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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
四章 アクアラの水魔剣士
39/58

二十九 圧勝と共闘と苦戦と敗北

 ユウナが、アンナとシルフィー、そしてカイルを担ぎながら、アクアラ大祭殿の三階への階段を駆け登っていると、マリンが並走しながら提案した。


 「あの、ユウナさん。せめて、私がカイルさんを持ちましょうか?」

 「ダメよ! カイルはダメ! 金髪か、シラガにしなさい!」


 マリンの申し出に、ユウナが足を止めて、渡そうとしたところで、


 「いや、ユウナ。俺は、自分で走るから降ろしてよ。それと、アンナは俺が持つよ」

 

 カイルが目を覚ましてそういったのだった。

 それに、ユウナはカイルをぶん投げながら、叫んでいた。

 

 「っ! 何でカイルが起きるのよぉおおおおおーっ!」

 「何でぇええええええええええーーっ!?」


 ズダゴキゴニュ!


 直後。

 カイルは、人体から聞こえてはいけない音を発てながら、石階段に激突したのだった。

 

 そんな、一悶着があった後で、結局、アンナを担いだカイルと、シルフィーを担いだユウナと、マリンで長い階段を駆け登っていた。


 シルフィーは、ユウナのお願いで、カイルに知られないようにユウナの首の傷を治療し、アンナもカイルの負傷をさりげなく治療していた。


 「ありがとう。アンナ。まあ、何故か殆どユウナにやられたんだけどね」

 

 アンナの治療に気づいたカイルがお礼を言うと、アンナは「これくらい、カイルの為なら当然なのだぁ!」と叫んだ。

 すると、マリンがボソッと呟いて。


 「でも、カイルさんがあんなふうに欲情するのは、珍しいですよね? ああいうのがカイルさんのタイプなんですかぁ?(ニヤニヤ)」

 「「......」」


 マリンの言葉がカイルの心につき刺さり。

 不甲斐無さで口を閉じるしか無かった。

 何故か、アンナもちょっとシュンとしてカイルと一緒に静かになっていた。

 そこを、


 「ありえないわね。カイルは金髪にしか、欲情しないわ」

 「......(それもそれで酷いよ)」

 「でもでもぉ! していたじゃないですかぁ! カイルさんも所詮は猛獣で......っ!! ......。」


 マリンが、途中で口をつぐんだのは、鬼の形相になったユウナのせいではなかった。

 ユウナの背中でユウナを治療していた、シルフィーの、氷点下の冷笑と殺気に似た、悍ましいオーラを感じ取ったからだった。


 そんな事を梅雨知らないユウナは、


 「まあ、カイルが猛獣なら、それでも良いのだけどね」


 と、軽く流してから、言葉を重みを出した。


 「それが、あの恥女の能力だったのよ」

 「猛獣ですか?」

 「アンタは猛獣から離れなさい!」


 ユウナの言葉を聞いて、それもそもですね? とシルフィーが冷たいオーラを引っ込めた為に、またからかいモードに入ろうとするマリンを、冗談の通じないユウナがしたためてから、鋭い視線をアンナに送った。


 「《魅了》よ。それ以外ありえないわ」


 ユウナには、ペプチルドが、どんな手段で《魅了》をカイルにかけたのかは分からなかった、けれど。

 

 確実に回避した筈の一撃がユウナの首をえぐっていたのは、明らかに幻覚系統の特殊能力にかかっている証拠だった。


 「私、精神系の術には掛からないと思ったのだけど? どういう事かしら?」

 「うっムム......むむ......」


 ユウナに睨まれて、アンナは苦い物を噛んだ表情と声を出してから、白状したのだった。


 「《魅了》は......いつか私も、カイルに使うかも知れないからな......。防ぐ訳にはいかんだろ」

 「何が! 精神系はきかん! よ! ガバガバじゃない!」

 「ガバガバじゃないぞ! キツキツだぞ!」

 「何の話よ!」

 「それは、ま......っ!」


 ガツン!


 カイルが、アンナの頭にゲンコツを入れた。


 「とにかく、アンナの魔法で防げないなら、残ったジーニアスは大丈夫なのか?」

 

 カイルのジーニアスを心配する言動に、ユウナの首を治し終えたシルフィーが、優しく微笑みながら、


 「ジーニアスさんは、大丈夫ですよ」


 そういったのだった。


 ■■■


 アクアラ大祭殿二階《願いの間》で、《魔性剣王》、ペプチルドと《魔道王》、ジーニアスの戦いが始まっていた。


 ペプチルドの戦い方は遠距離からの、魔法による攻撃と近距離からの、ナイフによる攻撃の遠近一体の戦術だった。


 しかし、ジーニアスは六つの属性魔法を同時に操って、一切ペプチルドに近付く余地を与えなかった。

 一歩も動かずに攻撃と防御を同時に行ってじわりじわりとペプチルドを追い込んでいく。


 ペプチルドも多種多様な攻撃魔法を、単文詠唱で打ちつつ、ジーニアスの懐に入る隙を伺う。

 ペプチルドの《本命》にジーニアスがかかるのも、時間の問題だった。


 「だけどぉん。早く食べたいわ~ぁん。......行って! わたしの奴隷達~ぁん」


 ペプチルドの命令でペプチルドに侍っていた男達が、ジーニアスを襲い出す。

 ジーニアスが、動きの鈍い男達に魔法の狙いを定めた時、ペプチルドの口は裂けるほど横に広がるのだった。


 なぜなら、男達は、人造人間ホムンクルスで、どんな魔法を受けようと、すぐさま回復し死ぬことは絶対に無い。

 例え、身体の半分以上が損壊したところで、ほんの少しの細胞さえ残っていれば、すぐさま元通りに回復する。


 ローゼル軍を襲ったキメラの元のモデルが、このホムンクルス達だった。

 だから、ホムンクルスは確実にジーニアスを捕まえる事が出来る。

 捕まえさえすれば、ジーニアスはペプチルドの術中に嵌まる......


