表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
21/58

十一・五話『騎士は姫の涙で覚醒する』

 カイルとアンナが電光石火の勢いで、王宮内をかけ進むが、外のように妨害されることは殆どなかった。

 そんな二人は、とある大扉の前にたどり着いた。


 ゾクリ……っ。


 巨人でも通れる大きさと、荘厳さがある扉の前で、カイルは背筋に寒気を感じて、アンナの金髪を引いて止める。


「ひゃっん……なにをするのだ! 女の子は優しく扱うものだぞ?」

「アンナ。ここだ。この絶対的な死の気配……奴がいる」

「ムム、『玉の間』……か」

「おいおい、なにいきなり『タマの間』とか言い出してるんだ。まさか! そういう部屋なのか! 開けたら少年が見ちゃいけないような、あんなことやこんなことをやっているいるのか! そうなのか!?」

「『タマのアイダ』じゃない。『ギョクのマ』と読むのだ! 王が座る玉座がある一間だから『玉の間』だ! 私の台詞を全て卑猥な言葉にするでない! 因みに王が逢瀬に耽る間は『伽の間』というからな。安心するのだ。それからカイルよ。そのボケは少々、反則だと思うぞ?」

「だよね。俺も思った」

「ならば、時と場合を考えるのだ! 不謹慎と言うものだぞ? 私はそんな男と結婚したくないからな」

「ごめんなさい……」


 ただ、お前にだけは言われたくないし、そもそも、お前とは結婚したくないんだよ!!

 というカイルのツッコミは、言葉に出来る立場ではなかったため、飲み込んだ。


 カイルは、アンナを庇うように、前に出て、


「じゃあ、ふざけるのは打ち止めにしとくか……ここから先はそんな暇なさそうだしな」

「そうだな。だが、カイルには後で、いくらでも私に打たせてやるからな? 無駄討ちも結構。その時は打ち止めなど、考えなくてよいぞ」

「……おい」


 カイルの声は何時もより、低かった。


「すまぬ。カイルにだけ、ボケを持ってかれるのはシャクだったのだ」

「まあ、俺から始めたんだから、怒るのは筋違いか」

「筋が気も――」

「おい」

「す、筋書をえるのはどうだ? この先で、奴が待ってるというのなら、ここは避けて、他の場所を探すのだ」

「焦らしとか、テクニシャンだな。流石はアンナだ」


 確かに、それも良いと、カイルも思うが……


「だが、ここに、奴が動かない『理由』があるはずだ。そして、俺達には『目的』があった筈だ。時間もかけられないし……」

「結局、決着をつけるしかないと、そういうことか。カイルはつくづく、こういう時の思考は鋭いよの」

「褒めて頂き恐悦です。アンジェリーナ姫殿下。では、参りましょう」

「待て! 何故、敬語なのだ! やめろい! カイルは私の夫になるのだから、敬語も敬意もいらないのだ! 私は夫に手篭めにされたい派だからな? 好きな男にちょっと強引に迫られる……そういう感じで頼むぞ?」

「生々しいな。そういう、性癖は、その好きな男とやらに教えてやれよ」

「ムム――」


 顔を真っ赤にしたアンナが、カイルの襟首を掴もうとしたとき。


 シュルシュル……


 空気が収縮し、


 ドッガァァアンッ!


 大扉が爆散した。

 硝煙の香りと、灰色の煙りを吸いながら、扉の奥に視線を向ける。


「おいおい。アンナさんよ。おまえの婚約者は我慢も出来ないのか?」

「そのようだな。だが、結婚相手が早漏ならば、王族としては大問題だ。婚約破棄の理由には十分過ぎる」


 意図せず足を揃えて、煙りの中を進み、抜けた先に、威厳のある玉座。

 そこに座るダンディな赤髪の男、七騎士最強の第一騎士団団長にして、この事件の発端作った、『炎王』イグニードが不敵に笑っていた。


「ハハハっ。早漏ね。じゃじゃ馬姫の種馬を辞められるなら、それでも安いと思うけどね」

「フハハっ。安心するのだ。早漏でも、絶倫ならば、問題ない。そして、私は、幼少の頃より房中術の知識を叩き込まれている。私にかかれば全ての殿御は絶倫とかすのだからな。蹂躙されるのはそのあとでよい」

「おい……自分の言葉を自分で論破してるからな? つまり誰でも良いんじゃねぇーか!」

「誰でも良いようには仕込まれたというだけで、好きな殿御が良いのに変わりはない。そういうことだ」


 どういうことだよ!!

