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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
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三十九 団結と強敵

 満身創痍のカイル達は、ある場所に到達した。

 そこは白い煙りが立ち上り鼻をすく嫌な香がしたが、アンジェリーナだけは、ニヤニヤと笑みを浮かべ、背負って貰っていたカイルの背中を乱暴に叩いた。


 「おい。降ろすのだ。休憩するぞ」

 「え? ここで? ってその顔......わかったよ」


 ちっ......!


 アンジェリーナとカイルの会話を、蚊帳の外で見聞きしていたユウナが、意識せずにマリンを脅えさせる怒気を持って舌を鳴らしていた。


 ユウナには今の会話が、気に食わなかった。

 とてつもなく気に食わなかった。

 ......カイルがユウナを差し置いて他の女とイチャイチャしていることが気に食わない。


 「女王だが、王女だが、姫だが、ロイヤルだか、ロリだか知らないけれど、いい加減。カイルを独占されるのはむかつくわね!! しかも、私の大事なカイルに......乱暴ばかり......死ねば良いのに」

 「「「......」」」

 「アイツ、このダンジョンで葬ろうかしら?」

 「「「......」」」


 ユウナの言葉が、何時もカイルに向けられるつんとしたデレではなく、本気だと言うことが解ってしまった、マリンとレンジは、本気だからこそ、声をかけて止めることは出来なかった。

 なぜなら、マリンとレンジは同じ結論を持っていたから。


 (このユウナさんは、カイルさん言葉じゃないと止まりません)

 (今のユウナは、カイルの言葉しか聞き入れない......)


 レンジは《あの事件(一話)》から度々、マリンは最近になってかなりの頻度で、黒い闇の風を纏うユウナを見てきた。

 それはマリンが勝手に命名した、ユウナの精神異常状態で発生する《ブラック・ユウナ》

 この状態のユウナは、何時もより数倍思考がサディスティックになり、理性の停止信号が、存在しない。

 唯一のストッパーは......


 「皆! アンナが吐いたよ! ここはダンジョンの天然温泉地帯、つまり。サプライズの温泉休憩だーーっ!」


 こうして、全く気がついていない。

 

 温泉!! っとマリンは一瞬、己の中の喜びに準じようとしたが、ユウナが真っ黒なオーラ(剣気か魔力か謎)を纏って、真っ黒い瞳でアンジェリーナに淡々と向かって行ったことで、緊張が走った。

 ......が。


 「ユウナ? どうしたの?」

 「......っ! カイル! ......ああ。温泉の事よね、何よ? 一緒に入りたいの? エッチね」


 すれ違い様にカイルから声をかけられたユウナは、カイルの顔を見ると、すぐに黒いオーラを無散させた。

 

 「っえ? 入らないの?」

 「当たり前じゃない!」


 しかし、ユウナはすぐにツンとした態度で、ベチン! とカイルの頬をひっぱたき、

 その威力でカイルはダンジョンの壁にめり込むが、そこでマリンはホッと一安心。


 (いつものデレデレなユウナさんです)


 「ふんっ! 覗いたら承知しないわよ」

 「ぐふぅ......っ」


 ユウナはつんつんしながら、昇天しそうなカイルに言い残し、マリンとエリザリーベを連れて温泉に浸かりに行く。

 そんな、カイルの横で何故か残っているアンジェリーナが偉そうに爆笑。

 

 ......殺してぇ。


 屈辱で殺意に満ちたカイルの視線を受けても、全く気にしないアンジェリーナが、カイルの耳元で呟いた。

 

 「スキル《怒髪天(バーサーク怒りの感情量によってステータスをあげる能力だな」

 「っ!」


 それは、アンジェリーナがユウナに解析儀式魔法アナライズを使って調べたこと。

 それをカイルが聞いた瞬間、僅かに反応を示したことに、軽く笑い、続きを話す。


 「前の闘いで心も身体も限界以上の《怒髪天(いかり)》を解放した。その時は無理矢理私が押さえてやったが、一度経験してしまった感情だ。そこに至るのは一度目よりも格段に容易い。このまま何度も暴走させれば、心も身体も壊れるぞ」

 「......どうすれば良いんだ?」

 「ユウナ殿が抱えている大きなストレスとなっている悩みを解決することだな」

 「メンタルがダイヤモンドなユウナにストレス?」

 

 ありえないだろと、言うカイルに、

 ありえないのはお前だと、言い返し......