 《六精よ・集まり合わせ混ざり合え......シックス・プロージョン》


 そんな、妖しい微笑みごとジーニアスは、音もなく全てを無に帰した。


 「......」


 カイルに見せた《シックス・プロージョン》の規模を軽く十倍以上越える一撃だった。

 もちろん、全てのホムンクルスは細胞一つ残らず消滅し、再生することも無かった。


 音すら消滅させた様に、ジーニアスは目を見開くペプチルドに余裕を持って忠告する。


 「普通なら、周りに人がいるし、殺す訳にはいかないから僕は力を制限するんだけど。君は、シルフィアの敵で、今は戦争中。殺しちゃった所で問題ないからね。今回は僕にその制約は無い! 降伏するなら、消滅する前にするんだよ?」

 「ひぃ~ぁん!?」

 

 ジーニアスが手をかざして、《シックス・プロージョン》を発動する。

 同時に大量の消滅のエネルギーが光り輝く。


 それを容赦無く打ち出した。

 必死にかわし時が来るのを待つペプチルドにジーニアスは言う。


 「それと、僕に《魅了》は効かないよ? 君はきっといるだけで、人を虜にする《魔性》の能力者なんだろうけど」

 「っ!」

 「僕は《精神汚染無効》の能力(スキル)を持ってるからね。僕を封じたかったから、前みたいに空間ごと封じないと、いけないかな!」


 《精神汚染無効》その名の通り、ジーニアスにはあらゆる、精神汚染が効かない。

 アンナの《アンチ・マインド》以上の耐性をジーニアスは最初から持ち合わせていた。


 だから、異性に有効な筈のペプチルドの能力(スキル)《魔性の乙女》という。ただ存在するだけで、異性だろうと同性だろうと、《魅了》するという効果をジーニアスだけは受けなかった。


 「僕は、君を直視できる。君の魔性も、君の幻影も、君の剣も、何もかも、僕には効かない!」

 「......」

 「《魔道王》の名は伊達じゃないんだ。僕の敵としてそこに立つ限り、君の命は今、終わる! シルフィアの積念を僕が代わりに今こそ晴らそう!」


 ......圧倒的だった。

 不殺の加瀬を外したジーニアスは、ペプチルドの命を刈り取るべく、最後の言葉を放った。


 「行け! 僕の魔力達!」

 「ははぁ~ぁんっ♪」


 避ける場所が無いほどの大量の《シックス・プロージョン》が空間を埋め尽くす。

 そして、


 「わたし、あなたの肉奴隷になるわ~ぁんっ!」

 「へ?」

 「大丈夫よぉん。本当はわたし、教皇の肉奴隷じゃないのよぉん! ただの部下よぉ~ん。教会の裏で、性奴隷にされていた所を救って貰ったのだけどぉ~ん」

 「......」


 ペプチルドは四つん這いになって、手を地面につけていた。

 素っ頓狂な声を出したジーニアスにペプチルドは言う。


 「わたしの能力が効かない男って素敵だわ~ぁんっ♪ 惚れちゃったわ~ぁん! ジーニアス様~ぁんっ! わたしを好きにして良いわよぉ~んっ!」

 「......」

 

 絶句するジーニアスと、発射段階に入っている《シックス・マジック》


 「ジーニアス様~ぁんが、殺したいなら殺しても良いわ~ぁん! それでわたしは、貴方の心に永遠に住み着けるわ~ぁん! 貴方になら! わたし! めちゃくちゃにされてもいいのよぉーん! むしろ、してほしいわぁ~ん」

 「......」

 「さあ! 早く! わたしをイジメて! いたぶって! 殺して~ぁん!」

 「ぼ、僕に! そんな趣味は無い! 降伏するなら、拘束させてもらうよ」


 ジーニアスは油断せずに、かちゃりと魔法を封じる手枷と足枷をペプチルドに嵌めた。

 ペプチルドも抵抗せずに、ゾクゾク身体を震わせて、


 「これってーぁん! 拘束プレイねぇ~ぁん。ハァ~ぁん。もっともっともっと! わたしをイジメてぇ~ん。ジーニアス様~ぁん。大好きよぉ~ん」

 「............何故、こうなったんだろう」


 拘束されても、尚、侍り着くペプチルドを剥がしながら、ジーニアスは凄く重い声で呟いた。


 「まあ、それじゃあ、僕は......」


 バガァアアン!!


 爆音と共に、爆砕した床から、血まみれのレンジが、下の階から吹き飛んで来て、ジーニアスの近くに着地した。


 「レンジ君の手伝いでもしようかな?」

 「......」


 レンジは、キョロキョロと辺りを見渡してから、拘束されている恥女をみて、


 「助かる」


 血を拭いながら、立ち上がり、ジーニアスの助太刀を素直に受け入れたのだった。

 

 「だが......ちょっと。アイツは強いぞ......死ぬかもしれないぞ」

 「ちょっと......なら、平気さ。僕は凄く強い《魔道王》だからね」

 「......」

 「それに、レンジ君に、カイルやユウナ君を護りたいように、僕だって、シルフィアだけじゃ無く、僕と友達になってくれた。カイルやユウナ君。マリン君を護りたいんだ! そのために僕は命だってかけよう!」

 「そうか......」


 レンジは、小さく微笑んで、下の階から上がってきた、センクションに剣を向けた。


 「なら、共闘といこう。ジーニアス! 俺の命。預けるぞ!」

 

 そういって、神速で防御を無視してレンジはセンクションと闘いはじめた。

 そんな、無謀なレンジの闘いに合わせて、


 「僕の名前をさっきまで知らなかった癖に......ハハっ。流石はカイルの英雄様だ。《行け! 僕の魔力達! 僕の友人を救うんだ!》」


 《シックス・マジック》を放って援護した。

 センクションは瞬時にジーニアスの魔法が概念すら消滅させるモノだと悟り、《シックス・マジック》を回避する。


 そして、狙いをレンジからジーニアスに変える。

 が、その隙をレンジが与えなかった。


 即興で、組み上げたレンジとジーニアスのコンビは、お互いにお互いの命を預ける事で、逆にお互いの命を護りあう形になっていたのだった。


 闘いは、更に激しさを増していく......


