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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
五章 恋する怒りの女剣士
46/58

三十六 修行のち襲来

 肌寒い中、マリンが剣を軽く素振りしながら、カイルに疑問を投げかけた。


 「それにしても、何故、私に聞くんですかぁ? ユウナさんやレンジさん達もいますのに......」

 「まあ、当然の疑問だね」


 マリンの言葉を予測していたカイルは、肯定して首を縦に振りながら答える。


 「マリンなら、わかりやすく教えてくれると思ったんだよ」

 「もーう、カイルさんったら~買い被りすぎですよぅ~」


 カイルの言葉を聞いてレンジ達より頼られていると思って謙遜しながら明らかに喜びの感情の声を出すマリン。

 だが、比べる対象が、何かを聞けば『気合いよ!』とか『気合いだな』とか言う人達であることをマリンは知らない......


 「では、では~剣気の使い方を教えますね」


 しかし、気を良くしたマリンは、何時にもましてハイテンションで、舌を動かしていく。


 「先ずは、剣を構えます」

 「うん」


 マリンが剣を真正面で構えながら、瞳を閉じる。


 「そして......」


 ぞわり......


 マリンの身体から何か見えない威圧感をカイルは感じとる。

 これが、おそらく、《剣気》


 今まで、散々この威圧感をカイルは感じてきた。


 炎王イグニードや七騎士達、断罪者クラークに始まり、暗黒騎士団長と聖騎士団長ガンスロット・ランスロットの兄弟。他にも様々な剣士達。


 その全ての使い手が、鉄刀丸を持ってようやく互角......それ以下の戦いを強いられた。

 レンジやユウナも使うその力をカイルもようやく手に入れる......


 「剣気を使います」

 「......」

 「カイルさん!! 見てくださいこれが剣気です! この状態を剣気を使うと言います」

 「......いや、俺はどうやってその力を使うのか知りたいんだけど......ただ見せられても」

 「使い方ですか? なんか、きゅぅ!! ってすればぐぅってなるので、それをわぁ~って纏めた後、ギチギチってするんです」

 「......」


 マリンのあんまりであんまりな説明を聞いてカイルは解った......


 (あ、コイツもポンコツなんだ......)


 と。

 当たり前だが、効果音ばかりの説明で、カイルに理解できるわけなく、カイルのマリンを見る瞳の温度が、氷点下以下まで下がっていくと、

 何かを勘違いしたマリンが剣を構え直した。


 「じゃあ、やりましょうか!」


 ゾクリ......


 カイルの第六感が危険を告げると同時にマリンが動く。

 カイルまでの五メトルあった距離を瞬きの間に詰めると、剣を流れるように上段から振り下ろした。


 (速いっ!!)


 体感で普段の数倍速いマリンの攻撃にカイルのスイッチもカチリと入る。

 左足の親指で地面を蹴って横に飛びながらマリンの一撃を交わすと、左手を地面について、それを軸手に一回転。


 それでマリンに足払いをかける。


 体術《大車輪》。絶妙なタイミングでマリンの不意をついた攻撃は綺麗に脚を刈り取った......


 ガンッ


 「なっ!」


 しかし、カイルの足払いは鋼鉄の様な硬さのマリンの脚に受け止められた。

 カイルが蹴ったはずなのに、カイルの脚がジーンと痛みを訴える。


 カッとマリンの瞳孔が開き、再び剣をたたき付ける。


 避けられない! そう判断したカイルは、剣を横に構えて、マリンの一撃を凌ぐ事にする。


 ガガガンン!!


 (重い!!)


 カイルの構えた剣を突き抜けて腕骨と背骨を軋ませる衝撃が、カイルを地面にたたき付けた。

 たたき付けられた地面が数セルチ凹み、肺の空気が圧迫されて強制的に排出される。


 それが決定的な隙を生んだ。


 「勝機を逃すな! ですよね!」

 「バッ! 死ぬ......!」

 「供養します」


 普段良いようにあしらわれ、昨日から散々いたぶられたマリンは怨みを載せて三度、剣を振り下ろした。

 先ほどの数倍危険な香がする一撃に、カイルは死を感じたがマリンは、迷わず振り下ろした。


 ガン!


