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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
52/58

四十二 渦巻く思惑

 ミリス歴二千十四年一月一日。魔闘大会当日。


 大陸全土から危険度Aランク以上のダンジョン攻略の実績を持った戦士達が、学院都市に集まっていた。

 その総数は五千人以上。


 「ふむ。やはりユウナ殿を探すのはムリそうだな」

 「……」

 「大丈夫ですよ。カイルさん! 必ず見つかりますよ!」


 ユウナとの仲直りをするために参加したカイルだったが、五千人の中からユウナを探し出す事は非常に困難だった。

 何より……


 既に開会式が、始まろうとしていた。


 五千人の参加者の頭の上。

 学院都市を一望できる大きな時計塔で、ローゼルの七騎士四人。ローゼ。グリーヌ。ウーロン。シルバに護れるテラスから、参加者に軒並み息を呑ませた白銀の少女が演説を始める。


 「皆さん。私はミリス聖教教皇……シルフィア・ミリスです」


 シルフィアの居る場所には、他にも魔道王オーラン。そして、アンジェリーナの妹にして、死の呪いに犯される姫。ミリナリア・ローゼルメルデセスも姿を見せていた。


 「えっ……? ミリナ? アンナ! ミリナもきてるの?」

 「うむ……体調が心配だから辞めておけと言ったのだがな……」


 最近は呪いの影響で床に伏せる事が多いミリナリア。

 通称ミリナの姿に表情の固かったカイルが驚きの声を上げる。


 そんなカイルの声を拾ったミリナが、シルフィアの隣からカイルに小さい挙動で手を振りはじめる。

 しかし、ミリナとカイルの距離は立体的に数千メトル以上離れている……


 「……あれ、俺に振ってないよね? 目があってるの気のせいだよね?」


 普通は聞こえる訳がないと戦慄していると、ミリナが大きく口を開いて何かを言った。

 それにシンクロするようにアンジェリーナが、ミリナについての説明を続ける。


 「『私は、カイル様に大事な話があります』と言っていたのだ」

 

 ヒィイイっ!


 怖い。怖かった。

 アンジェリーナが、ミリナの口パクに合わせたのでは無いところが余計に怖い。

 

 「困った妹だな。む? どうしたカイル、汗が酷いぞ」

 「……」


 ミリナは、カイルの異性間交遊にとてつもなく厳しい。

 そして、カイルはシルフィアと一歩進んだ関係になった。


 あれ以来、顔を合わせずらかったカイルは、ミリナの事を絶妙に避けていたのだが……


 『お話しがあります。逃げないでくださいね?』


 ヒィイイヒィイイヒィイイヒィイイヒィイイヒィイイ!!


 何故かハッキリと、カイルの耳にミリナの声が聞こえた気がした。

 カイルは背筋を冷たい手で撫で回される幻覚を覚える。

 

 「シルフィアに色々話そうと思ってたけど……」


 先ずは何よりもミリナと話さないといけない、と。

 カイルはそう思ったのだった。


 開会式が終わると、すぐに予選が始まる。


 予選は五ブロックに別れて行う二名勝ち残りのバトルロイヤル。

 ここで一気に五千人を十人まで数を減らすことになる。


 「カイルよ。ユウナ殿の実力なら、必ず勝ち残るであろう」

 「……」


 この大会が終わってしまったら、カイルはユウナと接触することは困難になってしまう。

 だからどうしても、この大会中にユウナと仲直りする必要があった。


 ……でも、勝ち残った所でユウナと話す機会は有るのだろうか?