 ■■■


 カイル達が長い石階段を上りきると、そこは一階や二階と違って、とてつもなく広い空間では無く、オーラン魔法学院の競技場と同じくらいの面積だった。


 その分、次の階への階段もすぐに見つけることが出来た。

 

 「ここは......」

 「ん? どうしたの? シルフィー」


 ユウナの背中に背負われているシルフィーが一瞬、目を細めて呟いたのでカイルが、心配すると、


 「いえ......何でもありません。それよりも、もし、儀式場とするならば、最上階の第五層《祈りの間》でしょう。ここより上の階は、通常、観光では立ち入ることの許されない場所の為、広さより意味を大事にしていると聞きます。ここからか先はすぐですよ?」

 「シルフィーは本当に、ここが好きなんだね?」

 「はい! ......カイルさんと同じくらいは」

 「そこと比べられても......」


 真顔でそういわれて、カイルが言葉につまり顔を赤くしていると、ユウナが ダン! と岩の床をを踏み砕きながら、


 「なに金髪でも無い人に、発情してるのよ! 下でレンジとジーニアスが戦ってるのよ? ゴールが近いなら、さっさと行って終わるせるわよ」

 「ぐぬぅ......返す言葉も無い......」


 ハッと緩んでいた頭のネジを締め直し、カイルはユウナの後に続いた。

 そんな、カイルの背中の上で、ニヤリと笑ったアンナが、ユウナに聞こえる声でカイルにいう。


 「ハハハーっ! 気にするなカイルよ。ユウナ殿はただシルフィー殿と仲のよいカイルにジェラシーを燃やしているだけなのだ! ハハハハハーっ!」

 「いやいやいや、ユウナに限ってそれは無いだろ。それを言うならお前こそ、俺とシルフィーの一子相伝具合に焼いてるんじゃないか?」

 

 人をからかった罰のつもりで、カイルもニヤニヤしながらカウンターパンチを打つと、スッとアンナの表情に色が消え、弱い力で肩の服をキュゥッと握りしめ、シンと空気に溶ける声で悲しそうに切なそうに言ったのだった。


 「ああ......とても焼いている」


 ......。


 「......悪い」


 あまりのアンナの真剣さに、反射的にカイルが謝罪すると、アンナは数瞬、遠くを見てから、すぐにニヤニヤ笑いはじめる。


 「気にするな、気長に待っているからな。それに、私はカイルが何人、妾 を持ちたいと言っても受け入れれてやるだけの経済力もあるんだぞ?」

 「謝ったからって、ここぞとばかりに、アピールして来るな! 素直にうぜーよ」

 「そうか? 世界中から、極上のブロンドの乙女を集めて、全てカイルの下僕にして毎日、時と場所関係なくすき放題、触りまくっても良いのだぞ?」

 「......なん......だと!?」


 テンプレート故に、誰にでもわかる驚愕を現したカイルに、近くを歩いていたマリンは、


 「あわわわっ、カイルさんにとっては、天国王国パラダイス・キングダムですぅ~」


 羨ましい様な、妬ましいような、気持ちで煽っていると、


 ゾクリ


 マリンの背筋に緊張が走った。


 「か、カイルさん!」

 

 数々の実践と戦場で身につけた、マリンの敵意を感じとる第六感シックスセンスが、ビシビシと反応し危険を知らせていた。

 そんな、マリンがカイルに視線を向けると、既にカイルからはふざけた表情は消えていて、ユウナはシルフィーを降ろしてカイルを庇うように、とてつもなく鋭利な視線で、四階への階段を睨んでいた。


 そんな、カイルとユウナの最大の警戒外から、朱く何かが光り輝いて、超速でマリンの額に何かが飛来した。


 「ひゃっぁ!?」


 マリンが小さく悲鳴をあげて尻餅を着いたのは、ユウナが飛来したものをマリンの鼻先数セルチで掴んでいたからだった。


 「炎の鏃......狙撃手ね。面倒だわ」


 ユウナが掴んだのは、茫々と激しく燃え上がる弓の矢だった。

 炎の矢は、掴んだユウナの手を焼いているのだが、ユウナは顔色を変えずに握ったまましっかりと観察してから、ポイッと投げ捨てた。


 「ふん! 特殊効果は無いようね。速さは脅威だけど、それだけだわ」


 そういいながら、ユウナは再び飛来した三本の矢を剣で軽々切り落とした。

 マリンには、矢の軌道を見切ることも出来ないのだが、ユウナは次々と炎の矢を切り落とす。


 姿の見えない狙撃手はそれを見て感嘆の息を漏らしてから、弓を引く手に魔力を、弓矢に剣気を宿す。


 《炎弓伎・百連百射っす》


 スパンと放たれた矢の射撃が、燃え上がり、横に百の矢に分裂すると、更にその百の矢が縦に百の矢に分裂した。

 

 「百の百乗で一万っす! (注意。全然違います。十の十乗で既に百億です)」


 それらが、剣士として一人前と言われる上級程度の実力を持つマリンの目で追えない速さでカイル達に次々と向かっていった。


 魔力と剣気と朱い光りの量に尋常じゃない量の炎の矢が降り注ぐのを予感したカイルが、鉄刀丸に手をかけると、シルフィーが冷たい手でそっと触り止めた。


 「それは......いや......です。カイルさん......」

 「っでも!」


 自分の事ではないのに、シルフィーの声と表情はまるで、身体の一部を失うかのような悲痛なモノを秘めていた。

 その間をマリンが無言で見つめていると、


 「大丈夫よ。カイル。私に任せなさい」


 ユウナが剣を両手で握って絶対の自信を込めてそういった。

 それに、カイルは鉄刀丸を抜こうとするのを辞めると、シルフィーに肩を竦めてから、


 「任せるよ」

 「当然よ! 今日の闘いにカイルの活躍は無いわよ! 私が全て貰うから!」


 ユウナは一歩足を踏み出して、既に放たれた大量の弓矢に向かって、剣気を込めた大振りの一振りを放った。


 「剣神流剣技、一の太刀《断絶》! 他の所じゃ《次元斬り》とも言うわね」


 振り抜いた剣は、ユウナの前の空間を切り裂いて一時的に別次元を切り開く。

 カイルから見て、開かれた空間から見えるのは、真っ暗な闇だけ。


 そこに、炎の矢が全て吸い込まれていく、


 それを見てユウナは鼻を鳴らして詰まらなそうに、


 「ふん! こんなんじゃ、隠れている意味がまるで無いじゃない! 狙撃手なら狙撃技を使いなさいよ!」

 『あっ! そうだったっス!』

 「......そこね!」

 「何でバレたっスかぁああああああああああ!?」

 「アンタが馬鹿だからよ!! 声を出したら分かるに決まってるじゃない! とにかく死になさい!!」

 「ぐぎぁああああっ!」


 何とも......呆気ない幕切れだった。

 

