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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
三章 魔法学院の聖女
29/58

十九 白天使の正体

 《水の精霊よ、激しい潮の激流で、彼の者を流し給え!》

 

 ホォーイに対し、マリンは全く恐れずに魔法を発動する。

 水のジェット噴射がホォーイを狙い撃つ!

 しかし、ホォーイの闇結界魔法は既に完成している為に、水のジェット噴射はホォーイの結界によって阻まれてしまう。


 これが、仮にも王級の値にいる魔道師の力。

 マリンも好戦していたがそれでも、ジリジリと死へのカウントダウンが近づいて来る。


 ゾクリ。


 震えそうに身体と心を必死に勇気を奮い立て何度でも魔法を発動する。

 今のマリンに出来ることを全てする。


 「私はもう! 逃げたくないんっです!! 《水の精霊よ!!(アクア・ジェット)》 私だって! 私だって! 運命ぐらい変えられちゃうんです!! 《水の大精霊よ!!(ハイ・アクア・ジェット)》」


 ビリリリ。


 マリンの執念の攻撃は段々と重みと威力を増していく。

 そんな、マリンの奮闘をカイルはユウナを寝かせてから、


 「よく言った! マリン。一緒に運命って奴を変えてやろう」

 「カ、カイルさん!」


 マリンの隣に立ってそういっていた。

 カイルは錬成剣を握り直して、ホォーイへと迫りながらマリンへと叫ぶ。


 「背中は任せた!」


 そういわれた事が嬉しくて、マリンは喜々として返事をする。

 

 「はいっ!! 《水の大精霊よ、彼のものに加護を与え給え(ハイ・アクア・プロテクション)》」


 水の加護がカイルに力を与え、カイルは錬成剣をで、結界を叩き斬る。


 「こなくそがぁあああああーーっ!!」

 「なっ! おれっちの結界が!?」


 バリン。


 カイルの錬成剣とホォーイの結界が同時に割れる。

 カイルには武器が無くなり、ホォーイには盾がなくなった。


 《鉄の剣よ!!》

 《闇の波動よ!》


 それに対してカイルは剣の錬成を、ホォーイはカイルを殲滅することを選んだ。

 それは、明確に闘いの結末を分けることとなる。


 もしここでカイルがなんらかの攻撃魔法を発動していたなら、まだわからなかった。

 しかし、カイルはホォーイを前にして錬成という、一手間に時間をとられた。

 だから、ホォーイの《ダーク・ノヴァ》は確実にカイルの命を刈る!


 かったぜ! ホォーイはそう思った。

 そして、男を倒した後にまつ、楽しい時間を思い描いていた。


 ブスっ!!


 「グホっ!? なんで......おれっちの魔法が直撃......したはず!?」


 しかし、結末はカイルの剣がホォーイの腹を突き刺すと言うものだった。

 確実にカイルは高威力の《ダーク・ノヴァ》に飲み込まれた。

 それは、気合いで何とかなるほど、世界は甘く作られていない。


 なんで? そのホォーイの疑問は、


 「馬鹿か、お前が逸っただけだろう。俺にはマリンの加護があったんだぞ。しかも一度目より、強大な」

 「......っ......チクショー......おれっち.......死にたく無い.......」


 確かに、《ハイ・アクア・プロテクション》で、カイルは加護に守られていた。

 しかし、それが本当に王級魔道師の《ダーク・ノヴァ》を防げるかどかなど、やって見なければわからない。


 あの一瞬で、仲間に命を懸けたカイルと、得意な結界魔法ではなく、攻撃を魔法を選んだ、その差でホォーイは負けたことを悟る。

 

 「お前が.......ユウナを襲おうとしなかったら、命ぐらいは助けてもよかった.......」

 「死にたく.......無い」

 「かける情けは、無いんだよ! 逝け」


 ズブリと、カイルは乱暴にホォーイから、剣を引き抜いた。

 倒れるホォーイと共に、学院の結界が再始動する。

 さらに、ホォーイが張っていた、一年A組や他の場所の結界も壊れたのだった。


 カイルはホォーイが死んだ事を確認してから、すぐにユウナの元に駆け寄る。


 「ユウナ!!」

 「.......カイル。流石ね.......(惚れ直したわ)」


 ぐったりと、憔悴しきったユウナを今すぐ治療しないといけない。

 カイルはそう思い、ユウナに手を伸ばそうとすると、ユウナは辛そうに首を横に振った。


 「私はカイルを守る盾になりたいのよ.......脚を引っ張る重しは嫌よ」

 「馬鹿! ユウナ。俺とユウナの仲でそんなこと気にするなよ」

 

 一番大切なユウナの身の安全、それがカイルにとって今、一番大事な事だ。

 そう.......そのはずだった。


 「行きなさい.......。カイルにはまだ、戦う理由があるのでしょ?」

 「.......」


 カイルの脳裏に移るのは、白い天使の諦めきった、あの微笑み。

 確かに今すぐにでも、カイルは行きたい。カイルの失意の絶望を微笑みだけで救ってくれた少女の元に。

 けれど、ここまで来る途中に広がっていた地獄を思い出すと、動けないユウナを置い行くなんて選択はカイルに取れるはずも無かった。

 

 だって、ユウナはカイルにとって命より大事な人なのだから。

 苦苦しさを噛み締めて、ユウナを介抱しようとするその手を、マリンが掴んだ。


 「カイルさん。私が残ります」

 「マリン.......でも.......」


 マリンは、もう十分、凄い。

 それでも、カイルにとって半身のユウナを預けられるかと言うと、それは無理だった。

 言い淀む、カイルにマリンは


 「私、もう怖いですから。ここから、一歩もたりとも動きません!」

 「.......ハハ。.......怖い、か」


 マリンの瞳に恐怖の文字は無い。

 

