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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
20/58

十一話  『白騎士は甘い香りと共に主を救う』

 シルバが『鉄龍』を召喚した直後。

 血と鉄の匂いが充満する『戦場』にいた筈のゴルドンは、次の瞬間には木々が生い茂る『樹海』にいた。


「ムム! コレは……転移魔法か!!」


 ゴルドンは、自分の身に何が起こったか、すぐさま看破して、とある大樹に騎士剣を向けた。


「誰だ。出て来るのだ!」

「ふっ。俺様の気配を見つけるなんて、素直に凄いよ。ゴルドン」


 その大樹の影から、男が姿を見せた。


「き、貴様はッ! ブラウン!」

「半分正解……かな?」


 飄々と現れた男は、七騎士の一人にして第七騎士団団長ブラウン。

 その正体に、ゴルドンは嫌な汗をかいた。

 何故なら、ブラウンは、七人居る七騎士の中で、一番謎が多い騎士。


 七騎士最下位の立場だが、ブラウンからは計り知れない何かを感じていた。


「ブラウン! 何故、私の邪魔をした!?」

「あれ? 俺様。言ったよね? 反逆者が王都に来たら迎え撃つって、さ」


 ニヤリと嫌な笑みでブラウンが騎士剣を抜く。


「違うのだ! 私は反逆者じゃない! 反逆者は――」


 斬ッ!


 説明する暇もなく、ブラウンの容赦のない斬激が、繰り出された。

 辛うじて受け止めたゴルドンとのつばぜり合いになる。


 そこで再びニヤリとブラウンは笑う。


「知ってる。だって、反逆者は俺様だも~~ん」

「なっ!?」


 理解不能の言葉に、一瞬、ゴルドンの力が緩んだ……ソコを、


 斬ッ!


 凪払われる。

 そして、態勢を崩したのを隙と見て、攻勢に出た。

 七騎士の卓越した剣技が、ゴルドンの体力を削っていく。


「いやいや、反逆者じゃなくて『黒幕』かな? 解る? ねぇ? 解ってくれた?」

「……《輝け》」

「うおっ!?」


 閃光ライトニングによる目潰し……怯んだブラウンに容赦無く騎士剣を突き立てた。

 

「ぐぅ……そんなぁ。人殺し……」

「ふんっ。貴様が何を言ってるかは全く解らんが、姫の為に闘う私に剣を向けた時点で、私の敵だ。敵ならば斬る」


 続けて、ブラウンの首をスパンと切り落とした。

 同じ、七騎士同士でも、やはりゴルドンとブラウンでは格が違った。

 そして、ブラウンよりも、ゴルドンの方が容赦がなかった。


「私が動揺した瞬間。私の命を断つべきだったな? 自称『黒幕』(笑)」

「そうだね。なら次の俺様はそうするよ」

「なっ!」


 首を落とした筈のブラウンの声が、背後から聞こえた。

 その瞬間……


 ブスリ。


 ゴルドンの腹部をブラウンの騎士剣が貫いていた……


「はい。動揺ブスリ。コレで良いのかな?」

「クッ! 不覚っ!」


 しかし、すぐに木の上に飛び乗り退避する。


「あらら。心臓じゃなかったか。それじゃ、まだ死ねないね。失敗失敗」

「ぬぅ~。ぬけぬけと」


 確実にわざと致命傷を外されたのは明らかだった。

 ブラウンはただ、ゴルドンをなぶり殺し、愉しみたい。そんな顔をしていた。


(しかし……一体なんなのだ? 分身魔法にしては妙。奴の死体が消えていない。ならば奴は本物……)


「でも、驚いたよ。まさかこの状態とはいえ、俺様が一人殺されるとはね」

「っ!」


 木の下に居るブラウンの声が、ゴルドンの真横から響き、気付いた時には、ポンッと肩に手を置かれていた。


「《輝け》」

「うおっ!」


 再び閃光。

 容赦のない一閃で、ブラウンの首を切り落としつつも、更に別の木に飛び移る。

 ……コレで終わり、の訳がない。


「あーあーあーあっ! また、俺様が死んじゃったよ。その魔法、地味な割に反則だね。ゴルドン。妹とその男相手に手を抜いてただろう」

「っ! ブラウンが……三人?」


 絶命し、木から落ちたブラウンの身体を、つんつんと突いているブラウンに驚愕する。

 今、ゴルドンの視界に映っているブラウンが三人……


「ハズレ~♪」

「ッ!」


 斬ッ!


