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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
48/58

三十八 ダンジョンの脅威

 《風の森のダンジョン》内部に転移装置で転移したカイル達一行は、人生初のダンジョンの光景に文字通り目を奪われていた。


 ......見渡す限りの闇。上も下も右も左も闇。


 外の光は一切入らないので当たり前なのだが、光がない場所というは、本当に自分すら存在しない気がして来る。


 「暗いですぅ! 暗いですぅ! カイルさぁん! カイルさぁーん! どこですかー」

 

 その暗さに早速、堪えられなくなったマリンがカイルを探して手をうようよ動かすと、


 もふぅもふぅ。


 「きゃっ! 誰よ。私の胸を触った変態は! カイルね。ただじゃおかないから覚悟しなさい。それと、カイルじゃなかったら、もっとただじゃおかないから覚悟しなさい」

 「はわわわわ~っ......カイルさぁん。エッチです~最低ですぅ~」

 「俺になすりつけんなよマリン......ユウナも、暗いんだからちょっと胸触られたぐらいで怒んなよ。だいたい、ユウナは揉まれるほど胸無いでしょ?」

 「コロスわ!」


 真っ暗闇の中で、ユウナが逆鱗に触れて、ウガーッ! と暴れ回りはじめる。


 「きゃっ! 痛い。痛いですぅ」


 そのせいで、二時被害が出はじめたので、カイルが呆れていると、カイルとずっと手を繋いでいたアンジェリーナがカイルの腕を引いた。


 「おい。カイルよ。何のために連れてきたと思ってるのだ。早く明かりをともすのだ」

 「ん? ......え? 俺って照明係だったの!?」

 「それと私の盾と足だな」

 「もう帰りたい......まあ。良いけど。《光の精霊よ・輝き給え......ライト》」


 カイルが仕方なく光魔法を発動すると、ダンジョンの暗闇が晴れて、その全容が垣間見えた。


 縦横数十メトルの細い洞窟の中のような場所でプニプニの道が、何本にも枝分かれ、迷路状に広がっている。

 

 更に、ユウナに押し倒されたマリンが、地面でユウナと絡まり合いながらゴロゴロ暴れている。

 そのちょうど目の前に、五メトル級の蛇がいた。


 シュルシュルシュルシュル......


 「ひぃっ!」


 蛇と目があったマリンが、短く悲鳴を上げて涙を流す。

 蛇は、蛇の体格として見れば、細いがマリンの腕ほどあ太く長い舌を口から、何度も出し入れしていた。


 「危険度Bランク ヘドロスネーク! ユウナ。気をつけろ! そいつ即死級の毒を持ってるぞ!」


 レンジがすぐに、蛇の正体を見破りユウナに教えるが、ユウナは、毒々しい蛇を横目でチラリと見た後、何も見なかった様に平然とマリンの頬をひっぱたいた。


 ぺチン!


 「私の大きい胸を触ったわね! カイルだと思ったじゃない!」

 「えっ! それ、今ですかぁあああああーーっ! それに、そこまで大きくなかったですよぅっ!?」

 「シャアアアアアアアアーーっ!」


 マリンがユウナの行動と虚言に驚愕し叫でいると、蛇が目の色を変えてマリンの首に素早く噛み付こうとした。


 不意をつかれ、元々素早い蛇の魔物と言うこともあり、カイル達は完全に出遅れた。

 剣を抜く間もなくマリンに即死の毒をもつ蛇の牙が突き刺さる。


 終わった。油断した。ダンジョンは危険だと知っていた筈なのに......

 カイルがそう後悔した瞬間、蛇の口の前にユウナが腕を出してマリンの身代わりにかぶりつかせる。


 ブチブチ......