 「何が怖いんだよ?」

 「大切な人を失うことが、です」

 「.......だから、まるまる、俺のパクリじゃねぇーか」

 「ふふ。言ったはずです、私は貴方を敬慕していると」


 力強い、マリンの目は任せろと言っていた。

 カイルに行けと言っていた。

 

 「.......分かったよ。.......戻ってきた時。ユウナに傷が一つでも着いていたら、泣かしてやる」

 「あわわっ! ユウナさん。もうボロボロですけど!!」

 「治せ」


 バギリ。


 「イチャイチャと! カイル! 死になさい!」

 「っえ!? なんでよ!」


 嫉妬の怒りに燃えるユウナは、


 「学院長室よ、あそこに私の魔力が流れたわ.......」

 「分かった。ユウナ、マリンが死んでも、マリンに護ってもらうんだよ」

 「分かってるわ。どうせ身体が全然動かないわよ.......カイル。私、カイルに伝えたい事があるから、全て終わったら、話を聞いて」

 「..............そう.......なんだ。分かった」

 

 カイルはそういって、学院長室へと走るのだった。

 

 カイルが居なくなった所で《断罪者》達がぞろぞろと湧いてきた。

 それを見てマリンが腕を巻くって、


 「ここから先は一歩たりとも通しません!! 《水の精霊よ!!》」


 立ち向かうのだった。

 そんな、マリンの姿にユウナは一人、奥歯を噛んでいた。


 「私がもっと強かったら.......カイルの変わりに戦えるのに.......もっと強く.......カイルと同じくらい強く.......ならいないといけないわ.......」


 .......ユウナはそうしてカイルの背を眺めていた。


 ■■■■■


 解析儀式魔法アナライズがシルフィーを分析する。


 本名 シルフィア・ミリス。血液型A バストD 身長145.......魔力総量特A 魔法適性、風、水.......


 次々とアナライズの効果によって、白い少女が分析されていく。

 その中で、クラークが確認したかった、能力(スキル)が明らかになった。


 能力(スキル) 《女神(ミリス)の移し身》《聖女の心眼》


 《女神の移し身》.......女神ミリスの加護を得る。

 《聖女の心眼》.......心眼で見つめた相手の天命を見る。


 この、二つ。

 クラークは、それを確認して、


 「本当に、生きていたとは.......ミリス教会の《聖女》シルフィア」

 「.......何時か、この時が来るのは分かっていました.......」


 疲れきった様にシルフィー.......否。

 シルフィアは呟いた。

 それに、クラークは


 「ミリス教団に本物の女神がいる.......。《聖女》の存在が露見すれば、ミリス教団の大司祭達の権力が揺らぐ.......それどころか、ミリス教自体も揺らぎかねない。それがお前の死ぬ理由だ」

 「.......はい。分かっています。.......私は全てを受け入れます」


 十二年前、ミリス神聖皇国のミリス教会に生まれた。シルフィアは、その存在の特異性からすぐに、異端として処刑された。

 しかし、《聖女》の処刑に反対した教会はシルフィアでは無い。無垢な少女を変わり身とした。

 そして、シルフィアを国外へと逃がし、人格者としてしられる古の賢者、魔道帝オーランにシルフィアをシルフィーとして預けた。


 オーランは快くシルフィーを預かり、守ることを誓った。

 オーランの義息子である、ジーニアスは《聖女》守る騎士になった。

 いつの日か、ジーニアスと婚約し、《聖女》としてミリス教に戻るために。


 今まで、何度もジーニアスやオーランがシルフィーの身を守り隠しつづけてきた。

 

 「そうか.......私は任務を実行する。今ここに《異端者》シルフィア・ミリスを処刑する。最後の言葉位は聞くが?」

 「..............人々に.......神の加護あれ」

 「ふっ」


 手を組んで目をつぶるシルフィーには恐怖は無かった。

 だから、シルフィーは願った。人々の安寧を。困っている人に救いを

 そして、最後にであった、カイルの無事を。


 「.......カイルさんに幸運を」

 

 シルフィーは最後に美しい微笑みを浮かべてそういった。

 それに.......


 「幸運なんて.......俺はいらない! 俺が欲しいのは君の微笑みだ!」

 

 《断罪者》達を切り伏せ、闇魔法王ホォーイを下したカイルが駆けつけた。

 その声に目をつぶっていた、シルフィーが目を開ける。


 「よかった.......無事だったのですね?」


 慈しみあふれるシルフィーの言葉に、カイルはガクンとしてしまう。


 「それは俺の台詞だよ!」

 

 その突っ込みにシルフィーは


 「ふふっそうですね?」


 と、楽しそうに笑うのだった。

 そんな、シルフィーにカイルは言う。


 「シルフィー。生きることを諦めるな! 君が諦めないなら、俺が君を救い出す! 俺の手を取れシルフィー!」

 「フハハっ。どうする? お姫様? 王子様のお迎えだぞ。まあ.......行ったら奴も殺すがな」


 手を指し述べるカイルに、クラークは嘲笑と共にシルフィーの心を折に行く。

 それに、シルフィーが俯いてしまう。


 「シルフィー!! 君が望むなら俺はーー」

 

