二十四 戦の準備
ユウナとレンジ、そして、ライボルトの激突によってピリピリしてしまった、場をアンナが笑い飛ばした。
「ハハハハーーっ! よくぞ来た! レンジ殿、ライボルト殿! 待っていたぞ」
「お前が呼んだのかよ!」
カイルが呆れたとばかりに、アンナの頭に一撃を入れていると、レンジが逆にカイルの頭を叩いた。
「カイル! 何故、ユウナがこんなに傷だらけなんだ。お前は何をしていた」
「それは......」
幼女と遊んでいました......
とは言えない。
カイルが顔を下にむけて、小さくなっていく。
カイルとしても、ユウナが三ヶ月、目を離しただけでボロボロになって帰って来るとは思わなかっしたし、それは猛烈に反省していた事だった。
それをレンジに言われると、言葉も出無い。
そんな、落ち込むカイルを見て、ミリナがむくれ上がり、抗議しようとするがそれより前に、ユウナをカイルをガシッと抱きしめて、レンジを睨めつける。
「何よ! カイルを責めないでよ! お邪魔虫のくせに!」
「虫......。いや、お前もだ。ユウナ! カイルを守ると言いながら、どうしてカイルと一緒に居ないんだ」
「うっ......それは......」
しかし、ユウナも力無く下を向くことになった。
その、光景を見ていたミリナが、カイルを叱るレンジに怒りでは無い温かいものを感じて、それがレンジのカイル達を心配している言葉だと、優しさだと気づいて、スッとレンジの手を丁寧な所作で取った。
「レンジ様......ですね? 初めまして、私は、ローゼルメルデセス第二王女にして、カイル様の未来の伴侶となるミリナリナ・ローゼルメルデセスです。あなた様のお怒りは、未来の、伴侶たる、このミリナリナが受けます。どうか、どうか! カイル様をお許しくださいませ」
「......君がカイルの言っていた......」
「言っていた......? ......ッハ!」
ミリナに手を捕まれた、レンジはミリナの姿を観察する。
カイルから、ミリナの呪いについては聞いていたからだ。
しかし、レンジの言葉を、カイルがミリナの事を影で褒めたたえ、可愛い俺の嫁! と紹介したんだと、斜め上に解釈したミリナは、ぱっと顔を明るくさせた。
「まぁ! カイル様が私が居ない所で、そんな事を......。もうカイル様ったらイケず何ですからぁっ」
「......?」
そんな、ミリナにその場の全員が首を傾げて居たのだった。
■■■
その後も、数人の名の知れた戦士達がアンナの元に駆けつけて、着々と、ローゼルメルデセスの戦力が集結しつつあった。
明日にでも、行軍を開始するとアンナが公表したので、城の中は準備終われて大忙しになっていた。
ミリナは、警護の都合上。安全な隠し部屋に一度身を隠しカイル達と離れていた。
その日の内に、カイル、レンジ、ユウナや他の戦士達の部隊別けをしていると、すっかり日も暮れて満月が空高く上がっていた。
カイルはアンナの暴論で、中央軍の独立軍として、ユウナやマリンと共に、アンナやミリナ、シルフィーこの戦争で、一番重要な人達を守る部隊に組分けされていた。
その関係で暇になったカイルは目に着いたシルフィーと話していた。
そんなカイルにレンジが声をかける。
「カイル。その人が? 噂の《聖女》か?」
レンジに声をかけられたシルフィーは大袈裟にビクッと震え上がった。
そんな、シルフィーの肩を掴んで、カイルはレンジに首を縦に振った。
「うん。この可愛い女の子が、シルフィー......シルフィア・ミリスだよ」
「可愛い......」
ぽっ
カイルの紹介の仕方にシルフィーが、顔を赤くしながら、そっとカイルの胸に手を沿えて寄り添いながらレンジに無言で頭を下げた。
レンジは、第一軍の主力部隊に組分けされて、暇なカイルとは違いまだやることが残っていた事や、シルフィーの事はあまり興味も無かった為、素早く本題に入る事にした。
「なあ。カイル。今回の事、事情も聞いたし、お前の気持ちも、理解は出来る。だが、お前が死ぬ気なのは、許さない」
「......死ぬ気なわけ無いよ」
レンジは力強く、カイルの目を見つめて、兄としてカイルの闇に触れる。
「良いか? カイル。誰かを救くおうとするのは、お前の美点だ。けれど。カイルもユウナも救うためになら死んでも、良いと思ってる。それは間違いだ」
レンジの言葉を聞いてもカイルは飲み込む事は出来なかった。
が、シルフィーはカイルが、誰かの為に死ぬことを恐れていない事を知っていた。
恐れていない。だけではなく......
(カイルさんは、誰かの為に死のうとしています)
カイルのトクントクンとゆっくりと鳴る、心臓の音に耳を澄ませながら、シルフィーは思うのだった。
(それでも私はカイルさんに救われました。だから、最後までカイルさんに......この身を捧げます。私はもうそう決めましたから......)
