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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
51/58

四十一 後悔と亀裂

 北大陸、魔界。

 《魔王城》魔王が眠る寝室。


 そこで、欲望のままに、魔界一美しい魔人の少女……新妻との隠遁に耽っていた魔王が、ある気配を感じ取り、少女を抱くのを一度辞めていた。


 「遂に揃ったか……世を二千年前に滅ぼした英雄達の剣が」


 懐かしいものを思い出すように呟いた魔王は、乱暴に少女を抱き直す。


 「フハハハッ! しかし、前と同じには行かんぞ? 十本の内の二本は世の手元にある。今度こそ、世に逆らう愚かな種族を根絶やしにしてやろう! フハハハッ!」

 「魔王様……人間を滅ぼすのは……お考え直しください」


 そこで、魔王に抱かれていた虚ろな瞳の少女が、数日ぶりに口を開いた。

 人間を滅ぼそうとする魔王と違い。

 魔王の妃は人間との共存を望んでいた……


 「ふん? まだ、世の妻になりきれていない様だな?」

 「……魔王様の妻となる時に交わしたお約束をお忘れですか?」

 

 その言葉を言う少女の瞳には力が戻っていた。

 それだけは、少女に取って譲れないモノだった。


 「私が、魔王様に身を捧げる変わりに、人間界には手を出さないと……あの約束を破るなら、私は今すぐ舌を噛み切って自害します」

 「フハハハッ! よい! その世に対しても屈しない強い気概。実によい! その顔が、情欲に屈し、世の虜になるその時までは、人間共に世からは手をださん……だが!」


 魔王が、言葉を止めると、寝室に魔人の男が入室した。


 「魔王様。俺にようかいな?」

 「略奪王。人間の英雄が揃った。世が戯れている間に、貴様が奪い殺してまいれ」

 

 魔王の命令を聞いた魔界十王の一人、略奪王。ブリカンデ・ピアー・ブレデターの口が歪む。


 「それりゃぁーいい! あの力は全ての俺のものにしてやんよ。それで良いかい? 魔王様」

 「よい。ただし、必ず英雄は殺せ」

 「御意に」

 

 略奪王は短く返答し、姿を消した。

 すぐに、妃が声を荒げる。


 「魔王様!!」

 「フハハハ。よいではないか。世はここから動かんのだ。お前が生きている限りはな? ハハハハハハっ!」

 「っ!」


 魔王に抱かれる恥辱と屈辱に、妃は薄い唇を噛んで一人孤独に堪え凌ぐ。

 そうするだけの理由が妃にはあった。

 

 (今はまだ、耐えないと……私の贖罪は終わらない。でもいつか……もう一度だけ……君にあるえるかな? 君は見つけてくれるかな? こんなに汚れた私を君は受け入れてくれるかな?)


  妃は心の中で涙の海を作る。


 (例え、君が覚えてなくても……私は必ず君を……)


 胸に秘めた本当の想いを魔王に悟られないように……

 心の扉を固く固く閉めてしまう。


 そんな妃の態度が、魔王の歪んだ欲望を余計に刺激しているとも知らずに……


 「フハハハ。よがり狂わせてやる」


 魔王の宴は朝になっても続いた……


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◇◇◆

  

 南大陸、人間界。

 《勇者ギルド》


 そこで、欲望のままに美しいアンジェリーナの金髪を、いじくり回していたカイルがある事実を知って動きを止めていた。


 「なぁにぃぃぃぃぃぃぃぃーーっ!?」

 「ふはっはっは!!」

 

 わざとらしく、大声で疑問の声をあげるカイルに、アンジェリーナは高笑いを繰り返す。

 何があったのか?

 それは……


 カイル達が、風の森のダンジョンから命からがら帰還し、勇者ギルドに依頼の達成とダンジョン詳細を伝え終わった後。

 何時も無表情で無口の受付嬢が口を開いた。


 「では、カイル様以下、六人には、翌年一月一日に《四大同盟》が学院都市で主催する。《大魔闘舞踏会》の参加資格が発生しました。参加しますか?」

 「うむ! 私は参加しよう!!」

 『なぁにぃぃぃぃぃぃぃぃーーっ!?』


 という経緯だった。

 因みに、ギルドで大声を出したカイルは、すぐさま黒服達に囲まれる。

 だが!