 バシン。


 「.......あれ?」


 カイルの言葉が終わるより早く、シルフィーがカイルに走りより、抱き着いた。

 余りにも、唐突でカイルもクラークも反応に遅れる。

 そんな中、シルフィーはカイルをしっかり抱きしめて。


 「はい! あなたの言葉なら.......私は信じます」

 「......あれれ?」

 「ふふ.......私は全てを受け入れます。あなたの救いの手も.......受け入れますよ?」


 最初から、シルフィーはそういっていた。

 それでも、シルフィーのカイルを掴む腕が震えている事に気づいた。


 「なんだよ.......シルフィー。怖かったの?」

 「.......はい.......とても.......私はもっとあなたと.......話したい.......もっと仲良くなりたいです。死にたくなんて.......無いんです」


 シルフィーは、怖かった。

 誰かの救いの手を取ることは、その人を異端の道に落とすことになる。

 だから、全ての運命を受け入れる.......つもりだった。


 けれど.......。


 『シルフィー!! 俺は運命を信じるって言ったけど、それは、全ての努力をした後での話だ』


 カイルに優しく強く抱きしめられ、


 『誰も、気に入らない現実を、運命、と言って諦めろって言ってない』


 言われた言葉は


 『諦めることを、運命、なんて言葉で飾るんじゃねぇ!!』


 確かにシルフィーの胸に刺さった。


 だから、決めていた。

 もしカイルが、間に合うのなら。


 「私はあなたに救われたい!」

 

 力強く抱きしめる、シルフィーの頭をカイルは撫でて言う。


 「任せろ! 必ず君を救って見せる! そして、教えてあげるよ。運命が簡単に変わるって事をな!」

 「はい」


 カイルはそういって、錬成剣を魔剣王クラークへと向けた。


 


 学院長室は、役五十平方メトルの長方形型の部屋で、そこまでの広さはない。

 カイルと、クラークの距離も、十メトルあるか無いか、それぐらいだった。


 そんな中、カイルは護るべきシルフィーを背に庇って、クラークと相対する。

 カイルがクラークの動きに全神経を研ぎ澄ませる中、クラークは警戒一つせずカイルへと、言葉をかける。

 実際、カイルとクラークの力の差は歴然だった。


 「異端審問会に盾突くと言うことを理解しての行動なのか?」


 クラークの言葉に、シルフィーがぎゅっと背中の服を握った。

 腹を括りはしたが、カイルを異端の道に落とす事だけは、シルフィーの心が張り裂けほどの痛みを発していた。

 

 そんな、シルフィーの手を優しく握って。


 「.......関係ない」

 「なんだと?」


 力強く、後ろに居て良いんだよと、そう言うように、はっきりとカイルは言った。


 「知らない誰かが決めた、ルールよりも! 世界中の人類を敵に回すことよりも! シルフィーの命の方が断然重い!」


 カイルはシルフィーの腕をしっかり掴んで離さない。

 そんな、カイルの優しさに、シルフィーの瞳からは涙の粒が溢れ出す。

 なんせ、カイルはシルフィーの為なら世界を敵に回してでも、護ってくれると言ってくれたのだから。


 「ユウナの言葉を借りて言おう」

 

 カイルは錬成剣を握り締め、シルフィーの腕を離して、クラークへと駆けながら言う!


 「俺のシルフィーに手を出した! それだけで俺の戦う理由は揃ってる! だから逝けぇええええーーっ!」

 「ふん!」


 カイルの全身全霊の攻撃を、クラークの大剣の一振りで、バリンと錬成剣を割りながら終わらせた。

 圧倒的に強い、クラークの一撃を身体を反らして何とか、かわして、ゼロ距離で、錬成剣を錬成しながら斬りかかる。


 《鉄の剣よ!》


 鋭く迫る、カイルの剣にクラークは、大振りの大剣で.......反応した。 


 「フン!」


 ブォオオオオン!!


 強烈な剣圧で、カイルは吹き飛ばされる。

 たまたま、掠っただけで、錬成したばかりの剣も壊された。


 「くっ.......!!」

 「カイルさん!!」


 吹き飛ばされるカイルを、シルフィーは受け止めた。

 

 「シルフィー。ありがとう。 離して」

 「ふふ.......離しませんよ?」


 嬉しそうに微笑みながら、シルフィーはカイルをグイッと抱きしめた。

 

 「は? え? ちょっ!? シルフィー!? 離してよ! 危ないって」

 「カイルさん。あなたが私の《背徳の騎士》になってくれるなら.......騎士が護る、姫の事も信じてください」

 

 シルフィーは、そういって。


 「ふふ。カイルさん.......汗でぐっしょりです」

 「.......ごめん.......?」

 「ふふ。《私の騎士様に神の奇跡あれ》」


 カイルの身体を白い光に包んだ。

 