 背後に四人目のブラウンの姿。

 今度は声と同時に背中を切り裂かれた。


「ぐぅっ!!」


 更に、三人のブラウンが、ゴルドンを追撃する。

 その全てに実体があり、七騎士クラスの実力だった……いや。


「全て同じ剣筋……やはり分身の類か! ならば! 本体を叩く! 《輝け》」


 閃光で、全てのブラウンの瞳を同時に潰し、絶命した分身を突いて遊んでいるブラウンの首を切り落とした。


「ふん。油断したな。貴様が唯一。闘いに参加しない。本体なのだろう?」

「いや~ん」


 だが、


「ひっどいなぁ~♪ 俺様が偽物みたいに言わないでくれよ」

「俺様、怒ったな。だって俺様を殺したんだもん」

「俺様は俺様を殺した奴を許さない」

「俺様――「俺様――「俺様――「――俺様「「「「「「「――

「っ! 貴様等は……一体……なんなのだ」


 いつの間にかに百人近くまで増えていたブラウンの姿を見て、流石のゴルドンも平常心が吹き飛んだ。

 そんなゴルドンに百人いるブラウンの中の一人が、前に出る。


「言っただろ? 俺様は『黒幕(笑)』だって。まっ、イグニードが暴走し、事が露見した以上。コレ以上この国に関わるつもりはないけどね♪」


 時間と共に数が増えていくブラウンに戦慄しか覚えない。

 ブラウン相手でも、一人二人なら、ゴルドンは負けない。

 しかし、百人以上の七騎士を同時に相手をする……勝てる訳がない。

 ……絶望。


「だけど、イグニードには愉しませてもらったし、俺様を殺せるお前を、ここでイグニードの舞台から下ろしてあげようかなと思ってさ」

「……くっ」

「俺様。強者同士の闘いは見飽きてるんだ。ソレに……もしかしたら、英雄同士の闘いで、歴史が動くかもしれないしね」


 千人を越えるブラウンが、ゆっくりと騎士剣を振り上げ……


「あっ。俺様は最強の魔人。魔王直属の配下にして、魔界王の一人《幻影王》ロッド・ロー・ローリンだから、俺様に負けるのは仕方ないよ」


 振り下ろした。

 何も解らない中、ゴルドンは自分の死を間近に感じながら呟いた。


「姫達……幸せに――」


 それが、ゴルドン・ローゼルメルデセスの人生最後の言葉となった。


 兵士達は果敢に『鉄龍』と闘ったが、その鋼鉄の身体には、どんな魔法も剣技も何もかも傷一つつけることは出来ず一方的に殲滅されてしまった。

 そんな『鉄龍』が、咆哮を放つと、遂に兵士達はパニックになり暴徒と化す。

 

「一人残らず殲滅しろ」

「グオオオオオオオーーッ!」


 召喚主シルバの命令で、鉄龍は、広げた羽から『鉄の棘』を飛ばして、逃げ惑う兵士達の背を穿つ。

 一人……また一人と、反乱軍兵士が倒れていく。


 混沌とする状況の中でも、屈強な精神力を持った兵達は、グリーヌの指揮下の元、


「炎魔法……《斉唱詠唱》開始!」


 即興だが、五十人の上級魔道士が集まり、詠唱を始める。

 

