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不壊のフランベルジュ

おまたせしました。第3話です。今回の主役は傭兵団長です。

 王都より出立したグラスマイン領の制圧軍は何の障害もなく目的地である領都にたどり着いた。

 もともとはグラスマイン領は山地の辺境であり、飛竜や土竜、森林魔狼などの魔獣による脅威の高い地域だった。だが街道を通し治安騎兵部隊を編成し、定期的に狩を行い、魔獣を森林山中の奥に追いやることで安定した交通網の維持を成してきた。

 ゆえにそちら方面の障害はあまり無いだろうとされていたが、必ず起きるだろうと予想されていた別の障害が起きなかった。

 つまり、グラスマイン領騎士団および傭兵団の反抗。



 制圧軍が領都に着く数日前、とあるグラスマイン領北部にある鉱山の町の酒場で二人の男がもめていた。


「団長、どうするつもりですか」

「どうするってよ、何がだ」

「何がじゃないですよ。王都から敵来てるやつですよ。数日後には領都まで来ますよ。何昼間からのんびり酒飲んでんですか」

「わかってんよ」

「何が分かってるんですか、1週間前に電報でグラスマイン伯の暗殺の連絡来てからこっち、団長何もしてないじゃないですか。早く迎え撃つ準備しないと間に合いませんよ」

「暗殺じゃなくて反乱起こして死んだってやつだろ」

「暗殺ですよ。団長、電報ついたときにあれだけ取り乱しておいて何とぼけてるんですか」

「……仕方ねえなぁ。副長、団員を全員広場に集めろ。全員な」


 30分後、傭兵団所属の兵士たちがほぼ全員集まった。


「赤い長剣、青い槍、欠員なし」

「黒い盾、欠員2名。アンディとテリーの野郎が居ねえ」

「紫の鎖帷子小隊、欠員16名。16名は現在鉱山の周回任務に入っています」

「緑の弓、欠員なし。全員今すぐでも出られるよ」


 色別に区分けされたそれぞれの隊が武装し集結している。町の広場を埋め尽くす彼らの顔は引き締まり、内から溢れる戦意は隠し切れない。盾は磨かれ、矢筒には矢が満載、槍の穂先も研がれている。


 彼らの前に一人の男が立った。顔には若干の酔いの色が残っているが足取りはしっかりとしている。鎧は身に着けず平服、ただし左手には長大な両手剣を鞘ごと持っている。

 傭兵団『ゆらめく炎の剣』の団長である。

「お前ら、整列!……はしてるな、結構。じゃあさっそく本題に入る。もちろん知っているだろうが、俺らの雇い主だったグラスマイン卿が死んだ。電報だから実際のところ何があったかは知らねえが、反乱を起こして失敗し、一族郎党全員死んだそうだ」

「団長、まさかそれを信じてるなんて言わないですよね!」

「うるせえ、話は最後まで聞け。先に俺の感想を言やぁ、あのグラスマイン卿がこんな何でもないときに反乱なんか起こすかよ。ましてや俺らをここに置きっぱなしでな。俺らは最強の傭兵団だぜ?本気で勝つなら普通引っ張り出すに決まってらぁ。それが王都でろくに兵士も伴わずに反乱起こしただ?片腹痛てえわ」


 団長は吐き捨てるように言った後、顔を上げて全員を見渡した。


「だからお前らに告げる」


 開戦の合図だと、戦争の合図だと誰しも思った。広場周囲の民衆もそう思った。


「今ここで傭兵団『ゆらめく炎の剣』を解散する」

「団長!何を言ってるんですか!」

「なにバカなこと言ってるんです!」

「嘘でしょ……」


 正反対の宣言にとたんにざわめく傭兵たち。最前列の者が団長に詰め寄ろうとしたそのとき、


「静かにしろ!!」


 団長が鞘から長大な剣を抜き放ち、地面に突き立てる。その刀身は炎のようにユラユラと波打ちまるで鋼で作られた炎のようだ。

 傭兵団『ゆらめく炎の剣』の名の由来であり、団長自身の二つ名でもあるフランベルジュである。


「最初にも言ったが、雇い主のグラスマイン卿が死んだ。グラスマイン卿は勝たせてくれるいい雇い主だった。食わせてくれるいい雇い主だった。行き場の定まらない俺たちに居場所をくれた。手足を失っても町に働き先を設けてくれた。死んでも墓を建ててくれた。だが彼は死んだ。殺された。このまま行けば王国の胸糞悪いクソッタレ野郎のどいつかが次の雇い主になるだろう」