 「え? これ.......」

 「私の能力(スキル)の一つ《女神の移し身》の力です。私が誰よりも信頼し敬愛する方に、女神の奇跡を与えます」


 シルフィーの聖女の力を惜しみ無く、カイルに授ける。

 シルフィーは、もうすでに、カイルに全てをかけると決めていた。


 「奇跡って何なの?」


 カイルの当然の疑問にシルフィーは


 「それは.......わかりません?」

 「..............シルフィー。実はそんなのばっかだよ!」

 「.......だって!」


 カイルの呆れた叫び声に、シルフィーは珍しく少しだけ声を荒げた後、顔を紅く染め上げて、俯きながらいう。


 「.......初めて.......ですから.......こんなの.......カイルさんとしか.......したこと無いんです!!」

 「その、凄く紛らわしい言い方!! 俺が何かしちゃったみたいじゃん!」

 「.......カイルさん。そういうことは.......後で.......良いですか.......?」


 何!? 俺がいけないの!? とカイルは頭を悩ませるが、クラークは、そんなカイルの動揺を待つほど優しくは無い。


 王級剣士の《身体強化》で人外の速さでカイルに迫り、大剣を振り落とす。


 「《鉄の壁よ》ーー《鉄の壁よ》ーー《鉄の剣よ》。シルフィー!! 離れてろ!!」


 そんな、攻撃の前に鉄の壁を二枚作りだし、シルフィーを突き飛ばして、更に紫電の光を放ち、錬成剣を錬成する。


 バン! バン! ぐにょり


 しかし.......。

 二枚の壁を壊されて、カイルの身体を大剣が容赦無く潰した。


 「ぇ.......?」


 トマトが飛び散るように、肉と、血が飛び散ってシルフィーの白い身体を赤く染め上げた。

 それに.......シルフィーは言葉にならない声を発していた。


 「ふん! 次は、お前だ」

 「..............」


 言われて殺意を向けられても、シルフィーに出来るのは力無く膝と手を着くことだけだった。

 感情が、乱れすぎて涙すら出なかった。

 ただ.......一言。


 「私の.......生きる意味は.......無くなりました.......」


 そういった。

 だが。


 「む!?」


 クラークは気づいた。

 カイルの肉片が、血が骨が、再び集結し始めていることに。

 余りの事に、クラークさえも動きを止めて魅入ってしまう。

 

 すると、集まったカイルの肉体が結合し再生し、そして、


 「うああああああああああああああああああーー!? あれ? 生きてる?」


 復活した。

 確かにカイルは斬られた感覚があった、だがその次の瞬間にカイルは斬られずにここにいた。

 というのがカイルの気持ち。


 しかし、傍から見ていると、恐ろしく悍ましい。


 「死者蘇生.......神の加護の正体か」


 そう。どこの世界もどこの宗教も、禁忌として忌み嫌う。《死者蘇生》に過ぎなかった。

 しかし、


 「確かに神ならば、それを成し遂げる.......《神の移し身》.......死者蘇生.......まさか!?」


 クラークの視線がシルフィーへと釘つけになる。

 そこでクラークはある仮定にたどり着く。が。今は任務の続行が先決だった。


 シルフィーは泣きながら、カイルの事を抱きしめて

 

 「カイルさん.......カイルさん!!」

 「.......シルフィー.......大丈夫。俺は平気。そして、分かった。シルフィーの能力は.......」


 カイルの言葉を引き継ぐのは、クラークだった。


 「死者蘇生.......では無い。どちらかと言えば、蘇生付与.......か」

 

 クラークはそういって大剣を構える。


 「だが.......何度も使える訳では無いようだな」


 そう、既に奇跡は起きて、カイルから光は消えた。

 そして、シルフィーが奇跡を起こせるのは一日一回。

 それが聖女の限界だった。


 「ハハ! もともと、命は一つ! 関係ないね!」


 だが、そんなこと、普通は最初からそうだとカイルは気にしない。

 が。


 「それでも、やっと分かったよ。お前のその剣!」

 「.......」

 「魔法を壊す、魔剣だな?」

 「.......」


 わざわざクラークは答えないが、それは当たっていた。

 クラークの持つ剣は《魔断剣》

 あらゆる魔法を断つ剣だ。


 だからこそ、カイルの錬成剣は一振りで壊されて、壁の魔法も意味をなさなかった。

 つまり、魔道師キラー。


 どう頑張っても、魔道師では歯が立たない。

 更にそれを使う剣士は、王級に至る達人。


 七騎士達と同じ領域の剣士。

 ただでさえ、超天才付与術士のアンナのドーピングと、望叶剣の力をフルで使って互角の相手。

 それが、カイルが唯一身につけた、魔道の力を断つ剣をクラークは持っている。


 「ハハ! ヤバイ。詰んでる.......」


 それに気づき、カイルはシルフィーを背にして逃亡しようかと、作戦を変える。

 正直勝てる気がしなかった。


 「逃げるのか? それも良い。だが、ここで俺達《断罪者》を殲滅しなければ、お前達に残されるのは異端の汚名と死の絶望だけだぞ!」

 「そんなこと! 言われなくても分かってんだよ!」


 ここで、断罪者を逃がしても、カイルとシルフィーが逃げきっても、どちらも異端にされて世界の敵。

 しかし、ここでクラークを倒し、外にいる断罪者を殲滅すれば、まだカイル達には未来がある。


 「どうせ死ぬなら、俺と戦って逝け」

 「ふざけんな! 死ぬ位なら戦わねぇーよ! 本末転倒も良いところだ」


 カイルが本気でシルフィーを抱き上げて逃げ去ろうとした、その時。


 ビギン!!


 空間に亀裂が走った。

 その現象を理解できたのは、ただ一人クラークだけだった。


 「リンクルドの.......魔道帝狩りは終わったのか」


 ビリリ。


 空間が避ける音とともに、リンクルドが姿を現した。


 ミリス教団、大司祭直属、異端審問会執行部隊《断罪者》の三人の幹部の一人、空間魔法帝級の地位に至りし白髪の老人。

 

 作り出した異世界に引きずり込めば無敵になるリンクルドと、魔道の道を帝級に上り詰めた、魔道帝オーランの戦いがついに終わったのだった。


 それで、カイルの敵は王級剣士クラークと、帝級魔道師リンクルドの二人.......