 「え?」


 驚愕の声を上げたのは圧倒的優位を誇っていたマリンだった。

 全力で振り下ろした剣が、とてつもなく固い何かに阻まれてピクリとも動かなくなった。


 驚くマリンの鼻孔に凛と爽やかで甘い香がしたことで、マリンの表情筋が引き攣った。

 

 突如現れ、長い黄色の髪を揺らし片手で持った剣でマリンの全力攻撃をいとも簡単に止めている少女が怒気の篭った声でマリンに言葉を零した。


 「アンタ......この私の前で、誰に向かって剣気を向けているのかしら?」

 「......い、いえ。これはっ! 訓練です。訓練ですよぅ! ユウナさん!」


 (またっ! 暴走してますうよぅ!)


 「アンタの剣からは殺意を感じたわ」

 「それはっ!」

 「決定よ。カイルの敵は全て私が切り刻む! 死になさい」


 マリンの本能が極大の警鐘を鳴らし、ユウナの瞳が黒く染まる。

 そして、瞬速の一線がマリンの首を捉え......る寸前。

 

 ぴたっとユウナの剣が、マリンの首元で止まり


 「ふふっ、冗談よ、カイルのことを好きなマリンを殺すわけ無いじゃない」

 

 満面の笑顔を作って剣を降ろした。

 マリンは冷や汗をかきながら、心臓に悪いユウナの冗談に溜息をついた。


 「べ、別にカイルさんの事は好きでは無いのですが......」

 「ツンデレね」

 「......もう、何でもいいですよう」


 ユウナの説得を諦めたマリンは瞳に涙を溜めていると、肩に掛かった髪をサッと払ったユウナがカイルを起こしてあげる。


 「そんなことより、カイル。何をしてたの? 面白いことなら私も混ぜなさいよ」

 「え? 俺の宝物がマリンの汚パンツになってたから犯人の心当たりをマリンに聞いていただけだよ」

 「パンツと汚物をかけても全然うまくないですよぅ......」


 ピクッと眉の下の筋肉を動かしたユウナは不幸な声で突っ込むマリンに鋭い視線を向けて、声は出さずに唇だけ動かしてマリンに言う。

 

 『言ったらコロスわ』

 「ひぃ~!!」


 これで、完全犯罪を成し遂げたユウナは、カイルの頭を撫でてあげる。


 「カイルのゴミ......金髪をマリンの糞と交換するなんて最低ね、私が犯人を切り殺してあげるわ」

 「過激だし、あれ? ユウナにまだ、宝物が金髪って言ってないんだけど......なんで解ったの?」


 それは、私が燃やしたからよ、とは言えないカイルの鋭い質問に対して、ユウナは平然と鼻を鳴らして話を変える。


 「だから、そんなことはどうでもいいのよ! それより、カイル。私に嘘を着くのは辞めなさい。マリンと何をしていたの?」

 「それは......」


 嘘を付いているのはどちらかと言えば、ユウナなのだがこうも堂々と言われるとカイルは、自分が悪い気がしてきた。


 「実は......剣気を使いたくて......」

 

 ユウナに言うのは何故か恥ずかしいカイルがもぞもぞ、さっき隠した本当の理由を言った。

 そんな、カイルをユウナがじっと見つめて数秒......


 「ふっ、何よ、それなら私が教えてあげるわ」

 「いやっ......ユウナは......」


 教えるとか無理でしょ? と、言おうとしたカイルの後ろから、カイルの手ごと剣を持って無理矢理構える。


 「良い? カイルはもう剣気を使えるわ、目を閉じなさい」

 「う、うん。良いけど......ユウナ。この格好恥ずかしくない?」

 

 ユウナがカイルの剣を持っているため、ユウナはカイルに抱き着いている形になる。

 カイルの背中にユウナの身体の色々な感触を感じ取ってしまう。


 少し前まで、一緒にお風呂に入っても何も思わなかった、カイルだが、シルフィアとの生活で、色々知ったカイルはユウナと触れ合うとドキドキしてしまう。


 「今更、何、ドキドキしてるのよ。良いから目を閉じて力を抜いて私によりかかりなさい」

 「まあ、だよね」


 ユウナに意識されていない事を再確認したカイルは、少しもどかしい気持ちになるが、シルフィアの顔を思い出して首を振った。


 (俺にはシルフィアが居るから良いんだ......ユウナはレンジと幸せになるんだから)