 「ふはははは! 久しぶりな? 黒服達! しかし、残念ながら前みたいに、ボコれはしないぞ?」

 

 なぜなら、前とは違い。

 剣気を使えるようになった。


 剣気発動!! 《全身纏》!!


 これで、カイルの身体能力は十倍以上に跳ね上がった。

 これなら負ける訳がない!!


 そう思って、黒服達に視線を戻したカイルの背筋が凍り付いた……


 ゾクリ。


 黒服達が全員。

 カイルと同じように……否!

 カイルよりも濃く剣気を纏っていから……


 「えっ……? ちょっと……。マジで? アンナ! アンナさん。助けて!」

 

 アンジェリーナは静かに視線をカイルから外した。


 カイルはその日、もう二度と!

 ギルドで暴れないことを誓うのだった。


 ……何度目かな?


 「それで!! アンナ。四大同盟主催の《大魔道舞踏会》ってなんだよ?」


 ボロボロになったカイルの不機嫌な声が、赤寮一○五室に響く。

 その嫌悪な空気に、

 

 マリンが、あわわわっと焦り。

 エリザリーベは、どや顔をし。

 ユウナは、カイルを治療する事に真剣で、

 レンジは、そんなユウナとカイルを無言で見つめていた。


 カイル達より早く戻っていた四人のリアクションの中で、アンジェリーナは堂々と胸を張って事実を話す。


 「何を隠そう! 私こそ、四大同盟総代! アンジェリーナ・ローゼルメルデセスだぁああーっ!」

 「知ってるよ!」


 カイルが知りたいはそこじゃない。

 その辺は、ミリス聖教聖女シルフィアに聞いている。

 問題は、


 「なんで、総代のお前が! 開催主のお前が!! 出ようとしてんだよ!?」

 「ふははははっ……」


 今なら解る。

 アンジェリーナがA級ダンジョン攻略に乗り出したのは、大会出場資格を得るためだったと。


 しかし、カイルには、アンジェリーナが、命懸けのダンジョン探索までして、大会に参加しようとする理由。

 それが、どうしても気になった。


 「……うむむ。表向きな理由と、私的な理由。どちらが聞きたい?」

 「どっちも!! 包み隠さず話せ!」


 アンジェリーナは、カイルに激しい剣幕で詰め寄られ、仕方なく事実を話すことにする。

 カイルに嫌われてはアンジェリーナの計画は意味をなさなくなってしまう。

 それに、大会出場資格を得た今なら、バレた所で問題はなかった。


 「我々、四大同盟は発足して間もない。最終的に魔界進攻を掲げているが、この前まで戦争していた国同士の同盟に民達の信頼はない。そのため、兵もろくに集まらない状況なのだ」


 アンジェリーナの口から魔界進攻という言葉を聞いたカイルは、不機嫌な顔をやめて真剣に耳を澄ませる。

 その話にはカイルも興味があった。


 「それを打開するために、四大同盟の結束を世界に証明しようと今回の催しが決まったのだ」

 「結束……ね? そんなんで強まるの?」

 「そうだ。カイルよ! それではまだ、弱い! だから、優勝者の願いを我々、四大同盟が全力で叶える事になっているのだ!」


 つまり、優勝商品は願いの成就。

 確かに、それなら参加する人も増えるとカイルも思う。

 ……けど。


 「だからといって! 優勝者が人類滅亡とか言い出したら堪らない」


 そう。そういう可能性もある。

 

 「だからこそ! 私が出場し、優勝するのだ!! そうすれば無茶な願いはなくなるだろう?」

 

 それ、出来レースじゃね?

 

 と、突っ込みたい気持ちを我慢したカイル。


 「それで? それが表向きなんだろ? 裏向きの私情って奴はなんだよ?」

 「むむむ……それは」


 喉元に鋭く剣を突きつけられた気がしたアンジェリーナは、一度を口の中で舌を濡らして……

 チラリとユウナを見てから、


 「私が優勝したらカイルに求婚するのだ!!」

 

 そういった。


 「ハァアアアアアアアアアアアア!? 求婚ですって!! どういうことよ! あんたバッカじゃないの!? カイルはシラガ女と結婚するのよ!! 結婚したい……のよ……結婚する……のよ……」


 自分で言って、凹みながらもユウナはカイルの事を抱きしめて、アンジェリーナから距離をとる。


 「カイルの幸せを! 邪魔するなら! 私はあんたを斬るわ!!」

 「ユウナ……!」

 「フン! カイルが決めた結婚…………だもの。私は……カイルの……味方よ?」


 驚くカイルに、胸の痛みを隠しながら、ユウナは優しく微笑みかけた。


 シラガ女……シルフィアとの結婚はカイルが、決めたこと。

 その意思を無視するのは絶対に許せない。


 (だってカイルはシラガ女が好きなんだから! 好きな人と結ばれないと、カイルも私と同じ痛みを感じるわ!)