 最早、活路無し。

 だが、


 「それでも、俺は諦めない!」


 カイルは一切迷いなく言い切るのだった。


 「この程度の絶望で俺が諦めると思うなよ! こんなちっぽけな絶望なんて! 俺が全てぶち壊す!!」


 それは、流石に虚勢に過ぎなかった。

 しかし、それでも、カイルは諦めることをしなかった。

 だからこそ、まだ先がある。


 「ぐぼっ」


 バタリ。


 倒れたのはリンクルドだった。

 更に、空間の穴から、もう一人の老人がボロボロになりながらはい出てきた。


 「うっほ~死にかけたわい!!」


 そう、魔道帝オーランだった。


 「ありえん! リンクルドの異世界で想像主に勝つなんて」

 「若いのうぅ。神殺しは、魔道の基本じゃぞ?」


 それで、形勢は変わる.......


 「が、ちょっと.......張り切り過ぎたのう.......動けんわい」


 .......そんなことも無かった。

 リンクルド戦で、オーランは殆ど魔力を使い切り、身体は動ける状態ではない。

 リンクルドが、呑気そうにしているが普通なら死んで居てもおかしくない。

 それ程の激闘が、カイルの知らない所で行われていた。


 帝級対帝級の本気の殺し合い.......そうそう起きることではないのだ。


 そんな状況の変化は、


 「要するさっきと何も変わってないじゃんよ!」

 「.......一応.......一つ。絶望は壊せまし、た.......?」

 「やめてやめて、一応、俺の決めゼリフ! 引っかき回さないで!!」

 

 そんなカイルは.......オーランを見て.......


 「オーラン!! それだ! お前の変わりにシルフィーを護ってるんだから、鉄刀丸を返せ!!」

 「そうじゃのぅ.......今のお前さんなら.......使えるかも知れないのう.......それに.......他に手は無いようだのう《行くのじゃ》」


 オーランが何やら高度な改変魔法で、鉄刀丸をカイルに渡す。

 そして、カイルは鉄刀丸を引き抜いた。


 その瞬間。

 魔法の知識を知ったカイルには分かるようになっていた。

 鉄刀丸に眠る精霊が、どれ程、とてつもない力を秘めているかを、そして、鉄刀丸の真の力の使い方を、理解できた。


 「む!? 魔剣か!? ならば、使わせん!」


 クラークは、亜音速でカイルに迫る。

 カイルの持った剣の力の末恐ろしさが分かったから。


 例えどんな魔剣で有ろうともクラークの《魔断剣》なら触れただけで壊せる。

 だから、クラークは瞬速でカイルを仕留めにかかった。


 「《鉄刀丸》護れ」


 カイルがそう発声しただけで、カイルの回りに壁が発生する。

 勿論、クラークはその壁に《断魔剣》を打ち付けた。


 ガン!


 「な!? 壊れんだと!?」


 剣が鉄を斬ることは出来なかった。

 そんな鉄の中で、カイルはシルフィーに言っていた。


 「もう、大丈夫。俺は負けないし、必ず君を護るよ」

 「.......はい。私はあなたを信じます」

 

 そんな、カイルの胸にシルフィーは手を沿えてしな垂れかかる。


 「だから、どうか、私にも手伝わせてください」

 「シルフィーも?」


 そんな、シルフィーの瞳が赤く光る。


 「はい.......ふふ。私だって戦えるんですよ? 《未来の、氷の精霊よ、白氷の槍となりて、彼の者を貫き給え》ふふ。あなたの苦しみの半分を私がいただきますね?」 

 「ん?」


 静かに微笑むシルフィーがより一層カイルに密着して、幸せそうにしているが、シルフィーの魔法はいつまで経っても発動しなかった。


 「カイルさん。どうかこのままで.......私を信じてくれますか.......?」

 「うん。俺を信じてくれるシルフィーの事を、俺は信じるよ。良いよ。鉄刀丸を持った俺は、仲間を傷つけさせはしないから《鉄神の鎧》」


 シルフィーごと鉄の鎧を纏い着て、鉄の壁を晴らして、クラークを見つめる。

 

 「一つ忠告だ。今、降参するなら、殺しはしない」

 「ふん! 調子に乗るな、小僧が」

 「そうか.......残念だ」


 カイルはそういって、鉄刀丸をただ振った。

 すると、鉄の槍の嵐がクラークを襲う。


 それを、クラークは神業の剣技で凌ぎ切り、カイルに接近する。

 しかし、カイルの鉄に阻まれる。

 明らかに、カイルの鉄の生成速度と、硬度、更には鉄刀丸の使用の魔力消費が激減していた。


 今までは、宝の持ち腐れだったとカイルは思う。

 イグニードやライボルトに馬鹿にされて当然だった。

 うまく使えば、何より強く、祈れば祈るほどその力を増していく。それが望叶剣。


 鉄の海に拒まれて、それでも、クラークはぎりぎりの所で堪えていた。

 だから、カイルは命を消費する変わりに、《鉄刀丸》の力を使う。


 「《鉄刀丸、終らせ.......」

 「いえ。.......カイルさん。あの方の運命は決しました.......」


 その前に、いつまでもカイルの胸に手を当てて寛ぐシルフィーがそういった。

 すると、


 グサリ。


 突然。大きな氷の槍がクラークの胸を貫いた。


 「ぐっ.......はぁっ.......これは.......?」

 「《聖女の心眼》で見た、あなたの運命に氷の槍を撃ち込みました。.......私だけの固有魔法《未来魔法》とでも、言っておきます.......か?」

 「.......見事。俺の剣を.......持っていけ.......」

 


 赤く光る、シルフィーの瞳がクラークの天命がなくなくなった事を確認した。


 動かなくなったクラークを見て、カイルは鉄刀丸を鞘に戻し、能力を解除した。

 そして、シルフィーもまた.......