シルフィーは覚悟を持って目をつぶりカイルに身を預けていた。
シルフィーからそれをカイルに伝えるつもりは無かったから、
でも、レンジはカイルに死んで貰いたくはない。
そんな事の為に大切なカイルの命を使ってほしくなかった。
「例え、お前が死ぬことで誰かを救えるとしても、何万人が救われたとしても、俺はお前に死んでほしくない。そんなくだらない事の為に、お前が死ぬことは無い」
「それって、シルフィーを助けるなって? そういってるのかよ! レンジが! お前がそう言うのかよ!」
カイルにとって、目標のレンジに、誰かを救うなと言われた気がした。
憧れからカイルの夢を夢を、否定された。
「違う。お前が救いたいなら、俺もユウナも全力で力を貸す。でも、間違えるなよ。俺達が力を貸すのはカイルにだ。そこにいる《聖女》でも、《女王》でも、《王女》でも、誰でもないカイルにだ」
「......」
「誰かを救う事を理由にして、死のうとするな! お前は俺にとって、俺達にとって、何よりも大切な家族だと知れ!」
「......」
「この戦い中、お前が何よりも優先して守るのは、誰でもない、お前の命だ。絶対に死ぬなよ。......そうしたら、俺達が必ずお前を守る」
「ああ......俺もレンジ達を守るよ」
レンジの気持ちをカイルは少しだけ理解した。
そんなカイルにレンジは優しく頷き。
「それと、カイル。お前。ユウナが居るのに、他の子とあんまり仲良さそうにするなよ。ユウナが可哀相だ」
レンジから見ても明らかに脈ありで、カイルに寄りそうシルフィーを見ながらレンジは言う。
言われてカイルは首を傾げる。
「ん? 何でユウナが可哀相なの? ユウナはレンジと相思相愛だから関係ないじゃん。この前だって陰で抱き合ってたし、別に俺の前で仲良くしても良いんだけど」
「はぁ!? 何でそうなる! ユウナは!」
ユウナはカイルをずっと好きなんだぞ、と言いかけて、遠くから、伝わってきたユウナの殺気にハッと視線を向けると、そこにユウナがドス黒いオーラを発して立っていた。
それに、大体の事情を全て察したレンジは肩を竦めて冷笑すると。
「カイル......俺に何かあった時。ユウナをお前が幸せにするんだぞ! 良いな?」
「何かあったって、レンジこそ、命を大切にしろよな」
「良いから、お前はユウナを泣かせるな、俺はお前達が大好きだから、お前がユウナを幸せにするならそれで良いんだ」
レンジのどこか真剣な眼差しに、カイルは首を縦に振るのだった。
そして、レンジは作業に戻るために背を向けながら、
「カイル。お前が戦いたく無くなったら、剣を置きたいなら何時でも、ユウナと一緒に剣を捨てて良いからな」
そういってレンジは姿を消したのだった。
そんな、レンジの背中を、シルフィーが、赤い瞳でじっと見つめて、目を閉じると、そっとカイルに耳打ちしたのだった。
「カイルさん......あの方は本当にカイルさんとユウナさんの親友なのですか?」
「っえ? どういう意味?」
「あの方は、いずれカイルさんの敵になるかもしれません......」
そう、未来が見えましたと、シルフィーが言おうとすると、カイルが、声のトーンを数段落として、
「シルフィーでも、そんなこと言うなら怒るよ。レンジは誰よりも強く優しく、正しいんだ。それは俺が一番知っている」
「......そうですか。......お許しください。カイルさんに怒られたくはありません......っ」
シルフィーが泣きそうな顔でカイルの事を見上げながら、そっと服を握った。
涙腺が崩壊するほど、シルフィーはカイルに嫌われたくなかった。
「っあ! 怒らない怒らない。大丈夫。レンジは第一印象怖いからね。シルフィーが怖がるのも無理は無いよ。ごめんね。びっくりさせて」
「いえ......」
この時、シルフィーは、色の薄い真っ白な、目を開いて言葉を飲み込みながら、カイルの身体に寄り添い続けた。
だから、シルフィーが見た未来をカイルが詳しく聞くことは無かった。
シルフィーが、声をかけられて初対面であれだけ震え上がることは無い。
声だけで、シルフィーの勘が危険と判断し、そして、《聖女の真眼》で見えた光景。
レンジが、ユウナを剣で貫き、動かなくなったユウナを抱き上げカイルが泣いているその光景を、シルフィーは誰にも伝える事は出来無かった。
(未来は、運命は、少しずつ変化しています。きっと、この運命もカイルさんなら、壊してしまうでしょう)
シルフィーはカイルの心臓の音を聞きながら、そう思ったのだった。
■■■
ミリス神聖教国、大聖堂。
ミリス聖教、教皇、チクスールドは金色の聖灰を力一杯握り締めて、《制裁者》の一人、センクションからの報告を受けた。
「......しかも、奴ら、《聖女》を神輿に担いで、進軍してきたぜ、本物の女神の生まれ変わりだ、とな」
「何......だと!?」
「疑うならこれを見な、教皇さま。今、声明が流れているぜ」
驚愕する、チクスールドにセンクションは魔水晶を投げ渡し、映像を見せた。
『ハハハハーーっ! ミリス教皇 チクスールド! 私は、ローゼルメルデセス現女王、アンジェリーナ・ローゼルメルデセスだ! 現在、私の庇護下にある、《聖女》、シルフィア殿が不当にも、異端者の汚名を着せられ命を狙われているーー(中略)ーーハハハハーーっ! よって我等は貴国に降伏を勧告する! ハハハハーーっ!』