 そのまま、目を閉じてユウナに寄り掛かる

 そんな、カイルを抱き抱えているユウナは、必要以上にカイルと密着する。

 そして、カイルの感触を隠れて堪能しながら、声をかける。


 「先ずは自分の魔力を意識しなさい」

 「うん。魔力? 魔力ならわかるよ」


 カイルは自身の身体に血液の様に流れる魔力に意識を向ける。

 ユウナが支えて居るからか、その流れはとても静かで落ち着いていた。

 魔力暴発するときは、これが荒れ狂う波のようになって居る時で、実は、同じ属性の魔法を使うと、この流れがどんどん乱れていく。


 この乱れには個人差があり、カイルは人より異常に乱れやすいために、上位の魔法を使えない。

 

 その魔力の波が、何時もよりなだらかで、ゆっくりと落ち着いている。


 が、突然、魔力の流れが荒れはじめる。

 魔力に集中していたカイルにはその理由はすぐにわかる。


 「外から魔力を乱されてる! このままじゃ! 暴発する」

 「半分正解よ、私が私の気を送り込んで無理矢理乱したのよ。大丈夫だから安心しなさい」

 「......うん」

 「いい子ね。そのまま私を信じて寄り掛かっているのよ?」


 ユウナが安心しろと言うのなら、たとえどんな状況でもカイルは、安心するし、信じてと言うのなら信じる。

 だから、カイルはユウナに寄り掛かりながら、魔力の流れをひたすら感じていた。


 「ま、まさか、ユウナさん!! 無理矢理! 危険過ぎますよぅ!」

 「五月蝿い! 黙って見ていなさい。カイルが私を信じてくれるなら、私に不可能なんて無い。カイルの剣気くらい! 私が起こせるのよ!」


 マリンがあわてふためき、ユウナが黙らせる。

 そんな喧騒を聞いても、カイルはユウナに全てを任せた。


 カイルの身体を荒れ狂いながら流れる魔力が、カイルではない魔力......ユウナの魔力が包み込んで無理矢理押さえ込む。

 

 「さあ、お寝坊なカイルの剣気、さっさと目覚めなさい!! カイル。気合いよ!」

 「はぁ?」


 ユウナの意味不明な指示の後、カイルの魔力を包み込んだユウナの魔力が、一気にカイルの身体の外に放出される。


 「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!」


 通常、ゆっくりと修業によって開ける《気》を通す《気穴》をユウナが無理矢理通したことで、カイルは身体中の痛神経が直接触られる痛みが襲いかかる。

 気絶しそうになるカイルに、


 「初体験は痛いって言うでしょ? 気絶したら意味が無いわよ? 起きてなさい。気合いよ!」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!」


 ユウナは、鞭を打つように更に魔力を外に出しつづけた。

 壮絶な痛みを越えた痛みに、カイルがのたうちまわろうとする事もできずに、ガクンと膝を落とすせばユウナがそっと支えてあげる。

 

 そのまま痛みで絶叫することすらできなくなったカイルの耳元で、ユウナが囁く。


 「カイル......この前は、怒ってごめんね......もう少しだから......待ってて、カイル」

 

 その声は、カイルには聞こえなかったが、その声がカイルの意識を最後まで繋ぐ力になった。

 待ってて......とそう聞こえた気がしたカイルは、歯を食いしばってユウナを待ち続ける。


 すると、段々と痛みが引いていく、


 「そろそろね。カイル。全身の気穴をこじ開けたわ。今、外に出ている力が、剣士の使う剣気よ。分かるわね」

 「うん......」

 

 さっきまで、カイルが魔力だと思っていた流れの半分は、魔力ではない。

 魔力と裏表の関係でわかりにくいが、剣気の大元《気》。

 ユウナが《気》だけをつかみ取り、無理矢理外に出した事により、カイルも《気》をようやく感じ取れるようになった。


 「この力をどう使うかは使い手次第だけど、全ての基本は纏うことよ」


 ユウナは、カイルの剣気を包み込んだまま、練り上げて操るとカイルの身体に纏わせる。


 「ふふっ、私と二人分だから凄い濃いわね、今ならカイルはマリンに負けないわよ、ボコっちゃいなさい!」

 「ハハッ、それは面白い」

 「ひぃ! か、カイルさん!? 他人の剣気を使うなんてっ! ずるいですよぅ! というか、なんで、他人の気なんか使って平然としてるんですかぁああ!」


 ユウナにそそのかされたカイルの悪い笑みをみて、悪寒がしたマリンは再び剣を投げ捨てて逃走する。

 そんな、マリンが前を向いた瞬間。


 ゴツン!