 一触即発……


 ユウナの本気。

 それを受けて、アンジェリーナは……


 「ふむふむ。ユウナ殿はそうするのか? 詰まらんな」


 心底、呆れ果てたと溜息をついた。


 「どういう意味かしら?」

 「いや? 何でもない。ライバルでもない小娘に、何を言っても意味は無し。だが、カイルの義妹殿よ。安心するのだ。私は別にカイルから、シルフィア殿を奪うつもりはない」

 

 そこで、アンジェリーナは、ユウナからカイルに視線を向け変えて、ニヤニヤと愉しそうに笑いはじめる。


 「なんだよ?」

 「筋書はこうだ。祭の最後に聖女と女王の結婚式が開かれる。しかも、同じ婿に嫁ぐ。四大同盟の盟主の内、二人の結婚式が開かれれば、民主の結束も高まると言うものだろう? 特に、我がローゼルとミリスの結束は堅くなる」


 シルフィアと一緒にカイルと結婚式をあげることで、世界に四大同盟の結束を示す事。

 更に兼ねてからの狙いだった、男もゲットするという二段構え。

 それが今回のアンジェリーナの目的だった。


 「それ……政略結婚じゃねぇーの?」

 「ふはははは! 政略結婚上等ではないか! 私はカイルが好きなのだ! 結婚したいのだ! その欲を満たすためになら、なんだってやるのだ!」

 「俺が断るとか思わないの?」

 「断ってもよい。断ってもよいが! そこまでやれば、シルフィア殿は私を認めてくれるはずだ!」

 「……」


 アンジェリーナはカイルに言う。

 真の目的を。


 「カイルよ。そうなればシルフィア殿を言い訳は出来んぞ? カイルが、その口で再び私を振ってみろ! そうすれば……私も諦めるしかなくなるからな」

 「……」


 カイルの逃げる口実を無くすところまでが、アンジェリーナの狙い。


 「それとも、カイルも参戦し、私の優勝を阻止してみるか?」

 「嫌だよ。今回はパス。優勝して叶えたい願いなんか無いし、アンナ。お前の願いを踏みにじる覚悟もない……正直お手上げだよ」

 「フムフム。もっと正直に言うのだ。カイルは私の事をキープしておきたいとな! フハハハッ!」

 「元もこもねぇーな」


 カイルとアンジェリーナの話が一段落着いたところで、エリザリーベはレンジの腕を抱きしめた。


 「そろそろよい頃合いじゃ。妾は自室に戻る。レンジも一緒に来るのじゃ!」

 「そうだな……俺も戻るか。アンジェリーナ様。先に失礼します」

 「うむ。気をつけてるのだぞ」


 窓から外を見て、夜もふけてきた事を確認したレンジが、エリザリーベを連れて立ち上がる。


 「ユウナはどうする? 夜道は危ない。送って行くぞ?」

 「今日はここで泊まって行くわ。良いでしょ? カイル。ベッドで一緒に寝ても」

 「良いよ」


 ユウナの宿泊をあっさり許可したカイルは、部屋を後にしようとするエリザリーベの肩を掴んで止める。


 「ちょっと待って。君には話があるんだ」

 「妾に……? なんじゃ?」

 「ちょっと……外行こうよ」


 カイルから、秘密の話がしたい。

 言外にそう言われて訝しむエリザリーベ。


 ダンジョンで、カイルの事を少しだけ見直したとはいえ、今は夜遅く。

 そんな時刻に、異性と二人で密談と来たらそれも仕方がなかった。


 もちろん。


 仕方ないで、終わらない人もいる。

 その人とは……


 「どういうつもりよ! カイル! まさかっ! その女にまで手を付けようって言うんじゃ無いわよね!」


 もちろん。

 ユウナである。


 「なんでなの? その女は、シラガ女程可愛くも、金髪女みたいに金髪でも無いのよ? 考え直しなさい! もっと近くに良い人がいるからぁ! なんでなのよ!」

 「ユウナ。と言ったか? 貴様。失礼な奴じゃな?」


 しかし、そんなユウナにカイルは、呆れた視線向けた。


 「別にやましい話じゃないよ。レンジの女に手は出さないって……」

 「エリザリーベとは何も無いぞ?」


 カァアアア~~~っ! (エリザリーベ)

