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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
四章 アクアラの水魔剣士
33/58

二十三 魔道神の教え

 《魔道神》バァリロリロはこの世に産まれ落ちたその時から、既に驚異的な魔力を誇っていた。

 しかも、その圧倒的過ぎる魔力はバァリロリロの身体を常時包み守っている。

 それは、あらゆる攻撃から身を護れるという意味なのだが、身を守るのは何も攻撃から、だけではなかった。


 バァリロリロを包む魔力の加護は、他者を弾いてしまう。

 バァリロリロが、他者を触っただけで、殺せてしまうほど強く弾き返す。

 初恋の相手すらも、バァリロリロが触れることは出来なかった。

 唯一無二の血の繋がった兄を除いては......


 魔力が多いバァリロリロは長い寿命を持っていて、身体の成長は遅く、誰の温もりも感じられず。

 唯一無二の兄を時の流れに持って行かれ、いつの間にか《魔道神》にまでなってしまっていた。


 バァリロリロの事を触れらる者は千年以上もの間、誰一人居なかった。

 だからもし、バァリロリロは自分に触れる人間が現れたなら、その時はその人間と結ばれる。

 そう思っていたのだった。

 そして、千年の時を経てようやくバァリロリロは自分に触れられる初めての他人を見つけたのだった。


 ■■■


 「わたくしお兄様に操を立てますの」

 「いや......子供に操を立てられても......」


 カイルのお腹に抱き着いて頬御ずりをしながら、目にハートマークを浮かべているバァリロリロ。

 そんなカイルをオーランが、


 「お師匠様を幸せにするのじぁああああああーーっ!」


 と、騒ぎながら、腹の中では


 (これでお師匠様が丸くなられるのじゃ!)


 厄介者払いができると喜んでいるのだった。

 因みに、バァリロリロの正体が齢千歳の《魔道神》で有ることを言おうとした、ジーニアスは突如吹き荒れた突風に流されて星になってしまったのだった。


 「あの......カイルさん......」

 「お兄様に何のようがありますの?」

 「ひぃっ!」


 マリンがカイルに、ユウナやシルフィーの事を聞こうとしただけで、カイルのお腹に頬ずりをし続けるバァリロリロがジロリとマリンを睨んだ。

 それに、ガクガク膝を震わせて涙目になるマリンに首を傾げながら、カイルは本題に入る。


 「......一応、秘密の話なんだけど。まあ別に隠すこともないのかな? オーラン。シルフィーはローゼル王国が正式に保護してくれた」

 「うむ。あの国なら、今のワシよりは安全じゃ」

 「それと......」


 カイルはオーランやマリンにシルフィの事を話し、三ヶ月後にミリス教国と一戦交える事を伝えた。

 それにマリンが息を呑んでビクビク震えはじめ、オーランは、それならジーニアスを連れて行くのじゃ!

 と、言っていた。

 ジーニアスも、シルフィーを護るために今まで生きてきたので、それに異論は無く、首を縦に降ったのだった。


 そして、カイルは三ヶ月後の戦争まで、魔法や剣を磨くことにした。

 

 そんなカイルに魔法を教えたのは、オーランでも、ジーニアスでもなく、


 「お兄様は魔法を特別視しすぎですの。どんな高等級魔法も、使うのはお兄様ですの。お兄様の魔力で、お兄様が精霊を使役していますの? 精霊がお兄様を使っている訳では無いのですの」

 「はぁ......」

 「良いですの? 魔法は、道順を踏めば誰でも全ての魔法を使えますの。あ......お兄様の場合は精霊適性が異様に低いですのね。でもですの! そういう方は、《触媒》を使えば良いだけですの! 例えばですの......」

 「はぁ......」


 バァリロリロが教えていたですの!!