 と、ツッコミ続ける事は、出来なかった。


 ごうっ! 爆炎の大剣が、カイルとアンナを焼き斬らんと迫ったため!


「ちっ! 人がしゃべってる途中の攻撃は! 三下のやることだぜ!!」


 鉄壁展開。

 爆炎を弾く。


「なぁ? イグニード!」


 玉座に『鉄刀丸』を向けるカイル。

 だが、そこに……赤髪の騎士は居なかった。

 そのかわり、背後から……


「すまないな。放っておくと、何時までも喋り続けそうだっんでな」

「っ!」


 アンナを奪い、爆炎で、カイルを玉座に吹き飛ばした。


 ガンッと固い玉座に背中を打ち付け、呼吸不全に陥ってしまう。

 カイルとイグニードの立ち位置が一瞬にして最初と真逆になる。


「さて、アンジェリーナ姫。玉座を奪還し賊を討ちましょう」

「貴様ァァァッ!」


 玉座で呻くカイルに炎弾を向けるイグニードの頬を、アンナがビンタ。

 しかし、それは、アンナ自身の能力によって威力を消されてしまう。


「全部知っておるのだぞ!? 復讐の為にこの国を乗っとろうとしている貴様の奸計! 父上はどこにいる!?」

「そちらに、洗脳は解いて起きました……する必要もないので」

「ッ!」


 イグニードが手を指し示した部屋の隅に、手足を縛られた良い体格の中年の男。


「父上! 正気ですか!?」

「姫ぇええええええええええええーーっ! 良かった! 良かった。ああっ、なんと愛らしい姿ッ! ハッ! 姫っ! ミリナリアは! ミリナリアはどうしているのだ!? 生きておるのか? 私を恨んでおるか!? ああっ! どうすれば、ミリナリア姫に許してもらえるのであろうか! 姫っ! ひめぇええええええええええーーっ」


 アレは正気じゃない。

 と、呼吸が戻ってきたカイルは思う。


「ウム。正気の様だな。安心してくだされ。ミリナリアは、そこの勇者候補カイルが、身を呈して護った故」

「ムムムム厶っ! 誰じゃ! その小虫は! だれなのだァァァッ!」

「私の夫になる男だ」

「死刑じゃぁああああ! イグニード。よくわからぬが、その男を殺すのだぁあああああーーっ!」

「御意に」


 炎弾発射十連弾!

 

「ちぃ! それで、正気とか! この国の王家は腐ってやがる!! 鉄刀丸!! 《鉄神の盾》!!」


 防御。

 しかし、この状況は少し予想外だった。


 王を救おうと、やってきたのに、その王は正気で、(正気とは思えないが)殺そうとする。 

 それでは、本当にカイルが賊でしかない。


「父上! カイルは私の……なのに何故!」

「故にじゃ! ここで、消しておかねば、世の気が済まぬ! 姫は世の姫なのじゃぁああああああーーっ!」

「父上! カイルを殺すのならば、もう、父とは呼びませぬぞ!?」

「ムム!? イグニードぉぉお! 辞めるのだぁあああああああああああああああああああああ」

「……黙れ、豚王」


 王のお腹に正拳突き。


「グフぅ……な、何故……?」

「勅命を貰う必要があった。それだけだ」


 王に気を取られ、イグニードの攻撃が、止まった瞬間。

 ニヤリと笑い、防御をといたカイルが、《鉄神の鎧》を纏って、イグニードに斬りかかった。


 ……取った!


 鉄刀丸の攻撃は、普通の剣では、防げないっ。

 

 ギィン!


