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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
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三十七 風の森のダンジョン

 ダンジョンへ潜る準備のために、一度、自寮に戻ったレンジ達を待つ間、カイルも準備を進めていくのだが......


 「カイルさぁん、カイルさぁん。ダンジョンに行く準備って、具体的に何を持って行くんですかぁ!?」

 「......」

 「そういえば、ダンジョン、ダンジョンと言ってますけどぉ~ダンジョンって一体なんなんですかぁ~?」

 「......」

 「カイルさん? 聞いていますかぁ~?」

 「……ダンジョンって......一体、なんなんだろうね」

 「えっ......」


 こんなふうにカイルは、マリンに聞かれても説明でき無いほど、ダンジョンに付いての詳細を知らなかった。

 だから、普通に遠征に行く時と同じ要領で用意していたのだが、どうなのだろうとマリンにポーチ型の鞄に詰めた荷物を見せる。


 「ええええええええええええええええっ!! あれだけ話しておいて知らないんですかぁ!」

 「......だって、レンジはダンジョン大好き人間だけど、俺はそこまで好きじゃないし......」


 元々、カイルは三つ子の赤ん坊でも知っている勇者システムの事すら、ユウナに聞いて初めて知ったぐらい、世間知らず......というか世間に興味が無い。


 だからこそ、呪い持ちのミリナやミリス聖教に逆らうシルフィアと言った異端を、すぐに受け入れられたのだったりもするのだが、


 「俺は金髪さえあれば良い」

 「ダメな人です。この人」


 こう言うときにはとことんポンコツなカイルさんだった。

 で、そんなポンコツカイルを......


 「ガハハハハハハハッ!」


 と、下品に嘲笑うのが最近の生き甲斐となってきた、アンジェリーナがカイルの肩に手をおいてポーチを見ながら言う。


 「ダメダメだな!」

 「うるせーよ。アンナには聞いてないし、そもそも、お前が何でいるんだよ? 準備しなくて良いのかよ」


 カイルが馴れ馴れしく肩を触って来るアンジェリーナの手を払い落としながら言うと、アンジェリーナは腰に手を置いて仁王立ち!


 「私は、どんな時でも、着の身着のままが心情なのだ!」

 「捨てちまえそんな心情」

 

 無い胸を張っているアンジェリーナの服装は、動き易さに特化した白と黄金色のローゼル女王専用の戦装束......から、鉄分を全て抜いて、防御力をそこ下げしたもの。


 背中は肌が少し露出して、無い胸に視線が誘導されないようにひらひらな装飾、

 更に太ももまでのスカートに後ろは地面すれすれまでパタパタはためく三つの帯が伸びいているタイプ。


 カイルの目からみても、アンジェリーナに特注されるだけはある、アンジェリーナの魅力を数段引き上げているものだった。


 しかし、服というのは、時と場所によって変えるべき物であり、アンジェリーナの今の服は明らかに、普段使いのオシャレ重視。

 大国の女王であるアンジェリーナに、オシャレするなと言うつもりは勿論カイルにも無いが、今から行くのは戦場より危険と言われるダンジョン......


 カイルがあきれるのも無理はない......


 が、アンジェリーナの服装は別にふざけているだけでもなく、防御力を下げるという改悪しているとはいえ元は戦装束、様々な魔法的加護が付与されている実用性重視の服。

 スキル《治療の化身》により、武器にも転用可能な固い金属を着ることはアンジェリーナに出来ない為、お転婆女王を思う忠実なる家臣達が熟考に熟考を重ねた末に、アンジェリーナの為に開発したアンジェリーナの為だけのアンジェリーナ専用戦装束......(普段着)


 そんなことを、一々カイルに解ってもらおうと思うアンジェリーナでは無いので、カイルが一瞬、顔を赤らめた事で満足し、話題を変える。


 「まあ、私のことは良いのだ。それよりも、何も知らないカイルとマリン殿の矯めに、このアンナ先生がダンジョンに付いて説明してやる。よく聞くのだ! 興味が無かったら飛ばしても良いぞ☆」

 「わぁーっ。アンナさん。凄いです。私、ぜんぜぇんわからないので教えてくださぁい」

 「......誰に言ってんだよ」

 

 アンジェリーナが教えてくれるといって素直に喜び拍手するマリンと、静かに違和感を感じるカイル。


 (ダンジョンの事を女王であるアンナが、自信満々に喋ろうとするほど詳しいんだ? そもそも、コイツは何で、ダンジョンに行こうなんて言い出したんだっけ?)