 「ユウナ殿の事でカイルが解らないなら、私にはもっと解らない......が、相談にぐらいなら乗ってやっても良かったんだがな......」


 悲しそうに言って、


 「まあ、よい。私も風呂に入ってくるぞ? カイルも一緒にどうだ? 今なら金髪も触らしてやる、あっちに二人で入れそうな所があるぞ?」

 「......怒られるから辞めとくよ」

 「誰にだ?」

 「シルフィアに決まってるだろ?」

 「真面目だな」

 「裏切れないよ......」


 最後はニヤつきながら、ユウナ達と同じ場所に向かっていった。


 「カイル。立てるか?」

 

 アンジェリーナが去った後、すぐにレンジがやってきて、カイルを壁から救出。


 「レンジ......実は」


 その後、アンジェリーナから聞いた事をレンジに伝えると、


 「......そうか」


 レンジは一言だけそういって、話題を変えた。


 「カイル。さっき見てたが、《剣気》を使えるようになったんだな?」

 「ああ、ユウナが気穴を開いてくれたんだ」

 「……やっぱりか無茶苦茶したな」


 薄々、解っていた事を改めて聞いて驚いたレンジだが、問題はその先。


 「ならちょっと、久しぶりに打ち合わないか?」

 「......」


 久しぶり。とレンジは言ったが、正確には四年ぶり。

 カイルとレンジの実力が有りすぎて、この四年。一度も二人がしなかった事。

 それを、今。レンジはしようと言う。


 「ハハハ。それは......熱くなるな。ちょっとは追いつけたのか?」

 「どうだろうな? だが、剣気を使えるなら、剣士の殻は破ってる。瞬殺って事は無いはずだ」


 レンジとカイルの間に、情けは無い。

 だからこそ、それはようやくレンジと同じステージに立てたということを意味して。

 心が沸き上がるのを感じる。


 「良いぜ。やろうか」

 「ああ」


 剣を構えたカイルとレンジの目付きが変わり、お互いが持つ空気も変わる。

 

 「......遊びは無しだ、カイル。剣気を纏え......そうじゃなきゃ一瞬で終わるぞ」

 「っ!」


 更に、レンジが濃圧な剣気纏う。

 本気のレンジの剣気に当てられただけで、カイルは背筋に悪寒が走り、意識を刈り取られそうになった。


 だが!

 

 「解ってる! 少し待てよ!」


 今までと違い恐怖の理由が解る。

 レンジとの力の差が解る。

 レンジがどれだけの高見にいるかが解る。


 そこが、カイルより圧倒的に高い場所だとわかったが、


 ......それが解るなら戦える!


 目を閉じて、集中力を高める。

 己の内に眠る気を、全身の気穴を開いて外に放出。

 そして、


 『こうするのよ? 覚えているわよね?』


 ユウナが包み込んでくれている気がしながら、纏った。


 《剣気・纏》


 目を開けた瞬間、レンジが動く。

 接近! 切り払い!

 

 (速いッ!! でも......)


 「見える!」


 ガンッ!


 レンジの本気の攻撃を、弾くことは出来ないが受け流した。


 「ほーう。なら、もっとあげるぞ! 《連続横断斬(れんぞくおうだんざん)》」


 ......本気じゃなかった。


 「クッ!! 見える!!」


 疾風怒濤のレンジの攻撃に身体が付いていく。

 レンジの速さに、共鳴でもするかのように......燃える。

 楽しい。

 レンジとまた、こんな闘いができる日をずっと待っていた!


 二回、三回とレンジの攻撃を受け流す。


 ......付いていける! 付いていける!! 