「《炎の精霊よ・灼熱の波動を持って・彼の者を討ち滅ぼし給え》 

 《炎の精霊よ・灼熱の波動を持って・彼の者を討ち滅ぼし給え》 

 《炎の精霊よ・灼熱の波動を持って・彼の者を討ち滅ぼし給え》

 《炎の精霊よ・灼熱の波動を持って・彼の者を討ち滅ぼし給え》 

 《炎の精霊よ・灼熱の波動を持って・彼の者を討ち滅ぼし給え》」……×10。


 複数人が声と魔力を揃えて詠唱することで、詠唱人数分の魔力を一つに合わせる事ができる。

 それが《斉唱詠唱》。

 その証として五十人の魔道士を中心に囲って、炎の魔方陣(マジック・サークル)が発生した。


《ユニゾン・ファイア・ノヴァ》!! 発動!


 どんな攻撃も無効にする『鉄龍』だが、

 あらゆる魔力属性には、必ず弱点属性が、存在する。

 そして、『鉄龍』の属性である《鉄》属性の弱点属性は《炎》。


 つまり、この魔法は、鉄龍の弱点を付いた魔法。

 その上で、五十人の《斉唱詠唱(ユニゾン)》。


 間違いなく現戦力で打てる最高の攻撃手段だった。

 それが……直撃!


 が……


「グオオオオオオオーーッ!」


 直撃を受けた場所に小さい焦げ跡を残し、『鉄龍』を激情させただけという戦果。

 そんな現実が、兵達だけではなくグリーヌの心もへし折った。


「グオオオオオオオーーッ!」


 微動だに出来ないグリーヌ達の前で、羽を広げた『鉄龍』は、《鉄の棘》を機関銃の如く撃ち込んだ。

 この攻撃の前では、騎士の鎧は意味を成さず、鉄棘の連射は面攻撃。逃げ道もない。


 ……死ぬ。


 兵達の誰もがそう思った時。


「《護れ》鉄刀丸!! 《メタル・プリズン》」


 ザンッ! と駆けつけたカイルが、地面に鉄刀丸を刺し、作り出した巨大な檻で、鉄の棘の脅威から、兵達を護った。

 そして、


「ふんっ。どうだ? アンナ! 檻は身を護る事もできるんだぜ?」

「攻撃を防いだだけで、ドヤドヤするでない! ……だが、よくやった」

「「「「アンジェリーナ姫殿下!?」」」」


 カイルの背中には、兵達が……騎士達が、畏れ敬愛し、護るべき対象の姫君がそこにいた。

 

「アンジェリーナ様ッ! 御自身の立場をお忘れか?」


 兵士達より一足早く、我に返ったグリーヌが言うように、アンジェリーナは反乱軍の神輿。

 将棋の駒に例えるならば、『王』。

 取られた時点で、負けが決まる弱点と言っていい存在。

 ……だが、


「来るな。グリーヌ! わたし……『世』と、世の伴侶が覇道! 邪魔する者は、世が滅ぼそう!」

「……っ!」


 アンナには、ゴルドンも認める、人を率いる能力(スキル)があった。

 スキル《女王の威光》

 それは有無を言わせない言葉の力であり、何より、従いたいと思わせる王の風格である。

 アンナが本気で号令すれば、グリーヌですら口を挟めない……


「ゆけ、カイル! 世の道を切り開いて見せろ」

「任せろ! ……って! おい! さりげなく、伴侶とか言ってんじゃねぇ! 危うく突っ込むのを忘れるところだっただろう!」

「よいから、ゆくのだ! カイルなら後で幾らでも、私に突っ込んで良いのだからな!」

「……嬉しくない……それ全然嬉しくない」

「そうか? 私の金髪にナニを突っ込んでも良いという意味なのだがな」

「ッ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!」


 人の士気を向上させられるアンナの能力(スキル)? のおかげで、士気が最高潮に達したカイルが咆哮をあげて突撃する。


「グオオオオオオオオオォォォッッ!」

「きんぱつぅううううううううッッ!」

 