 汚い血が着いたじゃない! と、言いながらユウナが屍を脚でぐりぐり痛め付けているので、カイルが止めようと近付こうとした時。


 「っ!」


 ピリッと殺気を感じとって、視界の端でシルフィーを狙う炎の矢を捉えた。

 カイルはシルフィーをすぐさま抱き寄せて、身体を捩込んだ。


 グサリとカイルの身体に炎の矢が突き刺さり、肉をえぐり炎で焼かれる。

 ユウナはただの炎と言ったが、されど炎で、突き刺さった場所を焼かれる行為は拷問並の苦行だった。


 「ぐぅっ!」

 「そんなっ! カイルさん!」


 シルフィーが辛い声で悲鳴をあげて、水魔法で矢の炎を消してすぐに、回復魔法を発動する。

 そこに、場所も状況も関係なかった。


 シルフィーの目の前で、カイルが傷ついた。だから癒す。

 それだけだった。


 そのせいで、無防備なシルフィーが炎の矢に狙われようとも、例え貫かれ様とも、カイルの治療を優先するつもりだった。


 ユウナはカイルが撃たれた事に驚いて、足元を見ると、屍が燃えてなにも無かった様に消えうせた。

 そして、消し炭で、


 「馬鹿はお前ッス! ダミーに騙された馬鹿ッス! ぼくがそんな馬鹿な事すると思ったッスか? バァーカ!!」


 と書かれていた。

 

 「......カイル」


 ユウナは、血を流すカイルを見て、消えてしまいそうな小さな声を出していた。

 普段なら、激昂すること必須な状況なのだが、今回はユウナの油断でカイルが傷を負った。

 しかも二度目。


 強気なユウナの剣気がみるみる萎んでいく......


 そんなユウナに炎の矢が防げるはずも無かった。


 グサリ!


 「っ!」


 狙撃手の矢が刺さった。

 しかし、それはユウナには刺さっていなかった。

 ユウナの前で腕を出し、庇ったマリンの腕に矢は突き刺さっていた。


 「アンタ......何で。怖がりで痛がりで泣き虫のくせに、なにしてんのよ......」

 「......私は」


 マリンは、燃える炎の矢を素手で抜いて投げ捨てながら、ユウナの見たことの無い凛々しい風格で、剣を抜いた。

 ただし、ユウナはそういう人間を良く知っていた。


 「私は......。ただ、怖かったから」

 「何が......よ」

 「私の憧れるカイルさんやユウナさんが、傷付く事が、私は、私が傷付く事よりも怖いから! 私は、今! 闘います!」


 剣に魔力を集中させるように気を高める剣士の《剣気》と、身体の一部に魔力を集める魔道士の《魔力》をマリンは同時に高めた。


 そして、剣気で《身体強化》をし、


 「《水の精霊よ・水流の壁で・我等を護り給え》......我流、水魔剣技《水球陣》ですっ!」


 マリンから、数メトル離れたカイルまでを水の球体で包み込み、四方八方から射出される炎の矢を全て防いで見せた。

 しかも、水球は持続している。


 「ユウナさん! カイルさん達をを連れて、四階へ行ってください」

 「っ......駄目よ。アイツの能力も分かってないのよ?」

 「だからこそです! これ以上、時間をかけるわけには行きませんっ!」

 「だとしても!」


 ユウナは、マリンの言っている意味は解っていた。

 下から感じる闘いの壮絶さが、何より、上から感じる収束しつつある莫大な魔力の塊が、マリンの言葉に重みを出している。


 あらゆる意味で時間が無い。


 それでも、どこか、カイルに似ているマリンを、置いて行きたくは無かった。

 油断さえしなければ、例えどんな能力を持っていても、ユウナの方が炎の射手より強いのは確実。

 今すぐ、倒せばそれで良い。


 萎えていた、ユウナの剣気が再び増長し始める。

 が、そんなユウナの肩をカイルが触って、


 「ユウナ。マリンは強いよ」

 「っ!」


 それで、ユウナの剣気は溶けた。

 カイルは、ユウナを立ち上がらせて、アンナに視線で合図し階段に向かわせる。


 マリンの《水球陣》は四階への階段までも包み込む大きさだった為に、相手の攻撃は通ることは無い。

 カイルは、魔道学院の断罪者戦で見たマリンの表情に戻っていることを確認して、背中を向けてから、マリンに一言声をかけた。


 「マリン。ユウナを護ってくれてありがとう。ここは、任せる」

 

 それに、マリンは振り返らずに、質問する。


 「私は、カイルさんの様な英雄に、勇者に! なれますか?」

 「......マリンならなれるよ。俺なんかじゃなれないし、成し遂げられないことをする。物語の英雄の様な凄い英雄に」


 カイルが階段を登って一人になったマリンは《水球陣》の大きさを調整し小さくしながら、ここにいないカイルに、告げる。


 「何時も、一歩を踏み出す勇気は、カイルさんがくれるんです。 カイルさんは、立派な私の英雄です。その英雄が私を信じてくれるなら! 私は私を信じれます」


 さあ。闘おう。

 マリンはそう強く心に刻んだ。


 《炎弓技・消える一射》


 ......ところで、放たれた矢が水球の前で消滅し、水球の内側で出現した。



 グサリとマリンの脇腹に突き刺さった矢は、

 水球陣を破れないなら、破らない。直接撃ち込むと、そう言いたいような攻撃だった。


 《消える一射》ーー《消える一射》ーー《消える一射》


 グサッグサッグサッ


 次々とマリンの身体に矢が刺さり血がこぼれ落ちていく。

 

 「痛っーー!! カイルさぁん!! コレやっぱり無理ですぅ~!! 助けてくださぁいよう!」


 そんな泣き叫ぶマリンに気配を消して射ぬき続ける、狙撃手が誰にも聞こえない声で呟いた。


 『ぼくは王級魔道士のトルーー」


 ■■■


 「所で、さっきの狙撃手何て名前だったんだろうね?」

 「しらんが、きっと変態だ!」

 「ふふ......ですね......!」

 「というか、《制裁者》って後何人いんのかな? 十人とかいたら、怠いんだけど......」

 「しらんが、きっと次の階も居るだろうな」

 「......ですね......?」

 「「「......」」」


 四階への階段を登りながら、マリンの悲痛な叫びを知らないカイル達は陽気にそんなこと話していた。

 しかし、そんなカイル達から少し遅れた場所を顔面蒼白でその上、ヨロヨロしながら、ユウナは静かに独り後悔の念を膨らませていた。


 (私は......何も出来てない......むしろ、カイルを護ると言いながら、傷つけて、邪魔して、挙げ句の果てには! あのマリンにさえ、覚悟で負けていた......)