 ニヤニヤニヤニヤ   (アンジェリーナ)


 アンジェリーナに付いていた嘘が発覚したのてい。

 そして、アンジェリーナは知っていたのてい。


 「それに、シルフィアにこんな程度の低い事で嫌われたくないし」 

 「カイルさん! 失礼ですよぅ……! 程度の低い女なんて言っちゃ。確かにシルフィアさんは、凄く素敵な方ですけどぉ……」

 『失礼なのは貴様じゃ!』


 ひぃぃぃ~~ッ!


 勝手にエリザリーベの逆鱗に触れて、カイルの背中に隠れるマリン。

 詰め寄るユウナ。

 眠そうなレンジ。

 ニヤニヤしているアンジェリーナ。


 「ああああ~~っ! めんどくさい! ユウナとレンジは少しだけ待ってて!」


 問答無用!

 説得するのを諦めたカイルが勝手にエリザリーベの細い腕を掴んで、外を連れ出していく。

 その時……


 「あれ? なんで私もですかぁ~~! カイルさぁぁぁ~ん!?」


 何故かマリンも連れ出されていた……

 残されたユウナは不機嫌なのを隠しもせずに呟いた。


 「なんなのよ!」


 この時、怒りに任せて蹴飛して壊れてしまうが、それを注意人物は居なかった……


 「おいっ! どこまで連れていく気じゃ! そろそろ、離せ! そして、話せ!」

 「うわわわっ。なんで私まで……ユウナさんにお夜食を作って上げないと行けなかったのに……ううう」


 カイルがエリザリーベとマリンを、引っ張って寮の裏まで来たのには明確な理由があった。

 だからカイルは、人が居ないことを確認すると単刀直入に本題に入る。


 「マリン。望叶剣……水流丸は何時から持ってたんだ!?」

 「えっ? アクアラ大祭殿に行った時からですけど……それが?」


 カイルの声は、いつもより数段、暗く、数倍辛そうだった。

 だからこそ、マリンは首を傾げつつも、正確にカイルの質問に答えた。


 「クソッ! 気付かなかった! ……っ! なんでそんな大事な事、もっと早く言わないんだよ!」

 「ええぇぇ!! だってぇ! カイルさん……あの後。シルフィアさんと……モゴモゴ……」


 ああ、そうだった……


 あの時、カイルはマリンとゆっくり話すこともせずに、一人でシルフィアの元に残っていた。

 だからこそ、カイルはマリンが望叶剣を持っていた事を知らなかった事を思い出す。


 そんな事実が、カイルに不快感を覚えさせる。

 どうすることも出来ない事を運命と言うなら、あの時、マリンの望叶剣に気付かなかった事が運命なのかも知れないと。


 それが癪に触って堪らない。


 「マリン。それに、エリザリーベも……ごめん。でも、今から話すことをしっかりと受け止めて欲しいんだ」


 そう、前置きをおいて、カイルは、カイルの知っている望叶剣の秘密を話した。

 望叶剣の力が、自らの命であることを……

 

 マリンは、口元を押さえて、戻しそうになりながら、震えはじめる。

 エリザリーベは、強張った表情を作り、持っていた望叶剣を見つめた。


 「出来れば、今すぐにでも望叶剣は捨てた方がいい。出来れば……だけどね」

 「「……」」


 事実を聞いて、驚きこそしても、エリザリーベとマリンは……

 

 「妾は力が必要じゃ。独りで生きていく力が必要なのじゃ! 忠告はわかった。しかし、この力を手放すつもりはない」

 「……カイルさん。この剣があったから救えた命がありました。ダンジョンの時だって……! この勇気の力を、捨てる勇気は……ないです」

 

 手放すことをしなかった。

 でも、そうじゃなきゃ、そもそも望叶剣に選ばれない。


 力を求めている者。

 力が必要な者。


 そういう者にしか望叶剣は扱えない。


 そして、一度使ってしまったら、捨てることは不可能。

 その力さえあれば、求めているモノを手に入れることが出来てしまうから。


 カイルなら、大切な人を護ること。

 マリンなら、友達の為に闘えること。

 エリザリーベなら、孤独の人生を生き延びること。


 それぞれの心に秘める一番大事な事を、捨てることはカイル達には出来ない。

 だからこそ、《望叶剣物語》の騎士達は最後の一人になるまで殺しあってしまった。

 そういう魔性の力。


 それでも!