「なっ! そうかお前も!!」


 鉄刀丸が初めて金属音を鳴らした事に、驚愕するが、思い出した。

 イグニードの剣もまた、カイルの剣と同格の魔剣『炎龍丸』。

 望叶剣同士では流石に、鉄化すること出来なかった。


「ほう。炎龍丸で、斬れないか! ならば!」


 バァン!

 

 小さい爆炎が、カイルの身体を打ち上げた。

 続けて、バランスを崩したカイルの身体を切り付ける。


『ゾクリっ』


 今までで、最大の警鐘に、鉄壁と《鉄神の盾》を何重にも展開。

 更に、鉄の鎚で、自分を叩き後方へふっと飛ばした。


 ヌルッ!


 まず、鉄壁が簡単に切り裂かれた、そして、


 ジュルん。


《鉄神の盾》までも、プリンの様に切り裂かれ、最後にカイルの腹を深く切り裂いた。

 

「ぐぅ! ふざ……けんなッ!」


 獄炎が宿る剣に斬られた痛みは、尋常を超えていた。

 スルリと開く腹の切り傷から、ドロドロと大量の血液が零れていく。


「《オメガ・ヒール》!! カイル!」


 これまで何度もカイルの命を救ってきた、回復魔法の光が、カイルの身体を包み込み……


「ふん。無駄だ」

「っ!」


 癒せなかった。


「ムムっ! 《オメガ・ヒール》!! 《エクストラ・ヒール》!! 《ゴッド・――」

「よせ! アンナ! 魔力の無駄だ。俺の《鉄化》とおなじ、傷が治らない。多分、そういう能力なんだ」

「だが!!」

「心配すんな! 致命傷じゃない。まだ平気だ……ぐっ」

「カイル……」


 致命傷じゃないとはいえ、カイルの傷は深い。

 治らないのなら、いずれ力尽きるのは明白……


「さて、アンジェリーナ姫。私と結婚していただこうか!」

「なっ! 貴様ァ! カイルにあんなことをして! 本気で言っておるのか! 誰が貴様等と――」

「カイルの言う通り。『不治』が、炎龍丸の能力です。このままでは、カイルは死にますよ」

「――……っ!」


 カイルの命を担保に結婚する。

 イグニードはそういっている。


 アンナは、チラリと血の池を作るカイル見てから……


「なぜだ。何故、そこまで私と結婚したい? 復讐が目的ではないのか? 何故、私の唯一の自由と楽しみを奪う。何故、貴様は、ミリナリアを殺そうとした! 何故! 何故なのだ! 何故……こんな酷いことが出来る……そんなに私に惚れたのか?」


 ポタポタとアンナの瞳から涙が流れ落ちた。

 

「……ふん。そこまで、カイルが大事ですか。なら、結婚は形だけで良い。後は俺の邪魔をしなければ、どこで、誰と、ちちくり合ってても関与しない」


 ざっ!


 イグニードは言って、アンナをカイルの元に投げ捨てた。

 そして、そのまま玉座に座る。


「俺が、欲しいのは王の地位」

「地位だと!? まさか! 権力を欲したか!?」

「違う!!」


 アンナは止まらないカイルの血を押さえながら、イグニードを睨みつけるが、それ以上の迫力で、イグニードに睨み返される。


「俺はただ。この世界が許せないだけだ。このシステムが! ふざけるな。俺達は知らなかった。奴らがあんなにッ……! だからあの時、アイツは死んだ」

「幼なじみの事か」

「俺達は弱い。弱すぎるんだ。七騎士も、帝級もっ! 奴らにとっちゃ一律に雑魚でしかない」


 イグニードの憎悪が炎の爆発となって現れる。


「だから、闘うんだ。俺が! 魔大陸と戦争をするんだ。勇者なんかに魔王は倒せない。魔界王と互角が良いところだろう」

「なにを……なにを言っておるのだ?」

「分からないさ。魔人にあった事がない奴には、分からないさ。……とにかく、俺の命も長くない。がアイツだけは殺す!」

「……アイツ?」

「十年前に侵攻してきた魔界王。黄金の姫。【混沌王】グリム・グレムリン・グリムゾン!! アイツを殺した奴だけは この手で殺す! そのためだけにこの十年間を生きてきた!」


 ドクンっ。


 グリム・グレムリン・グリムゾン……その名を聞いたとき、カイルは痛みも負傷も忘れて立ち上がった。


「グリム……だと?」

「あ? まだ、動けるか。守護の英雄。お前はもっと強くなれ。そして魔人を滅ぼせ。それが俺の復讐となる」

「ふざけんなッ!」

「カイル!」


 ダンッ! ダンッ! ダダンッ!