魔水晶からは、アンナの盛大に煽りながら、戦争を仕掛ける宣言が流れてきた。
更に、そのとなりに、儀式魔法 《アナライズ》で己のスキル《女神の移し身》を証明した、シルフィーがミリス教徒に語りかけた。
「私は、ミリス様の使徒、シルフィア・ミリスです。......どうか、敬謙なるミリス教徒の皆様、現、教皇チクスールドに、騙されないでください。彼は、私欲を肥やしてーー」
「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!!」
チクスールドは怒りで魔水晶を叩き割って、青筋を立てた。
そして聖杯を潰れる程握り締めて命令する。
「迎え撃って異教徒共を殲滅する! 皆殺しだ。ランスロットとガンスロットを呼んで来い!」
「っは、おおせの通りに」
チクスールドの言葉に、もう一人の《制裁者》、テヌフーンが答えて、呼びに言った。
そして、呼び出された、聖騎士ランスロットがすぐに、教皇に問い詰める。
「チクスールド様! 《聖女》の話は本当なのですか!」
「五月蝿い! 黙れ! 奴らは異教徒だ。異教徒の言葉など信じるな!!」
チクスールドに、そういわれ口をつぐんだランスロットは、それでも、
「例え、虚言だとしても、我等に勝ち目はありません。降伏すべきかと......」
彼我の戦力差に、降伏を進める。
暗黒騎士団と聖騎士団、ミリス神聖教国が持つ軍事力はそれだけしかない。
合わせて十万程度しか居ない。しかも、兵は民兵で練度は低い。
しかし、ローゼルメルデセス王国は、一騎当千の七人の騎士団長と、それに並ぶ何人もの騎士達、総兵力に至ってはミリス軍の数倍近いだろう。更に平時からの訓練により兵達一人一人の練度も相当高い。
最強の軍事国家の名は伊達ではなかった。
そんな国と戦って勝てる訳が無かった
だが、チクスールドは口端を醜く吊り上げると、
「《人造キメラ》共と《高威力殲滅魔法砲台》の使用を許可する」
「っ!」
「更に私は祭殿で、信徒達と祈りを捧げよう。《神の加護あれ》とな。フッハハハハ。奴らが責めてきたことを後悔させてやれ! 女王と聖女を私の前に引きずり出して来い!」
チクスールドの命令にランスロットは息を呑んだ。
なぜなら、今の三つの行為は全て、禁忌に触れる事だったから。
ランスロットが教皇の愚行を止めようと口を開こうとするが、教皇は聖杯を手に掲げた。
すると、
「............分かりました」
苦々しくランスロットはそういったのだった。
■■■
ミリス歴、2013年11月24日。
カイル、十三歳の時、
この日、何百年不可侵だった、ミリス神聖国と、ローゼルメルデセス王国同盟の先端が開かれるのだった。
ローゼルメルデセス軍十万が、陣地を構えたのは、ミリス国、国境を阻む、アクアラ大峡谷。
ミリス国にとっては自然の大要塞であり、ローゼルメルデセス軍を阻む事が出来る最後の防衛線。
そこに、ローゼルメ軍は来るべき決戦の時に備えて、軍を展開していた。
既に、ミリス国には、降伏勧告を出したがこれを、ミリス教皇チクスールドは拒否し、アクアラ大峡谷に、ミリス軍十万を配置した。
歴史的な一戦が迫る中、カイルはというと、中央軍の中心、アクアラ大峡谷を見渡せる場所で息を呑んでいた。
数百メトル下に広大な平地があり、既に、レンジや、ライボルトと言った主要部隊はそこに展開している。
その部隊が目指すのは、降りた分だけ崖上に構える、国壁の突破。
しかし、崖上には、十万に上るミリス教軍が待ち構えていて、崖を登ることを許さない。
それが自然の大要塞、アクアラ大峡谷だった。
カイルは崖を見下ろすのを辞めて、軍総指令の、女王、アンジェリーナに問う。
「これ......戦術とか良くわかんないけど、結構不利何じゃないの?」
「フハハハ! 安心しろ! 私もわからんからな! ハハハハーーっ!」
「............」
軍総指令を名乗っておいて戦術を分からないと、偉そうに腰に手を当てて笑うアンナにカイルは殺意を覚えて居ると、副総指令(実質総指令)のグリーヌがカイルの疑問に的確に答える。
「確かに、地形的には圧倒的に我等の不利だ。が! 我等の第一軍二万は、精鋭中の精鋭をかき集めた、一騎当千の強兵だ。いくら地形が不利でも我等の進軍を止めることは出来ない」
圧倒的に不利な地形に対して、アン......グリーヌが取った戦法は至って簡単。
それに勝る質をぶつける事だ。
「無論、ミリス軍にも、一騎当千の騎士、ランスロットとガンスロットが居るが......奴らは、我等七騎士か、雷剣帝が相対すればよい。カイル殿は女王陛下の隣で吉報を待っていれば良いのだ」
「......レンジが戦ってるのに、俺だけ見てるだけか......」
少しだけ、カイルは罪悪感を感じていたが、この軍を起こしたのは、カイルとアンナの二人。
七騎士、ローゼルメルデセス軍にとっては、アンナは勿論、カイルもこの戦争を闘う理由の一つだった。
救国の英雄カイルと、新女王アンジェリーナの二人が無事なことが一番、軍の士気をあげる事に繋がっている。
カイルが我が儘を通せる状況では無かった。
それに......