 団長は地面からフランベルジュを抜くと、見えない何かを薙ぎ払うように横薙ぎにする。


「だが俺は団長としてここまで俺たちのことを見てくれた彼に不義理を働きたくねぇ。かといって歯向かうには国一つはデカすぎる。だからここで解散する。お前ら退職金を受け取ってここから全員出ていけ。たんまり払ってやるからどっか別の傭兵団に行くなり畑でも買って暮らすなり好きにしやがれ」


 そう言って最前列のひとりに小袋を投げ渡す。恐る恐る開けてみると金貨がザラザラ入っていた。銅貨でなく銀貨でなく金貨だ。小袋一つ分で1家族を数年養えるくらい入っている。


「お前には今渡した。他の奴らもいつもの詰所に山のように用意してあるからあとで受け取っておけ。……そういや黒い盾で二人逃げだした野郎がいたな。逃げ出すのは別にかまわねぇがせっかくの退職金がもったいねえ。どっかで見かけたら取りに来るように言っとけ。じゃあ以上だ、解散!」

「団長!」

「団長!」


 狼狽える団員をよそに、団長はフランベルジュを鞘に仕舞うと背に担いで行ってしまった。

 お互いに顔を見合わせる団員。数人づつ広場から姿を消していった。



 数日後の夜、団長の姿は山中にあった。細い登山道をもう少し上ると王国の砦があり、そこからさらに頂上に向かうと帝国との国境線である。とはいえ目印もない山の中のためだいたいこの辺までは王国、あそこから先は帝国、このあたりはどっちのものでもないといった感じのあいまいな線引きではある。 

 山中では日が沈んでからの行動は厳禁である。道も見えず、落石や落盤、地くずれ、魔獣や猛獣など危険がいくらでもある。ゆえに団長も小さな広場でたき火をして夜を過ごしていた。

 団長の傍らには寝るための毛布、雑貨を入れたずだ袋、フランベルジュの鞘が置かれている。抜刀されたフランベルジュはむき身で右手側に置かれていた。

 団長のフランベルジュは魔剣である。柄を握り念じれば炎を発し、握り続けている間は高い炎耐性を持ち主に与える。燃焼による酸素欠乏は対処していないが炎によって肺を焼かれることがないため、メアリー嬢の炎の嵐のド真ん中を突っ切って敵陣に突っ込んだこともある。

 敵軍からすれば悪夢だろう。燃える炎の嵐に見舞われたと思ったら鋼の炎まで付いてきたとか、1撃で2度やっかいである。

 

 そのフランベルジュが焚火の傍らに()()突き立てられていた。団長の手元のものを含めれば5本もある。

 それらをぼんやりと見ながら、団長はフランベルジュを受け取ったときのことを思い出していた。


* * * * * * * * *


「……グラスマイン様、こんなむさ苦しいところに何の用で?当主みずからわざわざお見えにならなくとも使いの者を立ててもらえればこちらからお伺いしたものを」

「いや団長、傭兵団がこの鉱山地域を守ってくれるようになってしばらく経つが、町民が魔獣に襲われたとか盗賊が村を襲ったとか、そういう被害がもうこれは嘘のように減ってくれた。すべて団長のゆらめく炎の剣団のおかげだよ。当主として礼を述べる」

「礼を言われることはありませんぜ。そういう契約で、そういう仕事だ、全うできなけりゃ賃金もらうことはできねえ」

「それでもだよ。領民が安心して仕事に打ち込めればそれだけみんなの生活が豊かになる。もちろん私の生活もだがね。それで、だ。団長、これを受け取ってほしいのだ」


 大貴族のくせにろくに供回りもつけず、しかもいきなりやってきたグラスマイン卿が、乗ってきた馬車から長い大きな木箱を持ちだしてきた。特に飾りもない普通の木箱だ。中身は剣とかそのあたりぽいが。