 カイルはバァリロリロが《魔道神》だとは知らないが、魔道を極めんとするものが、バァリロリロに教えを乞おうと思うと死ぬ程厳しい様々な試練を乗り越えて、ようやく教えを受けられるのだ。


 オーランも若い頃、バァリロリロの無茶苦茶な試練を乗り越えて、弟子にしてもらった事を思い出しながら、バァリロリロの指導する姿を影から見ていた。

 生徒達と一緒に。


 「今の教えを忘れるで無いぞ! お師匠様が、あんなに丁寧に教えて居るのは見たことがないのじゃから!!」 


 と、バァリロリロの弟子だったオーランは叫びながら、弟子時代を思い出す。

 

 『お師匠様! 風魔法の《タイフーン》が、上手くいきませぬ』

 『そう......無能ですのね。死ぬまでやり続ければ出来るようになりますのよ』

 『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーっ!』


 とまあ、それぐらい普段は適当に教えるあのバァリロリロがカイルには手取り足取り、教えていた。

 

 『またできないのですのね......次に失敗したら殺しますの』

 『で、出来ました! 神級魔法遂に出来ましたぞ!』

 『それぐらい出来て当然ですの』

 『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーっ!』


 オーランは過去を思い出しながら、少し涙を滲ませていた。


 そんな時カイルが、上級魔法を何度も失敗しながら成功させる。


 《鉄の精霊よ! 波動を持って、殲滅し給え!! メタル・ノバァ!!》


 初めて成功した、ノバァ系統の魔法にカイルが少し喜びそうになって首を振る。


 「まだまだ、こんなんじゃ実戦には役立ない」


 そんなカイルの肩に乗りながらアゴをカイルの頭にぺとりと、つけているバァリロリロは、目を輝かせた。


 「凄いですの! 凄いですの! お兄様が上級魔法を使えましたの!」

 「でも......こんな成功率じゃ駄目なんだよ」

 「平気ですのよ。一度成功したのですから、また出来ますのよ」

 「そうかな?」

 「当然ですの。それより今日はもう魔力を使わない方が良いですの」

 「でも」

 「魔法は一日にしてならずですの。どんなに練習してもお兄様の魔力は少ないですの。だから、お兄様の場合は如何に効率良く魔力を練れるようになるか、ですの。それには使いすぎは良くないのですの」


 オーランは知らない。

 弟子を何人も才能が無いからと殺してきた《魔道神》があんなにキャピキャピしている姿を見たことが無かった。


 「ん......そうだね。そうするか。剣の訓練もしたいし。それにしてもバァリは魔法に着いて博学だね?」

 「魔法は嗜む程度ですの」


 (嘘をつけ! お前が大陸最強の神級魔道師だろ! お前より出来る魔道士はこの世にいねぇーよ!!)


 と、バァリロリロに殺された人達は突っ込んだかもしれない......


 ■■■


 ある日の昼過ぎ。

 マリン・マリッジは物陰から一心不乱に剣を振るうカイルを覗き見ていた。

 キョロキョロと良く確認して、カイルにずっと伝えたかった気持ちを伝えることにしたのだ。


 その気持ちは最近カイルと居るととても強くなって居る。

 もう抑えられない。

 今日こそは! と意気込んでカイルを確認して、邪魔な少女(バァリロリロ)が居ない事がわかりほっとした。


 マリンは物陰から這い出して、剣を振るうカイルに声をかけた。


 「か、カイルさん!」

 「ん? マリンか。どうしたの?」


 カイルはマリンが来たことで一度剣を振るうのを辞めて、腕で顔の汗を拭いながら用件を聞こうとする。

 そんなカイルにマリンは緊張を走らせる。

 これから言おうとすることはマリンの運命を変えてしまう事になる。

 でも、マリンは言わなくてはいけなかった。もう逃げるのは辞めにしたのだから。

 