「アンナはともかく、戦場で、シルフィーやミリナを近くで護って居たいのは事実だしなぁ......」
カイルは振り返って、本陣に居る、カイルの護るべき人達を思い浮かべた。
『お前が守るのは、お前自身だからな』
「分かってる。死ぬ気は無いって」
フラッシュバックした記憶に返事をしながら、カイルは戦場を見つめていた。
これから、何万人もの、人の命が、カイルの身勝手な願いで散る。
それを思うと、少しだけカイルの心は揺らいでしまう。
ギチリと奥歯を噛みながら、護るために切り捨てると言う、矛盾に堪えていると、ふわりとカイルの背をシルフィーが優しく抱いた。
シルフィーは、一人震えていたカイルの背中に、顔を当てながら、何も言わずにその震えを止めようとしていた。
カイルが何を思って震えているかは、シルフィーは聞かなくても分かっていた。
いくらカイルが、必要な犠牲と切り捨てて居たとしても、カイルが真にそんなことを思えない、ということを理解していたのだった。
「シルフィー......。ごめんね。こんな事をさせて」
「ふふっ。カイルさんに抱き着くことが出来るのですから、いくらでもこうしていますよ......?」
「いや。それも、だけど。俺が言ったのは、シルフィーを担ぎ上げて、こんな戦争を起こしたことだよ、あんな放送までさせて」
人と人とが殺し会う戦争を直前にして、十万人以上が居る峡谷は、風の音しかしていなかった。
これから始まる戦争に誰もが息を呑んでその時を待っていた。
話して居るのは、シルフィーとカイルの二人だけ......な気がするほどだ。
その声も風に流され、消えていく。
「私は......カイルさんと寄り添い続けられるのなら......全てを犠牲にしても構いません......私の全てで貴方を支えます。貴方の目的を叶えます」
「......っ」
優しく語りかける、シルフィーの言葉はしっとりと、カイルの心に染み込んでいく。
そこまで、尽くされて嬉しくない筈は無かった。
ドキリと心臓が高鳴っていた。
「シルフィーは、俺の聖女様だよ。何時も言葉だけで救ってくれる」
「......救われているのは......(私の方なんですよ?)」
シルフィーは言いかけた言葉をしまって、話題を変える。
更にさりげなく、カイルの右側に移動して、腕を絡めた。
「カイルさん。知ってますか? ここは、望叶剣伝説の《友情の騎士》が誕生した場所なんですよ?」
「ふーん」
「アクアラ峡谷の名前の由来は、《友情の騎士》がアクアラだったからと言われて居るんですよ?」
シルフィーは、子供の時に読み聞かせられた、《望叶剣伝説》が大好きなので、その聖地のアクアラ大峡谷に来れた事は、違う意味で興奮していたのだった。
俗にいう、望叶剣オタクという奴だった。
そんなシルフィーの話に、カイルはあまり興味は無かったが、嬉しそうに語るシルフィーの言葉に耳を傾けていた。
「しかも、ここには、望叶剣を祭る祭壇があるんですよ? ここから少し離れて居ますが、今度、一緒に巡拝に行きませんか?」
「良いけれど......」
ミリス教の聖堂とかじゃなくて良いの!? ......突っ込むのは辞めておいたカイルだった。
信仰よりも、趣味に生きるのがシルフィーなのだと無理矢理納得する。
「私。十人の騎士の中で一番好きなのは《背徳の騎士》ですが、次は、《友情の騎士》何です! なぜならーー」
シルフィーのテンションがどんどん上がっていく。
そんな、シルフィーに水を差すように、ニヤニヤしながら、グリーヌとの話を終えたアンナが、
「《背徳の騎士》が、仲間を裏切った時、唯一《友情の騎士》だけは、《背徳の騎士》を信じて共に戦ったからだろ?」
「......はい! その通りです......。アンジェリーナさんも《望叶剣伝説》に詳しいのですか......!」
理解者が居たとばかりに、アンナをキラキラとした視線で見つめるが、
アンナは首を振ってカイルをチラリと見てから、
「いや、知り合いの変態に、似てる剣を持っている奴がいてな、ちと、調べていただけだ、そこまで興味は無い」
「......そうですか。似てる......剣? っは! そういえばカイルさんが使っていたあの鉄の魔剣......な、わけないですよね......」
一瞬、ヒヤリとした、カイルだったが。