 今までで最速で、カイルは駆けた。

 その速度は音速の域。


 ……だが。


 斬ッ!


「っ!」


 イグニードはカイルを容易く弾き飛ばした。


「瞬動脚か……剣気が目覚めたか? いや……まぐれだな。だが、良いぞ。そうだ、それでいい」

「何をッ!」


 吹き飛ばされたカイルは、空中に鉄壁を作って、足場として、ダンッ! 再び音速で駆けた。


「訳の分からないことをいってんだよぉおおおーーッ!」

「そのうちわかる。俺達は運命に逆らえないからな、もう寝ておけ」


 バァン!


 爆発がカイルに直撃。

 何度も、吹き飛ばされる。

 だが、何度でも、カイルは足場を作って跳躍した。


「そうか。これが望叶剣に選ばれる英雄だったな。死ぬまで、剣を捨てはしない……か、ならば!」


 ガシッ!


 玉座から立ち上がったイグニードは、音速で迫るカイルの頭を鷲掴みにした。

 そして、


「っ! クソッ! クソッ! はなせ! 離せ! 離せぇぇぇえ!」

「ふっ。アンジェリーナ姫が大切にしているから、見逃そうかと思ったが、止まらないなら仕方ない」

「ッ!」


 暴れるカイルに『炎龍丸』を向けた。


「よ、よせ! やめるのだ! イグニード! やめて、やめてくれぇ! なんでもする! 結婚だってする! 貴様の言うことを全て聞く! だから――」

「なら、黙って見ていろ」


 ドスン。

 カイルの腹に炎龍丸が刺さり……


「っ……う……ううっ……クソ……俺は……こんな……ところで……」

「ふん。どうせ、望叶剣使いは短命だ。その上、ふざけた役目を背負わされている。ここで死んだほうが、楽なほどにな。あの世でまっていろ。すぐに行く……」


 斬っ!


 不治の剣が、カイルの身体を内側から切り裂いた……


「あっ……ああっ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーッ!」


 アンナの絶叫……

 そんな中、カイルを捨てたイグニードは高笑いした。


「は、ハハハっ。ようやくだ。ようやくここまで来た。七騎士を集め、育成しながら十年間、アンジェリーナ姫が十三歳になるまで待ったのに、初夜で逃げられた時は焦ったが、愛国心の強い姫だ。ゴブンリン王の封印を解けば必ず戻って来ると思っていた」

「ああっ……ああっ……ああっ……あ」

「可哀相だが、最早、壊れて居ても仕方がない。時間がないんだ早く、早く……しなければ」

「ああっ……ああっ……ああっ……ああっ……ああっ」


 アンナはもうイグニードの声は聞こえていなかった。

 放心し、視界が暗闇に染まる中、唯一色、動かないカイルの身体に手を伸ばした。


 ……死なないで欲しい。居なくならないで欲しい。

 アンナが、アンナで、居られるのはカイルの前だけだった。

 アンナの人生で、心から愉かった時間はカイルがくれた。

 

 ……だから、死なないで欲しい。


「ああっ……ああっ……ああっ……」

「……」


 そんな声を、そんな気持ちは、薄れる意識の中で、カイルに届いていた。


(……アンナが泣いている。俺のために泣いている)


 それで良いのか?