 膨らんで来ている胸を押さえてドキドキさせながらカイルに伝える。


 「カイルさん。その......私......カイルさんと......その......け......けっ......」


 恥ずかしく言い淀むマリンの言葉をカイルは紳士に待ってくれている。

 マリンはそれに安心感を覚えて、だからこそカイルに伝えたくなった。


 「私......カイルさんとけ......稽古したいんです!! 私にも剣を教えてください!!」


 言えた......。

 マリンはずっと詰まっていたモノが取れた様な快感と満足感で顔を朱く紅潮させた。

 そんなマリンに。


 「びくった......一瞬。マリンにも結婚しよとか言われるのかと思ったよ」

 「へ? 私とカイルさんが結婚? 何故ですか?」

 「ああ。気にしないで、こっちの話、マリンはマリンだったって事だし。はぁ~良かった良かった」


 カイルはここ最近、ミリナ、アンナ、更にはシルフィ~にまで結婚を申し込まれていた。

 だから少し自意識過剰気味になっていたのだ。

 特にマリンの真剣な表情は、ミリナ達に迫られた時の緊迫感に似ていて、少し身構えてしまったのだった。

 しかし、マリンが色恋ではなく、単純に技能を求めていたことにカイルはどこかホッとしていた。


 「カイルさん。よくわかりませんが、馬鹿にしてますね!」

 「してないしてない」

 「ムキーー!!」

 「怒らない、怒らない。それより稽古したいんでしょ? 剣は?」

 「はっ! ......忘れてきてしまいました......」

 「おい!」


 カイルはマリンの間抜けさに軽く笑ってしまう。

 剣の稽古で剣を忘れるってとからかうカイルにマリンが顔を真っ赤にして取ってきます!

 と、駆けていこうとする。


 「あ! 良いよ。マリン。俺が作るよ」

 「作る?」


 そんなマリンをカイルが止めて、右手を掲げる。


 《鉄の精霊よ・頑強なる剣を、創造し給え》


 カイルの詠唱が紫電の光をバチバチと放ちながら、一本の鉄の剣を錬成する。

 無骨だが、片手でも両手でも握れる一般的な剣だ。


 「うーん。イマイチかなぁ......。ほらマリン。あげる。最近、バァリのお陰か魔力と込め方が分かってきたから、そう簡単には壊れないと思うけど......今はこれで我慢して」


 そういいながらマリンはカイルから剣を受けとると、すぐに分かった。


 (これ私の持ってる剣よりも名剣ですぅ~)


 マリンが結構大金を叩いて買った剣よりも、カイルがイマイチと言いながら即興で作った錬成剣の方が圧倒的に良い剣で有ることは間違いなかった。

 

 「これ......くれるんですか?」

 「ん? ああ。要らないなら別に良いけど。終わったら返してくれればーー」

 「もらいます! いただきます! 一生大事にします!」

 「いや......そんな剣、すぐ壊れるよ」


 カイルは訓練や戦闘でこれよりも優れた錬成剣を使うが、それでも数戦で壊れてしまう。

 強い相手なら何本も壊れる。

 だから、マリンにあまり大切にされるほどの剣でも無いと思っていた。

 が。

 マリンが持った瞬間。

 名刀だと確信したように、カイルが作る錬成剣は市販の、汎用剣よりも数段優れている剣だったりする。

 それだけ、カイルは鉄魔法の錬成剣の錬成魔法の習熟度はかなり高かったのだ。


 マリンは剣をジロジロ品定めしてから、パッと顔を上げてカイルの手を取ると、


 「カイルさん! カイルさん! 将来はこれを売りましょうよ!」

 「は? 将来?」

 「カイルさんがこれを職にしてくれるのなら、私、カイルさんと結婚しても良いですよ?」

 「何で上から目線なの!? 意味わかんないし! お前、そういうことだけは元気いっぱいなんだな」


 何時もおどおどしているマリンが、ハキハキとそんなことを言い出すのでカイルは呆れて肩を竦めるしかない。

 