 「えっ......!」


 ユウナの腕からマリンの顔に血が垂れている事にマリンは呆然。

 細く綺麗なユウナの腕を、毒々しい蛇の牙が突き刺さってユウナの腕が、みるみるどす黒く毒で変容していく。


 自分ではなく、ユウナが毒の牙を代わりに受けたことを知ったマリンが、先ほどとは違う涙を流す瞬間。


 ブチリ。


 「痛ったいわね!! 何すんのよ!」


 ユウナが反対の手で蛇の首を鷲掴むとそのまま握り潰した。

 そんな馬鹿な! と死に逝く蛇はそう思いながら、ダンジョンの壁にたたき付けられ昇天。


 「ユウナさん! 毒は? その腕ぇ! 平気なんですか!」

 「ん? そうね......」


 マリンがボロボロと涙を流しながら、ユウナを心配すると、ユウナは噛まれた右腕を左腕で掴み。


 「ふんっ!」


 血筋を立てて力むことで、プシューっと血ごと毒を抜いてからマリンの頭を撫でた。


 「こんなところね。大丈夫よ。この前の借りを、私は一生忘れないわ。だからマリンの事も私がちゃんと守ってあげるわよ」

 「うわわわーーっ! 良かったですぅ~良かったですぅ~。ユウナさんが無事でぇええー」


 とりあえずユウナは大丈夫だった事が分かったマリンが、泣きじゃくりながらユウナの胸に縋り付き頭を撫でられていた。

 ユウナはユウナで、マリンにはアクアラ大祭殿で、同じように護って貰った時から、ユウナの中でカイルと同じ位、大切な仲間の一人、守りたい人だったので、マリンの無事に内心ホッとしていた。


 そんな、付き合いはじめて三ヶ月の熱々カップルみたいに抱き合うマリンとユウナの事をカイルは、アンジェリーナに解毒と傷の治療をさせる様に指示を出してからシラけた瞳で見ながら言った。


 「なんか、良い話で終わらせようとしてるみたいだけど、魔物を無視して取っ組み合いの喧嘩をしていたせいだからね。そりゃあ襲われるからね!」


 こうして前途多難なダンジョン攻略が始まった。


 ■■■

 

 一度、ダンジョンに入ってしまうと、ある程度進んで転移装置がある離脱ポイントを見つけるか、ダンジョンを攻略して離脱するかの二つしか、帰還方法は無い。


 だからこそ、ダンジョンはとても危険な場所といわれている。


 入ったダンジョンがどんなに実力不足で攻略不能でも、帰還ポイントを見つけるまでは帰還出来ないからだ。


 そのため、冒険者はダンジョンの危険度が自分達にあったランクのものを選ぶことになる。

 カイル達が入った風の森のダンジョンは、途中帰還ポイントまでは攻略済みの推定危険度Aランク。


 帝級まで居る実力者揃いのカイル達なら、十分攻略可能で安全なダンジョンをアンジェリーナは選んでいた。


 それでも遭遇する魔物は軒並みBランク以上で、手強く頻度も数も相当なものだったが、レンジとユウナの二人だけで殆ど返り討ちに出来ていた。

 