夢物語の伝説の望叶剣が有るわけ無いという先入観のお陰で、シルフィーは首を振った。
カイルが、望叶剣使いだと、知っている人間は意外と少ない。
拡散して、面倒に巻き込まれると、無駄に命を使うことになるかもしれない。
鉄刀丸を魔剣として、公表している方が何かと都合がよかった。
望叶剣使いなら、一目で、望叶剣とわかるが他の人に、お伽話の剣が有るとは思えないものだ。
だからこそ、世界に望叶剣の噂は広がらなかったりする。
望叶剣の実在を知っていて、カイルがその所有者だと知っているものは、アンナとミリナ、オーランの三人だけなのだった。
「それよりだ。カイル。ミリナが呼んでいる。会ってきてくれないか?」
「......」
「まだ、開戦には早い。ミリナの奴、最近めっきり私の言うことを聞かないのだ。......この行軍にも無理矢理ついて来るし、困ったものだ。頼む。大人しくさせてくれ」
「......ああ分かったよ。それにしてもお前、ミリナが絡むと、いきなり低姿勢になるのな」
「当たり前だ。私は美少女お姉ちゃん! だからな!」
「へいへい。世間は、姉より妹の方が流行って居るけどな」
アンナの傲慢さにカイルが適当に手を振りながら流して、足をテントへと運ぶ。
シルフィーは、ミリナとカイルを二人きりにさせるために、カイルの腕をそっと離してその場に残っていた。
こういう気遣いが出来るところが、カイルがシルフィーを聖女と呼ぶ理由だったりする。
所謂、女子力が高いということだ。
ユウナ達には絶対に真似できない。
そんなことを思っているカイルの背中に、アンナが一言。
「男は小児性愛者ばかりだからな! 私の良さが分からないのだハハハハーーっ!」
「偏見ひでぇーよ......まあ、ちっさい方が可愛いのは認めるがな」
「変態だな!」
ニヤニヤしながら何時も通りカイルをからかって送ったアンナは、視線をシルフィーに変える。
「それで、シルフィー殿は、カイルが変態でも良いのか?」
「構いませんよ......? カイルさんの性癖なら、私は全て受け入れます(キリッ)」
「......私もか?」
何かを探るようなアンナの視線をシルフィーは微笑みで交わし、
「私はカイルさんの全てを受け入れます......が。ふふっ。残念。先ずはカイルさんには、私だけを見つめてもらいたいですね......?」
「そうか......分からなくも無いが、カイルが誰を想っているかは明らかだぞ」
「?」
ほんの少しだけ、暗い表情しながら言うアンナの言葉にシルフィーは首を傾げた。
有り体に言えば驚いた。
アンジェリーナが、諦めているという事に。
それが、少し前の自分に似ていたからか、シルフィーは余計なお世話と分かりながら、アンナに言うのだった。
「運命とは、全ての努力をした結果、らしいですよ......? アンジェリーナさんのそれは、ただの予測では無いのですか......? 諦めでは無いのですか......?」
「......っ!」
「私に、分かることは事は一つです。カイルさんが頼る、アンナさんは、カイルさんと同じ《運命を切り開く者》と、言うことです。貴方は十二分に、その目標に辿り着ける資格はありますよ......? それを私が信じましょう」
アンナは、シルフィーの異次元的な美しい容姿と清らかな声、そして、清廉としたただずまいに一瞬何か、白い羽の様な物を見て息を呑んだ。
余りの美しさに、あり方に、アンナでさえも、
「聖女様?」
「ふふ。残念。私は、カイルさんの聖女です。アンジェリーナさんのではありませんよ......?」
本物の、天使が舞い降りたのかと、思ってしまう程だった。
白羽の幻影が消えて、シルフィーの微笑みだけが残った事で、アンナも我に返る。
そして、一つの疑問を口にした。
「何故、私に、手を指し述べたのだ?」
何も言われなければ、アンナは、カイルがカイルの《本命》と付き合うことになるのを、どうにかしようとは思わなかった。
アンナ自身が、カイルの《本命》になろうとは思わなかった。それでも良いと思っていた。
でも、シルフィーの言葉で、自分が諦めて居ることを知った。
アンジェリーナ・ローゼルメルデセスは、諦めるという事をしない。気づいたのなら、必ず突き進む。
カイルの《本命》へと成り上がる。
でもそれは、シルフィーにとって、ライバルが増えてしまうということで......