 誰かが死ぬ悲しみを、故郷と家族を滅ぼされたカイルが一番知っている。


(……きっと、ユウナやレンジもこういうふうに泣くんだろう)


 ……だから、まだ、死ねない。

 まだ、足掻く。

 例え心臓が、止まっていても、魂が消えるその瞬間まで、足掻き続けるのだ。


「っ……ッナ……」

「……カ、イル? 生きて……っ」


 肺も心臓も裂けている。

 それでも、カイルは、声を出した。


 その声を聞いたアンナは、暗闇から抜け出して、泣きながらカイルに耳を寄せる。

 悲しみを装って、泣き崩れるように、イグニードにけして悟られないように……


「け……っ……っを……」

「……なんだ? 何を言っている?」

「け……っん……けっ……んっ……」

「けん? 剣!」


 鉄刀丸!


 カイルの足元に落ちている『鉄刀丸』を拾う。

 その瞬間、何をすべきかを理解した。

 カイルが続けて言う言葉はみなまで聞かず……


 ブスリッ!


「なっ! 何をしている!」


 カイルの壊れた心臓に、鉄刀丸を突き立てた。

 直後、


 バァッン!


 イグニードが爆炎を巻き起こした。

 ……だが、間に合った。

 鉄壁が二人を爆炎から守っていた。


 カイルの胸に刺さった鉄刀丸の能力は《鉄化》。

 その能力で、裂けていた心臓を細胞レベルで、《鉄化》して、結合。


「ゴホッ! ……くっそが……」


 鉄を動かし、心臓を動かし、不死鳥の如く蘇る。

 

「《鉄刀丸……こい!》」


 立ち上がったカイルが叫ぶと、鉄がカイルの身体の欠損を補っていく。


「な、ありえん。俺の『炎龍丸』で斬った傷を癒すなんて!」

「癒してねぇーよ。ただ、上から強引に塞いだだけだ」

「塞ぐ!? クックック……」


 カイルの復活とその方法に、イグニードは低く引き攣ったように笑い。


「くはははははははははっ。良い! 良い!! カイル! お前は最高だ。ハハハハハっ」


 抱腹絶倒。

 しかし、その瞳に宿る炎はギラリと激しく猛っていた。


「カイルっ! まだ……闘うのだな? 止めても無駄なのだな?」

「ああ……。俺は、闘う。それに、あいつの目を見ろよ。アレはお話し合いで解決しようって目じゃねえ」


 カイルには、最強の七騎士。《炎王》イグニードの言葉は何一つ解らない。

 だが、その瞳に宿る炎はよく知っていた。

 レンジやユウナが強者と闘う時にする瞳。


「ただの戦闘狂の瞳だ。それにな……」


 チャリ……


 カイルが両手で構える鉄刀丸は、何時もの純銀色ではなく、濁りのある灰色。


「お前を泣かせたアイツを、俺は許さない」

「ムム。私はっ! 泣いてなんか――」

「ああ。アンナはそれで良い。何時も傲慢で、何処から来るのか解らない自信に満ちていて……俺の大好きな金髪でついつい一晩中、嗅いでしまうぐらい良い匂いがする。アンナはそんな美少女だ」

「カイル……」


 カイルに美少女だと、そう言われて恥ずかしそうに、顔を紅くし、カイルの名を思いを馳せて呼び、


「いや、事実歪曲するでない。カイルが、寝ている私にやったのは、私の金髪を使った自慰こう――」

「だまらっしゃい! お前、それ言い触らしたら、鼻水垂らしながら泣いたことミリナに言うからな」

「だから、最初から言わんでやると言ったであろうか」

「とにかく!」


 その話は終わりだと、剣で空を切り、アンナを背に庇う。


「特別サービスだ。今日、この時だけは、俺はアンナの為だけに闘ってやる。アンナだけを護ってやる!」


 しゅるしゅると、カイルの身体に泥状の鉄が絡み付き鎧を形作り、


「『全て守り切る』なんて、大きな事は言わない。『絶望を壊す』なんて、無茶苦茶な事も言わない。『簡単に運命を変える』なんて、傲慢な事も言わない……だから!」


《鉄神の鎧》が形成……そこから更に、形状が変わる。

 もっと猛々しく、荒々しく、戦国武将の如く兜まで纏って!


