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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
22/58

十二話  『別れは少女の唇で』

 超高温の爆炎がイグニードの身体に収縮し鎧となる。

 収縮された爆炎は、もはや炎と言うより、ドロドロの溶岩の様なものが、鎧の表面を覆っている。


破壊神(ハカイシン)爆炎鎧(バクエンガイ)


 防御に特化した《鉄神の鎧》とは、その性質が真逆。

 

「カイル! 覚悟しろ。そして、あらがってみせろ!」

「ッ!」


 その鎧は身を護るものではなく、敵を撃滅するための鎧。

自動防御(オート・ガード)》ではなく、《自動攻撃(オート・アタック)


《破壊神の爆炎鎧》からマグマが勝手に吹き出すと、マグマ弾となって、カイルを追尾する。


「鉄刀丸!」


 カイルが鉄刀丸を使って、マグマ弾を防ごうとするも、生成した鉄壁がドロリと溶けてしまい壁にもならなかった。


 絶対防御の鉄刀丸が、防御出来ない攻撃。

 しかもそれが、鎧のオプションでしかない。

 ……また、勝ち目が見えなくなった。

 むしろ、負けしかない。


 それでも!


 斬ッ!


 カイルは斬り裂いた。


「だからどうした!! これがどうした!! 言っただろう。今の俺は、幾らでも強くなる!!」


 カイルの纏うオーラが、一秒毎に増大している。

 それは、命のオーラであり、魔力のオーラであり、力のオーラである。


「終わらせよう! イグニード!!」

「ああ……次で、終いだ。カイル!!」


 炎の剣士と、鉄の剣士は同時に、最大のオーラを剣に収縮させた。

 

「《鉄神大鋼鉄剣(てつじんだいこうてつけん)》!!」


 鉄刀丸が、かつてないほど、黒々と染まり、禍々しく変容し、巨大化する。


「《紅蓮爆炎大刃(グレンバクエンダイジン!!」


 炎流丸が、空間が歪むほど、紅蓮に染まり、猛々しく変容し、巨大化する。


「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!」

「破ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!」


 互いに、鎧まで、剣に収縮させ、全身全霊で振り抜いた。

 つばぜり合い!


 凄まじい火花と爆音に、ぶつかり合っている剣が、次元を裂いて、全く別の真っ黒い異次元を斬り開いている。


「クソがぁああああああーーッ!」

「ぬ孥ううううううううーーッ!」


 互角……ではなかった。

 カイルはパワー負けにより、徐々に剣が押し込められていく、

 更に、属性相性により、みるみる刀芯が溶かされてしまう。

 なにもかも、カイルが劣勢。


「まだだぁあああ!」

「終わりだぁあああ!」


 足りない。

 全てを振り絞り、覚醒しても、まだ、足りない。

 ……負ける。


「フフ……カイルよ? 苦戦……しているようだな?」

「……っ!」

「人を投げ飛ばしおって、戻って来るのが手間だったのだぞ? ……女の子は優しく扱えと言ったであろう」


 硝煙と鉄の香しかしない筈の、場所に、貴賓のある薔薇の様な香り……

 キラキラ輝く黄金の髪が、揺れている。


 いるはずない。

 魔力欠乏症で倒れたのだ。

 立てるはずがない。

 されど、カイルが、ソレを見間違える筈もなかった。


「さて、カイルよ。何か。私に言うことはないか?」


 ニヤリと慎み無く笑う黄金の姫。

 アンジェリーナ・ローゼルメルデセスが、カイルの背中にしな垂れかかりながら、確かにそこに立っていた。


「っ!」


 言うべき事?

 もう、何も分からなかった。

 だから……何も考えず、叫んだ。


「心の底から愛してるぜ! アンジェリーナ!!」

「ふっ。今までの無礼、全て許してやろう! 百億万点の返答だ!」


 アンジェリーナが、鉄刀丸を握るカイルの手を上から握った。

 そして、共に押す。

 二人がかりで押す。

 分便するほど、がむしゃらに!


