四十七 グランド・フィナーレは遠い
長い長いすれ違いの末に、お互いの気持ちを打ち明けあい、打ち解け会えたカイルとユウナ。
これで、カイルが大会に出場した目的も、ユウナの目的も無くなくなった。
後は、約束通りアンジェリーナを優勝させるだけ……
「ユウナ……一回、待って。全部終わらせてからにしようよ。レンジにもきちんと報告したいし」
「……ん。そうね」
と、了承したユウナだが、キスは辞めても、カイルの身体にベタベタ寄りつくのは辞めなかった。
「ユウナ?」
「お願い……離れたくないの」
「何かもう……グスグズじゃん。本当にユウナ?」
小さくなって胸に寄り掛かり続ける姿は、可愛いのだが……
「だって! カイルが好きだったから……嫌、なの?」
「……っ」
……上目遣い。小さく零す涙。キュッと引き結んだ唇。
可愛い!!
「そ、そんなことないよ。ユウナの好きにして良いんだよ?」
「ふふ、じゃ。キスしてくれる?」
「良いよ」
イチャイチャ……イチャイチャ。
そんな光景に、
「超々激々甘々だな!! カイルよ。いい加減にしないか! 次は、私の手足になる約束だろ!」
アンジェリーナがツッこみ……
「ツッコミの語弊力が残念だね……」
ギロリッ!
「カイル。金髪だけ残すから、あの煩い邪魔モノ殺していーい?」
ユウナの本気の殺意がアンジェリーナを射ぬく……
再び、瞳に狂気を宿すユウナの頭を、カイルが撫でながら。
「ごめん。ユウナ。アンナには協力しないといけないんだ。
ユウナと仲直り出来たのも半分くらいはアンナのお陰だし……俺の目的とも重なってる」
「そう、カイルが言うならわかったわ」
と、ユウナはすぐに殺気と狂気を消してしまう。
もう、ユウナはデレデレ……だった。
「それで? 何をするの?」
「そうだなぁ……」
アンジェリーナを優勝させるには……
「まず、イマイチ、立場の解らない。マリンをボコッて人数を絞ろうかな。
俺が来る前にユウナをボコッてたようだしね」
「そう……それで良いのね」
ギロリッ!
「ヒィ!」
カイル。ユウナ。アンジェリーナの敵意が、一斉にマリンに突き刺さる。
「ちがっ……! 私は……カイルさんの為に」
「ユウナをボコッたの?」
「そうよ? カイル。手加減してあげたのに肋骨を折られたわ」
ギロリ……
カイルの目にも狂気が宿り……マリンを襲う事を即断する。
「まぁ、待つのだ」
そんな二人の肩をアンジェリーナが掴んで止め……ニヤリと笑う。
「マリン殿。問おう。マリン殿はカイルのナニなのだ?」
「ナニと言われましてもぉ……」
意味の解らない問答にマリンが怯えていると、
察したユウナがくすりと笑って白黄色の髪を後ろに払う。
「ねぇ、カイル。そういえば、マリンは将来的に、カイルに仕える忠実な下僕じゃなかったかしら?」
「ん? そうだっけ? それ、確か断られなかった?」
「そう、勘違いなら良いのよ……」
くすり。
妖しく妖艶な微笑みでマリンを見つめて……
「なら、ボコるだけ、だから」
「っ!」
「んふふ♪ カイルが沢山お嫁を娶るなら、イロイロしてくれる世話係が欲しいのよねぇ……どこかにちょうど良い娘はいないのかしら? うふふふっ」
……悟ってしまった。
ユウナが、勘違いなどしてないことを……
今すぐカイルの下僕にならなければ……ボコってやる。そういっているのだと。
「ヒィ……!」
「ん、ふふっ♪ マリン。言葉は選びなさいよ? これは私からの慈悲でもあるのだからね?」
「私は……私は! カイルさんの下僕になりたくあり……」
「そうそう、カイル。私ね。マリンに顔を斬られたのよ? 見て? ぱっくりと裂けちゃったの。(甘声)
傷跡が残っちゃうわ(甘声)」
『よし。マリンは死刑だ』
「為りますっ! 私、カイルさんの下僕になりますぅ!! いえ、ご主人様!! ならせてくださいぃーっ!!」
『ご主人様!?』
こうして、この大会の情勢をほぼ決定する、四人の平等な同盟が成り立った。
「と、悪ノリしちゃったけど、マリンが味方なのは、最初から疑ってないよ。……ありがとね。俺のために色々してくれたんでしょ? ゲロも飲んでくれたし」
「飲んでないですぅ~!! かけられたんですぅ~!! 事実を歪曲しないでください!! ちゃんと責任とっください!!」
結局、くすくすと四人で笑いあい、大円団……
そんな終わりが見えたとき……カイル達に更なる試練が襲来するのだった。
ドカァァァーンーーッ!!