 「くっそ.......シルフィー.......悪い.......俺.......限界.......死なないで.......くれ」


 それより先にカイルが鉄刀丸の使用の反動で気絶した。

 シルフィーは倒れるカイルを優しく受け止めて、


 「はい.......私は.......もう、理不尽な死を受け入れません」


 そういって、赤い目を開けた。

 その目に移った、カイルの残りの天命に.......


 「.......そうですか。あなたの未来が見えない理由は.......決まっていない.......からではなく。.......後、約二年の.......天命だったから.......ですか」


 正確にカイルの残りの寿命を見てしまい。シルフィーは悲しみで涙を流した。

 そして、赤い目を閉じて再び開いた時には白い瞳にもどっていた。


 「.......それでも、私は神に祈りましょう。あなたに神の御加護が有りますように。そして、あなたの隣に私がいれますように」


 こうして幹部を全て失った、《断罪者》メンバー百人は、学院の結界から出ることも叶わずに、マリンや回復したジーニアス、そして、ユウナ、また講師や生徒たちによって殲滅された。


 エピローグ


 《断罪者》のオーラン魔法学院、襲撃から、一晩明けて翌日の朝方。

 カイルは、学院の施設、保健室で目を覚ました。


 そんなカイルに寝ずに付きっきりで看病していたシルフィーが、カイルの手を握りながら声をかける。


 「おはようございます。.......カイルさん」

 「.......はっ! シルフィー! 状況は!?」


 カイルはすぐに、自分が戦いの最中、気絶したことを思い出して、立ち上がろうとする。

 でも、カイルの手を握るシルフィーが、ニッコリ微笑んで、


 「全て終わりましたよ。学院に侵入した《断罪者》は皆、ジーニアスさん達が撃滅致しました。もう危険は有りませんよ.......?」

 「.......そう、なんだ。悪い.......役立たずで.......」


 カイルは最後までシルフィーの事を護れなかった事に苦さを感じて目を伏せる。

 

 「ふふ。カイルさんが.......幹部を二人も倒して下さったからですよ.......」


 そんな、カイルをシルフィーは優しく励ますが、それでカイルは思い出した。

 シルフィーがクラークに止めを刺した、そのことを。


 「シルフィー.......君に.......嫌なことをさせちゃったね」

 「.......いえ。生きるために必要なだったんです.......それに、私がしなければカイルさんが、その御心を傷つけてでも、してしまっていたでしょう.......私はあなたの半分くらいは.......痛みを分けてもらえたでしょうか.......?」


 カイルは、既に人を殺すことを割りきっている。

 ユウナを家族を、傷つけた人に容赦をするつもりは無いし、救うと決めた人以外に気を配る配慮もしない。

 そういう覚悟を持ってカイルは、誰かを救うと、護ると言っている。

 だから、ホォーイの命ごいを冷血に切り捨てた。


 けれど、シルフィーは違う。

 シルフィーは、誰より清く、人を愛し、慈しむ。

 全ての人を平等に大切に思っている。

 それは、命を狙ってきた、クラーク達のことも含めて。


 それなのに、カイルはシルフィーの手を血に染めさせてしまった.......

 守りたい、人の手を.......カイルは護れなかった。


 落ち込んで、シルクのシーツを握り締めるカイルの手をシルフィーは持ち上げて、指を絡める。


 「私は、私の意思で、人をあやめました.......。カイルさんが気にすることでは無いですよ?」

 「でも.......」

 「この手が、血にまみれても、心がどれだけ穢ても.......」


 カイルの腕を引いて、ポンとカイルの背中を抱きしめて、ホロリと雫を流して、


 「神の教えに逆らってでも.......私はあなたと対等でありたい.......(あなたのモノになりたい)と、そう思ったのです」


 大きなシルフィーの柔らかい胸に顔を当てられて、精凜とした爽やかな香が鼻を刺激していた。


 .......そんな、ちょっと絵になる二人を、病室の外からそっと見つめているユウナがいた。

 ユウナも、ずっと寝込んでいて、起きてすぐにカイルにあいに来た.......らこれだ。

 すぐに乗り込んで行かなかったのは、ユウナにはシルフィーの気持ちを理解できてしまうからであり.......


 「カイルが幸せになるのなら.......私じゃなくても.......良いのよね」


 ボソリとユウナはつぶやいていた。

 ユウナはこの後に何が起こるか分かりながら、チクリと痛む胸を押さえてそれでも、その時を待つのだった。

 邪魔出来ないのは.......ユウナも同じ事をするためにカイルの所まで来ていたから。


 そして、シルフィーはドクン、ドクンと心臓を鳴らして、顔を見られないように、カイルのことを胸に押し付けながら、


 「.......カイルさん」

 「ん? と、言うか離れなよ。胸、当たってるよ?」

 「ふふ......私の.......全てを.......護る、騎士になってくれませんか?」

 「.......全てを護る騎士? 良く分からないけれど、シルフィーの事なら俺は世界を敵に回そうと、君の味方で居つづけるよ.......そういえば、これからどうするの?」


 あれれ? とシルフィーは肩透かしを貰ってしまう。

 確かに、これからの事も大事だが、聖女シルフィーは今の言葉の真意の方が、世界を敵に回すことよりも大事なのだ。


 更に、ぐっとカイルを力強く抱きしめながら、


 「.......ですから、これからは.......カイルさんの元で暮らしたいのです.......?」

 「ん? 俺と一緒に学園都市に来るの? 確かにそうすれば、少しは異端審問会の目はごまかせるかも.......ね」


 でも、根本的解決には至っていない。

 ならば、やはり、大元を潰すしか無いかな.......

 結局。異端審問会も、無限では無い。

 並以上の使い手がワラワラいるが、話を聞く限り、シルフィーを異端として処刑したいのは、教皇の権力とミリス教の池盤が揺らぎかねないから.......