「これが夫婦最初の共同作業だな!」

「やめろい! 結婚するとは言ってない!」

「なぁぬぅおう!!」

「ふっ……ハッハ……最高だ! お前といると負ける気がしない!」


 いつの間にか、鉄刀丸の色が白銀に変わり、炎龍丸に溶かされた刀芯が、繋がっていた。

 そこから更に、押し込む。


「ぬぅううううううう。男の闘いに無粋な!」

「無粋? 片腹痛いぞ! イグニード! 妻にそんなものが関係あるものか!」

「そのネタ!! いい加減! 終わりにしろよおおおおーーッ!!」

「私は何時でも大まじめだぁあああああ!!」

「ぬおおおおおおおおおお!!」


 カイル。アンジェリーナ。イグニード。

 最後の最後の最後の瀬戸際!!

 

 押し込み、押し込み、押し込み!!

 遂に、イグニードの身体を貫いた。


 鉄刀丸の能力《鉄化》発動。

 イグニードの身体を、鉄の塊に変えたのである。


「……ハァ……ハァ……ハァ……っ。終わりだ……ハァ……イグニード」


 全力を出しつくしたカイルは、その場に倒れ動けなくなる。

 同じく……


「カイルよ……ハァ……ハァ。私の上で『ハァ……ハァ』してどうしたのだ? ハァ……」

「ソレを言ったら……アンナは、下で『ハァ……ハァ』してるじゃないか。変態野郎」

「私は変態だが、野郎ではない。変態美少女と言い直すのだ!」

「めんどくせぇ……」


 何時もの何も変わらない言い合い。

 カイルは、何故かそれが無性に、尊いモノに感じた。

 アンナのお陰で、大事な一線を越えずにすんだ。そんな気がしたのだった。

 だから……


「イグニード。終わったんだ。グリーヌも、ローゼも、ゴルドンも、シルバだって、きっと元通りになる。だから――」


 お前も、元通りになれよ。

 そうカイルは言えなかった。


 イグニードは炎に焼かれ、身体が白い灰化していたから……


「ああ……終わりだ。俺の復讐も……憎悪も……役割も……全て……」

「イグニード! お前! 自殺する気か!」


 急いで、鉄化を解除する。

 ……ここで自殺なんてさせやしない。

 カイルが目指すのは、皆笑顔のハッピーエンド……しかし、


「自殺? 違うさ。これが、望叶剣を使った者の末路なんだ。望叶剣の精霊は……命を喰らう……よく見ておけよ? いずれお前も……こうなるのだから」

「っ!」


 炎が強くなり、細胞がみるみる白灰となっていく。

 ……ボロッとイグニードの片腕が落ちた。

 

「おい……嘘だろ? 何、言ってるんだ?」

「時間がない……言えることだけ伝えよう。信じても信じなくても良い……後は自由にしてくれ。俺はもう……疲れた」


 イグニードは、炎に包まれながら、腕をアンナに伸ばした。

 触ろうとするも……崩れる。


「アンジェリーナ姫。美しい姫。あなたはどうか知りませんが、私は……愛していました」

「……ムム。そうか」


 アンナは何も言わない。

 好きとも嫌いとも言わない。

 でも、イグニードは満足げに微笑んで、


「一つ……伝えておきましょう。ミリナリア様の『呪い』は……魔界王の一人《呪術王》カースド・カース・ドルレイドの呪いです。魔界は、人知れず、この大陸に攻撃しているのです」