 そうして、最初の失態以降は、比較的順調に換金できるアイテムを採取しながらダンジョンを攻略していると、空洞の迷宮を抜けて、見通しの良い草原に出ていた。


 そこはとても幻想的な場所だった。


 空と言いたくなるほど高い天井に、魔石が青く輝き、生い茂る木々が空気を清ませ綺麗な泉も見えている。


 「この光......もう、魔法ライトはいらないか」


 カイルは発光する魔石に目を奪われながら、数時間持続させていた光魔法ライトを消して息をついた。

 初級魔法とはいえ、長時間の使用でそれなりに魔力を消費し疲れたカイルがよろめくと、背負っていたアンジェリーナがカイルの背中を叩いた。


 「揺れるでない。惰弱だな」

 「お前は……少しくらい労れよ......」


 文句を言ったカイルだが、ここに至るまで光魔法を照らしていただけで戦闘は他のメンバー達がしてくれていたので、余り強く大きな声では言えなかった。

 だが、アンジェリーナはカイルの背中に乗って、地図を見ながら指示をしていただけなので言われたくないと、言い返していると、エリザリーベが扇を開いてカカと嘲笑う。


 「ふんっ。どっちどっち、わっぱの背くらべじゃ。道案内と道照明しか役立たないのじゃから、黙っているのじゃ。妾達を煩わせるでないのじゃ」

 「「......」」


 悔しいが、事実なのでアンジェリーナとカイルはぐうの音もでずに目を合わせて肩身を狭くするしか無かったが、

 そんなカイル達よりも、マリンが悔しそうに奥歯を噛んで堪える中、ダンジョンの先を目指した。


 そんなとき、六人の頭上に巨大な影がさし、鼓膜をつんざく程の獣声が響く。


 「ギァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーっ!!」

 「「「っ!」」」


 六人が鳴き声に反応しすぐに上空を見上げると、数百メトル上空を百メトル級の身体で雄大に飛竜が一体飛んでいた。

 羽が大きく鳥に近い姿を見てカイルが言う。


 「ちっ! 流石はダンジョン。次から次に......今度は大きな鳥さんかよ」

 「落ち着いて冗談言っている場合ではないぞ。アレは危険度Aランク《ワイバーン》正真正銘、本物のドラゴンだ!」


 カイルのぼやきを、背中に乗っていたアンジェリーナが嗜め、解析魔法アナライズで解析した飛竜の正体を明かした。

 数が少なく滅多に会うことは無いが、魔物の中でも最強と言われるドラゴン族と聞いてカイルの目の色が変わる。


 カイルのまぶたの裏に浮かぶのは、黒龍が起こしたあの絶望。


 「野生のドラゴン......だと。降りろ。アンナ。......アイツは俺がぶち殺す」


 背負っていたアンジェリーナを降ろした、カイルが暗く重い声でそういうと、ユウナとレンジが悲しそうに頷いた。

 

 「プハハハっ!! 俺が倒す! じゃと? イキがらずに今まで通り、妾達に任せるのじゃ!」


 だが、エリザリーベが扇を取り出してカイルより先に攻撃してしまう。


 「扇技! 《カマイタチ》」


 エリザリーベの扇から放たれた、風の刃がワイバーンの羽を縦に切り裂いて、緑色の血を流させた。


 「プハハハ。ドラゴンだろうと、何だろうと、妾の前で空を飛んでいるなら、この風の刃で切り刻んでしまえばいいのじゃ! ハハハハーーっ!! 《カマイタチ》《カマイタチ》《カマイタチ》じゃ!」


 エリザリーベの攻撃は確かに、ワイバーンにダメージを蓄積させていた。

 が、致命傷にはならず、そのせいでワイバーンの攻撃対象はエリザリーベに向いてしまう。


 大きく息を吸い込んだワイバーンがエリザリーベに向かってプラズマ化する程、高熱の炎の吐息(ブレス)を吐き出した。

 灼熱の炎は大きな球体になると、上空から空気を焼いてエリザリーベに高速で飛来する。


 「しまっ!!」


 油断していたエリザリーベは、その攻撃をかわせなかったが、エリザリーベの前に移動したカイルが、背に背負っていた《断魔剣》で、ブレスを真っ二つに両断しエリザリーベに警告する。