 「なっ! 何かとてつもなく固い、岩のような何かに! ぶつか......っ!」

 「ほ~う、マリン殿。この私の胸がというのか?」

 「えっ? アンナさん!? 何故ここに! はっ! それより!」

 「ハハハハ! マリン・マリッジ死刑だぁああああああぁ」


 ガツガツぐつぐちゃジュル、ブチン。


 直後振るわれたカイルの剣に潰され意識を飛ばされたマリン。

 そして、死体になったマリンをユウナが踏み付けながら、自分の手で自身を抱きしめて、顔をアダルティックに紅潮させながら、微笑する。


 「ふふっ、カイルをイジメた事を本当に私が許すと思ったのかしら? おバカさん。だから死ぬのよ、ゾクゾクするわ」

 「......死んでません......よぅ。ガクリ」

 「ちょっと! ユウナ。これどうやって、解くの? なんか目眩がしてきたんだけど」

 「ふふ、当然ね。気は生命力の塊よ。そんなに放出したら、全速力で走っている以上に疲れていくわ」

 

 ガタリ......


 「なんとかしてあげたいけど、ごめんね。抑えて上げちゃうと折角、起こした気穴が寝ちゃうから、一度ぶっ倒れなさい。それか、気合いでなんとかしなさい」

 「ひでぇー......よ」


 意識を失いながらカイルは、やっぱりユウナは鬼だと思ったのだった。


 死々累々となったカイル達をみて、何故か偉そうに腕を組んで立っているアンジェリーナが言った。


 「相変わらず騒がしいのだなハハハハハハハハハハハハッア」

 「五月蝿いわね。アンタも眠る?」 

 「ハハハハ......」


 グキリ......


 結局、アンジェリーナも本当に何故か倒れたのだった......


  

 ■■■


 「お腹......減ったわ!!」


 と、ユウナが騒ぎ立て出したので、気絶しているマリンをたたき起こして、寮に引き返したカイル達。

 

 「あわわわっ! 今すぐ何か作りますぅ~!!」


 マリンの性なのか何故かユウナの腹を満たすために、台所に引っみ、慌ただしくコトコトカタカタ料理し始めるマリン。

 その腹の虫が騒ぎ出す音と香を楽しみながら、カイルはちゃっかりテーブルに付いている、アンジェリーナに呆れた視線を向けた。


 「で? なんでアンナがいんの? お前、それでも女王なんだろ? ここに来てて良いのかよ」

 「ん? ん......」


 大陸で最強の軍事国家と言われる、女王アンジェリーナ・ローゼルメルデセスが、ただの勇者候補生の寮の一室で、ナイフとフォークを握りながら今か今かと、マリンの料理を待っている姿には流石のカイルもため息をつくしかない。


 「執務はメイドのリリーに任せてきたから、暫くは平気だ」

 「平気だ、じゃね~よ。俺が聞いているのは、なんでまた勇者学校に来たのかって事だよ。まさかマリンの料理を食いに来たって訳じゃないだろうな」

 「それもあるぞ」

 「おい......王宮でもっと良いもの食ってるだろ」


 何時もよりカイルの機嫌が悪く声が段々と下がっていくのは、アンジェリーナの金髪を触ろうとしたら、パチンと弾かれた事が大きかった。


 (まさか、シルフィアと結婚するなら触らせないつもりか? ふざけんなよ。貰った金髪すら盗まれたんだぞ、お前のその金髪を俺はもう触れないのか!)


 普通は一国の女王の金髪を触ることはできる訳が無いのだが、少し前までは触り放題だったので、その分我慢をしずらかった。

 何より、カイルは暫く金髪を一度も触っていない、パンパンに膨らませた爆発寸前の風船ぐらいにカイルの金髪を触りたいと言う欲求は貯まっていた。

 そんなときに、カイルが知る中でも、一番質の良い金髪を持つアンジェリーナが目の前にいれば、ご飯のお預けを喰らっている野獣(ユウナ)以上に苛立っても仕方な......仕方ない。


 「マリン殿の料理は我が国の三ツ星シェフにも引きを取らないぞ」

 「うわわわっ! アンナさん、それほどでもないですよぅ!」


 あからさまに鼻を高くしたマリンが台所から顔を出してモジモジする。


 「喜んでないで良いから! アンタは速く作りなさいよ! 切り刻むわよ」

 「ユウナ......横暴だよ、落ち着いて」


 ユウナが放たれた矢のように飛び出していこうとしたのをカイルが抑える。

 今のユウナは野獣ではなく、猛獣だった......