「っ! それは誠なのか!」

「……」


 答えず、カイルを見る。

 信じなくても信じてもいい。そういった時点で、イグニードにそこを討論する気はなかった。


「カイル……望叶剣の力は命を削る……心辺りはあるだろう?」

「……」


 あった。

 これまで、望叶剣を使った後、何度か何か大事なモノを吸い取られる感覚を感じていた。


「……それから望叶剣の使命だが――」


 何かを言おうとしたイグニードだったが、半身が崩れた事で、首をふった。


「頼む。カイル……その剣に殺されたい……最後は、剣士として死にたいんだ。頼む……情けを」


 カイルが何をするまでもなく、イグニードは死ぬ。

 それでも、灰になって死ぬのではなく、剣士として闘った、カイルに殺されたい。

 それが、イグニードが人生最後に選べる選択だった。


「頼む……」

「分かってる。お前は俺に負けた。そういうことだろ?」

「……ああ」


 カイルが鉄刀丸を握る。


「よいのか? と、聞くのは無粋なのだな?」

「さあ? ……どうだろうね。ただ、死人の我が儘を叶えて上げたって罰は当たらないよ」

「うむ。そうだな」


 イグニードを鉄化した。

 その時……


「ありがとう……我が宿敵よ」


 イグニードはそう言い遺した。

 カイルは鉄になったイグニードの頭を掴んで、


「……宿敵、ね。それは光栄だよ……じゃあな。イグニード。今までで、一番の強敵だったよ」


 砕いた。

 七騎士最強の男『炎王』イグニード享年二十八。

 ……最強の男が死んだ瞬間だった。


 イグニードの望叶剣『炎龍丸』も、カイルが掴むと、音もなく、消えてしまう。

 ……これで、本当に、


「全部……終わった」


 ぐらり……

 カイルは急に意識が遠退くのを感じて、


「アンナ……後は……任せる」

「うむ。ゆっくり休むと良い。魔力が回復したら一番に起こしてやるからな」

「ああ……」


 やり遂げた事で、とても穏やかに……気絶したのであった。


《エピローグ》


「んっ……ん?」


 イグニードとの闘いの後、カイルが目覚めると……

 そこは傲然としている様な、大きな一室の、ベッドの上だった。

 

 更に、人を駄目にするほど、柔らかくしっとりとした……


「カイル様~~(恍惚)」


 ミリナ……

 

「ミリナ!?」

「あはっ。カイル様っ♪ お目覚めですね! ささ、今、おはようの接吻を……」


 ムチュ~~っと、目覚めの一カット目から、迫って来るミリナに、目が覚める。

 可愛いミリナとのキスはやぶさかでもないのだが、何か違う気がして、頭を抑えた。


「ふざけないで」

「ふざけてなんかいません!! 『ローゼル伝統目覚めの儀式』です!! ささ、接吻を」

「お、おう?」


 よく分からなかったが、ミリナの剣幕に圧され、額にキスしてあげた。

 ……イグニードより怖かった。


「はわわわ~~っ♪」


 カイルはそのまま、くたくたになって倒れてきたミリナを支え、回りを見渡した。

 すると……誰もいない。


「誰かいないのかよ!」


 この混沌とたる状況を誰か説明して欲しかった。

 闘いはどうなったのか?

 何故、『忌み子』であるミリナがここにいるのか?

 何もかも分からない……すると。


「ハッ。ここに」

「おっわ!」


 ローゼが音もなく、ベッドの脇に現れる、頭を垂れた。

 ……流石は七騎士、通常状態のカイルでは気配も掴めない。


「……何時からいたの?」

「ミリナリア姫の護衛として、ずっと部屋の前で控え、貴方が目覚め、呼ばれるのを、今か今かとお待ちしておりました」

「そ、そうなんだ」

「はい。ですので、私にも目覚めのキスを――」


 ズイッと身を寄せて、顔を近づけて来る。


(ローゼル伝統目覚めの儀式なんだんもな……)


 トウネ村にはこんな諺がある。

『郷に入っては郷に従え』


 ……しかし、とびきり可愛いミリナ。美しいアンジェリーナ。

 二人と比べると『可愛いさ』も『美しさ』も一歩劣るが、ローゼも中々の美女。十八歳。

  