まだ、グランドフィナーレには早過ぎるとばかりに、大爆発が起こり、
「ぐぁあああああーーっ!!」
吹き飛んできたボロボロのジーニアスが四人の前に転がった。
「ジーニアス!! おい……! ジーニアス!! 大丈夫か!」
「う……っ。一応……ぎりぎり……平気かな?」
「っ!」
と言って立ち上がる、ジーニアスの負傷は平気には見えないほどの重傷具合。
焼けただれた肌は黒ずみ、身体中に切り傷を負って、尋常じゃない量の血を流している。
「……アンナ」
「うむ……仕方ないな《オメガ・ヒール》」
すぐに治療にはいるアンジェリーナを後ろに、カイルは、ふらつくジーニアスの背を支えて、
「何があった? お前がそこまでやられるなんて……第一、なんでリタイヤしなかった」
「……僕は、約束は守る主義なんだよ。……それより、カイル。聞きたいんだけど……奪われた魔剣との契約を切ったりしかい?」
「していない……けど」
それが、どうしたんだ?
と、カイルが聞き返す、前に……アンジェリーナが息を飲んで激しく動揺を見せた。
「アンナ? なにしてるの? 早く治療を……」
「治らないのだ……」
何度、回復魔法かけても治らない傷に、アンジェリーナは最初、回復限界を疑った。
しかし、それとは違う、何か強力な力に阻まれている感覚があった。
そして、それをアンジェリーナは知っていた。
「破壊の望叶剣。《炎龍丸》の不治能力……」
その特殊効果は斬ったモノを治療不能にする能力……
自分で考えておいて否定したいその答えは……
「フハハっ! さぁ、全てを燃やせや! ここからは略奪の時間や!《炎龍の爆炎》」
ジーニアスを追って爆炎と共に現れた、覆面の男が炎龍丸を振るった事で証明された。
「クッ! 《精霊よ・僕らを護り給え!! ウォール》」
カイル達を襲う爆炎から、ジーニアスが魔法で防壁を造りだし防ぐ。
が、その炎は、望叶剣が生み出した破壊の炎。
ジーニアスの強力な魔法防壁は、瞬く間に亀裂が走った。
割れる!!