 「ふふふっ、ユウナさん! それに皆さん、一品目、魔秋刀魚(サンマ)の塩焼きですよ~」

 「なっ! やるじゃない......できていたのね!」

 「もちろんです。十二月のサンマは身がぷりっぷりに引き締まっていてとてもおいしいですよ~」


 ぐるるるるるるるるるっ!!


 全員のお腹が泣いた。


 「ふふ、久しぶりの四人分は作りがいがありますね。カイルさん。お魔米(コメ)を炊いたのでよそってくれますかぁ?」

 「あ、うん。良いよ」


 ユウナが、おコメも待たずに目の前に置かれた皿とカイルの皿のサンマをすぐさま平らげると、ギラギラとアンジェリーナの皿を狙う。

 カイルはマリンからサンマの皿をもう一皿貰いながら、ユウナのお椀によそうお米の量を通常の五倍にしてから戻った。


 「で? マリンの話は良いんだよ。アンナ。お前は何しに来たんだって」

 「飯を食べながら喋るのは行儀が悪いぞカイル。黙って食え」

 「この寮の食卓に堅苦しい礼法は要らないし、何より隣に猛獣が居る食卓で行儀が良いも悪いもない......が」

 

 ギロリ。


 「カイル。食べないなら貰うわよ」

 「......黙って食うとするか」


 その後。カイル達はユウナの食欲に脅えながら食事を続けたが、ユウナの皿の料理が無くなる頃には、マリンが新しい皿を持ってくるので、比較的奪われる確率は低かった。


 マリンが十皿目を出した頃には、お腹が膨れたユウナがカイルに寄り掛かってスヤスヤ寝息を立てはじめたので、マリンが食卓に付いた。


 「ようやく食べれますぅ~!!」

 「お疲れ......別にユウナの食欲に付き合うことは無いんだよ? マリンはユウナの家政婦じゃ無いんだし」


 袖を降ろして汗を拭いているマリンをみて、ユウナの横暴を流石に申し訳無くなったカイルが気を使うと、マリンが楽しそうに微笑んだ。


 「ふふ、私、カイルさんと出会ってあの一歩を踏み出してから、とっても楽しいんです。疲れて寝ちゃうぐらい食べてくれるユウナさんに料理を作るのも、毎回舌鼓を打ってくれるアンナさんに作るのも、さりげなく手伝ってくれるカイルさんと料理を作るのも、こんなに沢山の友達とご飯を食べるのも、私には夢のように楽しいんです」

 「......」

 「苦痛なんて一瞬も無いですよ」

 「そうか......なら良いけど......」


 マリンの言葉に嘘が無いことは、カイルもアンナも解った。

 だからこそ、カイルは思うことがあったのだが......この時は飲み込むことにした。


 「それに、皆で食べるのは勿論、ユウナさんが料理をせがむのも、久しぶりなんですよ!」

 「まあね......それにしても、マリンの料理は美味いな、うん」


 マリンにそれ以上喋らせると、何か聞いてはいけないものを聞いてしまう気がしたカイルが咄嗟に話をそらし、ニヤニヤとからかいモードになったアンジェリーナがカイルを弄りだす。


 「だが、カイルよ。お前は、一ヶ月も、あのシルフィア殿と生活していたのだろ? シルフィア殿ならマリン殿に負けない程、料理が上手そうに見えるのだ......どうなのだ?」

 「マリンと比べたら可哀相だけど、かなり美味しいよ......」


 ほーうとアンジェリーナが喉を鳴らして瞳を鋭くしていた。


 「だけど、シルフィアは何故か、スッポン料理しか作れないんだ......流石に飽きる。マリンは色々作れて凄いよ」

 「うわわわっ! スッポン!? ですぅ?」

 「うん。生き血を飲まされた時は驚いたよ」

 「うわわわっ......それで朝まで......」


 この時、カイルは忘れていた。シルフィアにプライベートの事は話すなと言われていたことを......