 「何を言ってるんですか! 私これでも貴族令嬢ですよ? 婚約者に求めるのは安定した収入に決まってるじゃないですか!」

 「妙に生々しいな。夢も希望もなにもねぇ......。ユウナみたいに、白馬の王子様と結婚したいとか言ってる方が、全然マシだな」


 マリンの現実主義にカイルがうぇーとなりながら、如何に幼なじみが乙女だったかを理解してしまう。

 すると、マリンが口を押さえて「あぁ......」とそういえばそうだったな、という声を発した。


 「カイルさんは、ユウナさんの事好きでしたね。私は応援していますから!」

 「......っ! お前! 馬鹿! 何言ってんだ! 頭にお花畑か!」


 ポロッと零れたマリンの呟きにカイルの心臓がどくんと跳ね上がる。

 何故か必死に否定して、マリンを叩こうとするがマリンは、カイルに続ける。


 「っえ? だってカイルさん。何かとユウナさんの話しするじゃないですか、カイルさんと話していると必ずユウナさんの話題が出ますよ。それってカイルさんがユウナさんを好きってことですよ! ははぁ~ん。もしかして気づいていませんでしたか?」

 「............」

 「でも、大丈夫ですよ! ユウナさんもカイルさんの事が......」

 「マリン」

 

 ヒートアップしていくマリンをカイルが、一声で止めた。

 名前を呼ばれたマリンはビクンッと跳ね上がる。

 殺気。珍しくカイルか殺気を感じた。

 カチャリとカイルは剣を構え、


 「訓練するぞ」

 「っえ......や......その......ごめんなさい! 調子に乗っていました! 優しく、優しくしてくださあぁ~いっ!」

 「問答無用!! 逝けぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーっ!」


 その日、マリンは記憶が飛ぶまでカイルと付き合いをしたのだった。

 そして、ハァ.......ハァ.......ハァ.......と二人して地面に寝転がりながら、空に浮かぶ白い雲を見ていた。

 そこで、マリンは、カイルにもう一つだけ伝えて置くことにした。


 「カイルさん.....私もミリス教国との戦争参加かしますからね」


 カイルは目をつむって、大きく深呼吸して呼吸を調えてから、マリンは見ずに天空を見上げた。


 「マリン。マリンに人は殺せないよ。この前だって、始末したのはジーニアスなんだろ?」

 「.....」

 「マリンはマリンの夢を叶えるべきだよ、勇者になるために、あの(エクスカリバー)を抜いたんだろう?」

 「.....」

 「だったら、戦争なんてしてないで.....」

 「私は!」


 カイルがマリンを連れていく気がないことに、マリンは気づいて声を張り上げた。

 このままカイルに綺麗に纏められたら、もうカイルの隣には立てないと、そう思って。

 

 「私は! 確かに臆病で、怖がりで、弱虫で、弱くて、何も出来ないです。でも! 友達が困って居るときに、命を懸けて戦って居るときに、一人だけ何もしない程、落ちぶれてはいません! カイルさんが何と言おうと、私は行きます! シルフィーさんの為に戦います。勇者として戦いますから」

 「.....そうか」

 