 ユウナは三ヶ月の死の特訓により、強くなった自負があった。

 もう、レンジにも負けないつもりでいた。

 しかし、


 (私がこの中で一番弱い! カイルは皆を護ろうとしている。レンジは勝てないと分かって戦った。ジーニアスはレンジの意思を継ぐために戦った。マリンは恐怖を乗り越えて戦った。アンジェリーナは、最初から全員を支えていた、シルフィアも出来ることをし続けていた。じゃあ......私は? 私は......何も無い)

 

 ぎりりっ......


 悔しくて、情けなくて、ユウナは涙を流していた。

 歯並びの良い歯が歪むほど、強く強く奥歯を噛んで足だけは動かした。

 せめて、これ以上、足を引っ張ることをしないように、きっとここに誰もいなかったら、ユウナはうずくまって動けなくなっていただろう。


 「ユウナ? 疲れたの? 元気ないけど」

 「カイル......わたしっ......」

 「......!」


 カイルが口数の減ったユウナの変化を敏感に感じ取れるのは、幼じみの特権だった。

 そして、落ち込んだ時。ユウナに頼って貰えるのも、また幼じみの特権だった......

 

 「ユウナが何を考えて居るかはわからないけど、さ。......そうだなぁ、レンジは勿論。マリンも、ジーニアスも、皆、ユウナが居るから、戦ってるんだよ?」

 「......」

 「嘘じゃないよ? 皆、ユウナの強さを認めてる。ユウナを上に送れば、この闘いを終わらせてくれるって信じてくれてるんだ。そうじゃなきゃ、シルフィー大好きのジーニアスも、闘い大嫌いなマリンも先に行け何て言わないよ」


 階段を登りながら、ユウナの背中をカイルは優しくさすってあげた。カイルにはユウナが強く打ちのめされている事は分かっても、何に打ちのめされているのかは、予測するしかない。


 例え的外れな事を言っていたとしても、こうして背中をさすって貰えれば、それだけ勇気が湧くことをカイルは、誰でもないユウナから教わっていたから、


 「......それを、言うなら、皆はカイルが居たら......戦ってるのよ。私じゃないわ」 

 「......ひねくれ者」


 そんなカイルの優しさに、ユウナは少し力を貰い、ほんの少しカイルに寄り掛かった。

 カイルは、ユウナを支えながら、次の階が見えてきたのに気がついた。


 「でも、俺にも、確かに託してくれたんだと思うよ。そして、それは、シルフィーにも、アンナにも、ユウナにも......」

 「なによ?」

 「......」


 カイルが急に背中を摩るのを辞めて、ユウナをジト目で見てから、


 「辞めた」

 「......」

 「もう辞めた。ユウナを励まそうとするの辞めるわ」

 「何でよ!」

 

 四階にたどり着き、そこに待ち構えて居る男にカイルは視線を鋭く向けながら、ユウナを背に庇って言うのだった。


 「時間切れだし、ユウナに優しくするの、正直。むずがゆい」

 「......イケずね」


 まだまだ落ち込んでいるユウナにため息を着いてから、


 「ユウナ。俺はさ。ユウナが一緒にいると、心強いよ。それじゃあ駄目かな?」

 「っ!」

 「他の奴なんて、どうでも良いや、ユウナ流で言うならば、ここにユウナがいる、それだけで、俺の戦う理由になる」


 カイルは既に返事を求めていなかった。

 言いたいようにしたいように、カイルはする。


 「少し休みなよ。多分、ずっと闘いつづけて疲れたんだよ。だから、そろそろ俺が闘うよ」

 

 もう、戦闘要員はカイルとユウナしか残っていなかった。

 そのうち、ユウナは意気消沈で戦えるコンディションではなくなっている。

 だから、


 「ユウナは俺を護るって言うけどさ、俺だってたまにはこう言いたい。俺がユウナを護るんだ! ってね」


 カイルはそういった。

 カイルにそういわられても、ユウナの心は戦えと、カイルを守れと叫びをあげたが、身体は動かなかった。

 ただ、カイルの背中を見守るしか、今のユウナには出来なかった。


 闘う意味は何時も単純明快だったユウナの信念が、根幹が確実に揺らいでいる証拠でもあった。

 奮える歯を足を身体を、ユウナはただ、自分の腕で抱くことしか......

 孤独で、寒い。そう強く感じていた。

 

■■■


 アクアラ大祭殿第四層《友情の間》


 そこは、誰もが知っている伝説の騎士物語《望叶剣伝説》の登場人物で、誰よりも友情に生きた《友情の騎士》が、友と呼んだ三人の騎士《守護》《親愛》《努力》の三騎士を祭った場所である。


 三階よりも一回り狭いその場所の、中心に薄気味悪い男が立っている。

 既に、それだけで、カイルには敵と認識されているのだが、それも間違いでは無かった。


 カイルは、錬成した剣を向けて言い放つ。


 「もしも、お前が、ただの一般教徒で場違いで、たまたま、そこに居るって言うならば、今すぐそこをどいて、失せろ」

 

 そんな、カイルの最終警告に男は喉に何かを詰まらせているようにケタケタと笑い、

 黒く、まがまがしい杖を地面にたたき付けて、予め準備していた魔方陣を起動させながら答えた。

 

 「おー優しい、あーなたは、博愛主義しゃ~ですかー? そーれでぇ、よぉ~くここまでぇ、こーれぇましたねぇ~」

 

 魔方陣が輝きを増していく。

 

 「でーすが! わーたしは、せーい栽しゃぁ~のぉ~一人、マシンヒロでぇーす」

 「なら!」


 制裁者と自分から、男、マシンヒロが名乗りをあげた事で、カイルは迷い無く放たれた弓の矢のように、怒り狂ったユウナの様に、マシンヒロに突撃した。


 三ヶ月の修業により、高まったカイルの剣気が身体を包み、無意識のうちに《身体強化》を成し遂げる。

 それにより、普通なら不可能な速度の領域にカイルは至った。


 「先手必勝! コレに限る!」


 一息で、マシンヒロの首を、剣のまわいに入れて、左腰下から、マシンヒロの首を切り裂く軌道で、右斜め上空へ、練成剣を切り上げた。

 魔方陣を起動させていた、マシンヒロは剣士ではなく、純粋な魔道士故に反応は出来なかった。

 

 ガインッ!