 ぼどよく引き締まった体つきと、出るところがキチンと出ているせいで、ミリナやアンナにはでない劣情を覚えてしまう。


 唾を飲み込んで、前屈みになりながら……


「駄目ぇえええええええええーーっです!!」


 ミリナが、割り込んでカイルを押し倒し、妨害。

 そして、ピシッとローゼに人差し指を立てた。


「何しているんですか! カイル様はミリナのです。勝手に誘惑しないでくださいよ!」

「いえ、誘惑ではなく『ローゼル伝統の儀式』なので」

「そんなものはありません!!」

「ないのかよ!!」


 最後のツッコミはカイル。

 呆れて、ため息をつき、ミリナの金髪に指を通す。

 ……サラサラしていて綺麗な砂でも触っているかようだ。


「あっ……ああっん♪ そんなっ。いきなり」

「っ! カイルさん。どうぞ」

「いや、白髪に興味はないから」


 ガーンッ! と、地味に激しくショックを受けているローゼに、カイルは気付かず、


「それより、あのあとどうなったの? ミリナが、元気だから、悪いことにはなってないんだろうけどさ」


 というか、此処は何処?

 と、問い掛ける。

 ……ミリナはもう昇天しかけていた。

 そんなとき、バンッと扉が開き……


「此処は世の部屋だぞ?」


 金髪の超絶美少女が入ってきた。

 凛とした佇まいに、纏う高貴なオーラ……長髪の金髪と、大きな胸。胸!!

 

 ……誰? この金髪美女!?


「全く……半月も眠っていたのに、騒がしい奴だな」

「半月!?」


 そう、カイルは半月も眠っていたのだ。

 だが、それに驚くよりも、更に、驚く事をミリナが言う。


「お姉様! 此処はミリナの部屋です!」

「お姉様!?」


 ミリナが、お姉様と言うのは……まさか?


「アンナとミリナのお姉様ですか!?」

「ム~?」


 同じ王族のミリナやアンナには、タメ口で話すのだが、

 この女性には、何故か敬語になるカイルであった。


「ミリナリア。カイルは何を言っておるのだ?」

「お姉様……外行きのままですよ?」

「ム!? これはいかん。『世』……いや、『私』としたことが……公私を混合してしまった」

「私?」


 まず、女性は靴を脱いだ。

 すると、急激に背が縮む……そして、

 ……アンナくらいの身長になった。


 更に、ドレスの中に手を突っ込み、ナニかを取り外すと、途端にアンナくらいの貧乳になった。

 そして、最後に長い金髪をぽいっと『取り外した』……


 残ったのは……アンナだった。


「こんな国、滅んじまぇえええええええええええーーッ!」


 国を救った英雄の心からの絶叫だった。


「ハッ! 只今、手筈を整えましょう」

「……」


 何処に行ってしまったローゼには、誰も触れない。

 カイルが国を救えるのだ。きっと誰かがローゼをとめるであろう。


「あれから大変だったのだぞ?」

「そうかい。でも、終わったんだろ?」

「うむ。万事、上手く行っておる」


 アンナは自然にドレスを脱いで、ベッドに上がると、ミリナと同じようにカイルに寄り掛かった。

 カイルも自然にアンナを支えて、金髪に指を通して撫ではじめる。


「カイル様~♪」

「頭を撫でるのだけは上手いよのう」

「だけっていうな……だけって」


 両手に金髪!!