 カイルの心がどんどん高揚していく......


 しかし、


 メキッ......


 レンジの重い攻撃に、カイルの剣にヒビが入る。

 それがジワジワと広がっていく。折れるのは時間の問題......


 「纏え! カイル! 剣にも! 終わらせるな!」

 「ッ! クソッォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!!」


 終わらせたくない。その気持ちで叫び、たけび、


 無我夢中で、剣気を剣に纏わせた。


 《剣気・武装》

  

 すると、ひび割れは止まり、受け流すだけで精一杯だったレンジの連激を弾き飛ばす。


 一度、距離をとったレンジがニヤリと笑って言う。


 「身体と剣に気を纏う。基本は覚えたか?」

 「クソっ練習かよ......上から目線でむかつくな」

 「フッ......嫌なら俺をのしてみろ」

 「ああ! 何時だって俺はそのつもりだよ!」


 カイルとレンジの剣は何度も何度もぶつかり合った。

 二人にとって、四年前に止まった時間がようやく動き出していた。


 そして、十分後......


 「ハァ......ハァ......ハァ......もう、無理......」

 

 カイルは剣気を使い果たして、伸びていた。

 そんな、カイルの隣でまだまだ元気なレンジが腰を降ろし、持って来ていた水筒をカイルの口にぶち込んだ。


 「ゴクゴクゴクゴク......ぶばぁあああああーーッ!! 何すんだよ!」

 「ハハハ、生き返っただろ?」

 「まあな」


 微笑しあって、大の字で寝転がり、ダンジョンの空を見上げた。

 《魔石》クリスタルの光で、外と大差は無い。


 「あの辺のクリスタルをとって帰れば売れるかな?」

 「いや売れないと思うぞ、発光魔石はここでなくとも採れるからな」

 「この土は?」

 「何に使うんだよ。持って帰っても馬鹿だと思われるぞ?」

 「じゃあ、何なら良いんだよ」

 「珍しいのは貴魔鉱石とかだな......ってそれじゃないか?」


 レンジが指したのはカイルが背中に踏んでいた五セルチ程の三色の魔石。


 色は、黄色・黒・白銀。


 「フハハハハ......踏んでたのかよ! フハハハハ」

 「フハッ! やめろバカ......何か変な笑いのスイッチ入っただろ! ハハハハ」

 「「ハハハハハハハハ」」


 何が可笑しいのか解らないのに笑う、ばか笑が止まらない二人。

 その後ろから、凍てつく声が掛かった。


 「男、二人でなにしてんのよ?」

 「「ユウナ!!」」


 ハモった。


 「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」」

 「キモい」

 「「......」」


 流石にユウナにドン引きされて、冷静になったカイルが、ユウナとレンジに魔石を投げ渡した。

 ユウナは黄色・レンジは黒。

 

 「コレッ! 貴魔鉱石!! お宝じゃない! 小金持ちになれるわよ!」

 「流石はユウナ。ミーハーだなぁ......」

 「何よ? くれるの?」

 「ああ。あげる。好きに使いなよ」


 カイルは喜ぶユウナと、黒い貴魔鉱石を見ているレンジを見て言う。


 「でも、俺は......ユウナとレンジと三人で......俺達、家族で初めて来たダンジョンで採れた、記念品として残すかな?」

 「そうだな。俺もそうするか。コレはずっと俺達が友であり、家族である。その証だ」

 「......何よそれ! もう売れないじゃない! ......家族の証ね。まあ、持っておいてあげるわよ」


 不満そうにしながら、大切に手ぬぐいに包んで仕舞うユウナ。

 そこで思い出す。


 「って! 何でほんとに覗きに来ないのよ! そこは来るところでしょ?」

 

 いや、行ったら怒るじゃん!!

 とは言えない。


 でも、放置しても怒り出すことが予測できる。

 ……めんどくさい。

 

 そこでカイルは閃いた。


 ピラリン!