 「おい......下がってろ。次は無いぞ」

 「っ!」


 エリザリーベはカイルに短くそういわれただけで、ワイバーンのブレスよりも脅威を感じて腰を抜かしてしまった。

 そんなエリザリーベには目も向けず、空を飛ぶワイバーンをじっくり凝視し観察。

 戦略を練り上げてから、断魔剣を地面に突き刺し手放すと、膝を曲げ両手足を地面につける。


 更に、カイルはユウナに目覚めさせて貰った《剣気》を発動し、全身に纏った。


 「......」


 カイルが剣気を使ったことに一瞬、レンジが眉を動かしてユウナを見やった瞬間。

 剣気で強化したカイルは地面を蹴飛ばして、ワイバーンが飛んでいる空よりも更に高く飛び上がった。


 ワイバーンを上から見下ろすカイルは、ポーチから《バァリロリロの聖水》が入っている小瓶を一つ取り出し握り潰しすと誰にも聞かせるつもり無い声で言った。


 「《鉄の精霊よ・我が手に超大剣を造り・与え給え!!》......空の支配者であるお前が、上を取られたら終わりだよな......これで死んどけ! 鉄錬成魔剣技《超大鉄剣・山斬(チョウタイテッケン・サンザン)》」


 《聖水》を使い、錬成魔法の詠唱を改編することで、質量が通常の百倍の錬成剣を錬成する。

 鉄を錬成するときに現れる紫電の錬成反応も、剣の大きさと比例して激しくバチバチ弾けながら百倍の錬成剣を形作っていく。


 そして、ワイバーンよりも大きい大剣を、ワイバーンの真上から背に振り下ろす。


 ミリス教皇国で鉄刀丸が無かったカイルが、シルフィアを護るために生み出した固有魔剣技《山斬》。

 ただ、馬鹿でかい剣を振り下ろしただけで、アクアラ山脈の山を一つ、冗談抜きで切り飛ばした技。


 「はぁあああああああああああああああーーっ!」

 

 ブォン!! 


 巨大な錬成剣は風を切り裂く音を響かせながら、ワイバーンを縦に真っ二つに切り裂いた。

 役目を終えた錬成剣の砕け散る破片が、カイルの姿を幻想的に飾り立て、見上げるエリザリーベに、カイルが纏う圧倒的な格を感じさせた。


 「アイツ......何者なのじゃ。いきなり別人の様に気配が変わって、ワイバーンを一振りで屠るなんて......それにあの鉄錬成魔法......規格外じゃ」


 強敵を一瞬で倒したカイルにおののいているエリザリーベに、ユウナは言う。


 「カイルは昔色々あってドラゴンが嫌いなのよ。......次は邪魔しない方が良いわ。目的の為にならどんなことでもカイルはするから......あの目のカイルは好きじゃ無いのだけどね......」


 悲しそうなユウナの視線の先では、絶命して降下するワイバーンの背に乗っているカイルの姿があった。

 

 「カイルは別に強くなくていいのよ。戦わなくていいのよ。カイルの代わりには私が戦うんだから……」


 ユウナはそういい残すと剣気を纏ってカイルと同じようにワイバーンの背中まで飛ぶと、魔力と剣気を消費しすぎて倒れそうになっていたカイルの肩を支えた。


 「カイル。気は晴れた?」

 「ユウナ......。こんな八つ当たりで、俺の恨みは消えないよ......解ってる。ごめん」

 

 黒龍に故郷を滅ぼされたカイルは、ドラゴンを異常に憎んでいる。

 それも、黒龍と同じく人を襲うドラゴンは、カイルには絶対に許せない存在だった。


 でも、いくらドラゴンを殺しても、カイルの友や親は生き返らない。

 だから、カイルは、今、生きているユウナ達を大事にしなければいけなかった......

 そう思っている。


 それでも、ドラゴンと聞いたカイルはワイバーンに黒龍を重ねて、憎しみに捕われて、ユウナ達をおいて独りよがりに戦ってしまった。


 そのせいで、こうして体力を使い切り、ユウナに迷惑をかけている......