 「俺は二人が死んだら悲しいよ……」

 「「っ!!」」

 「俺だけじゃない。ユウナも、レンジも、残される人達が悲しむことをしちゃいけない……俺みたいになっちゃいけないよ?」


 それだけは、伝えておきたかった。

 カイルが剣を使った事で後悔したのは、カイルの死を悲しむ人が居ることに気づいたその時だった。


 例え時間を戻したとしても、カイルは同じように力を使う。

 けれど。


 「自分の命を……自分だけの命だと思って使うと、必ず後悔する」

 「「……」」

 「後悔する選択をするな! なんて事は言わない。後悔する選択しか出来ない事の方が多いしね……」


 巫女のソプラを助けるとき、もっと上手い方法があった筈。

 王女のミリナを救うときも! 聖女のシルフィアの時も!!

 

 何時だって、カイルは思い出す度に後悔する。

 でもきっと、同じ選択をしてしまう。


 「それでも、俺は……きっと、責任を持って命を使わないといけなかった」

 「カイルさんは……何を後悔したのです?」


 悲壮感の見えるカイルは、儚く笑って……答える。


 「言えないんだ。ユウナとレンジに……! 俺の命が、二年しか無いって……」

 「「っ!!」」


 せめて!

 家族のユウナ達には胸をはって言えるように……生きたかった。

 それが、カイルの後悔。


 自分の命を使ってでも助けかったと……

 でも、カイルは言えなかった。

 そんな覚悟を持って使っていた訳じゃないから……


 カイルに取って、ユウナとレンジへの不義は心の奥に深く刺さる。

 

 「そういう後悔を二人には……」


 バァリン!!


 その時、カイルの真後ろでガラスが割れた音がした。

 反射的に振り返ったカイルの瞳に移ったのは、沢山の美味しそうな料理が載った食器を落としたユウナの姿。


 ユウナは、時間から隔絶したように驚愕の表情で動きを止め、涙を流している。


 ……聞かれた!?


 「ユウナ!!」

 「ぃゃ……ッ!」


 聞き取れないほど小さな声で、ユウナはカイルが、近付くことを首を振って拒否する。

 流れる涙は大量で、ユウナの顔には絶望の陰が堕ちる。


 「嘘……だよね? カイル」

 「……」

 「そんなっ……今。死んじゃうって……嘘……だよね?」


 ガクガクと脚を震わせて、わなわな手を動かして、ユウナは一歩、カイルから距離を取った。

 カイルは、背中にドロドロの嫌な汗をかきながら言葉を失っていた。


 ユウナに寿命の秘密がばれてしまった。

 その事実が、カイルの心臓を握り締める。


 そして、そんなカイルの態度こそが、嘘ではない事を物語ってしまう。

 ましてや、何年も一緒に過ごしてきたユウナに解らない筈はなかった……


 「いやぁぁぁ……! なんでぇぇよ……! なんでカイルがぁ!」

 「……っ! ユウナ」

 「来ないで!」

 

 再び近づこうとしたカイルを、今度はハッキリと大声で拒否する。

 そして……


 「カイル……なんで教えてくれなかったの?」

 「それは……」

 「酷いよ……家族だって言ったのに……」

 「……」

 「酷いよぉ! カイルは! 私の事なんて! どうでも良かったんだね……」


 違う……


 その言葉は出なかった。

 ユウナの涙がカイルの喉を締め付ける。


 ユウナを泣かせている事実がカイルには受け入れられない。


 「もう……もう! カイルなんか! 家族じゃない!! 一生! 私の前に現れないで!!」


 ユウナはそう叫び、黒い風を纏って姿を消した……

 

 『ユウナ! 待つんだ!』


 カイルに手作り料理を作って持っていたユウナを、陰から護るためについて来ていたレンジが姿を現し声荒げる。


 「ぁ……」

 「カイル! 追うぞ! 今のユウナは一人にしちゃ行けない!」


 膝を付いて悲観に暮れるカイル肩をレンジが揺する。

 