 マリンの決意は本物だった。

 それにカイルも気がついてただ一言そういった。



 ■■■


 カイルは、魔法学校で、マリンやジーニアス。更にはバァリロリロと共に修業に明け暮れた。

 午前中はやけに目を輝かせて褒めるバァリロリロと共に、魔法の特訓。

 午後は、マリンに剣を教えながら、実践的に打ち合っていく。


 マリンとカイルでは、実力的に差はあったのだが、マリンの熱心な態度にカイルも付き合っていた。

 人に教えることで、自分もスキルアップしていくのだった。


 そして、それが終わるとジーニアスと割とガチなバトルを繰り広げる。

 そうして、カイル、マリン、ジーニアス達三人は、三ヶ月間でかなりの実力をあげたのだった。


 別れを惜しむバァリロリロに、カイルが「皆と仲良くして待っててね」と言ったので、残された生徒たちや、まだ怪我を負っているオーランの命が救われたりもしていた。


 カイルがそうして、ローゼルメルセデスに旅だった後、オーランの病室にバァリロリロが謀りに来ていた。

 オーランの寝ているベッドの上にえいっしょっと懸命に登ったバァリロリロは、カイル達が向かった方角を見ながら、オーランに言う。


 「わたくしも.......行けたらよかったですのに.......魔王にさえ.......」

 「お師匠様が戦争に参加したら、それは虐殺になりますぞ」

 「ですね.......。けれどわたくし、お兄様がもしも帰らぬ時は、その時は.......人類全てを滅ぼしてしまいすの」

 「恐ろしいのじゃ.......」


 《魔道神》バァリロリロが本気になれば、学園都市から一歩も出ずとも、世界を滅ぼせる力が本気である。

 止められる者は、バァリロリロと同じ、神級の位に至る《剣神》ヘイジィータ、だけなのだが、ヘイジィータも、剣の聖地に大昔に封印されているため、出ることは出来ない。

 そもそも、バァリロリロと遠距離で戦い始めたその時点で、負けは決まっているようなものだ。


 そんな、今すぐにでも悪魔になるかも知れない、バァリロリロが滅ぼすと言った、その時の言葉は冗談では無く、ナイフのように鋭く、カイルにはけして見せなかった、バァリロリロの狂気の部分だった。


 「オーランも回復限界で、回復出来ませんでしたし、お兄様が向かう敵地には、剣帝や魔法帝級の使い手が居ると聞きますの.....」


 回復限界。回復魔法で何度も回復していると、回復出来なくなってしまう。その状態を回復限界と名称する。

 オーランは、リンクルドと戦った時、自分に何度も回復魔法をかけて、遂にその状態に至ってしまったと、言うことだ。

 回復限界状態の、オーランはどんな高級回復魔法も意味をなさない。

 だから、三ヶ月もベッドに寝転ぶ羽目になっていたのだった。


 「そうじゃな.....ミリス聖教軍《聖騎士ランスロット》《暗黒騎士ガンスロット》、あやつらを敵に回すと危ういかも知れんのぅ.....」


 大陸に名を轟かせている。二人の騎士の名をオーランが出すと、バァリロリロがピクリと反応する。


 「呪い殺してやりたいですの」

 「.....出来るのですかのぅ?」

 「.....世界中を巻き込んでも良いのなら出来ますの.....」

 「.....カイル君に、皆と仲良くするように言われたじゃろ! 駄目ですぞ!」

 「やりませんの。お兄様まで巻き込みかねませんの」


 物騒な事を話す、白髪(シラガ)老人と、茶髪幼女だった。


 ■■■


 ローゼルメルセデス王国、ローゼルメルセデス城、王の間にて、カイルとマリンは、三ヶ月ぶりに再会を果たしていた。

 と、言っても、ミリナがカイルに子犬の様に飛びついて、クンクン鼻を鳴らした後、


 「ムムム!? カイル様! またですか! またなんですか! 何故いつも! 何時も!! いっつも! カイル様は違う女の子の匂いを漂わせて居るのですか!」 


 とキレて、カイルが、バァリロリロの事をミリナに説明するというお約束展開をしていただけだったりする。


 「ふむ......? バァリロリロ? どこかで聞いた名だな」


 アンナが、正真正銘、大陸最強の魔女《魔道神》バァリロリロの名に、違和感を覚えるが、カイルが


 「バァリは普通の少女だよ。ミリナみたいに、天真爛漫でかわいいんだよ?」


 と、告げると、少女と齢千歳の老婆がつながるわけも無かった。

 アンナは思考を切り替えて、カイルが連れてきた、少年、《魔道王》、ジーニアスを睨覗して、仕草だけでジーニアスに「名乗れ」と伝えた。

 ジーニアスは、既に部屋に入ると同時に、膝まづき、こうべ)を垂れていた、


 「僕......私は、《魔道帝》、オーランの義息、ジーニアスと申します。この度は、我が友カイルの要請に従い駆けつけました。《聖女》、シルフィア様の一の騎士であります。この戦争に尽力させていただきたい」