「さあ開けてくれ」


 俺の前に箱を置くグラスマイン卿がニヤニヤしている。子供にプレゼントをやる父親のようだ。俺は独身だから想像でしかないが。そして子供どころかいい年したおっさんだが。

 およそ俺の身長ほどもある箱を開けてみると、不燃布に包まれた見事な両手剣が入っていた。刃が直線でなく波打っていて破壊力は高そうだ。


「フランベルジュと言ってな、異国の剣だが、真似て魔剣を打ってみた」

「魔剣!そりゃすごい」

「柄を持って念じれば刃が炎に巻かれる。振れば若干だが飛ぶかもしれん。で、柄を握っている間は炎に対して耐性を得る。炎出したまま刀身を触っても火傷しないぞ」

「それはなかなか面白いですな。ですが、こいつはお返しします」

「それは困る」

「一介の傭兵には魔剣は高価すぎます。これ1本で屋敷まるごと買えますぜ、うかうか戦場で使えたもんじゃない」

「実はそう言うと思っていた。そこで!」


 グラスマイン卿が満面の笑みで馬車の扉を開ける。と、そこに同じ箱があと9個積んであった。


「ぶっ!」

「もちろん中身は同じフランベルジュだ。合計10本もあれば1本や2本無くしても問題あるまい」

「あ、あんた何考えてんです!魔剣ですぜ、それを10本とか、酔狂ってレベルじゃねぇよ」


 思わず素の口調に戻ってしまう。が、特等の宝くじを上げるよ、10枚な、みたいな話だ。俺が慌てるのも当然だろう?

 俺の慌てる様子に爆笑してたグラスマイン卿もひとしきり笑うと、ふと真顔に戻った。


「これは俺の信条だが、武具ってのは使っていれば壊れるもんだと思う。せっかくの魔剣も使わずにいればただの宝飾品だ。フランベルジュってのは剣だ。武器なんだから戦場で使われるべきだと思うのだ。戦場で折れて結構。投げ捨てて破棄して結構。それで持ち主の命を全うできれば武具として本望だろうと思う」

「この魔剣より俺の命のほうが高額だと?」

「当然だ。剣はただそこにあるだけでは魔獣を狩ってはくれんよ、持ち主こそ重要。とはいえ実際のところ、これはそこまで高額でもないのだ。試作品でな、魔剣ではあるが数打ちでもあるのだ。なので使用者の感想もほしい。別に急ぐ話ではないので、今後使ってみてその時の結果を教えてくれ。もう団長にあげたものだから自分で使うほかに部下に褒章で出してもいいぞ」


 とんでもなく高額な贈り物をしてグラスマイン卿は帰っていった。

 後ほど知ったことだが、確かに数打ちとも言えなくもないが10本ともドワーフ鍛冶の逸品であり、言うような安い代物では決して無かった。魔剣でないただのドワーフ製武具というだけでも一流品である。それが魔剣化しているとなればそれこそとんでもない価格がつく。

 とはいえグラスマイン卿の野望たる新たな特産品の一環としての試作魔剣づくりという面も本当であり、それから戦場で幾度となくフランベルジュを振るった。魔剣が特産品というのもなんだか変な話だとは思うがな。

 1本目は戦場で真っ二つに折れ、2本目は発火機能が壊れたため傭兵団事務所のロビーに飾った。火は出ないが剣としては今でも使えるぞ。3本目が今の帯剣、456本目を手柄を立てた部下にやった。

 3人とも大剣使いじゃないから家に家宝として置いとくらしいが、傭兵のくせに家宝とか笑えるな。まあ喜んでもらえたなら幸いだ。使用レポートは俺が挙げてるしな。


 しばらくそうやって物思いにふけっている間に夜も更けてきた。が、


「こんばんわ」

「誰だ?」


 暗がりから誰か出てきた。ふもとの方から来たようだが。


「やはり団長だ。まあフランベルジュ見れば他にいるわけもないけど」

「副長、何の用だ。まさか俺を追ってきたとかいうんじゃないだろうな?」

「傭兵団は解散したから、もう副長じゃありませんよ。……親父」

「アル、何しに来た。お前にはエルと母ちゃんのことを頼んだだろうが」

「エルも母さんも親父のほうが心配だと。心配しなくてもエルは女ながらもう一人の副長を務めてたんだ、めったなことはないさ。村の人らと一緒に西の国に行くってさ」

「馬鹿野郎、それでも置いてくる奴があるか。とっとと引き返して二人を守れ」

「だが断る。僕は親父と帰る義務がある。が、親父、グラスマイン卿の敵打ちを諦める気はないんだろう?王の首を取るとかいう無謀に付き合わせるのが嫌だから傭兵団も解散した。どうするつもりだったんだ?」