 「ま、俺の話は良いんだよ。それより、アンナ。そろそろ、お前の用件を教えろよ」

 「むぅ......」


 再びさらっと話題を変えたカイルは、ずっと気になっていたアンジェリーナの来校目的を問いただす。

 すると、アンジェリーナは柄にもなく言いずらそうに、喉を鳴らしてから、


 「悪いが、今回の私の目的はカイルではないんだ。レンジ殿に話がある。レンジ殿はどこにいるのだ?」

 「......は......? レンジ? ......お前も......レンジに......したの?」


 アンジェリーナの目的がレンジとの密談にあり、それを言いずらそうにしていると言う状況。

 更に、前まで馴れ馴れしかったアンジェリーナが急によそよそしくなって、金髪すら触らせてくれない理由。

 それは、アンジェリーナの好きな人がカイルから、レンジに移ったと言うことだ!


 ......と、カイルは思った。

 

 アンジェリーナを異性として意識したことはほぼ無いカイルだったが、何故か、半身を剥がれた痛みを覚えた。

 ユウナとレンジが両思いだと解ったときと同じくらいの痛み......


 「レンジは......強くてカッコイイもんね。......まあ。わからなくもないかな、悪くないと思うよ?」

 「ん? ......まあな、カイルより、強くて容姿も整っているのは確かだな......だが、私は......」

 「レンジは!」


 それ以上、聞きたく無くなったカイルはアンジェリーナの言葉を遮ると、


 「レンジは......昨日あったとき、朝飯の後でここに来るって言ってたよ」

 「む、そうか、ならそろそろか?」

 「多分ね......」


 ズキンと痛む胸の痛みをカイルは必死に否定しようとしていると、ちょうど良くレンジが来訪する。

 扉を三回ノックしてから、「カイル。入るぞ?」と言って入ったレンジは、すぐにアンジェリーナの存在に気がついた。


 「ん? カイル。久しぶりに戻ってきたと思ったら今度は女王を連れ込んでるのか?」

 「違う! 勝手に入ってきただけだ!」

 

 咄嗟に否定したカイルを、流れるように無視して、テーブルに着くレンジ。

 そのまま、部屋を見渡して、ベッドで気持ち良さそうに枕に抱き着きながら眠るユウナを、優しくみてから、


 「みたいだな」

 「今、何を規準に判断した!? 何を!」


 カイルとレンジの会話を面白そうに聞いていたアンジェリーナが、「揃ったか......」と呟くと、テーブルの上を、


 バシン。


 と叩いて注目を集める。


 「レンジ殿。話があるのだ」

 「俺に......ですか? 何でしょうか?」


 レンジは、カイルやユウナと違い、立場を弁えて敬語で対応する。

 そんな、レンジに、


 「非公式だ。無礼講で構わない。それよりも、これを見てくれ」


 アンジェリーナは、トントンと人差し指で最初にテーブルにたたき付けていた、羊皮紙を叩く。

 それを、レンジが読んでいる間に、アンジェリーナは蒼白で様子を見守るカイルに説明してあげた。


 「何を焦っている。カイルよ。これはただの勇者ギルドの依頼書だぞ」

 「焦ってなんか無いけど......依頼書?」


 カイルが落ち着いてよく見ると確かにレンジの見ている羊皮紙は良くある依頼書の一つだった。

 

 「私は、まだ、この学校の生徒だからな、この依頼も受けられると言うことだ。だが、その依頼は六人制、私一人では受理されん。そこでだ、レンジ殿。その依頼......」

 「俺達も行く! いや! 行かせてくれ」

 「ふむ。良かろう」


 達!? とカイルがレンジの言葉に疑念を抱いていると、ニヤリと笑ったアンジェリーナがカイルにも羊皮紙を見せた。


 「最近出現した推定危険度Aランクの未攻略、魔迷宮ダンジョンの攻略......って! ただのダンジョン探索じゃん!」

 「カイル! 俺達も行くぞ! 絶対だ!」


 ダンジョン探索の依頼と聞いて何時に無くウズウズしているレンジをみてカイルはアンジェリーナの狙いが解ってしまった。


 レンジが冒険者に憧れていることは周知の事実。

 そのレンジにダンジョン探索の依頼を見せることで、強制的にカイルも連れていこうという算段だった......