 

 「ふははっ、そう落ち込むでない。良いこと教えてやろう」

 「よいこと?」

 「本戦出場者十名は、今日夕刻から、聖堂に集まり健闘披露宴を行う事になって居る。そこには、ミリナもシルフィア殿も、そして、主役の本戦出場者も一同に揃う。カイルの目的にはピッタリな場だと思わないか?」

 「アンナ……お前」


 カイルにとって都合の良すぎる披露宴の開催。

 それはもちろん、偶然ではなく、ニヤニヤ、ニヤつくアンジェリーナが、昨日の内に手配し終えていたから。


 それに、カイルも気がつく。


 「フハハハっ。カイルよ。私は美少女だろ?」

 「ああ……ああ! 美少女だよ。……ありがとう」

 「よい。気にするな、夫に尽くすのは妻の嗜みだからな。夜の営みもシルフィア殿ばかりではなく、私も混ぜるだぞ?」

 「……夜の営み、ね」

 「なんだ?」


 カイルは思う。


 (アンナはうぶ過ぎて絶対に出来ないだろうな)


 と。

 

 「いや、何でもないよ。全部終って……色々話してから決めようよ。悪いけど……今はユウナの事しか考えられないんだ」

 「ふむ。それでよい。だが、そのためには先ず……」


 アンジェリーナはカイルの背中に掴まりながら、敵意を向けてくる。

 千人の戦士達に瞳を向けた。


 「何故かカイルにメロメロな、あの者共を全員、ふり捨ててやらねばならいがな?」

 「大丈夫。俺は一度、お前をふった男だよ? その辺の奴に引っ掛かったりしないよ」


 予選。Aブロック千人。

 その全員に、カイルとアンジェリーナは敵視されていた。


 理由は単純。

 どちらも、強者(つわもの)だと認められている為。


 ローゼルメルデセス旧七騎士壊滅。

 ミリス聖教《断罪者》壊滅。

 同じく《制裁者》最強の連激帝テヌフーン撃破。

 戦争中も、魔法台アームストロング・デストロイヤーの砲撃を防ぎ。全破壊。

 近年誰も成し遂げていない《王級精霊》召喚術士。

 

 既にカイルの功績は、誰もが知るものであり、警戒されるのも無理は無かった。


 「だから、アンナ。今度はもう……振り落とされないように掴まってろよ?」

 「手を離したつもりは一時も無いのだがな? 強化は居るか?」

 「要らない」


 《鉄の精霊よ・我が手に剣を》


 カイルは、バチバチと紫電を弾けさせながら、錬成剣を素早く錬成した。

 その挙動がAブロックの開幕の合図となる。


 カイルへ襲いかかる戦士の波。

 対してカイルは……


 《剣気・纏・武装》


 その全てを錬成魔法一つで殲滅した。

 死闘を幾度も乗り越え、神級の領域をも知ったカイルが、剣気を覚えた事で、超級戦士はおろか、王級戦士すら、剣の一降りで切り伏せた。


 何より今のカイルは負けられない理由が有る。


 「悪いけど……俺はユウナの所に辿り着くまでは死んでも負けないから」


 思いは力になる。

 そう、シルフィアの唱える定説を実現したかのような、一騎当千の活躍だった。


 開始数時間後……カイルは千人の戦士達を見下ろす様に楽々と本戦出場を決めた。

 と、記録されるが……


 「何が強化はいらんだ! 馬鹿者! 私が居なかったら負けていたではないか! 回復限界で回復魔法もきかんぞ! 限界ぎりぎりで、足腰グラグラではないか!」

 「ゼー……ッゼー……ッうるせー……。勝ったんだから何でもいいだろ?」


 ……実際は、アンジェリーナの強化魔法オーラと回復魔法あっての、ぎりぎりの勝利だった。

 

 同刻


 B会場。


 マリンが組分けられたその会場には化け物が出場していた。

 暗黒騎士帝ガンスロット。


 帝級戦士は大陸に百人しかいないと言われる人類最強の領域。

 ガンスロットはその名前に恥じない実力を見せつけた。

 たった一人で、千人近くの参加者を殲滅する。


 そして遂に、終盤まで何とか脱落しなかったマリンがガンスロットの標的となった。


 ゾクリ。


 背筋が凍り脚が震える威圧にマリンは泣いていた。


 「怖いです。怖いですぅ! 怖いですぅ! ううっ……カイルさん! すみません。無理です。無理です。強すぎます」


 最近のマリンはカイルとの修業でかなりの実力をつけていた。

 だからこそ……分かってしまうのが彼我の地力の差。


 しかも、今のマリンは命を消費するという水龍丸を使うのを躊躇っていた。

 