「ムム! 《オメガ・ウォール》」
それを見たアンジェリーナが遅れて、超級防壁魔法を展開し、焼死の危機を脱した。
「なんで、あいつ、俺の契約している魔剣を使ってるんだ! いや、そもそもあの剣は、誰にでも使える剣じゃない。どういうことだ……? くっ……それにしても空気が熱い! アンナっ! なんとかしろよ!」
「無茶を言うでない! あの剣相手なら、私もそこまで余裕はないぞ。
カイルこそ! 早くあやつを倒して参れ!」
「お前こそ無茶を言うな! 俺は魔力も剣気もすっからかん。立ってるだけでも奇跡なんだぞ!」
「カイルよ……それは、自分で言うべき台詞ではないぞ」
アンジェリーナは呆れてしまうが、カイルが戦力にならないことは確か。
気合いでどうにかできる疲労を超えていた。
「ふふん♪ カイルが戦えないなら私の出番ね。カイルのモノを盗んで良いのは私だけ。あいつを殺して奪い返してやるわ!」
「ユウナ……盗んだモノは返してね」
いまだにカイルにベタベタしていたユウナが、スッと離れて剣を抜く。
「ふふ、そんなに心配そうな顔しなくても平気よ。私に任せなさい……」
ふらり……
「えっ……? あれ……?」
やる気満々だったユウナだが、身体はそれを許さない。
闇の力を大量に使った反動が、ユウナの身体を蝕んでいた……
四肢に力を入れようとしてもピクリとも動かせない。
「ユウナ!」
倒れるユウナをカイルが受け止めて、ガッチリと抱きしめてしまう。
……これ以上、戦わせられない。
ユウナは剣一本で、望叶剣を使うマリンと渡りあっていたのだから、極度の疲労は当然だった。
更に、カイルと和解したことで、張り詰めていた緊張の糸は切れ、ただのデレデレの乙女になってしまっている。
「辞めてくれ……お願いだから……おとなしくてて、ユウナに何かあったら……俺は」
「……カイル。私は平気よ?」
嘘つけ!!
「ユウナ……頼むから」
「……でも、それじゃあ、どうするのよ! カイルも、私も、そこのムッツリも、限界で! ……」
「ムッツリって、僕の事かい?」
「……金髪は戦力外。このままじゃ、負けるわよ?」
「僕の事は無視なのかな?」
「……」
核心を突いたユウナの問いに、カイルは言葉を止めて……
一度、アンジェリーナを見つめる。
「降参するか……今の俺達が手に終える相手じゃない」
「……そうか、ならば、カイルはそうすれば良い!」
「……俺はって……アンナは!」
魔力を注いで爆炎を防ぎつづけるアンジェリーナは、カイルと目を合わせることなく……宣言する。
「この大会には、惚れた男と、愛する妹の未来がかかってるのだ。
どんな事があろうと、私は引かん!」
「……っ!」
アンジェリーナの覚悟は本物だった。
それに呼応するように、ジーニアスも立ち上がる。
「アンジェリーナ女王。僕もお供しますよ。ミリナリア姫との約束もあるのでね」
「ジーニアス……! お前! その傷!! 本当に死ぬぞ!?」
「僕が女の子に立てた約束は、僕の命よりも重いのさ。……なんてね。カイル。君との決着は今度してあげるよ。早くリタイヤするんだ」
「っ!」
「カイルはもう、一人じゃないから無茶出来ないだろうけど……僕は、無茶してでも、見つけたいモノがあるんだ!」
そういった、ジーニアスが、二丁の銃に魔力を装填して、アンジェリーナの防壁の外に出ようとする。
カイルは、その背中を……追いたかった。
疲労困憊を無視して、ジーニアスとアンジェリーナの隣で戦いたい……
「……」
でも、カイルには、帰りを待ってくれる人達がいる。
なにより、絶対に護りたいユウナを今、抱いている。
ジーニアスの言う通り無茶をできる……場面じゃない。
「……イル。カイル! コッチを向きなさい」
「ユウナ……俺達は……」
リタイヤしよう。
そう言おうとした、カイルの唇を、ユウナは人差し指を当てて塞いでしまう。
そして、
「カイルは、やりたいことをやりなさい」
「……」
「それを邪魔する女が、カイルを好きになんてならないわ」
「……っ」
ユウナにそう言われて、思い出す。
シルフィアもカイルの自由にしていいと言ってくれていたことを……
「ユウナ……俺、行くよ。待ってて……」
「十年近く待ったのよ? 後、少し待つくらい、なんでもないわ。それと……私の気、使いなさい」
儚く微笑んだ、ユウナがカイルを抱擁し……
身体に気を送り込む。
全く異質の他人の気を、自分の気として使うのは、普通なら不可能だが、
カイルの剣気を目覚めさせたユウナの気だから出来ること。
「やっぱり凄い……これがユウナの……」
それにより、カイルは通常以上に濃い剣気を纏う。
「ふふ、私はこれで終わりにするけど……カイルは満足するまで闘いなさい」
「うん……行ってくる」
そこで、ユウナの身体が転移して、カイルの腕から消えうせる。
大会の生き残りも、残り……僅か。
カイル。ジーニアス。アンジェリーナ。マリン。魔剣使いで、役者が出揃い最後の闘いが幕を開ける。
「なんだ。カイル。逃げるじゃなかったのか?」
「お前を置いて逃げられるかよ。(後で、なに言われるかわかったもんじゃないし)」
ドキュンッ!!