「ふふふ。私は、迷える子羊には平等に救いを与えたいだけですよ......? それがミリス様の教えです」
シルフィーが慈しむ微笑みで、アンナにそういうと、アンナは目を大きく開いて、
「ハハハハーーっ! そうか、そうか、私が愚かだったな。シルフィー殿、礼を言うぞ」
「いえいえ。今の、可愛いアンジェリーナさんが、カイルさんに見られなくて良かったですから......」
「なぬっ! どういう意味だ!」
「さて、どういう意味でしょうか......? ふふっ」
シルフィーはニコニコしながら、満俗そうに勝ち誇っていたのだった。
因みに、そんなやり取りを、マリンがガクブル震えながら見ていたのだった。
■■■
「ミリナ。どうしたの?」
「っカイル様!!」
カイルが天幕をくぐって、簡式のベッドで黄昏れている、ミリナに声をかけると、ミリナはにぱっと顔を明るくさせて、立ち上がり、
タタタタタっホワン。
元気よくカイルの身体に飛びついた。
そして、
「ミリナ!? ......ハハ。元気一杯でよかったよ」
「カイル様......失礼します」
ちゅっ。
カイルの唇を奪う。
「っ!?」
「ちゅっ......カイル様、今日は何時もより沢山、魔力の道を通します。嫌、ですか?」
赤い表情のミリナにそういわれて、カイルはそれが、何時もの魔力供給だと察して、ミリナが心配してくれているんだと気づく。
そして、自分とキスすることを不安そうにしているミリナに、小さく首を振って、優しく頭を撫でてあげる。
「いいや、ミリナの優しさは分かってるよ。俺のために毎回、ありがとう。ミリナには感謝しかないよ」
「では、カイル様からも、してください」
「うん」
ミリナだけに、こんなことをさせるわけにはいかないと、カイルは自分からミリナに唇を合わせた。
それで、ミリナの表情は蕩けきって、カイルの唇を小さな舌でめり込ませ、ヌメリヌメリと、舌を絡めていった。
言葉は必要ないとばかりに、ミリナはひたすらカイルとのキスに興じる。
カイルも、そんなミリナの好意を純粋に嬉しくてただ受け入れた。
ちゅる......ちゅっ......ちゃぷ......ヌプ......
ミリナのボルテージは上がっていく。
「んっ......ちゅっ......ちゃぷ......ぢゅる......んっ......カイル様ぁあ! もっと吸ってくださぁい」
......饗宴は、ミリナが満足するまで続いたのだった。
それを、カイルはただミリナの献身に心を打たれていた。
(こんなに、ちいさい子が俺のために、戦争にまで付いてきて、ここまでしてくれるんだ)
だが、カイルは知らない。
(カイル様との濃厚なキス。一度繋いだ事が有るので、いくらしても意味はありませんが、私はここから、少しずつ、カイル様との肉体的な関係へと拡げて行きます)
ニヤリ。
ミリナが邪悪な心顔でそんなことを企んで居るとは......
そして、魔力供給のパスを繋いだ(嘘)ミリナは、カイルを座らせ、その膝の上にカイルと向き合いながら乗っていた。
勿論、カイルのお腹に身体を全て使って抱き着いて密着し、カイルの全てを堪能していた。
くんくんと鼻を鳴らしながら、カイルの大好きな香と......