 「うむうむ、カイルの友かぁ~、楽にせい、楽にせい」


 ジーニアスの口上を聞いて、アンナの機嫌が良くなる。

 なお、ジーニアスの言う【シルフィア】は、シルフィーの本名だ。


 楽にしろと、言われたジーニアスが、ゆっくりと顔をあげて、アンナの顔を見てその美しさに息を飲み込んだ。

 キラキラと光る金の髪、シルフィーにも劣らぬ顔立ちと、絹のようにきめ細かな白い肌、そして、力強いその、瞳の金色こんじき)の光。

 何をとっても、申し分なく美しかった。

 だから、チラリとまだ若い王女、ミリナとじゃれているカイルと、アンナの距離感の近さに疑問を持った。


 「失礼ですが......女王陛下。カイルとは、どのような関係なのでしょうか?」


 そんな、質問に、アンナは待ってましたとばかりに、瞳の金の輝きを強くした。


 「ハハハハハハハーっ! 私とカイルは! 爛れた関係だぁあああああーっ!」

 「......」

 「もう既に、AとBは済ませてあるのだ! 後はCだけだな」

 「......」


 思ったよりも、元気な女王、アンジェリーナ・ローゼルメルセデスにジーニアスが、絶句してしまう。

 ジーニアスは、カイルと女王が爛れた関係では困ってしまう事があったからでもあるのだが、


 「お姉様! カイル様とCを出来てないとは遅れていますね! 私は既に......終わっていますよ」

 「な、ん、だと!?」

 「あの夜は熱い夜でした。カイル様が激しくて......」


 ミリナのとんでも発言に、アンナがテンプレで驚きをあらわにすると、七騎士の一人、ローゼもぐらりと揺れ動く。

 全ての視線がカイルに、集まると、カイルはミリナの頭をよしよし撫でながら、


 「ABCって何?」


 と、聞き返す。それに、ミリナが耳元で、


 「Aは接吻、Bは床を同じにすること、そして、Cは床で重なーー」

 「ああ、もういいよ。だいたい分かった。それとジーニアス、この王家、だいたい何時もこんなノリだから、もう二度と頭下げなくて良いよ」

 

 ミリナがキスマークを作りながら迫って来るのを、手で抑えて、カイルは呆れてしまう。

 しかし、ジーニアスは、カイルが何処まで言ったのか、気になって気になって眠れなくなるほどだった。


 「カイルさん! ......と、ジーニアスさん......それにマンリさん。お久しぶりですね?」

 

 そこで今回の、主役、シルフィーが姿を現した。

 ずっと登場のタイミングを計っていたりした。

 シルフィーは、カイルへ密着するミリナとカイルの間に自然に身体を入れて、そっと寄り添った。

 そして、


 「カイルさん......私とも......Aから始めませんか......?」

 

 にこりと笑顔でそういった。

 そんな、シルフィーにカイルが、ローゼル王家に三ヶ月も置いてしまったことを全力で後悔するのだった。


 因みに、カイルはそれでもミリナの頭を撫でているのだった。

 なぜでしょう?


 「ハァ......っ。天然ものの金髪はやっぱり良いなぁ~~。ミリナの細くて、聖水の様にサラサラしている金髪が、あるから、この馬鹿な国を真剣に憎めないんだよなぁ~ハァ......最高ぅ」

 「変態だな!」←アンナ

 「素敵です」←ミリナ

 「銀髪では駄目なのでしょうか......?」←シルフィー


 そして、ジーニアスは思った。


 (なんで、こんな奴が、こんなに美少女にモテるんだろう......)


 しかし、ジーニアスは、シルフィーの為に生きている。

 そう、幼い日に誓った。

 シルフィーが、カイルと居ると、良く笑う以上。

 ジーニアスは応援するしかないのだった......


 そんな、少し混沌とした中で、バンッと大きな扉が開き、やけに凛とした大きな声が響いた。


 「ふん! 元気そうじゃない。カイル!」

 「ユウナ!」


 その声に、カイルが一段と、声のボリュームをあげて、元気になった。

 カイルの視界に映ったのは、三ヶ月の修業で、一回り大きくなった、幼なじみのユウナの姿。

 鍛えたのであろう、腕や足のしなやかな筋肉、そして、顔や身体中に残る、切り傷の後、それだけでユウナがどれだけ壮絶な修業をしていたかが伺えた。


 駆け寄ろうとする、カイルを手で制止したユウナは、ボロボロだが、優秀な愛剣を抜いた。

 そして、駆けた。


 それに、七騎士の一人、ライトニングが驚愕と共に、反応する。

 ライトニングはまだ、ユウナを迎には行っていなかった。

 つまりは、ユウナは一人で、聖地の結界を越えてきたと言うことだ。

 選ばれし《王級》以上の剣気纏って、

 