「そういうことにょお~! いきにゃりゆうにゃー! ……結婚するぞ!」
「黙って壁を維持してろ。ジーニアス! 俺が前衛を引き受ける。お前は後方支援を……」
「嫌だね。僕は、カイルの指示下でなんて死んでも戦わないよ。《水精よ・炎熱を防げ》アンチ・ファイア」
「おいっ!」
アンジェリーナの回復・支援魔法。
ジーニアスの遠距離攻撃魔法。
カイルの近接剣術。
とっさの共同戦線にしては、これ以上ない程の相性の良さなのだが……
ジーニアスはそれを放棄して、対炎魔法を纏い、《炎龍丸》の煉獄の炎が支配する壁の外側にでてしまう。
パン。パン。パン!!
そのまま、魔銃を魔剣使いに撃ち込んで戦闘を再開した。
強力無比の魔弾が音速で走るが……
「それ……もう飽きたかいな」
ハエでも、叩くように剣の一振りで防いでしまう。
「……っならっ! この弾はどうかな? 《六精よ》」
超短文詠唱で撃ち込まれる弾は、ジーニアスの必殺魔法。
全てを塵すら残さず消し飛ばす、六属性合成魔法弾。
故に防ぐ事は不可能……
「兄ちゃん。井の中のかわずって言葉を知ってるかい、な!」
ではなかった。
魔剣使いは悠々とシックス・マジック・バレッドを斬りさいてしまう。
「っち! ……なんなんだ。何故、僕の魔法が斬れるんだ」
「なぜやろな? なぜやろな? よーく考えとっていな」
ふざけた調子から振るわれる熱炎がジーニアスの身体を焼いていく……
「……対炎魔法も意味無し……か。泣けてくるね。ほんと……」
「ジーニアスさん!!」
《水の精霊よ・彼の者を護り給え》
そこで、強力な水魔法が、熱炎からジーニアスの身体を護った。
そして、水龍丸を構えたマリンがジーニアスの隣に立つ。
「私が援護します」
「……マリン君か、助かったよ」
「任せてください! 《水球陳》」
マリンとジーニアスの即興コンビ成立……
それを、見ていたカイルがアンジェリーナにぼやく。
「おいおい! マリンとは組むのかよ!! そういえば、あいつ、レンジとも組んだんだよな? なんで俺だけ」
「《プロテクト》《マックス・オーラ》《オメガ・リヒール》……は無駄か? まあ良い。阿保な事言ってないで、カイルもさっさと特攻するのだ」
「特攻って……。まぁ……行くけど……」
カイルは準備を進めながら、ジーニアスを圧倒している魔剣使いを伺って……
背中を冷たい手で触られる感覚を覚える。
……きっと、アイツは、今まで敵対したどんなどんな奴よりも、ヤバい。
「一つだけ頼みがある。もし……俺が死んだら、アンナは引いてくれ。そして、ミリナはもちろんだけど、シルフィアと、ユウナの事を……」
頼む……
そう言おうとしたカイルに、アンジェリーナは先手を打った。
「嫌だ。自分でやるのだな。私はそんなことに手をかさん。
それに、カイルには私が着いているのだぞ? 死なせんよ」
「……ハハ。わかった……よっ!」
カイルはどこか誇らしそうに、微笑んで突撃していく。
ユウナの強大な剣気をその身に纏った事で、速度は音速超え……身体全体を一本の槍の様にして、槍激に見える突進攻撃。
命名するなら……
「《瞬動友槍激》!! 友はユウナに掛かってる!!」
誰も聞いていない事を叫びながら、カイルは魔剣使いの背後に激突した。
「っな!?」