 

 ふざけるなと! 怒りたいが、怒ったところで状況は変わらない。

 今回の襲撃失敗で、どう動くかは分からないけれど、誰がシルフィーを護っているかも向こうは分かっていない。


 オーラン学院の生徒たちに暴力を振るった事実がある限り向こうも公には出来ないはずだ。

 さてと.......これから.......


 「カイルさん!」

 「ん?」


 カイルが必死にシルフィーの今後のことを考えているが、シルフィーはシルフィーで、カイルの瞳を強く見つめて言うのだった。


 「..............私と.......神の契りを結びませんか.......?」

 「は.......? 神の契り?」


 いや、流石にカイルも知っている。

 ミリス教の婚約は女神ミリスの前で、永遠の愛の契りを交わすこと.......

 その修道女たる、シルフィーの台詞はそのまま、婚約を申し込む意味になる.......。


 以前、ユウナがうっとりとしながら「こういう風に結婚したいわ~」と言っていたので確かだ。

 だが、カイルは信じられないモノを見るように、シルフィーの事をジトッとみて。


 「冗談? シルフィー、今、結構真面目な話だからさ、からかうのは後にしてよ」


 と、言った。

 けれど、シルフィーは困ったように微笑んで、


 「神に誓って二言はありません.......。私はあなたと添い遂げたい.......嫌ですか.......?」

 「嫌って、事は.......ありえないけど。シルフィー胸大きいし、神秘的な程、可愛いし」


 金髪じゃ無いけれど.......とは、言わない。

 困惑気味のカイルに、シルフィーはもう一歩踏み込む。


 「契りを結んでいただけたら.......私は.......私の全てで、あなたを癒せます.......」


 シルフィーは、頬を真っ赤に染めながら、大きな胸を触る。


 「この、返しきれないあなたへの恩と、溢れる気持ちを持って、私はあなたと一つになりたい.......です」

 「.......?」

 「カイルさんは.......女の子の身体に興味はありませんか.......?」

 「.....................っ!」


 シルフィーは例えるのを辞めて、はしたなさを恥ながら、カイルに懇願する。

 それに、カイルは一瞬、ピンクの想像をしてから、


 「それだ!!」

 「え? えっと.......今のは、了承で良いのですか.......?」


 そう叫んでいた。

 カイルはぐいっと、シルフィーの腕を引き寄せて、大切な家族にそうするように、抱きしめた。


 「シルフィー! 君のことを信頼できる人に任せたい!」

 「はぁ.......?」

 「俺を信じてくれるかな?」

 「.......はい。それは、もう.......私はあなたを信じます」

 「ありがとう」


 で、学院が《断罪者》襲撃で臨時休校をしている間にカイルはシルフィーを連れて。


 「この私に、お前の愛人を匿えと言うのか.......カイル.......お前は馬鹿なのか!?」


 ある場所に来ていた。

 カイルから話を聞いたその人物は、偉そうに玉座に座りながら心底不機嫌そうに、カイルを罵倒する。

 それに、シルフィーが眉をひそめるが、カイルは気にしない。


 「おい! アンナ! 頼むよ。助けてくれ.......俺とお前の仲だろう?」

 「ハハハハハーーっ! 嫌だ!! カイルの愛人なんて匿いたく無い!」


 豪快に笑って拒否る。金髪の美少女にして、大陸一の軍事力を持つ、ローゼルメデセスの第一王女、アンジェリーナ・ローゼルメデセスの御前にいた。

 

 その場にいるのは、アンジェリーナとカイル、そしてシルフィーの三人のみ。

 

 「異端者を匿うのは得意だろ? 頼むって.......」

 「私の妹を異端者扱いするな!」


 しかし、カイルの無茶な頼みは当然アンジェリーナも断る。

 異端者を匿うのはそれ程、危険な事だから、だ。


 「カイルさん.......あの.......王女様と、どういった関係なのですか.......?」

 「え? アンナと.......それは」

 「人には言えない関係だ!」


 おい! と、カイルはアンジェリーナの頭をぶったたく。

 

 「むぅ.......。婚約者だ」

 「っえ!?」


 おい! と更に叩こうとして、辞める。


 「まあ.......間違っては無いかな?」

 「.......っ!」


 とまあ。掴みはそんな感じだった。

 嫌がる。アンジェリーナにやはりダメかと、あきらめてカイルがシルフィーを連れて帰ろうとしたところで、


 「ダメだ、とは、言っていない!」


 と、アンジェリーナが言うのだった。


 「しかし、だ。カイル。自由にとは行かないぞ? 良いのか?」

 

 そんな、アンジェリーナにカイルはニヤリと笑って。


 「助かるよ、流石は俺の相棒だ。と。シルフィー、どうかな?」

 「.......そうです.......ね。ローゼルメルデセスに匿って頂けるのなら心強いです.......が。その.......私を匿うと言うことは、ミリス教を敵に回すと言うことですが..............?」


 シルフィーはアンジェリーナに視線を向けた。

 カイルは掛け値無しに、アンジェリーナを信頼しているが、シルフィーは行きなりの展開で何も分からない。

 だから、アンジェリーナの瞳を見た。


 そんな、疑いの視線にアンジェリーナは豪快に笑う。


 「ハハハハハーーっ! 安心するのだ。私はカイルの婚約者だぞ。カイルの敵になるのなら、それは、そのまま、私の敵だ!」

 「.......っ!」


 シルフィーはそれだけで分かった。アンジェリーナの言葉に嘘はなく、カイルと同じく、アンジェリーナもまた、運命を切り開く存在だと。


 「そして、私の敵ということは!」


 アンジェリーナがそういうと、大きな扉をバタッと開いて、七人の騎士達が入室して、剣を掲げる。

 七人の騎士の中には、ローゼや、グリーヌ、シルバの姿があった。


 「我が国、ローゼルメルデセスの敵だ。新生ローゼルメルデセス七騎士団の騎士達よ! 女王、アンジェリーナ名の元に《聖女》シルフィー殿を国賓として向かい入れる! あだなす者は切り捨てよ」