 「じゃあ、今から一緒に入ろうよ」

 「嫌よ。あんた達、泥と汗で汚いもの! せっかく爽やかな気分が台なしだわ」

 「ひでぇー......けど。えいっ!」


 抱きしめた。

 泥と汗まみれで......


 ドロリ。


 「な、何すんのよ! 離しなさいよ!」

 「離さない!」

 「ッ!」

 「離れんな」

 「......ッ」

 「俺達がいるんだ。ユウナは一人にはならない!!」


 どくん。

 ユウナの心が脈動した。

 でも、ユウナには解らない。


 「......嘘つきのくせに」


 カイルは大切なことを話していない。

 何時も嘘を着く。

 ……いつか、独りになる。


 「何があったって、俺達がいる」

 「……」


 それでも、ユウナはカイルの言葉を信じたい。

 力強く抱きしめられれば不甲斐にも、全身は痺れて力むことすら出来やしない。


 こういうカイルがかっこいい。

 ……それをユウナは知っている。


 「......泣き虫のくせに」

 「家族だろ?」

 「ふふっ......うん。そうね......カイル」


 カイルはユウナに特別な事は言わなかった。

 けれどユウナは、カイルの言葉で、ずっと縛られていた鎖から、解放された気がした。


 そのタイミングを計って、ユウナをレンジに投げつける。


 ドロリ。


 「な、何で投げるのよ! 汚れるって言ってるじゃない」

 「レンジ。押さえ付けろ。お風呂行くぞ!」

 「っお? ハハハハ。そうだな。行くか!」

 「やっ、離しなさいよ! 切り刻むわよ!!」


 走るカイル。担ぐレンジ。暴れるユウナ。


 しかし、流石のユウナもレンジに担がれれば逃げられない。


 「ちょっ! 正気!? 私は女なのよ?」

 「うるせーよ。つるつるペタペタの癖に。シルフィアぐらいになってから言え!」

 「ぶち殺すわ!」

 「今だ! 脱がせろ」

 「流石に無理だ。捕まる。このまま、ほうり込もう」

 「誰にだよ! まあ良い。せーの!」

 「このっ! 変態!!」


 バシャーーン。


 温泉に放り込まれたユウナが諦め、静かになった所で落ち着いて湯に使ったカイルが背伸びする。


 ペタペタ......


 何かに当たった......


 「お、悪いな。カイルよ。隣に座るぞ?」

 「あ、アンナか、良いよって! アンナ!? なんでいんだよ!」

 「私達はパーティーだろう?」

 「人の台詞パクってもじるの辞めて! って! 前! 前! 色々見えてるよ! そのつるぺた隠せよ!」

 「パクリではない。オマージュだ」


 威風堂々と、タオルも持たず、何も隠そうとしないアンジェリーナがそこにいた。

 あまりの驚きに、立ち上がってつっこむカイルを見て、喉を鳴らすアンジェリーナ。


 「ほーう。人につるつるペタペタと言う割には、カイルも小僧なのだな......それで、シルフィア殿は満足していたのか? ほれ、殿子なら、大きくしてみせい。私の身体を使っていいのだぞ?」

 「~~ッ!!」


 その目線の先は......


 「「このっ変態」」


 それ男には禁句ですやん......

 

 カイルの隣でレンジもエリザリーベに同じようは事をされてハモっていた......

 そのまま、脇でガクブル震えていたユウナとマリンに混ざった。


 ガクブルガクブルガクブル。


 カイルはこの時。つるペタとか言わないようにしようと心に決めたのだった。



 温泉で、心も身体も友情も温めたカイル達は、

 快進の勢いでダンジョンを攻略していった。


 温泉地帯から先は未踏の領域にも関わらず、複雑なダンジョンで一度も迷わなかったのは、

 エリザリーベの風魔法の能力でダンジョンの地形を把握出来たからだった。


 「もうすぐ、最奥に着く筈じゃ。愚民ども導くのも妾の使命じゃからな。しかとついて来るがよい」


 ちょうど、ダンジョン全体に流れている気流から、位置を把握した。

 エリザリーベがゴールが近いことを感じ取った。


 扇で優雅にあおぎながら、先導するエリザリーベを見て思ったことを、

 カイルは口にする。


 「なあ、アンナ。エリザリーベって......お前に似てないか?」

 「そうか?」

 「ほら、誰に対してもブレずに偉そうにする性格。偉そうな喋り方。偉そうな立ち振る舞い」

 「......」

 「それに何より、さっきまでお前がやっていた道案内役をやってる姿!」

 