……が、その突撃を魔剣使いは、剣の刃を人差し指と中指で掴んで止めていた。
圧倒的実力差を思い知る。
その絶望感は、勇者の一撃に匹敵している。
「残念やね……僕。英雄は殺さないといけないんや」
会心の一撃だった攻撃を、止められて動揺に呑まれるカイルに、魔剣使いは炎龍丸を振り下ろした……
「起動!! 《ライト・ノヴァ》」
が、それより早く、カイルはジーニアスの放った最速の属性、光魔法に撃ち抜かれ吹き飛ばされていた……
「ぐっうおおおおおおーーっ!」
まさかの不意打ちに強烈なダメージを受けながら、受け身をとってノータイムで立ち上がる。
「ジーニアス!! 何しやがる!!」
「危なそうだったから助けてあげたんだけど? 不満でもあるのかな?」
「大ありだ。馬鹿やろう! 助けるなら上級魔法はいらないだろう!」
「ハッ! 助け慨のない奴だね君は。わざわざ奥の手の魔法で助けて挙げたのに……シルフィアは君のどこが良いのかな?」
「しらねぇーよ! それより、奥の手を俺に使うんじゃねーーっ!」
「そんなに心配しなくても、その起動魔法が効かない事はさっき試して見ているから」
「心配なんてしてねぇーし! それってただ単に俺だけを攻撃してるじゃねーか!」
カイルとジーニアスが拗れている間に、マリンはさりげなく長い詠唱を終わらせていた。
「行きますっ! 王級水魔法!! 《メルストロム》」
魔法の王級以上は、ボール系。ランス系。ノヴァ系。メテオ系。といった系列魔法が存在しなさい。
そのため、難易度はそれまでと比べものにならないが、その分、発動さえしてしまえば、千人単位で殺戮出来る威力を持つ。
更に、今のマリンは水龍丸で、水属性が強化されている。
そして、王級水魔法は巨大な渦巻きを作り出す魔法。
渦巻き《メルストロム》に囚われれば抜け出すことはまず出来ずに、溺死する。
「もちろん、殺しはしないですが! 溺れてください!!」
魔剣使いの身体が渦巻きに包まれていく……
この魔法は流石に、魔剣使いもどうすることも出来ない。
「……ふはっはっ。面白いやんけ……これ、俺が《貰った》」
「っ!」
瞬間。
魔剣使いを捕らえようとしていた《メルストロム》の標的が変わり、マリンとジーニアスを纏めて絡めとる。
「カウンター系の能力? でも! 自分の魔法です。解呪ぐらい……!!」
出来なかった。
マリンの詠唱と魔力で、発動したメルストロムのコントロールが出来ない。
二人を呑み込んで、空高く上がってしまう。
「マリン君!?」
「すみませんっ! すみませんっ! ジーニアスさん!! ヤバいです。なんとか出来ませんかぁー?」
「失敗は誰にでもあるから気にしなくて良いけど。なんとかって言われても……」
身体は激流に犯され身動きできず、魔法を使おうにも、メルストロムの隠れた特性。
捉えているモノから魔力を吸い上げる効果で、魔力を上手く練ることが出来ない。
元々、強力な魔法故に生半可な方法じゃ抜けられない。
このままじゃ自分の魔法で溺死する……
「ご主人様ぁあああ!! たすけてくださぁい!!」
「ちっ! わかった。マリン。五秒待ってろ!!」
「いーち……にーい……さーん……よーん……まだですかぁ!!」
「カウントするじゃねぇ! ……アンナ!!」
カイルは振り向くことなく叫び……