 そんな事実に気がついたカイルがあからさまに嫌そうな顔をすると、アンジェリーナが最初から想定していた様にぺらぺら喋りはじめる。


 「Aランクダンジョンは、冒険者ランクA以上が適性とされるが、私は、最高位のエンチャンターで、レンジ殿は《剣帝》、更にユウナ殿は《剣王》、カイルもそれなりに修羅場を潜った戦士だ、戦力としては申し分が無いはずだ」

 「......いや、まだ、ユウナが行くって言ってないし......アイツは面倒くさがるよ」

 

 カイルが気分屋のユウナの名を出してやんわり断ると、いつの間にかに起きていたユウナがカイルの肩をグギリと凄まじい力で締め付けた。


 「私も、カイルも行くわよ!」

 「何で、こんな時ばっかりノリノリなんだよ!」


 頭を抱えたくなりながらカイルが聞くと、ユウナはレンジをチラリとみてから、カイルの頭をガシガシと叩く。


 「だって、レンジがあんなに行きたがって居るのよ! 行かない無いなんてかわいそうじゃない!」 

 「ぅっ......それは、そうだけど......さ。なんか、アンナが持ってきた依頼と思うと嫌な予感が......」


 カイル達、三人がああだこうだと揉めている間、アンジェリーナは気楽な顔でマリンの入れたコブ茶を啜っていた。


 「なあ。レンジ。ダンジョン探索は危険なんだよ? 今はそんな場所に入りたく無いんだけど......」

 

 カイルの力は命を削る。

 ダンジョン探索でもし、力を使うことになれば、カイルはミリナと約束もシルフィアとの約束も果たせなくなってしまう。

 だから、カイルは決戦のその時まで、わざわざ危険を侵したくは無かった。


 そんな、カイルをレンジがじっと見つめてから、


 「カイル。お前は俺と冒険者にはならないんだろ?」

 「っ!」


 いきなり核心を付いた。

 カイルの驚きと申し訳なさそうな顔に首を横に振って


 「それは良いんだ。カイルはカイルの道を見つけたんだから......」

 「......うん」

 「だけど、俺は、三人で......ダンジョンに潜るのが夢なんだ......一度で良い。俺とユウナとカイルで命をかけて冒険を、未知を見に行きたいんだ」

 「......だけど、レンジ。俺は......力を」

 「お前が隣にいてくれるだけで良いんだ......カイルの出来うる全力で良いから......頼む」

 「......」


 レンジが頭を下げて頼み、カイルが無言になると、カイルの背中をユウナが強く叩いた。

 

 「私には、二人がなに言っているのかわから無いけど。カイルは私が守るから安心していいわ。レンジに頭を下げさせて引くような男じゃ無いわよね?」

 「............ああ。解った」


 カイルが頷いたのをみてから、腕でを組んでいたアンジェリーナがニヤニヤと笑った。


 「それで? カイルよ。さっき、私に嫉妬していたな? 私と結婚したいのか? 何時でもしてやるぞ! ハハハハハハハハっ!」

 「したくないし......嫉妬はしてないけど、何で金髪を触らせてくれないんだよ! お前! 俺のこと好きなんだろ! 好きな奴に髪ぐらい触らせろよ!」

 「ゲスいな!」


 アンジェリーナが何時ものように短く突っ込んでから、少し伸びてきてミニロングになった金髪を自分で触りながらカイルに言う。


 「今までは少しカイルに甘すぎたからな。シルフィア殿に先を越され、妹には遠く及ばず、......(ユウナ殿も目付きが変わってる)......と、来たら、私もそろそろ本気を出さねばなるまいよ」

 「本気? それが髪を触らしてくれない理由なの? 逆じゃない?」


 ニヤリとアンジェリーナは笑う。


 「男は手に入れられない物を欲するのだろう? 私の金髪。そう簡単に手に入れられると思うなよ! 二度とカイルには触らせん! 私もそろそろ結婚しないといけないしな、もしかしたら、カイルじゃ無い奴と結婚するかもな」

 「なんだ......と!?」

 「その男にこの髪を沢山触らせてやるか、カイルには勿体ないからな。垢を沢山つけてもらおう」

 「......辞めろ! 金髪を! 金髪を!! 金髪がぁああああとられるぅうううううう」

 

 カイルの絶叫を引き出したアンジェリーナは満足げに頷くと、カイルの肩を叩いた。


 「つまり、私の金髪を物にしたければ、私と結婚する事を誓え! そうしたらいくらでも触らせてやる」

 「ううっ! 金髪ぅうう! でも、シルフィアを裏切るわけには......シルフィアはミリナのことすら許してくれないし......」

 「私は夫を一人しか取らんが、夫が妾を数人持っていても気にはしないぞ? ほれほれ、どうするのだ? ほれほれ?」

 「うわぁあああああああああああああああ......っ!」


 ニヤニヤしながら甘く耳元でアンジェリーナが囁き、カイルが血の涙を流しながら絶叫する。

 そして、ポキリとカイルの心が折れかけたとき、


 グキリ。


 アンジェリーナの首が百八十度回転した。


 「ぐっは......っ!」

 「カイルを! たぶらかすんじゃ無いわよ! 斬り殺すわよ」


 カイルの姿が何故かユウナの姿になっていることにアンジェリーナは驚きながら視界がぼやけていく......