「お義姉様の香が強いです......何かなさいました、か!?」
「......お義姉様? ああシルフィーか。さっきちょっと慰められてね。......ミリナは何でも分かるんだね?」
カイルはミリナを孤児院の義妹達のように、頭を撫でて可愛がりながら、深い意味は無くそういった。
それに、ミリナは少しだけ強くカイルに抱き着く力をあげて、
「カイル様は......ミリナのです......あまり、他の女性と仲良くしないでください」
上目遣いで、瞳を濡らしながら懇願した。
勿論、ミリナの演技なのだが、カイルには効果的だった。
「っう......泣かないで、悪かったよ。......でも、ミリナ。シルフィーは優しい人だよ。他意は無いよ。そういうんじゃ無くて、誰にでも同じ事を出来る人なんだよ」
「......(誰にでもではありません! カイル様の事は絶対に特別です! 義姉様はそういうお方です。女狐です。このままでは私の立場が危ういです!)」
ミリナは、苦くそう思いながら、
「カイル様は、やはり私の貧乳より......シルフィー様の巨乳が良いのですね......」
「っえっと......そうじゃなくて......」
「カイル様は、金髪と銀髪なら結局、どっちが好きなのですか!」
「金髪だよ!」
カイルは即答した。
それに、手応えありと、ミリナはほくそ笑みながら、カイルをあざとく見つめる。
「では、金髪の私と、銀髪のシルフィー様どちらが好きなのですか? どちらと結婚したいのですか?」
「金髪のミリナだよ! ......あれ?」
勢いでそういって、首を傾げるカイルに、にんまりと微笑んだミリナは、ぎゅぅぅ~とカイルの身体に密着しながら、
「では、その言葉、二言はありませんね? 何時の日か、私を、必ず貰ってください......」
「っえっと」
「カイル様が、貰ってくれるので、私は誰とも関係を結びません。ふふ。カイル様が貰ってくれなければ、私は死ぬまで未婚になってしまいますが、カイル様は約束だけは守るお方、安心です」
「......」
「おや? カイル様、汗が酷いですよ? まさか! さっきの言葉に嘘が有るのですか?」
カイルが、頷こうとしたその瞬間。
すっと表情を消したミリナは、
「大丈夫ですよね? 私の、初めての唇を奪ったのですから、責任をとってくれますよね?」
「ぐふっ......」
「私。信じていますから、カイル様が私を裏切らないと」
「ごふっ......」
「私を、身篭らせてくれると」
「ガフッ......」
「信じても良いのですよね? 私を......救うという言葉を」
「..................................................................っぇえい、ままよ!」
ミリナは論点を確実にずらしていたが、カイルには分からなかった。
そして、頭がパンクしそうになったカイルの出した結論は。
「もう、どうとでもなれ。......分かったよ。ミリナがそんなに結婚したいなら、するよ」
「本当! ですか! (期待以上です!)」
「ただし、あの時の約束通り、ミリナが独り立ち出来るようになったら、だよ?」
「はい! 全然構いません。すぐになれますので(既に翌年にはカイル様の元に行く許可を経ています)」
「その時、ミリナの気持ちが変わってなかったらだよ?」
「はい! ミリナの陰毛の長さ程変わらないので大丈夫です(つるつるです!)」
「......陰毛って......表現えぐいし、自重しようよミリナ。って生えてるの?」
「生えてませんよ? 生えてたら、カイル様への気持ちが変わらない事を暗喩出来ないじゃないですか! ......確認しますか?」
「しないよ、絶対しない。うわぁああああ! 脱がなくて良いからぁああああ!」
カイルはとてもやつれてしまいましたまる
閑話休題。
ゲッソリしているカイルに、ミリナが丁寧に包んだ棒状の包みを渡す。
「今までのは、前置きです。カイル様を呼んだのはこれをお返しするためです」
「前置きが長いよ......ってこれは。そういえばミリナに渡していたまだったね」
ミリナが渡したのは、無骨な鉄の剣。
それを、カイルが受けとると、無骨だった剣が鈍く光り、綺麗で華美な刀状の名剣へと昇華する。
それは、
「《鉄刀丸》......コイツを使わないのが一番良いんだけどね」
「そうですね、出来れは渡したくはありませんでしたが、その力はカイル様の命を削りますが、同時にカイル様を守る剣にもなります。今のカイル様には必要かと」
「うん。ありがとう」
カイルは、最強にして最凶の剣を腰に挿しながらミリナの頭を撫でた。
ミリナは嬉しそうにカイルに抱き着くのだった。
「それと......戦いが終わったら返してくださいね? その剣は私が管理します」
「......元々俺の剣なんだけどなぁ......」
カイルは首を傾げるしか無かったのだった......
(因みに、元々は剣の巫女、ソプラの物で。それをカイルがどさくさ紛れ盗んできただけ)
そうして、カイルは時間になるまでミリナの頭を撫でつづけていた。
なぜなら、必死に隠しているが、ミリナの肩が小刻みに震えていたから。
その震えが恐怖だと分かっていたから......
■■■
乾いた土の地面に、背筋をピシリと伸ばして正座をしながら、目を閉じていたユウナは、瞼の裏に浮かぶ、敗北の記憶を思い出していた。
(もう、二度と......カイルの前で私は負けない。カイルの敵は全て私が斬る)
手も足も出なかった、クラークをライボルトを、ライトニングを、ユウナは明確にイメージし、
そして、目を開き、抜刀する!
ズバン!!