 カイルはそこで一度、声のボリュームを落としアンジェリーナの肩に手を置いて、生易しい視線を送る。


 「そうだとすると、援護魔法しか取り柄の無いアンナと、戦闘も探索もなんでも出来るエリザリーベ。......お前の完全上位互換だな?」


 どんまい。カイルのそんな言葉が、アンジェリーナの心を深くえぐった。

 返す言葉も無かった。


 (性格が同質で、おまけに器用と来たら私の価値が無くなってしまうではないか!!

 いかん。これはいかん!)


 かつて無い程の危機を感じたアンジェリーナは、カイルの隣を歩いていたユウナに飛びついて......


 「ユ、ユウナ殿ぉおおおっー!!」

 「な、何よ? いきなりね」

 「奴がやっている風探知の魔法。天才魔法師であり、風魔法の適性が高いユウナ殿にも出来るであろう? ユウナ殿がやってくれないか? そうすれば、奴の価値も下がり! 私の価値は相対的に上がるのだ!」


 ゲスな事を言い出した。

 カイルは、同じと言ってしまったエリザリーベに謝りたくなり、アンジェリーナから一歩距離をとっていた。


 「むりよ。私にはあの女の真似は出来ないわ」

 「なっ! そんなことを言わずに、やってくれ頼む! この通りだ!」

 「頼まれても無理なものは無理よ。アレはただの魔法じゃないわ。きっとあの女の能力(スキル)に関係してる。同じスキルを持って居ないと無理ね」

 「《アナライズ》!」


 ユウナの説明を聞き、即座にアナライズでエリザリーベを解析してまう。

 人のステータスを勝手に見るアンジェリーナの行為は、マナー違反なのだが、そんなことも構う余裕は無かった。


 『エリザリーベ・エルカムティ・エルエレン 十三歳(処女) 魔法適性 風。......』


 アンジェリーナの魔法でエリザリーベがみるみる解析されていく。


 (あやつめ。乙女ではないか! 私を謀ったのだな......いかん。いかん。今はそれよりもスキルだ)


 「見えたぞ! スキル《風読みの女王》自然界の風の流れを掌握出来る。そのおかげで、風属性の威力と精度が上がるようだな」

 「それがわかったって、意味はないのよ? 私がスキルを使える様になったのでは無いのだから」

 「そうだったのだ(驚)!?」

 「......アンタ。残念な頭なのね」


 そんな事をしている間に、エリザリーベの案内で、宝物殿に到着し、

 洞窟状になっている道を使って中へと進む。

 

 洞窟を抜けた先は、今までの物々しい様相ではなく、宝物殿と言うにはあまりにも閑散とした場所だった。


 広い縦穴の様な円柱型の空間で出入口の洞窟以外は、四方をとてつもなく高い壁に囲われている。

 そのあまりの高さは、垂直に見上げても先が見えないほどだった。


 「ねぇレンジ......何か......嫌な予感がするわ。ここから先はどうすれば良いのよ? 何も無いわよ? これで終わりかしら?」

 「ダンジョンの最奥には、宝物殿を守る。強大なガーディアンがいる筈なんだが......」


 ガシャガシャガッシャャャン!!


 「「「ッ!!」」」


 突然、上空から大量の瓦礫が降り注いだ。

 咄嗟に避けたカイル達だが、すぐに瓦礫が自分達を狙って落ちてきた訳ではない事に気付く。


 落ちてきてた瓦礫は山の様に積み重なり、宝物殿と外へを繋ぐ唯一の洞窟を埋めてしまっていた。


 「来れってぇ~......生き埋めですかぁーっ!!」


 青ざめたマリンの叫ぶ通りの状況だったが、マリン以外の五人は、違うものを見ていた。


 バサン! バサン! バサン! バサン! 