 「ん? 戦士の覚悟も無い女か? ならば棄権しろ。この大会……甘くはないぞ」

 

 重い……重い……ガンスロットの剣気の圧力がマリンの四肢を地面に釘つけにして動かせなくする。

 風竜神と同じように、戦う者を戦う前から選別する。

 恐怖に抗う覚悟の無いマリンには、脚と唇を震わせて泣くことしか出来なかった。

 でも!


 それでも!

 マリンは引くことだけはしなかった。

 理由は……


 「はい。戦士の覚悟はありません。怖いです。刃物を使うときは美味しい料理を作るとき……それだけで良いです。でも! でも!! 友達が泣いていたから! 私は逃げません!」


 ユウナに去られて傷つき涙を流したカイルを、マリンは一晩中見ていた。

 カイルの苦しみと悲しみを、友達がいなくなる絶望を……だから、マリンは逃げられない。


 「私は、マリン・マリッジ! 友達は裏切らないと決めています! ここで負けるとしても、背を向けて負けることはありません!!」

 「マリッジ……? そうか、確か、数年前に堕ちた大貴族がそんな名前だったな」

 「っ!」


 ウィークポイント。

 マリンにとってそれは突いてはいけない所だった。


 他人の成果を奪って堕ちたマリッジの汚名はマリンが返上する。

 そう決めている。でも、マリンは父を信じていた。

 奪ってなんていない。証拠なんて無い。あるのはただ、信頼だけ。


 皮肉にもガンスロットの言葉はマリンに闘志の火をを付けた。

 一歩。マリンが恐怖にあらがい前進する。


 「悪いな。そういうつもりで言ったんじゃないんだが……。フフ、それは騎士の覚悟だ。だから私も騎士として、全霊をもって相対しよう」


 しかし、マリンの覚悟も逆にガンスロットに火を付けた。

 ぶつかればマリンが負ける。


 それでも、マリンは剣を構えた。


 二人が衝突するその直前。


 「貴女から……お兄様の魔力を感じますの?」


 《化け物》は現れた。


 そう、B会場に居る化け物とは、ガンスロットではなく……人類を超越した存在。


 「バァリロリロ様!! 何故ここに居るるですかぁ~?」


 魔道神バァリロリロですの!!

 

 千年前の魔王との戦いで、魔道神と剣神は、ある一定の場所から外に出れない制約を持っている。

 だから、普通ならこんな大会に参加することは出来なかった。


 けれど、魔闘大会の開催を四大同盟会議で知ったバァリロリロは、

 当初ローゼルメルデセス王国で行う筈だった開催地を、自分の活動できる学院都市に無理やりずらす事でこの大会に参加していた。

 その目的は……


 「優勝してお兄様と婚約を交わす予定ですの。で、あまり目立つ事はしたくありませんの。ですが……お兄様の加護を受けている方を見捨てる訳にもいきませんの。だから……」


 《燃えますの》


 ボッ!


 「グオオオオオオオオオ!?」

 

 簡単にガンスロットの眼球を焼いたバァリロリロは、欠伸をしながらマリンに触れてみる。


 バチンッ!