 それが、わかっていても止められなかった自分がカイルは無性に情けなくてユウナに謝った。


 「......くそっ。何時まで経っても俺は過去を引きずって......ダサ過ぎるよね......」

 「............そうね。......でも、反省しているなら、アレは私に任せてくれるわよね?」

 「アレ? ......っ!」


 ユウナがカイルを抱えてワイバーンから飛りて地面に着地してから、再び頭上を見上げながら言った。

 カイルも遅れて見上げると、倒したワイバーンよりも数倍大きいワイバーンが空を舞っていた。


 カイルは一瞬、もう一度我を忘れそうになったが、ユウナがカイルを抱きしめた事で、落ち着くことが出来た。


 「ああ。任せるよ」


 カイルはそういって剣を抜いたユウナから離れようとしたが、ユウナはカイルの頭を胸に抱きしめたまま、離さなかった。


 「カイル。信用出来ないからそのままじっとしてなさい......」

 「いや、ユウナ。俺を抱えたまま戦う気! ちょっとそれはっ!」


 上空を飛ぶワイバーンに対して、有効なのはエリザリーベの様に対空攻撃をするか、カイルの様に更に上から攻撃する事。

 ユウナは剣士なので、カイルと同じく上空まで飛ぶ必要がある。


 ユウナになら、確かにカイルを抱えたままでも、高く跳べるかも知れないが、抱えられて跳ぶカイルにしてみればたまったものじゃない。


 時速百オーバーで、かける魔馬車(ジェットコースター)に命綱無しで乗るようなものだ。


 カイルはユウナの無茶に嫌な汗をかいていると、ユウナはカイルを抱く力を緩めて、寄り掛からせた。


 「ふふっ、カイルじゃないんだから流石に跳ばないわよ? 私は、私のやり方でやるわ」


 ユウナはそういって風が起きるほど濃い剣気を纏って愛剣を抜いた。

 そのまま、斜に構えると、ムチムチして柔らかかったユウナの全身の肉が、カチカチに変容した。


 「剣神流には、基本の三つの太刀があるわ。あらゆるものを斬るのが一ノ太刀、斬りたいものだけ斬るのが三の太刀.....そして! 最後の一つ、この太刀!」


 鋼のような筋肉を膨らませたユウナは器用にカイルを抱きながら、練り上げた剣気を愛剣に集めていく。

 そして!


 「剣神流! 二ノ太刀! 《翔絶(ショウゼツ)》遠くのものを斬る太刀よ!」


 ユウナが言いながら剣を鋭く振り上げると、遥か上空にいたワイバーンが真っ二つになった。

 距離を無視してワイバーンを斬り殺したとてつもない剣技にカイルが絶句していると、

 ユウナの身体はまた、ムチムチの柔らかい肉質にもどり、カイルの頭を撫でてから離し小さく微笑した。


 「まあレンジが倒した制裁者がやっていたのだけどね......あっちの方が凄いから使いたくは無かったわ」

 「......そんな雑な理由で今まで使わなかったんだね......って言うか、今の俺にも教えてよ」

 「カイルには......多分無理よ。それに、カイルは戦わないでいいの! こうして私が護ってあげるっていってるでしょ!」


 カイルには剣の才能が無い。

 だから、才能に恵まれた一握りの天才達の中で更に、光り輝ける才能の持ち主達が収める、剣神流の剣技をカイルは習得できない。

 それを、言いずらそうに言ったユウナは、愛剣を鞘に戻しながら、そもそもカイルには戦いで心と身体を傷つけてほしく無いことを思い出した。


 「あわわわっ! カイルさぁん! 大変ですよう。また来ました~」


 そこで、突然、マリンが脅えだしユウナと話していたカイルの肩を揺さぶって背中に隠れる。

 

 「ん?」


 マリンの震え方に緊急性を感じたカイルは、素早くマリンを庇いながら辺りを見渡すと……

 