 カイルが心のうちで、違和感を探っているうちに、アンジェリーナはどからともなく眼鏡を取り出してかけると、さっさと、ダンジョンに付いて話し出してしまう。


 「先ずは、ダンジョンがどういう場所かの説明からだな。

  一言で言うとダンジョンとは、魔法生物の母体だ」

 「魔法生物?」

 

 マリンがアンジェリーナの言葉を反芻すると、アンジェリーナはコクンと頷いた。


 「つまり、とてつもなく大きい魔物の胎内だな」


 人害の代名詞、魔物ときいて、ゴクリとマリンが息を飲む。

 

 「ダンジョンは生きているため、内部のものはすべて時をかけて修復されていく、それに目をつけた、古代人が貴重な宝物を隠した。

  無限に生産される魔物と手直しの必要の無いトラップ、宝物庫としては申し分ないだろう」


  アンジェリーナは淡々とダンジョンについて語っていく、


 「そして、我々、現代人もその、再生するという点に目をつけている。

  ダンジョンの最奥には現文明の常識を壊すような貴重な宝物がある場合もあるが結局それは、一度きり。

  だが、ダンジョンから取れる貴重な資源。鉱石などは、時間とともに再生し、何度でも取ることができるのだ」

 

 カイルもマリンもいつの間にかアンジェリーナの語り口に耳を奪われていた。


 「つまり、冒険者とは、新たに発見されたダンジョンの攻略。そして、既存のダンジョンから、ダンジョン資源の回収。それが主な仕事な訳だな」

 「へー、レンジはそんなのになりたかったんだ......」


 親友の夢を初めて正確に解ったカイルが感嘆の声を出すが、アンジェリーナの話はまだ終わらなかった。


 「今のように、ダンジョン資源を採って売るところまでが、昔の冒険者の生業だった訳なのだが、近代はその売るという過程を請け負う《冒険者ギルド》が誕生した。これにより、また、若干、話は変わるのだ。

  

  冒険者ギルドが立ち上がり、買い手が何を求めているかがより具体的になったことにより、ギルドはそれを発注することになり、依頼というシステムが生まれた。

  そして、依頼システムは元々屈強なる戦士達が集まる冒険者に、お金を払って傭兵紛いの事まで行う様になった。

  

  今では、何でも屋と一般人に誤解されているが、本職はあくまでダンジョン資源の採掘なのだ!」


 此処でようやくアンジェリーナ先生の説明が終わり、眼鏡を外したアンジェリーナが、ズバッとカイルを指差した。


 「色々話したが、カイルよ。その大量に持っていこうとしている《聖水》はなんなんだ!」

 「え? メテオ系統の魔法を使うときに必要になる触媒だけど......」


 ポーチに数本入っている、魔道神お手製の聖水を使わなければ、カイルは超級以上の魔法が使えない。

 既に何度も死線を共に乗り越えたアイテムを持って行くのは当たり前だと、カイルは答えたが、アンジェリーナは大袈裟に溜息をつくのだった。


 「さっきも言った通り、ダンジョンは生き物だぞ。その狭い胎内で、超広範囲魔法を使うのは厳禁だ。死滅させる気か! 特に威力と範囲をコントロール出来ずに常に全開で放つカイルの場合は絶対に使ってはならんぞ。敵を倒せてもダンジョンが死んで崩壊し生き埋めになって死ぬだけだからな」

 「うっ! ......確かに」


 言われて初め気づいたカイルは、カイルの必殺魔法とも言えるメテオ系統の魔法が使えないことにいまさら気づく。


 「ま、聖水の使い道は、まだ他にあるから良いけど......さ。メテオ系統魔法が使えないと、俺の攻撃力が、がた落ちするんだけど......」


 今現在の、カイルが使える主な高威力攻撃手段は、


 《望叶剣》の使用。

 触媒使用の超級魔法。

 禁忌魔法属性焔。


 この三つ。


 そのうち、焔魔法はシルフィアが泣くほど嫌がるのと、そもそもダンジョンで使えば仲間まで巻き込みかねない特性を持っていて使用できない。


 触媒使用の超級魔法もアンジェリーナの言った通り生き埋めになりかねないので使用出来ない。


 《望叶剣》は寿命を削ってしまうので、ミリナとの約束やシルフィアとの事もあり、簡単には切れない切り札中の切り札で安易に使用できる物ではない......し、実は先の戦争終結と共に、ミリナに没収されているのでカイルは現在、鉄刀丸すら所持してない。


 そうなると、使えるのは、得意の鉄の錬成魔法と、いまひとつ威力に乏しい上級以下の各種属性魔法......