 「……お兄様の加護を受けていても触れませんのね」


 孤独。

 障害孤独のバァリロリロは悲しそうそう呟いてから、ガンスロットを下し。

 Bブロック突破を決めた。

 《魔闘大会予選Cブロック》


 他のブロック同様、Cブロックもまた終盤戦に差し掛かっていた。

 そして、このブロックの命運を握る二人が向かい合う。


 片や聖騎士帝ランスロット。

 片や魔道王ジーニアス。


 強者呑みが纏うことが出来る格で他の戦士達は近寄ることも許されない。

 互いの中間でバチバチと弾けるのは、濃厚な魔力と剣気。

 

 「僕は近距離戦は苦手なんだよね。どうせ二人も上に上がれるんだ。ここで戦う必要はないんじゃないかな?」


 とは言いつつ、ジーニアスはランスロットに対して一瞬の油断も無ければ、隙があれば攻勢に出るつもりだった。

 それくらいしなければジーニアスには分が悪い。


 相手は聖騎士帝ランスロット。帝の名を名乗るのは帝級騎士。

 ジーニアスは魔道王……王級魔道士。称号だけで見てもジーニアスの不利は拭えない。

 だからこその提案だった……が。


 「私がこの大会に出る理由は一つ。恩人であるアンジェリーナ姫様の優勝に助力すること。そして……あの方からも」


 ランスロットは、主君であるシルフィアから、悩めるカイルの力になれと言われていた。

 一度は捨てようとした命を、救って貰った恩義にランスロットは報いる必要があった。


 「そのためには、強者はここで落ちて貰う必要がある」


 アンジェリーナの優勝にも、シルフィアから聞いているカイルの事情にも、ジーニアスは邪魔だった。

 だから、ランスロットはここでジーニアスを敗退させる決断をした。


 「すまないとは思うが、私には私の貫くべき騎士道がある。魔道王ジーニアス殿。ここで止まって貰おう。いざ! 参る!」


 剣気の収縮と共にランスロットが亜音速で横一線。

 ……斬った!

 

 「っ!」


 しかし、ランスロットが斬ったジーニアスの身体はグニャリと変容し爆発する。

 爆炎分身魔法アバター・エクスプロージョン


 ドガァアン!


 《六属の精霊よ・破壊の波動の雨を・降らせ給え!!》


 爆発の威力自体は対した事ではなかったが、燃え上がる爆炎と爆煙がランスロットの視界を奪う。

 その隙にジーニアスが、距離を取り六つの魔法を同時に放つ《六重詠唱》で《シックス・ノヴァ》を連続で撃ち込む。


 シュルシュルと登る排煙を見ながらジーニアスは言う。

 

 「謝ることは無いよ。僕は僕で、かなり自分勝手な理由でこの大会に出ているんだ。貴方みたいに、誰かの為に戦っている訳じゃないからね」


 スパン!

 ジーニアスの魔法を排煙ごと《次元斬り》で切断したランスロットが、距離を計りながら尋ねる。


 「自分勝手な理由とは?」

 「いやね……恥ずかしい話なんだけど、初恋の女の子が、僕じゃない男と結婚するとか言い出したんだ」


 酷くないかい?

 言いながら、ジーニアスは魔法の弾雨を撃ち込みつづける。


 「僕がずっと守ってきたんだ。僕があの娘の騎士だったんだ。それをポッと出の冴えない男に、黙って奪われる程、僕は大人じゃない」


 スパン!


 「……騎士なら主君の恋を応援すべきだな」


 ジーニアスの魔法の弾雨をも簡単に斬り裂いて接近した、ランスロットが斬り伏せる。 

 しかし……それも爆炎分身で視界を奪われる。


 《六属の精霊よ・魔槍の雨で貫き給え》


 その後ろからジーニアスは六重魔法で貫通力の高い《シックス・ランス》を撃ち込む。


 「主君の恋……確かにね。もし、彼女が惚れた男が彼女を幸せに出来るなら、きっと僕は引いたよ」

 