 「俺は……いけないよ。ユウナを傷つけた……もう……駄目だ」

 「カイル!」


 涙を流し、首を振ったカイルの肩を、レンジが更に! 強く揺さぶった。

 

 「ユウナに! 家族じゃないって! そう言われたんだ! だから……」

 「カイル!! よく聞け! 俺達は血なんか繋がってない! 家族なんかじゃないんだ!」

 「……っ!」

 「それでも!!」


 レンジは、黒い貴魔石をカイルに見せ付ける。

 それは、カイルがレンジとユウナに渡した家族の証。

 

 「ユウナは! これを嬉しそうに持っていた!」

 「っ!」

 「その意味を、お前は考えろ!」


 カイルを突き飛ばし、レンジはユウナを追っていく……

 その背を、カイルは銀色の貴魔石を握りながら、呆然と見送った……


 ユウナの涙。

 レンジの言葉。


 それを、必死に考えながら……

 

  翌日。


 一晩中、無言で眠りもしなかったカイルが、立ち上がったのは昼過ぎの事だった。


 「カイルさん……?」


 外で動かなくなったカイルを心配して、近くで様子を見ていたマリンが真っ先に声をかける。

 しかし、カイルは、無言のまま、目的地も告げず歩きだそうとした。


 そんなカイルの前に、マリンとは違い部屋に戻りじっくり一晩眠っていたアンジェリーナが、立ちはだかる。


 「ふっははは。無様」

 「……」


 内心。うぜぇ~と思いながら脚を止めてアンジェリーナを見るカイルと、偉そうに仁王立ちするアンジェリーナが無言で向き合った。

 

 そんな様子にあわわわっと口を開いて、成り行きをマリンが見守る。


 重い空気を生み出す二人は、暫く向き合った後……


 ニヤリッ


 同時に笑みを作った。


 カイルはそのまま、アンジェリーナの金髪に手を伸ばそうとするが、それをアンジェリーナは、叩き落とす。


 「俺はダサいな……格好悪いな……」


 独白。

 それをアンジェリーナは黙って聞いた。


 「何時かこうなる事は分かってたんだ。だからこそ言えなかったんだ」

 「……」

 「なあ、アンジェリーナ。一番大切な人に嫌いだって、もう目の前に現れるなって、そういわれたらどうする?」

 「……」


 アンジェリーナは答えない。

 でも、カイルはそれに答えを出した。

 だから立ち上がった。


 「俺は決めたよ。レンジが言った意味はわかんないけど、それでもユウナが、こんなにもダサい俺と、家族だってことを嬉しいと思ってくれてたなら! 俺は! ユウナともう一度、今度こそ、本当の家族になる!!」

 

 カイルはそう決めていた。


 「だから、アンジェリーナ。俺に……力を貸してくれ」


 カイルは、再びアンジェリーナに助けを求めて腕を伸ばす。

 その腕をアンジェリーナは……叩き落とした!!


 「えっ……! 取ってくんないの?」

 「当たり前だ!! 私はローゼル女王。アンジェリーナ・ローゼルメルデセス」


 それは拒絶。

 自分は一国の君主だと、だから、個人に対して手は貸せないとそういう拒絶。


 聖女シルフィアの時とは違う。

 あの時は、ローゼル王国にも利があった。

 しかし、これは完全にカイル個人の問題。


 それにアンジェリーナが手を貸すわけには行かなかった……


 「だが! 女王である前に、一人の女であり、カイルの友であり、何より婚約者だ」

 「じゃあ!」

 「うむ。アンジェリーナは力を貸せなくても、カイルの女である、アンナは力を貸してやろう」

 

 ニヤリッ。

 やってやったぜ!!

 

 という、アンジェリーナの微笑みは、とても清々しいモノがあった。


 『女王様!!』

 「うむ?」


 そこで、昨日の夜からアンジェリーナが放っていた、密偵の《影》が、何処からともなく現れてアンジェリーナに耳打ちする。


 「コソコソコソコソ」

 「フムフム。ふむ? ほーう」


 ……金髪に密偵の息がかかってる!!