直径、十メトル程の分厚い岩が、横一文字に綺麗に切り裂かれ、すすすっと二つに分かれた。
その、切り口は、鋭利な刃物で綺麗に裂かれていて、ツルツルとしていた。
ユウナが使っている剣は、勇者学校に入学する前にカイルから貰った、普通以下のありふれた、全長七十セルチの剣だ。
既に、刃は傷み、切れ味は大幅に落ちていた。
その愛刀で、ユウナは岩を切り裂いた。
「ユウナ。始まるよ、そろそろ、おいでよ」
そこで、カイルに声をかけられたユウナは、高ぶる気を沈めながら、
「分かったわ」
と、言って剣をしまい直した。そして、カイルの斜め後ろをユウナは無言で付いていく。
戦いの前に精神統一をすると言い出した、ユウナをカイルが呼びに来たのは、余りに集中していたユウナが、他の人間の声では動かなかったからだ。
善意で呼びにいったマリンを、「黙りなさい。殺すわよ」と、本気の殺気で泣かせたぐらい、ユウナは気が立っていた。
それでも、カイルが声をかければ、この通り素直に付いていく位の理性は持っている。
カイルは後ろをついて来る、ユウナに振り返り、声をかける。
「ねぇ。ユウナ。俺......何でこんなことしてるんだろうな?」
「知らないわよ、あのシラガ女を助けるためでしょ?」
周りに誰もいないからこそ、カイルの本音の部分が、出てしまう。
「分かってるよ、でも、ユウナやレンジを巻き込んでまで......危険に晒してまで......やらなきゃいけないことなのか......今更だけど......」
「カイル......。ちょっと、待ちなさい」
「ん?」
待てと言われたカイルは足を止めて振り返ると、
ぎゅ~
ユウナはカイルの頭を抱きしめた。
そして、
「恐いなら、逃げても良いわよ? 私はそれを肯定するわ」
「......ダメだよ。レンジはもう戻れない......それに俺は......ユウナが......」
カイルにとって、ユウナは手のかかる妹であり、大切な家族であり、優しい姉でもあった。
カイルが逃げたいといえば、ユウナは全てを捨てて一緒に逃げ出してくれる。
ユウナは迷い無くそうする覚悟があるし、それをカイルも分かっていた。
「レンジは、自分でどうとでもするわよ」
「そうだけど......」
「カイルは泣き虫なんだから、泣いて良いのよ? 弱虫なんだから、逃げていいのよ? 弱いんだから、戦わなくて良いのよ。 この私が、カイルの代わりに全てしてあげるから、カイルとずっと一緒に居てあげるから、カイルの事はずっと私が護るから、だから、逃げたって良いのよ!」
「うん......」
カイルを包む、圧倒的な包容感と安心感、これはずっと一緒に暮らしてきたユウナだからこそ、カイルに与えられるものだった。
カイルはシルフィーを護ると言って、アンナや、マリン、ミリナやジーニアス、何十万人もの命を巻き込んでここにいる。
その中には、ユウナやレンジといったカイルの命より大切な家族までいる。
今のカイルに掛かっている重圧は計り知れないものがあった。
大好きな家族の首に巻き付いた爆弾の解体処理をしているかの様な感覚、しかもそれに失敗すれば、カイルの為に集う何十万人もの罪なき命が失われる。
正直、カイルは怖かった。
シルフィーに悟られ慰められ、ミリナと話してごまかして、ユウナの前に決壊し、逃げ道を用意された。
震える身体をユウナがしっかりと抱きしめる。
そう、かつて《魔人》の前でユウナがしてくれた時と同じように。
そして、あの時カイルは......
「もう......嫌だよ」
「......」
「大切な誰かを見捨てて逃げるのは、何もしないのは、俺は嫌なんだ!!」
そういったカイルの身体は震えが止まっていた。
それが分かってユウナは一言、感情の分からない声で、
「そう......」
と言った。
そんな、ユウナにカイルは告げる。
「だから、ユウナ。何があっても死なないで、負けても良いから、勝てないと思ったら逃げて、クラークの時みたいに、命を粗末に戦わないで」
「......」
「レンジが、ユウナと俺は、誰かの為になら死んでも良いって、思ってるって言ってた。確かに。俺は自分が死ぬことは怖くない。ユウナ達が死ぬ方がすごく恐い。きっとユウナも俺と同じ気持ちなんでしょ?」
「......」
「だから、ユウナが逃げーー」
「ぐだぐだうるさいのよ!」
グギギギギギ、
ユウナはカイルの言葉を遮って、骨が軋む程強く抱きしめながら、
「私は、カイルの為に死ぬ気なんか無いわよ! 何でそんなことするのよ! 自意識過剰よ? 馬鹿じゃないの?」
「ひでぇ......」
地味に衝撃を受けているカイルをユウナは鼻で笑う。
「私はカイルを守って、カイルに......カイルに......(白馬の王子様になって欲しいのよ)......死んだら意味ないじゃない!」
「ん......。だよね」
ズバン!
カイルを突き飛ばしたユウナがズンズン先を歩いて行く。
「逃げないなら、行くわよ! カイルの敵は私が斬るわ」
「......うん」
二人は、戦場への道を選んだ。
もう言葉は要らないと、背中で語るユウナにカイルが付いていく。
最初にあった、ユウナの固さも取れ、カイルの震えも無くなった。
最高の状態これ以上は必要ない......のだが、ユウナはカイルに聞こえない様に一言呟いた。
「......カイルが恐いと言うのなら、仕方ないから、あの女達も守ってあげるわよ......」
ユウナは、カイルの為に戦う。
そう、ずっと決めて居たのだった。