 「くっ!?」


 しかし、マシンヒロは最初からここで、進入者全員を迎えうつ用意をしていた。

 それには、勿論、対剣士用にマシンヒロを護る結界も予め張っているという事だった。


 カイルの剣はマシンヒロの結界に弾かれ奇襲は失敗してしまう。

 そこで、マシンヒロの発動していた魔道陣が完全起動し、一層輝きを強めた。


 「カイル! 一度戻れ!」

 「っち!」


 流石に起動した魔道陣の中に居るわけには行かないので、アンナの声に従い跳び下がる。

 その間に、アンナはカイルの背中に手を当てて、《テン・オーラ》で強化しながら、更に一定時間、傷を自動回復する魔法リ・ヒールをかける。

 

 「まずいな。カイル、私の残存魔力も残り少ないぞ、早く倒すんだ」

 「って、言いながら、お前はまた何か凄いことしただろう」 

 

 アンナは、何時でも偉そうにする割に、とんでもなく凄いことをしたとしていても、あまり誇る事はしないので、かなり解りにくいが、今のアンナは


 『上級保護魔法アンチ・マインドを七人分』

 『帝級強化魔法テン・オーラを四人分』

 『超級相当の特殊改変回復魔法リ・ヒールを一人分』


 計三種、十二人分の魔法を同時に付与し続けていた。


 通常、一人の魔道士が同時に使える魔法は一つのみ、ジーニアスの様な選ばれた天才呑みが普段の努力の鍛練で魔法の同時使用を成し遂げる。

 その、ジーニアスでさえ、六つの属性を同時に使う《六属詠唱》で精一杯の中で、アンナはそれを軽々越えていた。


 勿論、ジーニアスの一度の詠唱で六つの属性を発動する《六属詠唱》と、アンナの魔法の多重使用では、用途も意味も全く違い比べる事は出来ないのだが、それでも


 普通なら無詠唱で行う事に驚いて、

 普通なら使用する事すら難しい魔法を顔色を変えずに使用して、

 普通なら一つしか使えない魔法を同時に使って、


 どれだけ、普通をぶち壊して居る存在かは言うまでもない。

 しかも、それを誇ろうともしない。

 それをカイルはとても尊敬しているのだった。

 アンナとなら、本当に何でも出来る気がする。そう思える程に......


 「ふん! 私は美少女! だからな。こんなことは美少女の嗜みだ」

 「......本当。何か残念だよな」


 ......それをカイルはとても、ドン引きしていた。

 アンナとは絶対に長時間一緒に居たくないと思うほどに......

 

 「金髪以外の良いところが無駄過ぎる性格にすべて奪われてるんだよなぁ......」

 「ハハハーっ! 金髪が残ってるなら良いじゃないか」


 それを言っていいのは、俺だけだよ!?

 と突っ込みたくなるのを我慢して、カイルは起動した魔方陣から出てきた、見た目醜悪で、超巨大なキメラに視線を向けた。

 マシンヒロの口寄せ魔法で呼んだミリス聖教が生み出した最強最悪のキメラだった。


 「因みにさ、アンナ。俺の中の美少女の定義は、何でも出来るサバサバした姐御みたいな人じゃなくて、何も出来無くても、か弱くても良いから、腕の中に収まってニコニコ笑顔絶やさずに、そっと支えながら隣に居てくれる可愛い女の子だからね」

 「変態だな!」


 アンナは、少し頭を抱えてしまう。

 昔から、ローゼル王都の変態貴族の中で蔓延している、幼女しか愛せない病気、《ロリコン》に、好きな異性がかかっているかもと思うと頭を抱えるしかなかった。

 腕の中に収まるって発言が多いに怪しいとアンナは強く警戒していたけど......

 


 「だが、安心しろ! カイルの趣味がどれだけマイノリティーな性癖でも、私が全て叶えてやるからなハッハハハハハハハハァアアーーっ!」

 「なんか......壮絶に勘違いしていない? ミリナも勘違い癖あるけれど、ローゼルって......」


 カイルが頬を引き攣釣らせていると、


 「グギァアアアアアアアアアアアアアアアーーっ!」


 キメラが雄叫びを張り上げた。

 

 「まあ、ローゼルの下品さや勘違い僻も、ミリスの使いまわしの二番煎じ感よりはマシか。いくら大きくなったからって、それはもう、知ってんだよ!」



 四階層を埋め尽くす程大きく醜悪な、キメラを前にカイルは懐に手を入れ、バァリロリロから貰った最後の小瓶を取出して真上に投げた。


 (キメラの超再生能力は厄介だけど、弱点は割れてるんだよ)


 それは、ユウナとジーニアスが既に見出だした。


 「《鉄の精霊よ・炎の精霊よ・集まり・合わさり・混ざり合え!! ーー》」


 カイルは、三ヶ月の間。

 ずっと、あの天才ジーニアスに稽古を付けて貰っていた。

 その中で、ジーニアスからその得意技、《属性合成》の技術を余すことなく教授され(無理矢理)、更に《魔道神》バァリロリロによって、それを使いこなす術をさりげなく教えられていた。


 キメラの弱点は炎、そして、跡形もなく消滅させること。

 その二つ、マシンヒロが呼び出した巨大キメラが、例え通常のキメラよりどれだけ回復力に優れていたとしても、鉄と炎の合成魔法ならば!


 《ーー滅亡と破壊の・星となりて! ・ 有象無象を殲滅し給え!!》


 莫大な魔力を練り上げて、落ちてきた小瓶を殴りつける。


 「いけよ! 俺の魔力!! 《メタル・ボルカニック・メテオ》!!」

 「ムッ!? いかん! 《ウォール》」


 小瓶が割れて、中の液体が蒸発すると、灼熱の鉄隕石が出現する。

 その灼熱の隕石が、カイルが殴り飛ばした方向に居る巨大キメラに猛スピードで飛来した。


 ドガァアアアン!!