「アンナだけを守る。アンナの希望を紡ぐ。死力を尽くして運命に立ち向かう! 鉄刀丸! 俺に! 俺の願いを叶えさせろぉおおおおーッ!!」


 鉄刀丸はカイルの意志に呼応した。

 強大過ぎる敵、イグニードを倒せる力をカイルに宿す。

 

「うむ……覚悟はあるのだな。ならば、私も……覚悟を決めねばならぬ」


 アンナは常に精霊の加護を受けている。

 だが、それはアンナの莫大な魔力によって、


「私の身は、私の希望は、私の運命は、私が護る!」


 その恩恵を受ける為に使っている全ての魔力を、練り上げて、


「ふっ。だが、殿御の意志を尊重するのが美少女の嗜み。夫を信じて全てを託すのが良妻賢母というもの。……カイルよ。私に何か言うことはないか? 熟愛夫婦は言葉にしなくても解りあえる。なんて事はないからな。たった一人で闘いたいなら、それでもよいがな」

「……ま、突っ込みはこの際、捨てるとして、アンナ。一緒に闘おう」

「うむ! 愛を囁かない所が、少し気に食わぬが、良いだろう。私の全てを託す。《マックス・オーラ》」


 全ての魔力をカイルの強化魔法に使ったアンナは、魔力欠乏症で、その場に倒れた。

 

《鉄神の鎧》バージョンアンナと《マックス・オーラ》の新技二つ。


「これが、俗に言う。主人公補正のラスボス前、超覚醒だぞ? イグニード。今回は待ってたみたいだが、後悔しても遅いからな!」


 さっきまでとは、一線をきす速度で、カイルがかけた。

 音速の更に先……超音速。


 灰色になった鉄刀丸を横凪に振るう。


「ふん……後悔?」


 ガギィンっ!!


「っ! くそっ……化け物め」


 金属音は鉄刀丸を炎龍丸が防いだ音。

 それも楽々と……


「確かにな。後悔してる。その程度じゃ! 三流劇場に付き合ったかいが無いってな!」

「っ!」


 豪炎爆発。

 紅の炎がカイルを巻き取る。

 ……が。


 斬ッ!


「ほう」


 その炎を一刀両断。

 鉄刀丸の威力を見て、イグニードが喉を鳴らした。


「まだ。強くなるのか」

「ったり前だ。力が足りないなら、幾らでも! お前のそのムカつく余裕が消えるまで、今の俺はとまらない!」


 びゅんッ!


 飛び下がる。

 その空中で、鉄棘を大量形成。

 全弾一斉射撃。


「破ァッ!」


 イグニードは気合い一閃。

 その延長線上の空間が爆発する。


 その爆炎でカイルが飛ばした全ての鉄棘が溶解した。

 その温度は異常で、数十メトル上空のカイルの喉を焼いた。


「……ッ!」


 カイルは、眼前に熱避けの鉄壁を一枚生成し、足場も造る。


「空中に立つ……か。炎龍丸には出来ないな」


 メキメキと鉄棘より時間をかけて、特大の槍を生成。

 その塚を持ち、全霊で投げ飛ばす。

 

「……」


 イグニードは自身の十倍もある、その槍を前に、炎龍丸を斬り払った。 

 スパンと真っ二つに割れた……が!


 細かく分裂。大量の鉄棘と化し、イグニードの全方位を囲い、狙う。


「鉄を斬っても操るか……」


 だが……全方位爆撃。


 その全てが一瞬で壊塵となった。

 そして、


「ちっ……薄々思ってたが、無言無挙動の爆炎創成。無詠唱なんてもんじゃねぇーな。魔道士が見たら泣くんじゃねぇーか?」

「それは、お互い様だろ。同じ望叶剣、性能も同じ。ただ……」


 ぞくっ……


 カイルの全方位に爆炎。

 初回の様に斬れる規模を超えているのを直感で感じとり、全方位に鉄の壁を張った。

 傍から見たら鉄の球体。


 全方位絶対防御。

 炎熱によって少しだけ溶かされるが、爆炎を凌ぐ。


「剣の相性が悪い……守護を司る望叶剣が、溶かされたらダメだろう」


 しかし、動くことの出来ないカイルに接近し、


 スパン。


 楽々と鉄の球体を横に両断した。

 カイルは切断面が、溶解している事に気づく。


「絶対の破壊を司る『炎龍丸』と絶対の守護を司る『鉄刀丸』。奇しくも表裏一体な訳だが、矛盾はしないみたいだな」

「……ちっ」


 普段、絶対に破られなかった鉄壁が、いとも簡単に切り裂かれる。


 ガギィン!