 耳鳴りがするほど大きな羽音とともに、ゆっくりと上空から舞い降りて来るのは、(ドラゴン)

 その体格は、大きかったワイバーンが子供に思えるほど大きさ。

 


 横に大きかったワイバーンとは違い、縦にもしっかり大きい。

 アンジェリーナが条件反射で、《アナライズ》を使い解析する。


 そのドラゴンは......


 「......始祖の竜......《風竜神》」


 アンジェリーナのアナライズを持ってしても、それしか解らなかった。

 それこそが、間違っている訳ではない証拠だった。

 竜は紛れも無く、《神級》の領域にいる存在。

 

 人類でそこに辿りついている者は《剣神》と《魔道神》二人だけ。

 

 そこまで行くと、存在自体が毒になる。

 風竜神の発する威圧感の凄まじさを、カイルは身体を小刻みに震わせながら言う。


 「なんだよ......これ。動けない。怖くて......寒い」


 カイルと全く同じ気持ちを、全員が感じている。

 エリザリーベに居たっては、立っている事も出来ずに倒れ、嘔吐を繰り返す。


 「カイル! ユウナ! 剣気を纏え!」

 「はっ!」


 完全に混乱していたカイルがレンジの声で正気に戻り、剣気を纏う。


 《剣気・纏》


 剣気を纏うことで、多少圧力が減り震えがおさまる。

 しかし、風竜神が地上に降り立ち宝物殿へ侵入したカイル達に敵意を向けた。


 グガギァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーっ!


 「カイル!」


 咆哮。 

 まず、剣気を纏っていなかった、マリンとエリザリーベが気絶した。

 次に全ての音が掻き消され、鼓膜を破いた。

 そして、爆風が襲い掛かり、全てを吹き飛ばした。


 暴風と防音がおさまった時。立っていたのは二人だけ二人。

 カイルと、咄嗟にカイルを庇い前に出たユウナ。

 他は全員吹き飛ばされ、壁に激突した。


 「カイル......無事?」

 「あ、ああ......ありがとうユウナ」

 「......なら良いのよ......」


 ふらり......


 ユウナはカイルが無事なことだけ確認すると、意識を失った......


 「ユウナ!!」


 倒れるユウナを受け止めて、名前を呼ぶが返事は無かった。

 二人分。


 ......レンジすら吹き飛ばされた、威圧の咆哮を、ユウナは一人で二人分受けきった。


 まだ、戦闘にすらなっていない。その時点で、カイルしか立っていなかった。

 

 「ユウナ!! ユウナ!! くそおおーっ!!」


 カイルは屈辱感を噛み締めて護ってくれたユウナを抱きしめた。

 竜と目が合い、怒りに任せて特攻したしたその時。

 

 「待て! カイル! 闘うな。引くぞ!」

 「レンジ! ユウナが! ユウナが!」


 壁まで吹き飛ばされていたレンジが戻り、カイルの肩を掴んで止めた。


 「ユウナを護りたかったら落ち着くんだ! 今動けるのは俺達だけなんだぞ!」

 「っ!」

 

 再び混乱していたカイルはレンジに一喝されて、目を見開き。

 意思を持ってユウナを抱きしめた。


 「よし。それで良い。あんな化け物と真面目に闘う必要はない。瓦礫をどかして外に出る!」

 「ああ......ああ!」

 「俺が、時間を稼ぐ! その間にカイルが退路を作るんだ!」

 「......」


 一瞬。ほんの一瞬。

 カイルは、レンジが魔人と闘った日の事を思い出して、レンジ一人に行かせて良いのかと返事を躊躇うと。


 「頼むぞ。カイル。逃げるために闘おう」


 レンジが、闘おうと言ったことでカイルの覚悟は決まった。

 ......逃げることさえ出来なかった。あの頃とは違うんだ!