 「あれ? 俺ってまさかマリンよりも使えない子?」


 カイルはダンジョン攻略メンバー思い出しながら嫌な汗をかいていた。


 アンジェリーナは、回復や付与をこなせる、超有能な支援職。

 マリンは、アンジェリーナには劣るが、回復と支援、更に遠近中、様々な距離に対応した オールラウンダー。

 レンジは、魔法こそやや不得意だが、独特の瞬動流を使い先の戦いでは、次期剣神すら打ち倒す程の、天才剣士。

 ユウナは、マリン程魔法を使えないが、それでも短文詠唱を得意とし、剣神流を修め、正式にアンジェリーナから貰った称号は、七騎士より上の、魔法騎士帝。


 そんな中、一人カイルは、ちょっと魔法が、使えるだけのただの剣士。


 その事実にカイルは気づいてしまい、あまりのショックに床に手を着いて崩れ落ちるのだった。


 そんなカイルを待ってましたとばかりに、アンジェリーナが、愉しそうに口を歪めながら、再びカイルの肩に手を置いた。


 「そこでだ。カイルよ。私が未来の花婿はなむこ)の為に、良いものを持ってきやったぞ」

 「まさかっ! ミリナから、俺の剣を?」

 

 もしそうなら、カイルはアンジェリーナを少し見直す必要があるかもしれないと思った。

 剣に寿命を吸われないぎりぎりの範囲で、望叶剣を使用すればカイルもレンジ達にそこまで引けを取らなくなるかもしれないと、


 だが……


 「まさか? あのミリナが、私の言うことを聞く訳無いだろう」

 「お前の妹だろうに......」


 肩を竦めながら言うアンジェリーナに、カイルは呆れながら落胆した。

 しかし、頼みの綱の望叶剣を持ってきていないアンジェリーナは、それでもニヤニヤとニヤつき、


 「カイルよ。実は私も召喚魔法を覚えたのだ」

 

 そういって、手を前に出したアンジェリーナは、珍しく呪文を唱えた。


 「《契約に従い我が魔力を媒介に・汝が主の前にいでよ!!》 武装召喚! 現れよ《断魔剣!!》」


 

 すると、カイルの足元に魔方陣が出現し、召喚魔法特有の亜空間が開かれる。

 その中に、カイルの背丈程の真っ黒い大剣が入っていた。


 それの剣を見て、カイルは息を飲んだ。


 「コレは......っ! 何だっけ?」

 「おいっ! カイルが倒したという、魔剣王クラークがカイルに遺した伝説級の魔剣だろう! お前が忘れてどうするのだ!」


 カイルがド忘れしている事にアンジェリーナが、ガクッとコケたあと、大声で突っ込んだ事により、カイルも、そういえばそんなこともあったなぁ~と思い出す。


 「まあ良い。わからないなら教えてやる。あらゆる魔を断つその剣は、数ある魔剣の中でも最上級と唄われる。《伝説級》の魔剣だ。そして、魔剣と言うのは元来、持ち手を選ぶ、クラークがカイルに託した今、その剣を使えるのはカイルだけ。使い方次第だが、カイル。お前の必死武器にもなるんじゃ無いか?」


 アンジェリーナが、言う通り、クラークが遺した《断魔剣》は魔剣の稀少度や宿る能力を 《低級》 《中級》 《上級》 《超級》 《伝説級》 と通常、五段階に分ける中で、その頂点に位置する剣。


 伝説級の魔剣は、名前通り、伝説になるほど稀少で有能、その存在自体が伝説と化していて、普通は見ることすら出来ない剣。

 それ程の剣をカイルは、クラークに託されていた。


 アンジェリーナの説明を聞いてもカイルは、どこか不満そうに唇を尖らせる。


 「俺、大剣はあんまり得意じゃ無いんだけど......それ、見るからに重そうだし......それに、形式上最上級とか言っても、俺の鉄刀丸の力は打ち消せなかったじゃん。そんなにすごいの?」

 

 伝説級の魔剣に対しての暴言を、普通の冒険者が聞けば卒倒しそうな事をさらりと言ったカイルに、アンジェリーナは頭を抱えているが、結局、カイルの認識は変わらない。


 剣士にとって剣とは、己の命を預けるもの。


 だが、魔を断つ剣に頼よっていた、クラークは鉄刀丸の鉄を斬れなかった事が、原因で負けたようなもの。

 真の信頼をカイルが断魔剣に置ける訳も無い。

 