 「おれぇえええええ!! 俺の金髪ぅうううううう!!」


 カイルの怒りがバ・ク・ハ・ツ♪


 《炎の精霊よ・風の精霊よ・集まり・合わさり・混ざり合え》


 バクハツ♪


 「吹っ飛べ! 不貞者!! 《エクスプロージョン》!!」

 「むむ!? 《ウォール》」


 カイルの怒りの爆炎魔法を、アンジェリーナが片手間に防御魔法で防ぐ。


 「ぐぅ~!! なぜだ! アンナ!!」

 「何故とは? カイル。貴様こそいきなり何をするのだ!?」

 「俺の金髪!! 人に触らせてんじゃねぇ~よ!! それは俺のなんだよ!!」


 血の涙を流してカイルは叫んでいた。

 それでようやく、アンジェリーナも《影》の息が髪に掛かっていた事に気づく。


 アンジェリーナはおのの)く《影》に手で行くよう指示を出してから、

 錯乱するカイルに遠慮無く近付き


 「むぅ……。許せ」


 ポン。


 カイルに金髪を触らせてあげた。


 「ほわわわわわ~っ」


 それだけで、カイルの機嫌は直り、とろ)けた表情を浮かべる。

 

 そんなカイルを見ていたマリンは確信する。


 (ああ……。やっぱり、カイルさんとユウナさんは家族ですね)


 少し呆れてしまう、おバカなカイルの言動。

 でも、マリンはそんなカイルを見れて、


 ……何時ものカイルさんです!


 と、安心出来た。


 「だが、カイルよ。こんなことをしていて良いのか? ユウナ殿の居場所が分かったぞ」

 「っ! マジで?」

 「どうせカイルが私を頼ると思ったからな、昨日の内に《影》を呼びつけ、探らせておいたのだ」


 お前の行動などお見通しなのだ!!


 デデデ・デン♪


 「何だと……!?」

 「まあ、正確には何処にいるかではなく、何処に現れるか、だがな」

 「何処だ?」


 真面目な話になったためカイルの顔も引き締まる。

 ユウナと仲直りをする。

 それが今のカイルの一番優先するべき事。


 「昨晩。魔闘大会の出場エントリーをしたらしい。むろん、レンジ殿も一緒にな?」  

 「それって……」

 「そうだ、四代同盟主催の私が出ようとしている大会だ」

 「っ!」


 繋がった。

 アンジェリーナの目的とカイルの目的が。


 「ふはははっ! カイルよ。どうするのだ?」

 「なんでユウナが出ようとしているのか分からないけど。俺にもそれに出る理由が出来た」


 ニヤリッとアンジェリーナが笑って言う。


 「カイル。私は、私の目的を優先させる。カイルと結婚したいからな」

 「……だけど、アンナは一人じゃ勝ち進めない」

 「そうだ。だから私には協力者が必要だった。私の目的を邪魔しない協力者がな」

 「……そして、俺はお前の目的を邪魔しない。優勝なんてどうでもいいしな」


 カイルとアンジェリーナは頷きあって握手を交わす。


 「アンナ。俺の目的に協力してくれるなら、俺は俺の全力でアンナの目的を支援してやる」

 「ふははっ。夫婦の共同戦線成立だな? 浮気者」

 「ううっ……浮気者です」


 カイルと結婚しようとしている、アンジェリーナに協力することは、カイルが心から惚れているシルフィアを裏切ることになる。

 

 「それでも! ユウナと仲直りしたいんだ。たとえシルフィアに愛想を尽かされて、一生後悔することになっても……ユウナは、俺の大切な家族なんだ。そのためになら、背徳の道だって歩いてやるさ」

 「《背徳の騎士》……それも、その剣を持つ者の定めかも知れないな」

 「ん? 何か言った?」

 「いいや、カイル。私は、カイルがどんなに浮気をしても、背徳の道に進んでも共にいてやるからな?」

 「んん?」


 意味深なアンジェリーナに首を傾げていると……


 「カイルさん。アンジェリーナさん。……私もっ! 協力します! ユウナさんとカイルさんが喧嘩するなんて間違ってますから!!」


 マリンもカイルとアンジェリーナの繋がっている手の上に、自らの手を載せた。


 「ふむ? では、マリン殿も私の協力を……」

 「それは、ユウナさんを怒らせそうなので困ります」

 「むぅ……まあ、カイルを私の魔法で強化すれば……」


 こうして、魔闘大会に向けて、カイル。マリン。アンジェリーナの三人が手を組んで参戦する事になった。

 これが後に……どういう結果を生み出すことになるかを、今はまだ、誰も知らなかった。

 


 


 

 

 


 

 

 


 

 

 

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