 カイルは少し鼻血が出てしまう。


「あっ。カイルの……今、綺麗にしてあげますね」


 ちゅるちゅるちゅる……と吸い付き、カイルの汚れをミリナが、舐め取っていく……

 ……気持ちい。


「ム!? ぴちゃぴちゃと顔にかかっておるぞ? ヌメヌメで、ネバネバで、熱い液体が」

「……コレは、生理現象、ミリナ。気にしなくて良いよ?」

「いえいえ、カイル様のモノを取り込む事ができる。ミリナは今、とても幸せです」


 穏やかな西風が、窓から入りこむ、平和な時間。

 こんな時間の為にカイルは闘った。

 だから少しだけ、アダルティックな気がしてもナニも突っ込まない……


「む? 性●処●? 全く……夜までまてんのか?」

「ソレ、全部違う! ボケのルールすら守ってない!」


 いや、無理だった。

 突っ込まなければ、アンナは何処までも付け上がる。

 ぺチンと、デコピンして、アンナを撫でるのをやめ、代わりにミリナを抱きかかえ沢山、撫で回す。

 ……そういう約束をした気がする。


「で? どうなったの?」

「うむ。ミリナは『呪い』の事を隠し、正式に第二王女と公表した。ミリナの『呪い』を知っておるモノは、七騎士と、上層部の信用の置ける者達のみだ」

「そうか……よかったね。ミリナ」

「はぁーい♪ 私は、カイル様と正式に婚約しました♪」

「ん?」


 正式に?

 ジロリとアンナを睨み、説明を求める。


「いやな。今回の騒動で、退位を決めたのだ。しかし、ゴルドン兄様の行方が知れぬ。そうなると、必然的的に私が次の王となる。女王だ」

「お、おう。おめでとう」

「王ということは、本格的に婿を取って、子を為さなければ成らぬ。わかるな?」

「……」


 分からない。

 何一つ分からない。


「カイル様。騙されてはイケませんよ? お姉様は無理矢理、王に即位したのです。カイル様と結婚出来るなら、私が王になります」

「ムムム! ミリナには無理だ!」

「無理でも、なんでも、カイル様の妻になるのは私なんですッ!」


 カイルは分からない。

 ……が、この大事件を、解決したカイルは、王国内でも英雄として、扱われている。

 事件で起こった全ての、武功を独り占めして……


 新たな女王になるということは、国を守った大英雄と結婚する。

 と、言うことと同義なのである。


「同義なのである!! じゃ、ねぇ~よ! その、俺に武功が全て付いたのって」

「むろん、私の計らいだ。勝った者が歴史を作る。そこに真実など必要ないのだ!」

「ゲスいな。そんなんだと思ったよ。俺は――」

「まあ、結論は待て」


 カイルの言葉を遮ったアンナは、ベッドに座り直すと、真剣な瞳になる。

 ……女王の瞳。


「私は、イグニードの言葉を信じる事にした」

「あの……魔界王がどうたらって奴?」

「うむ。呪術王カースド・カース・ドルレイドを倒せば、『ミリナの呪い』が解ける」

「っ!」

「……かもしれない」

「おいおい……」


 アンナは最初から最後まで、ソレに終止していた。

 そのことをカイルは思い出す。


「やっと掴んだ可能性なのだ。私は魔大陸に侵攻しようと思う! そのための女王だ」

「……ミリナの為に王になる。そっちが本命か」

「うむ……そしておそらく、イグニードの狙いもそれだったのであろうな」

「寿命が少ないことを知って、アンナに復讐を繋いだ、か」


 カイルは何かを言おうとしたミリナの口を塞いで、無言で思考した。

 そんなカイルに、


「黄金の姫。混沌王 グリム・グレムリン・グリムゾン」

「っ!」


 遠い過去の記憶……誰よりも美しい金髪の少女だった。

 その少女は何時も悲しそうに、微笑んで、謝った。

 そして、勇者がくる直前にその姿をくらました。


 カイルの一番最初の友達。『魔人』の友達。

 その少女の名前。


「やはりな。イグニードが言っていたであろう? 魔界王だと。ならば、そ奴も魔界にいるであろう」

「アンナ……辞めてくれ。グリムは違う。友達なんだ……友達……なんだ。違う」

「そうか……すまぬ」


 カイルの様子を見て、その話は一旦終わりにする。

 その代わり、


「カイルも魔大陸に用がある。それは間違いないな?」

「……ああ。まあ、『探す』って約束してるしね……」

「ならば共に行こう」

「……」


 アンナが、カイルに手を指し伸ばした。


「『ミリナの呪いを解く』、『カイルの友人を探す』……目的は同じなのだ」

「……」

「王となる私を、支えてはくれぬか?」

「……出来ない」

「っ!」


 カイルは、首を横にふった。


「な、なぜだ!? 私の事が嫌いなのか? カイルは知らないかも知れないが、私はモテモテなのだぞ? 超絶美少女なのだぞ?」

「知ってる……」

「私の髪だって毎日、幾らでも触らさせやるぞ?」

「っ」

「国中……いや、世界中から金髪美女を集めて妾にしてもよいのだぞ?」

「っっ」

「ユウナ殿もマリン殿も……ミリナだとだって婚約してもよいぞ? だから」

「……出来ない!!」


 