 「「「グギァーーッ!」」」

 「ワイバーン!!」


 いつの間にかに、小さいワイバーン数体がカイル達を包囲し、今にも襲い掛かろうと隙を伺いながら飛び交っていた。


 それを、確認したカイル、レンジ、ユウナはそれぞれ、近くの小ワイバーンに攻撃する。


 《鉄の精霊よ・破壊の波動を持って・殲滅し給え!! メタル・ノヴァ!!》

 《剣神流! 二ノ太刀 翔絶!!》

 《瞬動流! 横断》


 カイルの放った魔法はかわされたが、レンジとユウナの剣技はワイバーンに致命傷を与え、一瞬の間ができる。

 その一瞬で、三人は目を合わせて頷きあった。


 「アンナ! 来い。逃げるぞ」

 「マリンは自分で走りなさい」

 「エリザリーベ! 行くぞ」


 息を合わせて逃走をはじめたカイルの、その背中に飛び乗ったアンジェリーナが言う。


 「おい! 逃げるのか! 何故倒さんのだ? 腰抜けか? もうグラグラなのか?」

 「うるせー! 敵の数を見て言えよ!」


 カイルに言われ、後ろを振り返ったアンジェリーナの目に映るのは、イナゴの群れのように陰をつくる、夥しい量のワイバーンだった。


 その数はアンジェリーナの《アナライズ》で見て、千体以上。

 

 「なっ! なんだあの白い子種みたいに馬鹿げた数は!?」

 「きっと、カイルさんとユウナさんが、親ワイバーンさんを殺したから子供ワイバーンさん達が怒ったんですよぅ!」

 「アンナの下品な例えの後に、マリンのアットホームな解釈だと気が緩むな」

 

 アンジェリーナがその光景に声を引き攣らせていい、マリンが涙目でカイル達を非難する。

 マリンの当たっていそうな泣き言を、カイルは首を振って振り払い、とっさに打開策を考えた。


 「ユウナ。マリンを背負え! マリンは、ユウナの背中に掴まって、ワイバーン達を牽制しろ! エリザ! 君もだ!」

 「は、はいっ!」

 「妾は誰の命令もきないのじゃ! ......走りながらでも攻撃できるのじゃ! 《扇技 カマイタチ》」


 カイルの指示を無視したうえで、扇を振り風の刃で、子ワイバーンを一体一体確実に落としていく、エリザリーベを、レンジが無言で抱きかかえた。

 そんな、レンジが苦い声を出す。


 「まずいな。このままじゃ、ジリ貧だな......カイル。何か手は無いか?」

 「嫌よ! こんなところで死にたくないわよ! カイル! 何とかしなさい! 私は何でもするわよ」

 「......こんな時ばっかり俺頼みになるなよ」


 レンジとユウナに縋られたカイルはポーチに入っている、残り四つの《バァリロリロの聖水》をみて足を止めた。


 「一分、稼ぐ! その間に誰か何とかしてくれ!」


 投げやりに叫んだカイルが、三つの子瓶を空中に放り投げて魔法の呪文を唱える。


 《炎の精霊よ・鉄の精霊よ・集まり・合わさり・混ざり合え》


 先ずは属性融合。


 呪文によって異なる二つの属性を一つにし。 

 更なる詠唱によって形を与える。


 《破壊の波動を持って・無数の敵を殲滅し給え!! メタル・ボルカニック・ノヴァ・インフィニティ!!》


 バァリロリロの聖水をもって上級魔法を改編し、無数の合成魔法を永続的に放つ、カイルが新たに創造したオリジナル魔法。

 

 ワイバーンを一撃で屠る威力は無いが、しかし、持続して無数に放たれる魔法は、確実にワイバーンの猛追を一時止める。

 カイルが一人でワイバーンを止めている後ろで、ユウナが剣を構えていた。


 「どうにかしろって言われても、私にはあの数をどうにかできる技なんて無いわよ」

 「俺もだ......」


 根っからの剣士気質のレンジとユウナには、一体の強敵を倒せる力があっても、群隊をどうにかできる広範囲攻撃手段を持ち合わせてはいなかった。

 