『鉄龍』が翼から飛ばす大量の《鉄刺》と、カイルが『鉄刀丸』で飛ばす大量の《鉄刺》の喰い合い。

 耳をつんざく凄まじい金属音が響き、弾かれた鉄刺が四方八方に散弾するため、グリーヌや騎士達が加勢する事も出来ない。


「なっ! 龍の精霊と互角に闘ってるだと!? アイツ、人間なのか!?」


 姿勢を低くして、流れ刺に当たらないようにするしかない上級騎士も戦慄を隠せない。

 ……しかし、実際は『全く互角』では無かった。

 ミリナに補給され、アンナが今も魔力を回復させているとは言え、『鉄刀丸』を使えば、大量の魔力を消費していく。

 対する『鉄龍』に魔力損耗の概念があるかも怪しいところ……

 この膠着は長くは続かない。


「グオオオオオオオオオォォォッッ!」

「……お、おい。まさか」


 にも関わらず、『鉄龍』は更なる攻撃に出ようとした。

 大気を歪める程の吸息行為……騎士団を壊滅させた《鉄龍の息吹》の前兆。


「それは……まずい。アンナさあぁんっ! へ、へるぷ!」

「フハハハハッ! 美少女の私に、任せるがよい! 卑猥なるトカゲよ。この私が吐き出した息をそんなにも吸いたいか!? 変態メ! 気持ちは解るが残念だったな。私の息を吸っていいの――」

「おおおおいっ! 口上も、口撃も良いから! さっさとなんとかしろぇおおおお!!」

「グオオオオオオオオオォォォッッ!」


『鉄龍』胸が張り裂けんばかりに膨らみ、ブレスを吐き出す寸前にアンナが動いた。


「む~~っ。さっきミリナに奪われた。私の見せ場だと言うのに……仕方ない。《ウォール・ジャイアント》」


《ウォール》は敵の攻撃を防ぐ魔法……普通なら、カイル達を覆って発動するのだが……

 アンナは『鉄龍』を丸ごと包み込んで発動した。


 その結果。


 鉄刺の攻撃を阻み、更に!


 グオオオオオオオオオォォォッッ!


《鉄龍の息吹》すらも吐き出した傍から《ウォール》によって反射した。

 

「グオオ!?」

「フハハハハっ。バァーカめ! 自分の攻撃でダメージを受けおって。笑いが止まらんわ。ワッハハハハ……が。良くも悪くも攻撃になった……次は、出来ん」

「あらゆる攻撃手段を封じる……か。めんどくさい体質だなぁ。だが、どっちにしろ次が、最後だ!」


 一時的にだが、『鉄龍』の猛攻が止まった。

 ならばもう、カイルは『護る』必要がない。


 意識を集中させて、全ての神経を『攻撃』に回す。


「大博打になる。降りとけアンナ。失敗(しく)ったら死ぬぞ?」

「結構っ。行けッ! 私は死なんッ!」

「そうかい……後悔しても遅いからな!!」


 アンナは、ギュッとカイルに掴まり、あらゆる強化を施した。

 次の瞬間。


 ザッ!


 目にも止まらぬ速さで駆けたカイルが、『鉄龍』の頭に飛び乗っていた。

 そして、剣を突きさそうとする。


「馬鹿か! 剣気も纏わず、最硬鉱石オリハルコンよりも固い『鉄龍』の肌を、貫けると思ったか!?」


 飛び乗って急所を突こうとしているカイルの考えを、シルバが浅はかだと嗤う。 

 ……確かに、普通の剣なら貫けない。

 だが、それが『鉄龍』よりも高位の精霊が宿る魔剣だったら?


「さて。お前とお前、どっちが鉄の精霊に愛されてるか。運試しといこう、か!!」


 ザンッ!