 

 カイルは、ミリナの髪を優しく撫でながら、精一杯の誠意を込めて返答する。


「正直な話、アンナと結婚出来たら楽しいと思うよ?」


 アンナと出会ってから二ヶ月。

 一緒に過ごして、話して、笑って、喧嘩して……凄く楽しかった。

 こんな時間がずっと続けば良いと思う程に。


「今までで散々馬鹿にしてきたけど、アンナは良い女だ。度胸があって、何時も尊大で、たまにヘタレで、それでも、いざという時は必ず俺の隣に立って、未来に導いてくれる。アンナが居なかったら……隣にいたのがアンナじゃなかったら、俺はとっくに死んでいるよ」

「……」


 この縁談……断るのはとてつもなく惜しい

 アンナ程、カイルの本質を理解し、支えてくれる人は居ないだろう。

 頼れる女の子は居ないだろう。


「でもさ……」


 チャリンとベッド脇のテーブルに置いてあった鉄刀丸を握って、


「俺はまだ、止まれない」


 カイルにはカイルで、やりたいことがある。

 やらなきゃ為らないことがある。


「今、アンナと結婚しても、アンナを見ることはない」


 カイルは思う。

 父と母がそうであったように、結婚するとしたら、ちゃんと相手を愛さなければいけないと……

 

 カイルと母を守るために、黒龍に立ち向かった父のように、

 絶対に死ぬと解って居ても、父を助けに向かった母のように、


 何を置いても、護りたいと思えるように為らなければ、結婚なんてしちゃいないと。


「今の俺は、俺の事で精一杯なんだ。アンナと結婚して、ましてや子供なんて……考えられない。解ってくれ」

「……むぅ。だが……カイル。私は本当に誰かと結婚せねば為らぬ立場なのだ……子を孕まねば為らぬ立場なのだ。私はモテモテ……引っ張りだこだ。でも……そういうとは……好きな男としかしたくないのだ……」


 弱々しくカイルの腕を掴む。


 此処で、英雄カイルと結婚出来ないなら、顔も見たこともない貴族と結婚するか、子を孕むまで、血統の良い貴族のベッドに送られる。

 そこに、年齢も性格も、何もかも関係ない。


 ただ、形だけの女王の夫。

 その形を整えるためにカイルを英雄に仕立て上げた……


 そんなことを知っているミリナは、流石にちょっと気まずそうにカイルを見る。

 カイルも、アンナの事情を何となく感じとった。

 ……それでも、カイルの答も変わることはない。


 そっと、手を払い、視線を外した。


「お前はいい女だ! 大丈夫! いい女には、いい男が来るに違いない!」

「いい女だといえば、逃げられると思うなよ! ええいっ! 先っぽだけでよいのだ! 定期的に少し種を仕込めば良いだけではないか! カイルは気持ちいい。私は救われる。新しい命が誕生する☆ ウィンウィンではないか!」