 「ああ! 任せろ」


 カイルが、瓦礫を退かすために走って行った後。

 レンジは、風竜神を見ながら、剣を構えた。


 「カイルにはああ言ったが。俺は俺の家族と仲間を傷つけた奴に何のお返しもしない程。甘くはないからな! 爪の一本か二本無くなる覚悟をしろよな!」


 レンジと目を合わせていた風竜神が、レンジの言葉に呼応したかの様に目の色を変え、周囲に激しい竜巻が巻き起こる。


 ランダムに動く竜巻が風竜神の身を守る盾になっているのを見て、レンジも攻撃を始める。

 

 《瞬動脚》


 レンジが、亜音速の速さで、竜巻を避けながら風竜神の周りを走る。

 

 《瞬動脚》《瞬動脚》


 レンジの瞬動流は、瞬動脚を重ねれば重ねるほど、速くなる。


 《瞬動脚》《瞬動脚》《瞬動脚》


 最初は動き回る竜巻が邪魔をしていたが、今のレンジの速度なら止まっているのと同じ。

 ......もう何時でも攻撃出来る。

 だからこそ、まだレンジは速度を上げつづける。


 (多分、ハンパな攻撃じゃ意味がない。俺の最高威力を......)


 「俺は今! ここで! 俺を超える!!」

 

 《瞬動脚》《瞬動脚》《瞬動脚》《瞬動脚》......《瞬動脚》


 気合いで限界の十回を越え、十一回の《瞬動脚》。

 その全てのエネルギーを集約させたレンジが、遂に攻撃に移った。


 「瞬動流! 奥義! 《瞬動斬》」


 ために貯めた瞬動脚で斬りかかる。それこそが、瞬動流の基本にして真の奥義。

 今のレンジなら、神級にだって通用する......筈だった。


 攻撃さえ当たるなら。

 風竜神は風の竜。


 その身体から常に爆風を生み出し、あらゆる物を吹き飛ばす。

 それは、レンジの攻撃も同じだった。


 アレだけ貯めたエネルギーは風竜神の纏う風圧で緩和され、近づく前に吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた、レンジは竜巻にのまれてから、瓦礫を退けようとしていたカイルの前に、


 ボトン!


 落ちた。


 「え? レンジ?」


 あまりの高速戦闘に、カイルはまだ一枚の瓦礫も退かせていない。

 

 「くかっ……! 風......を、纏って......無理だ......ユウ......を......連れ......に......ろ......」

 「レンジ! レンジ! レンジ!」


 カイルは明らかに致命傷なレンジの傷を見て、背筋を凍らせた。

 

 「まただ......また。こうなるのか......」


 血まみれのレンジ。そして、気絶しているユウナ。

 カイルは、二人を手を重ねるように寝かせて、立ち上がる。


 「いや! 違う! 俺は! あの頃とは違う!!」

 

 出そうになる涙を脱ぐって、カイルは剣を錬成して、風竜神に向ける。


 「俺はもう諦めないって決めたんだ!」

 「フハハハハッ! その意気やよし! 流石は私の惚れた男だな」

 「っ! アンナ!」

 

 カイルが不敵な笑い声に振り返ると、そこにアンジェリーナ立っていた。

 

 「お前! 剣気も纏わず......」

 「私は、竜など怖くないからな。何時も通り笑い飛ばしてやるだけだ」

 「......マジかよ。何者なんだよお前は......」

 

 カイルはアンジェリーナの常識はずれ具合に戦慄しながら、少し笑ってしまった。


 「お前がいると、なんとかなる気がして来るな」

 「そうだろ? だから、カイルも何時も通り敵を倒して来ればよいのだ。その間に私がレンジ殿達を治しておこう《マックス・オーラ》」

 「ああ。そうだね。行ってくる」


 負ける気はしなかった。

 

 


 

 


 

 



 

 



 

 


 



 

 



 


 


 


 




 


 

 



 


 

 


 

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