 「って! 斬り殺す前にアンナが死んじゃうよ!! マリン! 回復! 回復魔法を!」

 「あわわわっ! 首がぁ! 首がぁあ。アンナさぁあん!」


 倒れたアンジェリーナが床に頭を打つ直前でカイルが受け止め、マリンが慌てて回復魔法を詠唱した事で一命を取り留めた。


 それで、元気になったアンジェリーナは、なにも無かったように腕を組んで偉そうにすると、話をダンジョンの話に戻すことにする。


 「まあ、カイルと私の事は後でで良いか、ユウナ殿に嫉妬で殺されてはかなわないからな」

 「し、嫉妬なんて......私はただ! カイルに......カイルがす、す、す......ごにょごにょ......」


 アンジェリーナはニヤニヤしながら意趣返しにユウナを弄ってから、ユウナ乙女な反応を楽しみ、本題に入る。


 「とにかく、このダンジョンの人数制限は六人。私とカイル、ユウナ殿とレンジ殿を入れても四人しかいない。後二人なんだが......マリン殿はどうする?」


 アンジェリーナは、元々ダンジョン好きなレンジや、連れていくと決めていたカイル、また、カイルが行くなら絶対ついて来ると思っていたユウナとは違い、マリンに対しては強くは誘わなかった。


 なぜなら、ダンジョンと言うだけでも命を落とす可能性があり、尚且つ、今回はまだ誰も最深部まで到達していない未攻略ダンジョン。

 推定危険度Aランク以上......推定と以上というあやふやな言葉が記す様に、このダンジョンがどれ程危険かは行って見ないとわからない。


 カイルが渋るほど危険な場所に、アンジェリーナはマリンを無理矢理連れていく気は無かった。

 

 (来てくれれば心強いがな。マリン殿まで巻き込んだら、カイルが怒りだしかねん。......カイルは、マリン殿には危険な事をさせたくないように見えるしな......さて)


 アンジェリーナがマリンの事をじっと観察していると、マリンは、


 「私も......足手まといにならないなら、行ってみたいです」

 「そうか、なら! 構わないな?」


 強要されたわけでもないのに行く意思を見せたマリンを、連れていくことをアンジェリーナはカイル達に視線で問うと、


 レンジとユウナはすぐに首を縦に振り.....カイルは......少し渋ってから、


 「......マリンが良いなら良いけど、ダンジョンは普通に死人が出るからな」

 「解っています!」

 「......なら、良いんだ」


 了承した。

 

 マリンの参入により、メンバーが五人になったことで、アンジェリーナ達は最後の一人をどうするか相談を始める。


 「ジーニアスを連れていこうよ。今は、オーラン学院にシルフィアの護衛として居ると思うよ? アイツなら死んでも良いし」

 「いや、カイルよ。あくまで、勇者ギルドの依頼だ。勇者学校生で無ければ受けられん。ジーニアス殿はダメだ。ライボルト殿はどうだ? 強さも覚悟も問題はないのだが」

 「カイルをイジメた男なんて嫌よ! 殺したくなるわ。それに、前衛が四人になるじゃないバランスが悪いわよ。入れるなら中衛が良いわね」

 「うわわわっ......大変ですぅ、お弁当沢山作らないと......大変ですぅ」


 カイル達の真剣な人選聞いていたレンジがボソッと呟いた。


 「中衛で、それなりに修羅場慣れして、ユウナと揉めない人物か......一人、心当たりがある......癖はあるが良いか?」

 「ユウナと揉めない人物なんて存在するんだ......レンジが言うなら俺はその人で良いよ」

 

 カイルが感動しながら、レンジに賛成し、アンジェリーナも顎を触りながら頷いた事で、メンバーが決まり。


 「では、各自、準備を済ませて、今日の昼までにダンジョンのある《風の森》に集合だ」


 アンジェリーナの号令で、カイル達は準備を始めるのだった。



 


 


 

 


 

 

 

 










 







  


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