「うるせーな! 俺の話を聞いてなかったのか? ならもう、ゴブリンの種でも仕込んでおけ!」

「ムムム! カイルはそういう趣味なのか!? ちょっと困るが、しかたない。カイルの為なら付き合ってやろう」

「や~め~ろおおおおおおーーっ! 俺はそんな特殊趣味はねぇ~よ!」


 閑話休題。


「――ハァ……ハァ……っ。解ってくれ、今の俺には、たとえ形だけだとしても、アンナの隣に立てないんだ」

「――ハァ……ハァ……っ。ムムム……それは、幼馴染みのレンジ殿やユウナ殿の為か?」

『事後ですね』


 と、ミリナ。


「乱闘のね」


 と、カイルは言ってから、


「そうだ。約束したんだ。三人で、強くなるって……三人で卒業して、三人で生きるって。俺はあの二人が、一番大切なんだよ……アンナよりも」

『ミリナよりもですか?』

「だが、二人は出来ている。とな?」

「……二人とも。これ以上ふざけるなら、俺もふざけはじめるよ?」

『私はふざけていませんよ!』

「むろん、私もだ!」

「……ハァ~」


 ……仕方ない。

 カイルは綺麗に取り繕うのをやめることにした。


「アンナ。悪い。お前のこと嫌いじゃないけど、好きじゃない」

「ふぎゃあああ!?」


 アンナが撃沈したが、構わない。

 次、


「ミリナ。ミリナの事は、アンナよりも好きで大切だけど、今のミリナとどうこうする気はない」

『なぜですか?』

「幼過ぎるし、好きになるのが早過ぎる。尻軽か!?」

『にゃぁ!?』

「未来は分からないけど、今はまだ、ユウナ達の方が大切だ。……時間を置いて考えよう」

『うううぅ……っ。時間なんて関係ないのに……でも、お姉様より、脈ありです♪』


 二人とも傷つけてしまったが、何処かスッキリしているミリナと、撃沈して、暴れ回っているアンナを見て、カイルはコレでよかったんだとそう思った。

 最後に、ミリナにだけは言っておく。


「ミリナがもし、本当に俺が好きで、結婚したいって言うのなら――」

「――したいです!」

「……言うのなら! ミリナが結婚出来る歳、十二歳になるまで待っててくれ」

「でも! 私はそんなに!」


 長く生きられない。

 そう言おうとしたミリナの口を、カイルが塞ぐ。


「俺とアンナを信じてよ。ミリナの未来は俺達が開く。絶対にね? だから、ミリナはミリナが思うように生きて、自由に好きな人を探していいんだよ?」

「私の……ミリナの好きな人は未来永劫カイル様だけです」

「うん。わかった。それならそれで、ミリナが一人で未来を選べるようになった時、もう一度、俺に告白して欲しい」

「そんなっ! 私は――」

「――今はまだ、ミリナはいろんな人に護られてる。アンナ然り、ローゼ然り、あの変態兄と父然り……それが分からないミリナじゃないだろ?」

「……はい。では、時を見て、と、言うことですね? ……そんな必要ないのに。カイル様が信じてくれないだけです……」


 俯くミリナの髪を優しく撫でてから、まだ暴れているアンナを遠い眼で見つめ、足で踏み付けて、固定すする。

 そして、最後にいろいろと、くしゃくしゃにして、欲望を満たしてから、部屋を出た。


 ……コレで、ローゼルメルデセスの長い依頼は終わった。

 勇者学校で待つ、マリンやレンジ、ユウナ元に帰ろう。


 そう思って、名残惜しげに部屋を振り返ると、入口に札が指してあった。

 そこに、


《伽の間》


 と書かれていた。

 確か、アンナが《伽の間》は王がアダルティックナ事をする部屋だと言っていたことを思いだす。


 (……ああ、アンナとミリナが自分の部屋だと言っていたのは、そういう意味だったのか……)


「って! 人をどんな部屋に寝かせてんだぁあああああああああああーーっ!」


 おそらく、ローゼルメルデセスで過ごした時間のなかで一番大きな声で、叫んだ。

 ふぅぅーーっと、荒く息を吐いて、王都の外へ向かおうとした、その時……


「カイル! 待つのだ!!」


 背後からアンナに声をかけられる。


「アンナ……か、なんだよ? 話は終わっただろう?」

「私は諦めんからな!」

「ハァ?」


 ズンズンとアンナは一歩ずつカイルに近づいて行き……

 そのまま、ズンズンズンズン……


 チュッっ……


 唇にキスをした。


(ハ?)