 「カイルの価値観は知らんがな、カイルの持つ望叶剣は、通常五段階に分ける魔剣の例外、六段階目! 《神話級》だぞ? 勇者の持つ勝利の聖剣エクスカリバーと同じ領域の存在自体が神話の剣。この世界の常識を越えた剣だ。そんなものがそうそう、あってたまるか!」

 「うっ......」

 「カイルがこの世界の常識の中で戦う限り、断魔剣は最上級の魔剣だ。通常の危機程度ならその魔剣一本で事は済む、良いから貰っておくのだ!」

 「確かに......望叶剣は世界に十本しかない剣、敵が毎回そのレベルな訳も無いか......」


 カイルがアンジェリーナの勢いに負けて、断魔剣を亜空間から取り出すと、役目を終えた亜空間がようやく閉じる。


 「良いか? カイルよ。その剣は神話級(笑)の魔剣や神級魔法と言った馬鹿げた、以外の魔なら全てを断てる。《アナライズ》で確認済みだ。命を削る望叶剣に手を出す前に、その剣で、絶望を断ち切れよ」

 「アンナ......お前、まさか、そのためだけに?」


 カイルに望叶剣を使うなとは、アンジェリーナは言わない。

 だが、出来ればアンジェリーナも使っては欲しくはなかった。

 アンジェリーナが、大切なのは、カイルが誰かを救うことよりも、カイルの命だった。


 そんなアンジェリーナが、カイルの相棒として考えた答として、カイルが命を削らずに道を切り開くための、断魔剣を持ってきた。

 断魔剣ならば、カイルのこれからの戦いでも必ず役に立つと。


 スキル《治療の化身》によって、アンジェリーナは、あらゆる攻性を封じられている。

 断魔剣を持つことは勿論、その召喚すら、アンジェリーナには難しい。

 詠唱をして、多大な魔力を注ぎ込んで、更に契約者、カイルの足元に召喚するだけという誓約を払ってようやく、使える魔法。


 その魔法をアンジェリーナが、どれだけ苦労して習得したかは、カイルにはわからないが、並大抵の事ではなかった筈だった。


 (シルフィアは俺の背中を支えてくれるけど、アンナはいつも俺の前を照らしてくれるよな。忘れてた、何でもないような顔をして凄いことをやるのがアンナだった......この剣は、大切に受けとろう)


 カイルは、ふざけていた気持ちを切り替えて、アンジェリーナの口に出さない気持ちも含めて断魔剣を受け取った。


 「フハハ、それで良いのだ! 我が婿よ」

 「......やっぱり売って金にして、マリンの人生を俺の専属メイドとして買い取ろうかな」

 「うわわわっ......カイルさんがゲスい顔してますぅ~! でも、伝説級の魔剣を売ったお金を一割でも貰えるなら、堕ちた汚名を返上することも......!!」


 カイルの提案にマリンが意外に乗り気になったので、カイルは追加で提案してみる。


 「良いぜ。売ったお金は全部やるよ。その代わり、マリンは俺の奴隷になって、俺の命令絶対厳守してね?」

 「ぜ、ぜんっぶぅ!? なりますっ! 私っ! カイルさんの犬になりますぅ! ワン」

 「そうか、なら、とりあえず金髪に染めて、毎日、何時如何なる時でも俺に可愛がられると誓うか?」

 「はい! やりますぅ! 私は今からカイルさんの(しもべ)です」

 「このっ奴隷! ご主人様と呼べ! ......俺の夢! 金髪の女の子の髪に囲まれる夢が! 今! 目の前にぃ!! グヘヘヘっ!」

 「ハハァッ~ごしゅじんさまぁ~っ!!」


 マリンが頭を垂れて、マリンの頭に素足を載せてニヒルに笑っているのを見ながら、アンジェリーナは言う。


 「変態だな!」


 この後、すぐにユウナがやってきて、マリンの頭を踏んでいるカイルの姿に、カイルがやっているいるという理由で、常識が変わり、ユウナに眠るドSの本能が開花したことで、ひと騒動......それが、マリンに奴隷に対して、異常な恐怖(トラウマ)を植え付けたことで、マリン奴隷化の話は流れることになるのだった。



 ■■■


 カイル達がダンジョンに行く準備を着々と進めている頃、遠く離れた、将来有望な魔道士見習い達が集まる学院都市のオーラン魔法学院の、とある秘密の一室では......