 とてつもない、爆風と炎熱と鈍い音が密封された《友情の間》を支配して、焼き尽くす。


 爆炎が晴れた時には、キメラの身体は半壊し半焼していた。


 「ちっ! 俺の魔力を半分以上注ぎ込んだ、デメリット無しの最大威力の攻撃で、半焼半壊かよ。普通に戦ったら相当やばったかもな」


 焼け落ちたキメラを見ながらカイルが舌打ち混じりに感想を述べると、アンナがカイルの首を締め付けた。


 「コラ! こんな場所で、広範囲魔法を使うな! 自滅する気か!」

 「ぐぅ!? ぐるしぃ......」

 「全く、相変わらず、後先考えない奴だな。ローゼル王家では、男児三日会わざるや刮目して見よ! というが、カイルは目玉をほじくり返して見ても成長していないな!」


 アンナが腕の力を弱めて言葉とは裏腹に、優しい微笑で抱きしめると、カイルはアンナの金髪に指をかけながら言う。


 「何となく、アンナなら、何とかしてくれるって思ったからね。実際してくれたし」

 「むぅ......そういうことを......いきなりいうなぁっ!」

 

 顔を真っ赤に染め上げるアンナにカイルは更に、無意識で追撃する。

 

 「アンナと俺で組めば、最強だろ? お前が俺を護ってくれるから、俺はお前の敵を......俺とお前の敵を、打ち倒せるんだ。自分が戦闘能力無いからってあんまり思い詰めるなよ?」

 「っ!」

 

 アンナが力を誇らない本当の理由は、アンナが聖人だからではない。

 アンナはただ、心の底から、補助魔法しか使えない自分自身を、凄いと思っていないだけだった。

 闘う力が、妹の為に剣を持つ力が、アンナはずっと欲しかった。


 「お前の力で、必ず俺が、ミリナを救う。俺とお前で、必ずな。だから焦るなよ」

 「......カイル!」

 「ん?」

 「やっぱり好きだ! 結婚するか!」

 「......駄目だコイツ」


 カイルは頭がピンクな女王を首からたたき落としながら、終わらせる為にマシンヒロに剣を向ける。

 そんなカイルとアンナの背中を、遠い目でユウナが見つめていた。


 「あそこに......ユウナさんの求めた形があるんですか......?」

 「なによ? 笑いたいの? 何も出来ないポンコツな私を!」

 

 そんなユウナにシルフィーが声をかけたのは......


 「いえ......カイルさんの、隣に立てる。アンジェリーナさんを私も羨ましいと思います」

 「............そう......ね。......私は......私じゃ、カイルの隣には立つ資格も、護る資格も無いのよね......分かってたわよ、私のはただの、カイルのモノマネに過ぎないんだから......本物の......アンジェリーナには勝てないわよ。......金髪だし」

 「勝てますよ。......金髪以外は」

 「はっ?」


 シルフィーは、カイルとアンナの姿を慈愛の視線で見つめながら、ユウナの肩をそっと触る。


 「例えユウナさんの想いが、模倣から始まったのだとしても、アンジェリーナさんが本物だったとしても、強い想いで始めたユウナさんの方が、幾倍も本物だと、私は思いますよ?」

 「な......に、言ってるのよ?」


 シルフィーの纏う、神聖性が、ユウナの心に言葉を突き刺させる。

 

 「いくらでも、迷って悩んで止まって良いのです。迷えて、悩やめて、止まる事が出来るのが......人間なのですから」

 「......」


 ユウナの心にストンと落ちる、綺麗で心地の良いシルフィーの声を、ユウナは言葉を失いながら聞いていた。

 それ以外、出来ることが無かったから、


 「そして、そんな人間に手を指し述べるのが、シスターとしての私の役目です。ユウナさんが足を止めて迷っているのなら、いくらでも悩み聞きましょう。......迷いが終わり、動くのに勇気が必要だというのなら、私が背中を押しましょう......か?」

 「......」

 「ふふふ、迷える可愛い子羊に等しく救いを、ですよ? ユウナさんに私の手は、言葉は、必要ですか?」

 「......」


 ユウナは、問われ。

 そして、

 

 ■■■


「......終わりだ」


 ギラリと銀色に輝く錬成剣で、カイルはマシンヒロの命を刈り取る。

 人間を殺す時簡単なのは首を引き裂くこと、それをためらい無くカイルは行う。

 カイルが護り尊重するのは、カイルが護りたいとそう思った人に限られる。

 護りたい人を護るためならカイルはいくらでも、その手を血に染める覚悟があった。


 振り下ろされるカイルの剣を見て、マシンヒロはケタケタと不気味に笑っていた......

 

 瞬間。


 バリンとカイルの剣は結界に弾かれた。


 「......あ! そういえば、結界はってたっけ? キメラ倒してたら忘れちってた......どうしよう......地味に突破するの怠いな、触媒はもう無いし......また、バァリに頼めばくれるかな?」


 カイルの手札には奥の手として、まだ、結界を壊す切り札が有るには有るのだが、それを切ると、シルフィーがまた悲しそうにしてまう。

 ......と思うと、躊躇ってしまう。

 なにより、カイル自身も、出来ればこのタイミングでは使いたくは無かった。


 「アホか!」


 そんな、カイルの横にアンナが偉そうに仁王立ちしながら、突っ込みを入れると、袖を巻くりあげて、


 「仕方の無い奴だな。美少女であるこの私が、そのチョコざいな結界、解いてやろう」

 「......ムカつくけど、助かるよ」


 カイルが、お礼を素直に述べると、アンナは少し黙考してから、声を調える為に唸って、恥ずかしそうに顔を赤らめると、ぺチンとスナップを効かせてカイルの頬を叩いた。


 「べ、べつにっ! カイルの為にやるわけじゃ無いんだからね!」

 「............は?」


 カイルの氷点下の眼差しに、アンナは真顔と地声に戻してから、カイルに問う。


 「今みたいのが、王都で流行っている美少女のツンデレなのだがどう思う?」

 

 正直、いつものアンナよりウザいかも知れないとカイルは思った。

 そのせいで、こめかみの怒りの筋をぴくぴくと動かして、大きく深呼吸してから、


 「何でもいいから、さ! 早くしてくれない? してくれないなら、下がっててくれない? 邪魔だから」

 「ふむ。そうか、なら、《ディスペル》。終わったぞ? で? カイルよ、きゅんっとしたか? 私にツンデレになってほしいか? どうなのだ? どうしてほしいのだ!」

 「黙ってて欲しい」


 サラっと結界を解呪したアンナにカイルが、かなり本音で懇願していると、急に空間にビリビリと強烈な緊張感が走った。


 「ケタケタ......。じーかん切れでぇーす、わーたしの、ほーんとうの! 切り札がぁ~発動......」

 「五月蝿い」

 「......っ」


 カイルは、十字を切るように剣を振って、マシンヒロの首を切り落とした。

 

 「何したか知らないけど、お前はこれで終わりなんだよ」


 マシンヒロの離れた頭部の瞳から、生命の光が潰えて消えうせた。

 それで、終わり......