「魔力がねぇ~が……マリンを救う為に……全部持ってけ! 気合いだ!! クソが!! 《鉄の超巨大剣よ!!》」
なけなしの魔力を全て注ぎ込んで、超巨大錬成剣を錬成。
そのまま、剣気を通して振り下ろす。
「錬成魔剣技!! 《山斬》」
地形をも変えてしまう一撃。
「それはいらんなぁ。それに……その程度じゃ、アレは壊せんけぇのぉ」
魔剣使いがそういって回避し、《山斬》が《メルストロム》の水圧に吸収される。
「っ!」
「ほらな?」
あくまでも王級魔法メルストロム。
カイルの一撃じゃ通用しない……
「当然だ。知ってるよ! マリンが凄いことぐらい。でも、これは道を造っただけだよ!!」
言って、超巨大錬成剣に飛び乗るとメルストロムへと走り出す。
「馬鹿かいな? それで結局どうするつもりなんや?」
望叶剣の力で強化された、メルストロム。
ある意味最強の魔法に接近したところで、カイルも呑まれるだけ……魔剣使いはそう思った。
が!
「……汝が主の前に現れよ》武装召喚! 《断魔剣》!!」
「ナイスタイミング!」
カイルは、間髪入れず召喚された断魔剣を装備して、メルストロムを切り裂いて見せた。
その際、何故かジーニアスが巻き込まれ、峰打ちで斬られてしまう。
魔力を切り裂く断魔剣に斬られたメルストロムとジーニアスの加護系の魔法が崩壊し、上空百メトル地点から、三人が落下する。
カイルはジーニアスを足場にして、落ちるマリンをキャッチ。
「ご主人様ぁ!! 一生お仕えしますぅ!!」
「ご主人様はやめろ!! 捨てるぞ!」
とは言いつつ、カイルは足に剣気を溜めて着地に備える。
ジーニアスは墜落……
「くっ! 《風の精霊よ》!! 《トルネード》」
「っ! おいっ! 馬鹿やろう」
直前。
ぎりぎり竜巻を起こして、不時着した。
しかし、突如巻き起こった竜巻に、カイルも態勢を崩し不時着……
この時、何故かマリンだけは、竜巻がゆっくりと地面に着陸させていた。
「てめぇっ! さっきからわざとだろ!!」
「偶然さ。それに、それを言うなら、君こそ! 僕を斬ったうえに足場にしたよね!?」
「してませぇーん。たまたまですぅ~~っ。ジーニアスは絶対に狙ったんだろうけど。性格悪からね。だからシルフィアに選ばれないんだよ!! バーカ!」
「っ!! 僕は着地しただけですぅ~~っ。偶然がカイルが巻き込まれただけですぅ~~っ。カイルは心が狭いからそう思うだけだろうけどね? そのうちシルフィアにも、愛想を尽かされるに決まってる」
き~っ!
魔剣使いを忘れて取っ組み合いの喧嘩をするジーニアスとカイルの姿を、貴賓席で、気絶したミリナを膝枕しながら、観戦していたシルフィアが誰にともなく呟いていた。
「ふふふ……とても醜いですね?」
その付近は氷点下の温度となっていて霜が降りていた……
「カイルさん。ジーニアスさん。その方も未来が見えません……何かあります。お気をつけてください。……必ず無事に帰ってくださいよ……? 必ずですよ? それだけで良いのですから……あなた」
シルフィアの未来視が見えない理由は、主に二つ。
カイルのように、未来がない場合。
アンジェリーナの様に、運命に流されず、未来を変える事が出来る存在。
では、魔剣使いはどちらなのか……?
シルフィアは、闘いの行方に心を痛ませながら……
カイル達の帰還だけを祈っていた。