 下手に機嫌を損ねると、冗談抜きに人類を半滅させることが出来る。

 制御不能の暴走列車《魔道神》 バァリロリロの個室となっている部屋がある。


 そこで、詰まらなそうに小さなベッドで横になっているバァリロリロに、その弟子、オーランが声をかけていた。


 「お師匠様! お師匠様に魔道を習いたいという生徒が続出しておりますぞ。どうか一度、ご指導の程をお願いしたいのですぞ」

 「......嫌ですの! このわたくしの教えを請いたいですのなら、試練を乗り越えてわたくしを認めさせますの。それが絶対条件ですの」


 人間嫌いで有名なバァリロリロは、最近まで、誰もその人知を越えた教えを受けることは不可能だと思われていた。

 一応、魔道神バァリロリロが提示している、超難解で超危険で超理不尽なトリプルSの十の試練を乗り越えれば若き日のオーランのように教えを受けることは可能なのだが、ただでさえ命懸けで難解過ぎる試練を九つ乗り越えても、最後の十番目の試練の内容がバァリロリロとの一騎討ちで生き残ること、というものなので、バァリロリロより強い魔道師しか通過不能。


 勿論、バァリロリロと渡り合える人間は、唯一同格の剣神呑み。

 そもそも、バァリロリロに教えを請いたい人間がバァリロリロより強い訳が無い。


 つまり、実際にはバァリロリロの気分が良い時以外は、達成不能。


 そのため、現在、バァリロリロの弟子は免許皆伝のオーランを除けばここ数百年ただの一人もいない。


 そもそもがバァリロリロの気分次第という理不尽な試練をの越えて弟子になっても、はたまたバァリロリロの気分次第という理不尽な理由で命を落とすだけ、そんなバァリロリロに、ついた二つ名は《弟子殺しの魔女》


 そんな物騒な魔女の教えを乞おうとするものは近年では誰一人現れなかった。

 しかし、それが、最近は再び、バァリロリロの教えを受けたいと言うものが増え始める。


 なぜなら、


 「お師匠は、お師匠様が義兄と慕うカイル君だけではなく、何の関係も無いアンジェリーナ女王にまで無償で魔道を教えていたのを誰もが知っているのですぞ」


 そう、手取り足取り、丁寧に、解りやすく、それでいて優しく、バァリロリロはアンジェリーナの苦手分野である召喚魔法を教えていた。


 その姿と内容を見て聞いていた学生達から、バァリロリロは本当は優しい……なんて言いだし始めてしまった。

 そして、オーランも数百年誰とも関わらなかった師匠の変化に、僅かな期待を込めてこうして、危険を冒して危機に来ている訳だが......


 バチリっ


 いきなり、バァリロリロの不機嫌な視線がオーランの目玉を焼いた。


 「ぐおおおおおおおおおおおおっ! 目がぁっ! 目がぁああああああああーーっ!!」


 最早、魔法の神と言われるバァリロリロは視線だけで、人間一人を簡単に殺せる。

 バァリロリロの視線を受けたのが、オーランでなかったら、既に屍となっていたであろうことは明白だった。


 焼けた目を押さえて激痛にのたうちまわるオーランに目も向けず、バァリロリロは相変わらず詰まらなそうに遠くを見ながら、言うのだった。


 「アンジェリーナちゃんは、おにーさまの婚約者ですの。すなわち、アンジェリーナちゃんの力になれば、おにぃーたまの力になれると言うこですの! おにーたまの力になれるなら、わたくしはどんなことでもしますの......近々、わたくしもおにーさまんの妻になりますの。今から仲良くしておくのは当たり前ですの」

 「......お師匠様......毎回微妙にカイル君の名称が違いますぞ」


 カイルの事を語るときだけは、乙女チックに目をハートマークにしてキラキラ輝かせているバァリロリロ。


 カイルと本気で結婚しようとしているようで、既に苦手なはずの人間関係まで構築しようとしている己の師匠の健気さに、唯一の弟子であるオーランは心を打たれて、うるっとしてしまった。


 (歳は取りたく無いものじゃのぅ......)


 今のバァリロリロに無理矢理教えさせようとすれば、生徒が死ぬので、オーランは一度諦めて話題を変える。


 「そういえばお師匠様、カイル君に渡している、魔力純度が異常に高いあの《聖水》は何ですか? 見るからに貴重な物の筈ですが?」


 オーランは前々から気になっていた、魔法適性が絶望的なカイルに超級魔法を使わせる程の触媒の秘密を聞いた。

 もし、作り方や、採取の仕方が解り確立すれば、魔法会に革命が起きる。


 バァリロリロが、カイルに渡す、未知の触媒にオーランの期待が膨らむが、バァリロリロはあくびしながら、


 「あれはわたくしの特製の聖水ですの、わたくし以外には作れませんし、おにぃさま以外には使わせませんの」

 「お師匠様の聖水ですと? 是非にどうやって生成するか知りたいですぞ」

 「まあ、教えるだけなら良いですの。その代わり、オーランも品種改良に貢献しますの」

 

 バァリロリロは面倒臭かったのだが、オーランに手伝わせるのも吉かと思い直して......