 カイルは不敵に笑い、『鉄刀丸』を『鉄龍』に突き刺した。

 

 ザクンっ。


 ……刺さった。


「ふんっ。どうやら、この大博打。勝ったのは俺、みたいだぜ?」

「グオオォォォ……ォォォ……ォ……」


『鉄龍』の断末魔に力が無くなって行き、最後には光の粒子となってカイルの体内に入っていく……


「え!? ナニコレ? 今の光は!? アレ?」

「まさか、精霊契約? 今のカイルの魔力総量じゃ、召喚出来んだろうに……馬鹿な精霊だ。カイル、無理に使おうとするなよ? 魔力欠乏症も度が過ぎると死ぬからな」

「契約……ね。そもそも、召喚魔法の詠唱なんて知らないんだが……」

「……能く能く馬鹿な精霊だな」

「言いすぎだろ! ……さてと。じゃあ。そろそろ本命に行こうか」


 本命。

 次はシルバだと、カイルが視線を向けると……


「茨拘束魔法! 《ローズ・キャプチャー》!!」

「うおおおおおおおーーッ! ぐっ。動けん……魔力も吸われてるだと!?」


 既にグリーヌが、無力化した後だった。

 シルバを失った騎士団も瞬く間に敗走していく……


「うむ。第四と第六で直接戦えば、そんなものだな」

「殿下……処遇を」


 シルバの生死を、グリーヌに問われたアンナは、茨に縛られて居るシルバの姿を、無言で暫く見つめてから、


「捨て置け。今は先を急ぐ。出来るだけ兵を集めるのだ。この機を逃すな。すぐに進撃するぞ!」

「……。ハッ!」


 何かを言いかけたグリーヌだが、自分で納得し、勅命に従う。

 そんなグリーヌの代わりに、


「良いのか? また暴れるかもよ? せめて口説き落とせばどうだ?」

「ふんっ。私は尻軽ではないのだ。口説き落とす男は一人だけだ」

「いや……そういう意味じゃなくて……」


 ローゼやグリーヌのように忠誠を誓わせ、配下に入れるか、二度と歯向かえないように殺すか、した方が良いと言う問いだったのだが……普通に返されてちょっと気まずくなった。


「ん? ああ。よい。この争いシルバ殿に責はない。それに、どちらによ。私には心強い殿御が一人おるからな。名誉に思うのだぞ?」

「……そうかもね」

「む!? ならば――」

「――嫌だ」

「ムムムっ。まだなにも言っておらぬぞ!?」

「喋るな、ブス」

「ブス!? よりにもよって、この私に向かってブスだと!? そんなこと言って良いのか? 知っておるんだぞ! 共に寝た刻き。カイルが私のナニをナニしたか! 起きておったのだぞ!?」

「嘘……だろ!?」

「フハハッ! 私は嘘を言わない美少女だ! (ニヤニヤニヤ)」

「っ! ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!」


 カイルが地面に崩れ落ち喚いて居ると、壊滅した兵を集めたグリーヌが、戻って来た。


「殿下。申し訳ありません。集められたのは百余名です」

「うむ。良くやった。そして、皆のもの、世の元に良く集った!!」

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーッ!」

「……」


 アンナの檄がカイルの絶叫に遮られた……


「おい! 空気を読むのだ! 折角、私が士気を上げようとしているのだぞ? あの夜のことは誰にも言わんでやるからな? 夫婦(めおと)の秘密だ」


 バリンっ。


 ……止めになった。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーッ!」

「お、おい! 先走るのは下だけにするのだ。とまれ! イった所で城門は一人で攻略出来ぬだろう……」


 壊れかけていた精神が完全に壊れ、作戦も何も無く王都に向かって走り出す。

 更にその時、運が良いのか悪いのか、アンナが派遣していた別働隊が、内から城門を開けた。

 ……それを見て、アンナは諦めた。


「ええい! 私達に続けぇぃ! これが最後の決戦である! ローゼルメルデスの騎士(つわもの)よ! こんな田舎小僧に遅れを取るなぁぁあ! ローゼルメルデスの誇りを見せるのだ!」

「「「「おおおおおおおっ!」」」」


 カイルに続く形で、約百人の兵団が王都の門を遂にくぐり抜けた。

 目指すはただ一つ、王宮だけである! 