 甘い。柔らかい。しっとりしてる。良い匂い。柔らかい。甘い! 甘い!! 甘い!! あばばばばば……


 カイルの思考がショートする。

 そんな中、唇を離したアンナは顔を上げずに、カイルの胸に額を当てて、


「好きだ。カイル」

「ぁ……」

「貴様が好きなのだ。カイルの意思など知ったことではない!」

「……?」

「私は諦めが悪いのだ! 粘着してやる! ネバネバだ! 誰に何を言われようと、私は貴様にしか抱かれんからな? 貴様の種しか受け入れるものか!」


 いや、でも……俺は綺麗にフッた……よね?

 と、激しく困惑する。


「知るものか!? ネバネバなのだ! どろどろなのだ! 何時か必ず、貴様を蠱惑してやる。懇ろになってやる! 絶対だ! 絶対だ! 今、私はここにソレを誓う! カイルの意思など必要ないのだぁあああーーっハッハッハ……」


 言い切ると……もう一度、


 チュッ……


 そのあとカイルを押して、反転。

 表情を一切見せずに、走り去った。


 この後、暫く、カイルとアンナは悶々とした夜が続くのであった。


《二章改稿番 ローゼルメルデセスの姫君 完》




 


 

 











 

 

取り合えず一言……忘れないうちに、


 読んで頂いてありがとうございました。


 コレが一番大事で大切なこと……


 という。前置きを置いて、恒例の? 内容について自己反省。


 いやー、結構頑張りました。

 初稿の原型がもはやないレベルで頑張りました。

 プロットを一から十まで作り直しましたからね。


 なんかどっと疲れました。

 完成させた達成感よりも、虚無感が強い。


 さて、内容についてですが、面白い楽しいは読んだ方の感性なので、あれですが、

 この章……バトル多いよ!!

 中ボスみたいな敵も多いよ!!

 七騎士つえええよ!


 しかも、仲間が基本戦闘力皆無のアンナしかいないから、全部カイルが倒してるし……


 無茶ぶりがえげつねぇえええよ!


 ハァ……ハァ……ハァ……落ち着くんだ。ドウドウ。冷静になれ。

 

 まあ、《キング・ゴブリン》《グリーヌ》《鉄龍》《影》《エキストラの騎士団》は、ぎりぎりカイルが勝っても許せるし、違和感はなかった。


 しかし、《ゴルドン》!! つえええよ! なんだよアイツ! 勝てねぇ~よ!

 ということで、彼には、手加減をしていた事にして貰いました。


 ブラウン……謎の魔界王との戦闘で、何度か彼が言っていたように、本気の彼と一対一で戦えば、割とチートです。

 イグニードよりも強いじゃ……ゲフンゲフン。


 コイツとイグニードのせいで筆が何度止まったことか。


 ま、数の暴力には彼も絶望したようですが……

 あいつ……なんだよ!


 次。


《イグニード》!!


 もう……途中で何度か諦めました。

 別に勝たなくても良いんじゃないかと?

 

 割と本気で、イグニードが自滅するだけの描写にしようかと思いました。

 しかし、彼、ラスボス……そんなことが許されるか? 


 相当無理矢理カイルには勝ってもらいました。

 最後……アンナとカイルの奇跡の共闘で勝利……何か文句があるなら言ってください。

 また、何時か書き直しますよぉう。


 因みに彼の技


《破壊神の爆炎鎧》は語呂がよかったため、特に考えもせずに投入しちゃいました。

 最後の月牙天昇的な立場で良いかなと……いまさら思っております。


 で、最後の大技も、割とノリの産物……



 さてと。

 今回はこんなところですね。


 次は、というか、新章は、コレにてこずり過ぎてまだまだ、プロットすら書いてません。

 また、二ヶ月……いや、新作も書きたいので、四ヶ月後くらいかな?


 まあ、気長に待っていただけると幸いです。

 のんびり書きます。

 

 ……もう、暫く改稿なんてしないぞ!

 といいつつ、三章そして、また一章の荒が見えるから、ちょっと誘惑されている今日この頃。


 

《2018年6月15日二章大規模改稿終了》


 

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