 子供用のもこもこのスカートをスルッと脱ぎはじめる。


 「おっ! お師匠様ぁああ!?」

 「驚いて無いで小瓶をとりますの?」

 「小瓶?」


 オーランは色々お子様サイズのバァリロリロの奇行に驚きながら、命令通りに小瓶を取った。

 すると、バァリロリロはその上に、よいしょっと膝を曲げて腰を落とすと、


 「そのまま持っていますの、このまま魔力を練り込んで......」 

 「......まさか!?」


 チョロチョロチョロチョロチョロチョロ......


 オシッコをし始めましたの!!


 小瓶一つ分、聖水を分泌したバァリロリロは恍惚の表情になりながら、蓋を固く閉めると、『お兄様へ! ですの』とかかれているバケットの中にしまい込む。


 「お、お師匠様......それは?」


 既に答は出ていたオーランだが、聞かずにはいられなかった。

 そんな、感情が戦慄色に染まっているオーランに、うまく精製することに成功したバァリロリロは、にぱっと上機嫌で笑うと、


 「オーラン、おバカになったんですのね? 愚問過ぎますの、次にお兄様に渡す為に溜めている《聖水》に決まっていますの」

 「......」

 「お兄様んは、《魔道神》わたくし の特注した聖水でも使わなければ、超級魔法を使えませんの......だから」


 この時、オーランは思った。


 「馬鹿は!! お師匠様ですぞぉおおおおおおおおおおおおおおーーっ! そんな羨まけしからん......汚らわしい物を、カイル君に渡していたとはっ!! 師匠の一番弟子であるこの私、オーランが人身御供となりますぞ! いやっ!! なりたいですぞおおおおおおおおっ!! ロリ馬鹿師匠の聖水は、ワシのものじゃぁああああいっ!!」

 

 あまりの強い衝撃に、溢れ出す......衝動が抑えらずに叫んでしまったオーランは......


 「師匠であるわたくしに、何て口を利きますの? これは久しぶりにお仕置きが必要なようですのね。ぶち殺し決定ですの♪」


 バチバチバチ......


 いつも通りバァリロリロに冗談抜きで半殺しにされたのだった......南無三。

 

 

 ■■■


 学園都市の南、何故か一年を通して強い北風が吹く事から《風の森》と呼ばれる森。

 そこで最近になって発見された《風の森のダンジョン》その入口の前にカイル達は立っていた。


 「むむむむ......」


 さあ、これから冒険の始まりだ! とレンジとユウナが仲よく盛り上がる中、アンジェリーナはカイルの背中を影にして、非常に不愉快そうな声で唸っていた。

 理由は……


 「なあ、アンナ。お前さ、仮にもお前からけしかけたんだから、レンジが連れて来た奴が、いくら自分よりも可愛い女子でだったからって機嫌を損ねるなよ」

 「違う! 断じて! 私の方が美少女だ! それに、私はカイルに好かれればそれで良いのだ! 他の奴の価値観なんかどうでもいいのだ! 見ていればわかるぞ、カイルは私の方が美少女だと思っていると! そうだろう?」

 「......俺の気持ちを断言するじゃね~よ」

 

 そこは全力で否定するんですね......と、あわわわ、しながらアンジェリーナの言葉に突っ込むマリンをギロッと一瞥して黙らせた、アンジェリーナは、ピシッと問題の六人目、レンジが連れて来た女の子指を指して無い胸をはっていた。


 ピンク色の髪と白い肌、アンジェリーナには無い貴賓さが醸し出される風格。カイル達になのなった名は、王族名エルエレンを隠して、エリザリーベ・エルカムティー。

 正真正銘現役バリバリのJK(女皇帝)............ではなく女王。

 

 レンジの予想通り、誰にでも噛み付く狂犬ユウナが、エリザリーベには一瞬詰まらなそうに見つめた後は粗相を犯さなかった。

 特別、仲良くするつもりも無いユウナにカイルは、溜息を付きたくなったが、


 (まあ、レンジの連れて来た女ってだけで不機嫌なのかもね......)