 そして、広範囲殲滅を得意とする、魔道士適性の高いマリンも、カイルが稼ぐと保障した一分という短い時間では、魔力を練り上げる時間も、高威力と広範囲を指定する為の長文の呪文を詠唱する時間も足りなかった。


 「《み、水の精霊よ・雷鳴を鳴らす嵐の雲よ・呼びた......》って! ダメですぅ! せめて、5分は無いと、ろくに魔力も練れませんよぅ~。カイルさぁん~」

 「だ、そうだ、カイル! 5分気張るのだ!」


 マリンの泣き言を聞いて、アンジェリーナがカイルに声援を送る。

 その声にカイルが答える前に、カイルが魔法の触媒として使っている三つの《バァリロリロの聖水》が入っている子瓶の一つが砕け散る。


 「あ! まずっ! 一分持たないかも......」

 「ダメダメだな! でも私は、カイルがどんなに早漏でも良いからな」

 「何の話だよ!」

 「もちろん。えっ......」

 「うるせー!」


 残り二つの子瓶が割れたとき、カイルの魔法は終わる。


 誰にも打開策はなく、既に逃げ道も無い......どう考えても、子ワイバーン数千......いや、数万匹の数という原始的な暴力にのまれて死ぬ。


 ユウナは、それを悟ったとき、握っていた愛剣を捨てた。


 「こうなったら、仕方ないわよね......奥の手よ」

 「ユウナ! 何かあるの?」

 

 言いながらカイルの背中に抱き着いたユウナは、カイルの首をみしみし締め上げた。


 「カイルを殺して私も死ぬわ!」

 「ちょっと!! 何すんだよ! こんな時に!」

 「こんな時だからよ! カイルがワイバーン如きに殺される位なら! 私がカイルを殺すのよ! 私を愛してると言いながら死になさい!」

 「ぐぅふっ!! ヘルプ! ヘルプ! 愛してる! ワタシヲアイシテル!!」

 「ふふふふ、これで、カイルは永遠に私のモノになるのよ! ふふふふふ、ふふふふふーーーーっ」


 半ば自棄になったユウナと、魔法を辛うじて維持しながら呻くカイルの姿を数歩離れた距離で見ていたアンジェリーナは、レンジに呟く。


 「ユウナ殿の愛情はだいぶ歪んでいるな......可愛さ余って憎さ百倍と言う奴か?」 

 「いや......カイルがユウナの気持ちに気付かないのもいい加減悪いんだ......」

 「ん? それは......」


 アンジェリーナが微かな疑問を感じ、問いただそうとしたとき、暫く無言だった、エリザリーベが、扇子を二つ取り出しながら、遮った。


 「隠しておくつもりだったのじゃが、そんなことも言ってられる状況では無いようじゃ......妾の奥義......得と見るのじゃ! 今から見せるのは、メルエレンの姫にだけ代々受け継がれる。伝統演舞じゃ!」


 エリザリーベはそういいながら、服の紐を解くと舞いを舞い始める。

 それまでは、ただの法依に見えていた、服は、紐を解き、裾を卸したことで、演舞用の巫女服に様変わりする。


 ヒラヒラと美しく服を揺らしながら舞を踊る、エリザリーベは剣気を発動する。


 「メルエレン王宮第一演舞 《風神の舞》」


 姫が祭事に舞う演舞なので、舞い自体はゆっくりと気品のある舞だが、エリザリーベの剣気を纏わせた扇が風を斬る度に、透明な刃が一枚、また一枚と作られていく......


 作られた刃もまた、エリザリーベの舞に合わせて周囲を舞ながら、更に透明な刃を生み出していた。

 数秒間で百枚の刃を造り出したエリザリーベは、舞ながらカイルの魔法切れを境に前に出る。


 「下がるのじゃ! 先ほどの借りは今かえすぞ! 扇舞流、奥義《神風(カミカゼ)》。妾の舞刃できり裂いてやるのじゃあああ!」

 「っ!」


 カイルの首を締めていたユウナが、エリザリーベの演舞とその刃をを見て、コクリと意識を失っているカイルを抱えて飛び下がる。


 勿論、カイルの牽制が無くなったことで、エリザリーベには無数のワイバーンが襲い掛かっていく。

 だが、エリザリーベは舞を舞いつづけた。


 無防備なエリザリーベを噛みちぎろうと近づくワイバーンがいた......