 それを、たった三ヶ月で、ユウナはそこに至ったと言うことだった。

 女王、アンジェリーナに闘気を向けたユウナを止めるべく、ライトニングがユウナの前に割って入った。

 ユウナとライトニングの剣が交差する。

 その一瞬。ユウナはライトニングに呟いた。


 「あんたは、もう、越えたわ......」


 そして、剣を横にスライドさせ、ライトニングの力をいなしながら、くぐり抜けて、ライトニングの首に峰打ちを打ち込んだ。


 「ぐっふ......」


 首に受けた衝撃で意識を失った、ライトニングの背をユウナが踵で踏み付ける。

 

 「ふん! けがわらしい男ね。そのまま地面を舐めてなさい、私に触った事を後悔しならがね!」

 

 ぐりぐりと背中を踏み抜きながら、ユウナは七騎士一人一人に、剣を向けて、


 「全員、踏んであげるわ。踏まれたいマゾからかかって来なさい!」


 ニヤリと強気に笑うのだった。

 そんな、ユウナに七騎士のシッコクや、グリーヌが飛びかかる。

 突如、戦場と化した王の間をカイルは唖然としながら、


 (なんか! ユウナが目覚めてるぅうううううう!?)


 一体何がユウナに起こったんだろうかと、真剣に頭を悩ませていた。


 数分後。


 床に、横たわる騎士四人、ライトニング、グリーヌ、シルバ、シッコクの背をガシガシ踏みながら、ユウナはローゼとウーロンに剣を向けた。


 「何よ? あんた達は踏まれなくていいわけ? あんた達が終わりなら次はあのクサレ金髪女王よ? カイルをたぶらかした事、後悔するまで、踏んでやるわ」

 「私はカイル様に忠誠を誓っていますので、カイル様の幼なじみである、ユウナ様に剣を向ける訳には行きません。例え、女王に牙を向けていたとしても」


 いや。護れよ。

 と、叫ぶ、女王アンジェリーナに、ローゼはそれは、それだけは出来ません! と無駄に固い意思を見せる。

 ユウナはそれで、ローゼから視線を外して、ウーロンをチラ見する。


 「僕は......剣士ではないので、あなたと、この距離で戦っても、意味はないと思いますが? それでも戦いますか?」

 「......ふんっ あんたはカイルに剣を向けてないから、許してあげるわ!」


 ぷりぷり怒りながら、ユウナはアンナの前に歩いて行き、首に剣を押し当てる。

 そして、


 「次は、金髪女王! あんたよ! 私と戦いなさい! 騎士団長の力を私に見せて散りなさい」

 「ま、待て......。ユウナ殿......私は」

 「問答無用!」


 ゴクリと唾を飲み込んで、焦るアンナ。

 それもそのはず、アンナは七騎士の一人を担っているが、アンナに戦闘能力は皆無。

 自身の能力スキル)の制約で武器すらまともに装備出来ない。

 持てるのは、攻撃力のないレプリカの騎士剣のみ。


 しかし、ユウナはアンナもまた、歴戦の七騎士の一人、しかも、七騎士を束ねる、だいいち騎士団長、誰よりも強いと思い込んでいた。

 何より、カイルが頼るほどの女騎士! その実力私にみせなさい! とユウナが剣を振り上げたその時カイルが叫んだ。


 「ユウナ! アンナは辞めて!」

 「......っ!」


 (カイルの頼みは絶対よ!!)