 それよりも、誰に対して平等に偉そうに振る舞い、ひとの好き嫌いをあまりしないアンジェリーナの方が、エリザリーベに拒否反応を見せ、カイルの背中に隠れて歯をぎちぎち鳴らしていた。


 そんな、子供っぽい所、だけをカイルは、呆れてエリザリーベの方が美少女だと言っているのだが、アンジェリーナにはカイルの意図が伝わらず、余計にカイルの悪印象を買っていた。


 カイルが、エリザリーベに視線を向けると、冷たい北風がびゅーびゅー吹き込んでいるにも関わらず、優雅に金色の扇をパタパタあおいでいた。


 六人の間に流れる沈黙は、そのままアンジェリーナとエリザリーベの仲の悪さ。


 しかし、流石に今からダンジョンに挑むというのに、これは如何なものだろうとカイルは思い、エリザリーベと交流してみる事にした。


 「えっと......エリ......エリーさん? アンナとは知り合いなの?」

 「妾に話しかけるな下巣!」

 「......」


 だが、カイルの気遣いはエリザリーベの分厚い心の壁の前に阻まれてしまう。

 更に、扇をバチンと強く閉めたエリザリーベはカイルに向けて言う。


 「それと、塵芥。先程から妾の美貌に見とれ過ぎじゃ! 何度もチラチラ見なくても妾の美貌は変わらないのじゃ」

 「あ、アンナとおんなじ感じなんだね......」


 まだ二言しか話していないのに、カイルはエリザリーベの性格を八割がた、悟って仲良くすることを辞める。

 だが、エリザリーベの方は、カイルの不躾な視線に、嫌な記憶を思いだし、カイルを攻撃するのを辞めなかった。


 「レンジの友と聞いて仕方なく来てみれば居るのは、くだらん有象無象ばかり、しかも一人は、妾の事を視姦して悦ぶ下巣ときたのじゃ」

 「うわわわっ......あのぅ、そろそろぅ......辞めた方が......それと、カイルさんは視姦している訳ではなく、金色の扇に目を奪われているだけですよぅ」


 カイルを罵倒するエリザリーベを、ユウナの逆鱗に触れて殺されない様にマリンが宥めようとするが、悍ましい侮蔑の感情で耳にはいらず、カイルに蔑視の視線を向ける。


 「それでもじゃ、レンジの友だと思い、ここまで来る間に観察してみたのじゃが、貴様の腑抜けぶりは何じゃ? レンジや女共の後ろでヘラヘラとしているだけだったのじゃ!」

 「それは、ユウナさん達が闘い易いように、後方援護に徹して居ただけですよぅ。......っ! とにかく! エリザリーベさん。その辺で辞めと来ましょうよぅ......楽しく、楽しく行きましょうよぅ」

 

 ピリピリし始めるユウナの気配を感じとったマリンが更に必死に止めるが、これも無視。


 「顔も醜ければ、性格も醜いときたのじゃ」

 「......」

 「その弱腰と、臆癖が妾に移ってしまうじゃろう! 何も出来ないゴミクズならば、せめてその汚く臭い口臭を撒き散らす口を一生開くな!!」


 ピキリ。


 そこで、遂に我慢の限界を迎えた。


 「そんなにっ! そんなにっ!! 言うこと無いじゃ無いですかぁ! 始めてあった貴女に、カイルさんの何がわかると言うんですかぁ! エリザリーベは知らないし、わからなかったかも知れませんが! カイルさんは、戦えないアンジェリーナさんの身を守ったり、背負ったりしてました! 更に何時も魔物の接近を最初に気づいて奇襲されないようにしてくれていました! ただ敵を倒すだけなら誰にだって出来ます! 人の背中を何も言わずに護れるカイルさんに! カイルさんに謝ってくださいよ!! 私の尊敬する友達を! けなさないでくださいよ!」


 しかし、怒ったのはユウナではなく、マリン。

 尊敬するカイルを罵倒され、喋るなゴミクズとまで言われたマリンの逆鱗に触れた。


 これでは、ダンジョンに入る前にパーティーの解散まで見えて......