 「けして、民を傷つけてはならぬ!」


 アンナの怒号が響く。

 

「し、しかしっ! それではッ――」

「しかしも、粗チンもない! 民あっての国なのだ! 世の命に変えても民を守るのだ!」

「ハッ! (粗チン?)」


 王都内の戦闘は今までと趣向が違った。

 なによりもまず、敵の数が圧倒的。

 城門の戦闘に加わらなかった、残り半分の王都兵が行く手阻む。


 それに対して、アンナが率いる手勢は、すずめの涙と言っていい……『鉄刀丸』と《オーラ》で魔装したカイルと、七騎士グリーヌが先頭となって道を切り開くが、その足はいっこうに進まない。


 そして、なによりも今までと一番違うのは、市街戦であるという事。 

 戦場のそこかしこに民間人が散らばっている為に、戦いづらく、大規模な魔法も発動することも出来ない。


「ぬぅぅっ。やはり……無謀だったか」

「泣き言をッ! ――」


 斬ッ!


 カイルが敵兵を五人まとめて凪払い、一歩。確実に足を進める。


「――言ってんじゃねぇぇーッ!! 何時もみたいに下ネタに走った方が、まだマシだ!」

「むぅぅっ。私が年がら年中下ネタを言っている淫乱みたいに言うなッ!」

「違うのか!?」


 驚愕。


「違うわいッ! 私はな、カイルが居るときにしか発情しないのだ!」

「発情してたのかよ!!」


 更に驚愕っ!


「冗談だぞ? 膜が傷付くから引くでない!」

「膜って……」

「処女まん――」

「言わなくて良いわぁぁぁーーッ! ん? まん?」


 カイルが困惑しながらも、敵兵の集団を切り抜けた時、開けた視線の先に、『クロスボウ』を構えた集団。


「第一……撃てッ!」


 指揮官が手を振り下ろし発射。

 豪速で、大量の矢が撃たれた。


「チッ! 《護れ》!」


 今のカイルの身体能力なら、避けられない事もないが、カイルの背後には敵味方一般人含め大量の人間が居る。

 避ければどうなるのかは、赤ん坊の首を捻った結果よりあきらかっだった。


 前方へ鉄壁の大量展開。

 射撃を防ぐ……が、そこでカイルの魔力が切れてしまう。

 それは同時に、カイルに魔力を送っていたアンナの魔力も切れたという事。


「第二、第三、放て!」


 更に、建物の屋根の上、そして屋内から、クロスボウの矢が放たれた。


「ぐぅ……っ! アンナッ!」


 カイルは咄嗟に、アンナに覆いかぶさりながら、伏せるが、それも意味はないだろう。

 二人とも貫かれるのがオチ……

 

 その時、


「《守護の精霊よ・慈愛の壁となって・阻み給え》!!」


 耳が心地好くなる様な優しい唄が紡がれた。


 防御魔法ウォールが、その場の全員を結界で守った。

 そして、沈黙した戦場に一輪の花が舞い降りる。


 騎士の礼服を揺らしながら、甘い香りともに上空から降り立ったのは……


「ローゼ」


 七騎士第五騎士団長ローゼ・フィルティスだった。

 ローゼはクルッとカイルに振り返り、ひざをつく。


「遅れてしまい申し訳ございません。主様。このローゼ。只今馳せ参じました」


 バサバサバサバサと、屋上にいたクロスボウ部隊が、降り注いだ。

 

