないよ。父上は妾である母上とあたしをかわいがってくれた。正妻である伯母上もメアリーの姉扱いしてあたしを立ててくれた。立場上は日陰の身だけど何も不自由はなかった。堅苦しい貴族の身分に興味なかったしね。あたしもこのままいち領民としてグラスマイン家の使用人あたりとして人生送っていくと思ってた。だけど」

「だけど?」

「お前が、おまえが、オマエガ、あたしの幸せを奪った。勇敢だった父上を斬り殺し、腹違いなのにかわいがってくれた伯母上を刺し殺し、優しかった母上を焼き殺した。まだ幼かった義弟の首をはねた、面倒を見てくれた使用人のおばさんを突き殺した、いたずらをして怒られた執事のじい様の首を吊った。許さないゆるさないゆるさないユルサナイゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないユルサナイ……」


「だから、殺す。ゴミ屑のように殺す。火中の虫のように殺す。生きてきた意味を無くしてやる。親でも分からないようにしてやる。地獄の悪魔の手間を省いてやる。言い残すことはないか?誰も聞いてやらないけどね。ここで、これから、ただの肉片にしてやる。クズめ、死ね。殺してやる。」


 マリアは血を吐くような勢いでそう言うと、長い杖の先端をベイドに向け片膝を付き構えた。


「対龍多目的超遠距離狙撃銃、試作名ドラゴン殺し、我が父上の形見、山脈を貫く鋭い弾丸(カラドボルク)を受けるがいい!」

「ドラゴン殺しかカラドボルクか何か知らんが、この魔封じの盾の前にいかなる魔法も意味はなs」


 轟音と共に放たれた弾丸が魔封じの盾を中央から4つに割り、ベイドの左腕を肩ごと抉り取っていった。吹き飛んだ左腕が部屋の奥の壁にぶち当たり落ちる。


「なぁぁぁぁ!なぜだ!腕が俺の腕が!なんで防げない!」

「……銃はね、魔法じゃないからよ。爆発魔法で弾丸を打ち出す、物理現象だからよ」

「じゅ、銃だと?知らんぞそんな武器!」

「知るわけないわ。これが最初で最後のひとつ。父上の形見よ」


 再装填された2発目の弾丸が右腕を肘からもぎ取っていく。


「あああ、血が止まらねぇ。た、助けてくれ、このままじゃ死んじまう。悪かった、俺が、俺が悪かったぁぁ!」


 両腕から血を噴き出させ床に這いつくばるベイドを冷ややかな目で見るマリアが、懐から赤く塗られた細長い弾丸を取り出した。


「お前は、今まで命乞いをした相手を助けたことが、あるの?」

「あり、あります!ありますありますありますぅぅぅ!」

「そうなの。いいことしたわね。でも死ね。悔やんで死ね。黙って死ねとは言わない。苦しんで、泣きわめいて、ヘドに塗れて死ね」

「あああああああああああ!」


 ベイドが泣きわめき逃げようとした。立ち上がって身をひるがえそうとしたその鳩尾に、3発目の、赤い弾丸が突き刺さった。


「うごぉぉぉ!?」

「それはね、爆裂遅延信管弾っていうの。捻っておくと、しばらくすると爆発するのよ。威力は壁を吹き飛ばせるくらい。良かったわね、あと10秒ほど生きていられるわよ」

「や、やめてとめてやめてとめてやめてとめて!」

「9、8、7……」

「嫌だ、いやだ、こんなの嫌だ、死にたくねぇ!」

「あなた、知ってたでしょ?グラスマイン卿は何もしてないって。皇太子の甘言に乗って甘い汁が吸いたかったんでしょ?」

「知らねぇ、知らねぇ、本当だ、助けてくれ!」

「嘘つき。調べたのよ。…5、4、3…」

「うわぁぁぁ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ」

「2、1、零……」



「……天井まで染まったな」

「……こんな汚いものはもうこれっきり」

「お互い頭の先まで真っ赤だな。鴉が真っ赤になってしまった」

「紅い鴉ってわけね。良いわね、復讐を目指す私たち二羽の鴉には丁度いい呼び名よ」



 その日、王国近衛兵団は壊滅した。後日「紅い鴉事件」として、そして王国の滅亡への最初の1歩として、後の世の歴史書の1行となるのであった。


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