 ブンッ。


 ガリッと奥歯を噛んで、剣をアンナの首筋で、寸止めした。

 そして、ユウナはアンナを親の敵の様に睨んでから、


 「まあ......。いいわ。あんた......貴女のお陰で、カイルの隣に立てるのだから」


 小さくそう呟いた。

 その後、倒れた七騎士をもう一度ずつ踏み付けてから、ユウナはカイルに抱き着いた。

 因みに、シルフィーとミリナは怯えて声も出ない。

 マリンも、あわわわっと呟いて居るだけで、何も出来ない。


 「カイル......戻ったわよ」

 「うん。お帰り」


 何時も通りの、家族のハグをしてから、カイルが、


 「でも、急に居なくなったら駄目だよ。心配するだろ! それに、こんなに身体中、傷跡つけて! 女の子なんだから、顔と身体は綺麗にしないと駄目だよ。ユウナの夢のお嫁さんになれなくなるよ? 貰ってくれる人居なくなるからね。 後でアンナに治して貰うんだよ。全く......レンジに怒られちゃうよ」


 ぺたぺたとユウナの身体を無遠慮にまさぐって、傷を確認しはじめる。

 そんなカイルを、ユウナは穏やかに鼻で笑ってから、抱き着く力を、家族のそれとは一線を越えるものにして、呟いた。


 「良いのよ......身体なんて、いくら傷付いててもカイルは気にしないでしょ?」

 「まあ......俺はね、でもーー」

 「なら良いのよ。だって私はカイルのーー」


 ユウナがカイルに積年の想いを伝える為に、顔を紅潮させて、息を飲んだ。

 普通なら邪魔をする、ミリナとシルフィーも今は、ユウナの行動に怯えて動けなかった。

 だから、ユウナとカイルを邪魔する者は誰一人居なく、ユウナの言葉はカイルへと届いた......

 

 「カイル! ユウナ! 俺も力を貸すぞ」

 「「レンジ!?」」


 そこで、新たな来訪者、遥々、学園都市から、戦争の調べを受け駆け付けた、カイルとユウナの頼れる兄貴分レンジが到着したのだった。

 レンジとしては、久しぶりにあった、カイルとユウナに声をかけただけなのだが、倒れる騎士達と、ユウナの様子に、


 「......悪い。ユウナ。邪魔だったか?」

 「..............................。少しね。でも良いわよ。そういう時もあるわ。それよりも......」


 察した。

 そんなレンジにユウナが優しく微笑んで許してから、視線を鋭いものに変えて、レンジの隣に立つ、《雷剣帝》 ライボルトを睨みつけるのだった。


 「やぁ。久しぶりだな。可愛子ちゃんと、鉄剣使い、色々あったが、今回は水に流してーー」

 「ーーっ!!」


 ブン!


 ライボルトの姿を見とがめたその瞬間。

 ユウナが、何も言わずに、剣を抜いて、ライボルトへと駆けた。


 その明らかに常人を越えた、超常の域のスピードにライボルトは一瞬でユウナの力を理解する。

 明らかに、三ヶ月と少し前にのした少女とは別物。 そう判断してから、ライボルトの悪い癖。強敵との死闘を開始してしまう。


 ユウナの剣気とライボルトの剣気がぶつかり合って、弾ける。

 高揚するのが抑えられないライボルトは剣を抜きかけた、が。


 ユウナの剣を止めたのは、ライボルトの前でユウナを迎え撃ったレンジだった。


 「辞めるんだユウナ。今は、こんな所で戦いあってる場合じゃないだろ? 俺達の敵は、ミリス聖教軍。......目的を間違えるな」

 「............そいつは、カイルの傷つけた! 私に許せと言うのかしら?」

 

 レンジとユウナが、険悪ムードで睨み合った。

 二人の、《剣気》が高まっていく。


 ユウナの目的はあくまで、カイルを護ること、一度カイルに危害を加えた、ライボルトを見逃すユウナでは無かった。

 そして、レンジもまた、ユウナとライボルトとを、ここで戦わせては正真正銘の殺し合いになってしまう為に引けなかった。

 だから、決裂した。


 ユウナとレンジの姿が霞む......


 「ふん......一度よ。レンジが言うなら、一度だけは見逃してあげるわ。でもカイルに剣気を向けたら、次は、本気で、殺すから」

 「ああ、そんなことをしたら、俺もライボルトを許さない」


 寸前で、和解したのだった。 

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