 遠くから炎のブレスをはいたワイバーンがいた。

 様子を近くで見守るワイバーンがいた。


 そんなワイバーン達をエリザリーベの周りを舞っていた無数の透明な刃がスパンと綺麗に切り刻む!

 ワイバーンの攻撃(ブレス)を弾き、肉を斬る。


 ただ舞っている……それだけで、エリザリーベの守りと攻撃の刃は増えていきどんどんその範囲を拡げていった。

 

 そして、数分後に、エリザリーベが演舞の終演を迎えたときには、数万匹いた全てのワイバーンが風の刃に屠られた後だった。


 汗の雫とほてった体の熱を扇で扇ぎ飛ばしながら、ワイバーンの死体の山を作ったエリザリーベは優雅にそこに佇んでいた。


 そんな、エリザリーベに何故か負けた気がするアンジェリーナが食ってかかる。


 「そんな技があるなら何故最初から使わないのだ!」


 アンジェリーナのもっともな指摘に、エリザリーベは盛大に笑い転げた。


 「フハハハ。浅はかなり、ローゼルの王よ、底が丸見えなのじゃ! 奥の手とは使わないからこそ奥の手であり、そも、剣気を大量に使う奥義は、そう何度も使える技では無いのじゃ! フハハハ! いやすまぬ。アンジェリーナ姫は剣気を使えないのだったな? フハハハ!」

 「浅はかなのは貴殿だぞ。仲間と貴殿は思っていないのかもしれないが、それでも仲間であるカイルが魔力切れで気絶するほどの魔法を使って戦っていたというに!! 貴殿は、『何度も使えないから使わなかった』なんてくだらん理由で戦わなかったのだ。私達、全員の命を危険に晒した自覚を持て! 分かったら謝るのだ! 私に! 私にな!!」


 まさに犬猿の仲の二人は、取っ組み合いをしながら口論を続ける。

 

 「何故、妾が有象無象の女王等に頭を下げねばならんのじゃ! 妾は何も恥じることはしていないのじゃ!」

 

 しかし、すぐにエリザリーベはアンジェリーナを突き飛ばして、レンジの腕を取って寄りかかると、目を細めて妖しく笑った。


 「でもまあ、そこまで、妾が......仲間にも『手の内を見せたく無かった理由』を聞きたいなら、ここで言ってもいいのじゃぞ? わざわざダンジョンにまで来たアンジェリーナ女王がそれで困らない、と言うならのう?」

 「っ! ぐぬぬぬぬぬぬ! 言わんでいい!」

 

 (やはり、同盟会議にいたエリザリーベ殿には私の『本当の目的』がばれているか......レンジ殿達ならともかく、カイルにばれるのは非常にマズイぞ......)

 

 「ん......。アンナ......喧嘩なんかしてないで、すぐにここを離れるぞ。また、ワイバーンに襲われたら堪らない」

 

 そこでカイルが、アンジェリーナに都合の良いタイミングで魔力切れから回復し、目を覚ました。

 

 「カイル! 良かったわ。勝手に死んだら許さないんだからね!」

 「......」


 頭痛をかんじて頭を押さえながら、立ち上がろうとするカイルに、誰よりも早く近付いて肩を貸すユウナに、カイルは言葉にはしないが


 (いや、半分以上はユウナに殺されかけたんだけど......)


 と、思いながら、ダンジョンの更に奥へと進んでいくのだった。



 

 

 



  


 


 

 

 

 

 

 

 


 

  

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

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