 「「「「「は!!」」」」」



 七人の騎士団長達が声を揃えてアンジェリーナに剣を捧げたのだった。

 

 「アンナ! お前最初から!」

 「当たり前だ! カイルの頼みを私が断るとでも思ったか愚か者! ハハハハハーーっ!」


 .......うざい。


 カイルは素直にそう思った。

 と、そこで。


 「カイル様ぁあああああああーーっ!」


 金髪の小さい少女が駆けてきて、カイルに飛びついた。

 

 「お会いしたかったです! ああ! ああ! あああ! カイル様の匂い.......久しぶりです」

 「ミリナ、元気そうで何よりだよ。身体に異常は?」

 「ありません.......ム?」

 

 飛びついて来たミリナは、カイルの匂いをクンクン嗅ぐと、急にクイッとカイルを睨めつける。


 「カイル様から、姉様以外の女の香が!!」

 「.......!」

 「クンクン.......クンクン。二人.......いや! 三人!! どういうことですか!?」

 「うっ! .......ミリナ、落ち着こうよ」

 

 正確にカイルが抱きしめた女性の数を言い当てたミリナは、そのままカイルから離れると、クンクンと近くにいるシルフィーの事を嗅ぐ。

 そして!


 「ああ! 何て事ですか! この方から濃厚なカイル様の香が!! まさか! カイル様を奪いに! キーっ!! 姉様! 処刑しましょう! 今すぐに!」

 「「「「「.......」」」」」


 静まり返ってから、頭を痛そうに押さえた、アンジェリーナが。


 「ローゼ。連れていってくれ、今は邪魔だ」

 「はいぃ.......では。ミリナ様、行きますよ。.......カイルさん。後で部屋に来て下さい.......私もお話し.......したいです」

 「は!! ローゼ。あなたまさか! 許しません!! 許しません!! 絶対にぃ!!」

 「ささ、行きますよ」


 嵐のように、ミリナは去っていったのだった。


 気を取り直して。


 「まあ、後でミリナの部屋に顔を出していってくれ」

 「俺.......処刑されるの?」

 「いや.......多分、カイルでは無い。シルフィー殿の方だ」

 「.......」


 カイルは暫く黙ってから、シルフィーの肩にてをおいて、


 「暗殺には気をつけてね」

 「あはは.......」


 シルフィーは苦笑するしかなかったのだった。


 そして、カイルが帰る時。


 「あの.......カイルさん」

 「ん?」


 シルフィーは勇気を出して問いただす。

 

 「私との契りの話は.......考えてくれましたか?」

 「.......ああ.......それ、ね」


 色々思うこともある。何で俺なんだって問いただしたくもなる。

 けれど、カイルはそれは、聞かないことにした。

 だから、ひたすら真摯に答えるのだった。


 「君の気持ちは、うれしいけれど.......。今の俺には、まだ誰かと一緒になるなんて事は出来ないよ」


 それでも、カイルは少しだけ、シルフィーとならそうなっても良いかなと、思うのだった。

 それだけ、カイルは少しずつ、変わっていた。

 ユウナやレンジとの未来しか頭になかった考えが、カイルにほんの少しだけ、違う未来も有るかも知れないと思うのだった。


 「まあ.......。何にしても、実は俺には幾つか約束が有るから、それまでは止まれないんだ」

 「約束.......ですか.......?」

 「うん。先ずは、ユウナ達のとの約束、一緒に勇者学校を卒業しようって」


 だから、それまでは、誰の気持ちも答えることは出来ないと、


 「それ.......結婚してても出来ませんか.......?」

 「ん? あれ?」


 できるかもと、カイルは思う。


 「ふふっ。では!?」

 「いや! 実はもう一つ」

 「何ですか.......?」

 「ミリナの呪いを解くまでは.......あれ?」

 「ふふ.......。分かりました。今のカイルさんには、確かに無理なよう、ですね?」


 しもどろになっている、カイルに微笑みかけるシルフィーは、

 カイルに一歩近づいて、手を添えながら、胸に寄り掛かった。


 「シルフィー!?」

 「カイルさん。カイルさんが、もし前ではなく、安らぎを求めた時に、その時こそ、私の全てを貰ってください」

 「.......シルフィー」

 「その時に再びあなたに想いを伝えます、ね.......?」

 「.......ありがとう」


 何故か、カイルはお礼を言っていた。

 それを聞いて、白い天使は嬉しそうに微笑んで。


 「いえいえ.......これからは、私はあなただけの聖女になるだけですよ? 《背徳の騎士》の聖女になります」

 

 そういっていつまでも、カイルに身体を寄せているのだった。



 《三章終わり》





 しまった。結構初期予定とズレてしまった。


 主に聖女の行く末が.......。

 あと、金髪王家の行く末も


 と、言うことで、四章に行きたいですが、プロット練れて無いので二ヶ月ぐらい休みます。

 もっとかも。


 どうしようも無かったら三章最後の流れを変えます。

 あ! そういえば途中から、書き方を変えて三人称にしてみたんですが、どうだったかな...... 

 感想とか評価とかあれば、モチベーションアゲアゲになり早く更新できるかも!!

 



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