 振り下ろされた炎龍丸を鉄刀丸で、受ける。

 だが、カイルは衝撃で、空中から床に墜落した。


「いや……絶対切断のこの剣が、剣自体は切れないんだから、矛盾してるのかな」


 受け身をとって、距離をとる。その際、アンナの身体を拾い、『玉座の間』から外に放る。

 そして、イグニードとの距離を計りながら、現状考察。


「鉄属性の弱点属性は炎……格上相手ってだけで面倒なのに、相性も最悪か……ま、(ツイ)いて無いのは何時ものことか」


 脳内イメージで、考えられるあらゆる戦術で、イグニードと切り結ぶが、その結果は全敗北。

 勝てるイメージが一つも無い。


「なら……もっと覚醒するしかないよな」


 こういう時、カイルが憧れる幼なじみの二人ならなんて言うか?


 ユウナならこう言うだろう。


『気合いよ』


 レンジならこう言うだろう。


『気合いだ』


 つまり。


「気合いだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーッ!」

「っ!」


 脳内麻薬を分泌させる。

 もう、状況は整った。お膳立ても全て終わってる。

 カイルが考えることは一つだけで良い。

 この闘いに勝つこと。


「おい……剣気が上がって――」

「もっと!!」


 負けられない理由が脳にちらつく。

 ここまで、様々な闘いを乗り越えてきた。

 その過程で、沢山の人の力を借りた。


 アンナの配下の騎士達が、命をとして闘った。


「もっと……」


 ローゼが文字通り、血ヘドを吐いて道を切り開いた。


「もっと……!」


 グリーヌが数千の敵兵をたった一人で食い止めた。


「もっと……っ!」


 アンナがその全てを託してくれた。


「もっと……っ!!」


 負けられない。

 絶対にカイルは負けられない。


 絶対に帰ると約束したミリナのためにも!!


「俺は……俺は……勝つんだぁあああああ!!」


 カイルの咆哮と同時に大気がピリリと揺らいだ。

 そのカイルの足元が爆散し、超音速を更に超える速度で、イグニードを斬り付けた。


 受けられる……が!


「グゥッ!」


 膂力でイグニードの身体を吹き飛ばす。

 そのまま、玉座を破壊し、壁に減り込んだ。


「感情によって気力を向上させるのか……俺と一緒だな!」


 バァアアアアン!!


 イグニードが凄むと、壁が崩壊し爆炎が巻き起こる。


「憎い……憎いんだ。アイツが好きだった。好きな奴を殺された。目の前で! 俺には何も出来なかった! 憎い! 憎い! 憎い!」

「っ!」


 全身を使って、憎悪の竹を外に出す。


 ゾクゾクゾクっ。


 カイルの悪寒がなり止む事がない。


「その時だ。俺が炎龍丸に選ばれたのは。カイル。わかるだろ? 望叶剣使いなら、望叶剣の精霊が、どんな想いに呼応するか!」

「……っ」


 カイルは仲間を守りたいと思ったとき、鉄刀丸は強く応える。

 なら、イグニードの炎龍丸は?


「憎しみ……そして復讐心! 復讐の炎を燃やせば燃やすほど、俺は強くなる! それが『炎龍丸』の力だ!」

「鉄刀丸っ! もっと! もっとだ!!」


 嫌な予感と嫌な直感に、鉄刀丸から更に力を引き出しいく……


「見せてやる。望叶剣の力の真髄を……《破壊の最上級精霊よ・我が命を・我が魂を食らいて・我に力を与え給え!!》精霊魔装! 《破壊神の爆炎鎧》!!」











 



 



 


 







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