 ドドドドド


 「っな? アンナ。近くにいろ!」


 魔法の発動者の命が尽きたと言うのに、《友情の間》にはマシンヒロの魔力が膨れ上がっていく。

 カイルは、アンナを背にかばいながら、あらゆる有事を想定して鉄刀丸に手をかけた。


 そこで、


 突如カイル達、四人の四方に黒い結界が生み出された。

 そのあまりの結界生成スピードの速さに、カイルもアンナもユウナもシルフィーも何できずに囚われた。


 黒い結界が完成すると、身体から、感覚という感覚が全て消えて、立つ事さえ出来なり、力無く倒れてしまう。

 黒い結界は個々の身体に綺麗にアジャストし、無駄なく包み込む。


 そして、空間を割くように出現した、三人の男の一人が片腕で倒れるカイルの頭を鷲掴みにし持ち上げたのだった。


 カイルは、全く感覚の無くなった身体よりも、カイルを鷲掴む男達の姿に驚愕していたのだった。

 なぜなら、その三人の男は、


 「《断罪者》クラーク! ホォーイ! リンクルド! お前達......生きてたのか......!?」


 そう、魔道学院を襲撃してきた三人の男で、その全員が死亡する時にカイルは居合わせていたからだった。

 いや、居合わせた。なんてものではなく、ホォーイにいたってはカイルがその手で殺している。


 「よぉ! 殺人鬼! 俺っちが地獄のそこから、復讐しに戻って来てやった、ぜ!」


 ドスン、


 狂気に満ちた声で、動けないカイルの溝内を、ホォーイは膝で打ち付けた。


 「ぐっふぅっ!!」

 「はははっ! 最高! まじ最っ高! どうなんだぁ!? 俺っちの《リトル・ダーク・デストピア》は? 身体を動かせず、痛みと恐怖だけを感じつづけやがれ! この人殺し野郎!!」

 

 ホォーイに痛め付けられながら、カイルは思考を動かした。

 ジーニアスから聞いているホォーイの結界魔法は、捕われれば、五感だけじゃなく、最低限の生命活動以外の全ての力を奪われるというものだった。

 そこに、思考力も含まれ、完全に無力化されるという話だった。


 しかし、今のカイルは、視力も思考もあるし、なにより声が出る。

 明らかに、ジーニアスがかかった結界魔法ではない。


 「お前ら......死者か......となると、マシンヒロはネクロマンサーだったのか......」

 「今から殺す、お前に教えてやる義理はないね! オラオラ! もっと苦しめ! お前は、俺っちがいたぶり殺してやるからよ!!」

 

 

 ネクロマンサー、《死霊魔法》使い、死んだ生物を蘇らせ使役する魔道士。

 シルフィーと違い、蘇らせても、不完全で一日と持たずに身体が朽ちて精神が崩壊してしまう、そんな死者を冒涜する行為に、ミリス聖教が第四級禁忌指定をつけた魔法だった。


 カイルも、焔魔法が禁忌魔法と聞いて、シルフィーやジーニアスから、聞いたり、魔道学院の図書室でそれなりに調べていたから、知っていた。


 禁忌には、

 世界を滅ぼす事が出来る《第一級》

 人類を滅ぼす事が出来る《第二級》

 文明を滅ぼす事が出来る《第三級》

 時代によって禁止される《第四級》


 の四つの段階がある。

 それを、危険度によってミリス聖教が分けてきた。


 (ミリス聖教上層部......思っている以上に腐ってるな)


 カイルは、一瞬、そんな場所にシルフィーを戻して良いのか不安になったが、それでも俺が護るんだと頭を切り換えて、ホォーイに殴られてちょうど良く吐いている血を見て血断した。


 鉄龍王を召喚すると。


 《鉄の龍よ・契約に従い・我が血を媒介にして! ーー》


 すぐさま詠唱し、少ない魔力を練り上げて、

 ......そして、無散した。

 

 ホォーイの《リトル・ディメンション・デストピア》が、魔法の発動を許さない。

 

 「ホォーイ。コイツを侮らず、さっさと殺すぞ。一度負けた相手に二度負けることになる。命令は殺害だ」

 「はいはいはい! わかりやーした。わかりやーした。でも兄貴。今度こそ、あの女は食べるぜ?」

 「......好きにしろ、どうせ、俺達も長くない」


 その上、クラークはとても用心深かった、カイルから鉄刀丸を取り上げて、放り捨てていた。

 

 全員、身体の自由と、魔法の発動を封じられ、カイルは奥の手すら奪われた。

 打つ手無し。


 完全に詰んでいる。

 カイルがいくら気張って思考しても、魔法と剣と身体を封じられた状態を脱する方法は見つからなかった。


 「......カイル。すまない、私が......ふざけたせいで」

 「その通り、だけどな! 謝んなよ......頼むから、さ。ふざけたアンナは、少し、可愛かったんだぞ?」

 「っ! 馬鹿者! 今更言うなぁ......もっと早く......言え......」



 それでも諦めの悪い、カイルとアンナはそれでも、それでも! 全てをわかっていても不敵に笑って言うのだった。


 「カイル! 明日、また、いくらでも見せてやるからな!」

 「ああ。その金髪、ハゲるまで触ってやる!」

 「変態だな」

 「......ああ。そうかもな......」


 ......クラークの剣は無情にもカイルに落ちた。


 ブチリ。


 直後。

 切り落とされた場所から大量の朱い液体が飛び散ってアンナの顔を染め上げたのだった。




 



 


 


 


 





 




 


 

 


 


 

  

 

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