 

 「やめなさい。マリン」


 しかし、怒れるマリンの肩をユウナが掴んで止めた。

 そこで、マリンは気づく、マリンでも怒ってしまう程、カイルを罵倒したのにも関わらず、ユウナは平然としていることに。


 「っ! どうしてです! ユウナさん! カイルさんはあそこまで言われる筋合いなんて!」

 「良いから、冒険が台なしになるわ。やめなさい」

 「でもっ!」

 「......」

 「......ぁぅ」

 

 マリンの肩を掴むユウナの凄まじい握力と、ユウナの青く澄んだ瞳の裏に隠された、何かの意図にマリンの口は自然に閉じていた。

 

 マリンの怒りが少し沈下したところで、ユウナはマリンの耳元で小さく囁いた。


 「カイルの為に怒ってくれた事には感謝するわ」

 「......」

 「でも、そんな、マリンだからこそ、あんなつまらない女の言葉なんてほっとけば良いのよ」

 「......何故ですかぁ? カイルさんは凄い人なのに......」


 ユウナは、マリンの言葉に答える前に、エリザリーベに言い負かされて頭を下げて落ち込んでいるカイルの背中を見てから優しく微笑んだ。


 「カイルが凄いことなんて、言わなくてもいずれわかるもの」

 「っ!」

 「カイルを凄いと本気でマリンが思っているなら、カイルを少し罵倒されたからって、一々動揺しないのよ。そうすれば、いずれ自分で自分の過ちに気づいたときに言えるわよ」


 そこで、マリンと目を合わせたユウナは、悪戯を考えている子供のように晴れやかに笑って言った。


 「ざまあみろ。ってね、ふふ、楽しみね」


 ユウナのカイルへの強い信頼は、マリンの思っていた以上のものだった。

 信頼があるからこそ、怒る必要は無いのだと、相手にする必要は無いのだとユウナはいった。


 だから、ユウナはエリザリーベを冷たい視線で見はしても怒る事は無かったんだと、その時始めて、マリンは気づいた。


 そして、周りを見渡して、アンジェリーナとレンジもユウナと同じような瞳をしていた事に気づく。


 (なんだ......みんなそういう事だったんだ......)


 畏敬の念を抱いた人達は、やっぱりとてもかっこよかった! とマリンは思ってユウナに笑顔で返事をした。


 「はいっ! 楽しみですっ」

 「まあ、カイルに殺気を向けたら斬り殺すのだけどね、ふふ、それも想像するとゾクゾクするわよね?」

 「......それは違うと思いますぅ~」


 マリンとユウナが話している間に、アンジェリーナはダンジョンの入口となっている、ある装置の前で一夜ずけの知識をカイルに披露する。


 「カイルよ。これがダンジョンに必ずある転移装置だ。古代文明時代の物なので仕組みは解明されていないのだが、ダンジョン毎に決められた人数でこれに触り魔力を通すと、ダンジョン内部に転移するのだ。これでしか入れないために冒険者は毎回色々な人達とパーティーを組んで探索するのだ」

 「仕組みがわからないって......んなあやふやな」


 正体不明の装置ときいて、カイルが難色を示すと、ダンジョンの前にうずうずを隠しきれなくなったレンジがサクッと転移装置に魔力を注ぎはじめる。


 「仕組みが謎だからって敬遠することは無いだろ。カイル。これのおかげで、外に魔物が出て来ることは殆ど無いんだぞ?」

 「ああ、そのためにあるんだね。でも、仕組みがわからないは......」


 転移装置が実は魔物の外への流出を防ぐために作られたものだと、わかっても、仕組みの不明な物への嫌悪感は簡単には消えない。

 そんな、臆病者のカイルにレンジは少し笑って、言う。


 「いや、以外と仕組みなんて、わからないもの良くあるじゃないか。昔の人は空を機械で飛んだらしいが何故飛べるか正確にはわからなかったそうだし、俺達の時代でも、船は何で水に浮く? 何故物は下に落ちる? 魔法は何で落ちない? 魔法の基本属性は何で七つなんだ? 何故得意不得意がある? 何故人間は生きている?」

 「何かレンジが凄い頭良いこと言ってる?」

 「ほら、わからないだろ?」 

 

 転移装置がレンジの魔力で起動して光り輝き出したとき、カイルは馬鹿な事を自分で証明し、アンジェリーナがさりげなくカイルと手を繋ぎ、マリンとユウナが共謀し、エリザリーベがレンジの姿を見て扇に隠した表情をだらし無く崩した


 六人の意思も目的も実は全てバラバラ中。


 レンジは、カイルに、いや、全員にこう言った。


 「今、己を超える未知への道が開いたぞ。俺達が、わからない物を使って見たこともない景色を見に行こう!」


 きっと、このメンバーで冒険するのは最初で最後のはずだから......

 レンジは確かな確信の上にそういっていた。


 

 


 

 



 


 

 

 

 

 





 


 

 


 

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