「……わかんねぇ。解散して王都の連中ざまあみろというところまでは微塵も後悔してないがな。まあ傭兵連中は急な解散で慌てただろうがその分給金に色つけてやったんだ、納得してもらいてえな。だがどうやったらクソ王の首を落とせるかが思いつかねえ。さしあたり国境砦に潜り込んでスキでも伺おうかと思ってたんだが」

「親父の発想だとそんなあたりだろうね、だから僕にもこんな感じで追いつけた。けど僕にも今のところいい手は思いつかない。とりあえず明日砦に行くとこまでは予定通りに行く感じにしようか」

「仕方ねぇなぁ、なら今日は寝ようぜ。お前先に寝ろ、後で起こしてやる」

「そこは親父先に寝ろよ、と言いたいとこだけど言い争っても時間の無駄ですしね。なら先に休ませていただきます」

「おう、おやすみ」


 朝方にアルを起こして交代した。寝かせたまま置いていくのは簡単だが間違いなく追ってくるし、戦いの場なら無双の俺でも戦術戦略的なところはからっきしだ。それを任せていた息子が付き合ってくれるというのは嬉しかった。だがいざというときが来たら命を張って逃がすつもりでもあるが。

 二人で山道を登って行った。とはいえ砦があるためある程度は道は整備されている。まあ平地に比べれば無いよりまし程度だがな。

 やがて見えてきた砦だが、なぜか騒々しい。帝国が攻めてきたとかなら物々しいんだろうが、それよりはただ騒がしい。何だ?

 そうして砦の門が見えてきたあたりで騒々しい理由が判明した。人だ。鎧を着た連中がたくさん居る。


「おいてめえら、こんなとこで何やってやがる」

「あ、団長」


 どいつもこいつも見慣れた顔だ。うちの傭兵団の連中じゃねえか。

 入口あたりで群れてた奴らの中から一人が出てきた。赤の長剣中隊のリーダーだった奴だ。


「団長、俺らのことクビにしたじゃないですか。次の行き場を探してたら騎士団のエラい人が来てね、ここで働かないか、って言われたんで人集めて来てみたんすよ。団長来たならちょうどいいや、団長、もいっかいここで傭兵団再編しないっすか?」

「そんなカッコ悪いことできるかよ」

「いやいや、どうせここで働くなら団長の指揮下で同じようにやるほうが依頼とか戦術とかやりやすいっしょ。ちょうど副長もおられるようですし」

「中隊長、今何人くらいここに来ています?」

「副長、……そうですねぇ、ここには100人くらいですが来る前に声掛けはしてきましたし、身支度した連中が来るはずですわ。最終的に500人、総勢の半数くらい来るんじゃないっすかねぇ」

「団長、いや親父、ここはやったほうがいい。最悪のときは全員で逃げりゃそれで済むが、チャンスが来た時に兵力がないとできることが少なくなる。受けるべきだ」

「団長、俺も、いや俺らもそう思うっすよ。ぶっちゃけ、ここ来てる奴らは団長の同志っす。金で働く傭兵が義理とか人情をどうとか言うのもアレだと思うっすがけっこういい目を見させてくれたし、自己満足かもしらねえっすが、ちょっとぐらいでもグラスマイン卿の敵を討てる機会がありそうなら乗るっきゃないっしょ」


 いつの間にか周りに人が集まってきた。どいつもこいつもフル装備して俺の言葉を待ってやがる。


「むむむ」

「何がむむむだ。親父らしくない。決断してしまえよ」

「……ええい、どいつもこいつもバカ野郎だ。分った、ゆらめく炎の剣、ここに再編だ。お前らついて来いよ。給料は安いがな」

「心配いらねぇっすよ、前の団の団長がたんまり退職金くれたおかげで俺ら金持ちっす。あとは現団長が俺らを勝たせてくれるだけ。頼むっすよ」


 

 その日、王国最強と言われていた傭兵団がひっそりと再興した。知るものは知る、勢いは衰えたものの、かつての主の敵を討つべくその剣を研ぎ澄ませ、その時が来る日をひっそり待っている。

 燃え盛るフランベルジュの炎が王国を焼く日はそう遠くない。

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