 ジーニアスは一度、魔法を撃つのを辞めて浮き上がる。

 浮遊魔法。


 「でも、君達、望叶剣使いは運命を剣に委ねてる」

 「っ!」

 「僕にはそれが許せない。寿命が少ないのは仕方ない。でも、彼女を妻に執るのなら、彼女の為に剣を捨てて、闘いを辞める! それぐらいするのが礼儀だろ?」


 ジーニアスの目的は、略奪愛ではなく、カイルから望叶剣を奪うこと。

 それだけ。


 「例え友に嫌われても、初恋のあの娘に蔑まれても、彼には剣を置いてもらう」

 「……」

 「彼を縛る全てを捨させる。僕の姫だけに愛を誓ってもらう」

 「……」

 「それが出来ないなら! 僕は彼から彼女を奪う。例え誰も望んで無い事だとしても……」


 それがシルフィアの騎士になると誓った、ジーニアスの忠誠。

 聞いて、ランスロット剣を抜く……白い望叶剣を抜く。

 

 「あっぱれだ。魔道王ジーニアス。貴方は立派な一人の騎士だ。ならばこそ、私は全力で迎え撃とう」


 力を解放し、聖騎士の鎧を纏う。

 

 「私の騎士道と、貴方の騎士道。どちらが正しいのかこの剣で決めよう」

 「剣? 古いね……僕は考えたんだ。剣士と魔道士、近距離で戦うと何故、剣士が有利なのか?」


 ジーニアスは、空中で腰に手を伸ばす。


 「それは剣士には剣という武器があるからだ。それに僕は気付いたから……造ったんだ。魔道士の武器をね」


 腰から引き抜いたのは筒の様なナニか。


 「古代文明人が使っていた殺戮兵器……《銃》。それに魔法学を転用し、生み出したコレを《魔銃》と僕は呼んでいる」


 カチャリ……

 ジーニアスが魔銃トリガーに指を掛けて……引く。


 パンッ!


 「グフッ!」


 直後、ランスロットに反応出来ない速さで魔弾が飛び出した。

 威力は上級魔法……より上。

 魔弾の直撃で、よろめくランスロットに、ジーニアスは追い撃ちをかける。


 パン。パン。パン。パン。


 連続して訪れる避けられない銃撃に必死に耐えるランスロットは、魔銃の弾数に限りあると推測する。

 銃撃が止んだその時、ランスロットは即座にジーニアスを切り捨てる。


 そんな、ランスロットの考えを読んでいるかのように、ジーニアスはいう。


 「弾切れはないよ? 弾は魔力で発射してるんだ。僕の魔力が切れない限り、無限に撃ちつづけられるんだ。そうだなぁ……後、一万発は撃てるだろうね」

 「一万……!?」


 敵の言葉を真に受けるほど、ランスロットは愚かではないが、それでも淡々と撃ちつづけるジーニアスの言葉に嘘じゃないものを感じた。

 武器の差が勝敗を決する。ジーニアスの読み通り。


 だが、それなら!


 「今こそ好期!」


 持久戦は不利と見たランスロットが銃撃の雨を受けながら飛び上がった。

 上のジーニアスは本物。

 斬れば終わる!!


 「フッ……良かったよ。跳んでくれて。帝級騎士の隙。つかさせてもらうよ?」


 しかし、それを狙っていたのはジーニアスだった。

 王級と帝級、小道具でごまかせる実力差じゃない。

 《魔銃》だけでは勝てないことを、ジーニアスは初めから分かっていた。

 だから、用意した。


 《五精よ・起動せよ》


 《シックス・マジック》は概念ごと消失させる魔法。

 撃てば死んでしまうその魔法は撃てない。

 だから、五属性合成魔法グランド・マジック


 ただの威力で言うなら最高の魔法。

 ジーニアスは、魔銃を撃った弾丸で、地面に魔方陣を築いていた。


 普通に起動すればランスロットなら簡単に避けれたが、今は空中。

 避けることは出来ない。


 「望叶剣使いに……カイルに! 通じる戦術か……試させて貰うよ。弾けろ!! 僕の魔力達!! 儀式魔法! 《グランド・プロージョン》」


 直後、白い光の爆発がランスロットを襲い……意識を刈り取った。

 魔道王ジーニアスが、聖騎士帝ランスロットを破った瞬間だった。


 コレにより、Cブロック勝者が決定した。

 

 魔道王ジーニアスと……エリザリーベの二人。


 「アレ? 君は……確か、エルエレン女王の……」

 「気にするな。有象無象。妾の覇道は誰にも止められぬのじゃからな!」


 思惑渦巻く大会に、エリザリーベもまた、ある決意を持って参加していたのだが……

 ジーニアスは何故か最後に全てを持って行かれた気がしてひたすら首を傾げるのだった。


 《Dブロック》


 七騎士ライトニング。同じく七騎士シルバの二人を擁したこのブロックだが、決勝進出を決めたのは、顔を隠した覆面剣士と、魔剣を操る魔剣士の無名の剣士二人だった。


 謎過ぎる二人の剣士だが、負けたライトニングとシルバは同じ感想を持っていた。


 「「この二人……強すぎる」」


 七騎士を持ってしても、勝機を見出だすことが出来ないほどの力を二人は持っていた。

 この大会の命運を左右するのはこの二人なのかも知れないと、ライトニングは思いながら気絶した。



 《Eブロック》


 そこは戦士達の呻き声が響く地獄と化していた。

 既に決着が付いているにも関わらず、女剣士は剣を振るう。

 

 ザクリッ!


 肉を斬り裂くことに血を見ることに愉悦を感じ、自分で自分の身体を抱きしめて、快感に浸る。


 ザクリッ!


 「うっ……やめてくれぇ……っ!」

 「イイわ! イイわぁ!! もっと狂いなさい! 喘ぎなさい! 絶望の中に沈みなさい!! その姿が私に生き甲斐を与えるわ」


 ゾクゾクッ


 身震いしながら黒い闇を纏い狂喜に沈むユウナの事を、レンジが優しく抱き留める。


 「ユウナ……もういいだろ?」

 「まだよ。まだまだまだまだまだまだまだ!! 私の気は晴れないわ! ……でも」


 レンジに抱かれたユウナは顔を朱く染め上げて、レンジの胸にうっとりしながら、そっと寄り掛かる。


 「ふふ~ん。でも、レンジが言うならもう辞めてあげるわ。私とレンジは世界でたった二人きりの家族だもの……でしょ?」

 「……ああ。俺はユウナを離さない」


 レンジは心が殆ど壊れかけているユウナの事をしっかり抱きしめて、辛そうな声でそういった。

 それに気付かないユウナは、グサリと愛剣を引き抜いて鞘にしまい。

 レンジの身体に絡み付く。

 ……唯一無二ユウナに縋れるのはレンジだけ。


 「ねぇ? レンジ。私が最強だって証明するから、私と本物の家族になりましょう?」

 「……」

 「本物よ? くだらない遊びじゃなくて、簡単に壊れる証じゃなくて……本物。イイでしょ?」

 「……」

 「私がレンジを護ってあげるから……レンジも私を護ってよ。もう独りなのも……裏切られるのも、愛した相手に愛されないのも嫌なのよ。私だけを永遠に愛しつづけて……ね? レンジ」


 大好きで大切なユウナの心はもう持たない。

 だから断ることは出来ない。

 レンジは瞼を閉じて、


 「ああ……解った」

 「うふふふっ」


 目を開けたときには、すべての覚悟を決めていた。

 

 「すまないな、カイル。お前にはまだ早いが、決着をつける時が来たようだ。男としてな」


 レンジのその声は、誰にも届くことは無く夕日の赤い空に溶けていく……

 こうして、全五ブロック十人の決勝進出者が決まっていた。

 その誰しもが、強い想いを胸に秘めて、自らの目的を果たそうとしていた。


 《決勝進出者十名》


 Aブロック カイル。    アンジェリーナ。

 Bブロック マリン。    バァリロリロ。

 Cブロック ジーニアス。  エリザリーベ

 Dブロック 謎の覆面剣士。 謎の魔剣士。

 Eブロック レンジ。    ユウナ。


 以上。

 

 


 



 


 


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