「……」


 色々驚き過ぎて、何も言えないカイルに代わり、


「ムムム! ローゼ! 何故参ったのだ! 貴殿には衛生兵を纏める任を授けたであろう。勅命だ。今すぐ戻れ。貴殿にしか救えない命があるであろう」


 スキルを発動して強制命令。

 ローゼルメルデセスの民ならば、アンナの命令には逆らえない……が、


「フフ……」


 ローゼはスッと顔をあげ、立ち上がると、カイルに魔力を注ぎはじめる。

 そうしながら、


「お言葉ですが、姫殿下。私の主は、カイル様です。殿下が主様を護れない様なので、ここからは私がお供致します。殿下こそ戻られたら如何ですか? 心もカラダも、お子様なのですから無理をなさらず(笑)。主様のことは、任せてください。私の方が主様の役に立ちますので、イロイロと」

「ムムムムッ! 無礼だぞ! って! そんなことはよい! 何故、私に逆らえる!」


 騎士が王に逆らう異常事態に、アンナは取り繕うのを辞めた。


「もうひとりの姫殿下から、『お姉様がポンコツなので、カイル様を護りに行ってください……イロイロな事から』と、勅命を受けていますので」

「ミリナリアァァァァーーっ! そんなに姉が信用できぬのか!!」


 アンナの絶叫。

 ソレを聞いて、カイルが空白から帰還し、


「と、とりあえず。ローゼ。年上に、『主』とか、『様』とか言われるのは、ちょっとあれだから遠慮させて」

「そうですか……畏まりました」

「ソレと、アンナはポンコツだけど、まだ使える」

「……ハっ。カイルさんがそうおっしゃるのであらば」


 ローゼは投げやりにアンナにも魔力回復を施して、


「では、カイルさんの花道。このローゼが切り開きましょう。姫殿下加護を」

「うむむむっ! 私を都合の良い肉奴隷みたいに使うなーっ。と、言いたいところだが《オーラ》。その忠義見事! 貴殿の王として誇りに思うぞ」

「ハッ! 私も姫殿下の騎士で恐悦至極……いきますっ! 私に続いてくださいッッ!!」


 七騎士の全力は竜巻を思わせる進撃を見せた。

 あらゆる攻撃を先読みし、阻み、敵を遠・中・近関係なく薙ぎ倒す。

 その結果、カイル・アンナ・グリーヌ・ローゼの四人だけではあるが、王宮の前までたどり着いた。


「ぐぅ……っ」

「ローゼ!」


 しかし、そこで、ローゼが吐血し、膝を付く。アンナの《オーラ》の光も消えてしまう。

 そんなローゼに、駆け寄ろうとするカイルを、手で制し、


「無用です……っ。少し、無理が祟りましたが……カイルさんのお役に立てたでしょうか?」

「……ああ。十分だよ」

「ふふっ。なら良かった……です。先をお急ぎください……闘いを……終わらせて……くだ……」


 気絶……


「くそっ。これが、人の上に立つ責任か……」


 カイルが今、やるべき事はローゼを助け起こすことでも、労うことでもない。

 王宮に上がり、国王の洗脳をとき、この闘いを終わらせること……

 そのためだけに、ローゼだけじゃなく何人もの屍を乗り越えてきた。

 ……今、止まるわけにはいかない。


「アンジェリーナ殿下。そして、婿殿。我輩……がここに残りましょう」


 カイルとアンナのそんな苦悩を察して、グリーヌが王宮の門背に、立ち止まった。


「グリーヌよ。貴殿はなんのために戦うのだ? ……つまらぬ事は語るなよ?」

「ハッ! では、『未来』の為と答えましょう」

「フンっ。こんな時にも固い奴だな。そこは愛しい殿御に抱かれる為とか言えんのか?」

「おりませんので」

「ぇ?」

「愛しいものなど、おりませんので。なにか?」

「い、いや、す、すまぬ……」


 普段、空気を読まないことに定評があるアンナも、この時ばかりは気まずそうに視線をそらした。

 その視線の先に、数千に上るかという敵兵を見つける。

 遂に、全ての王都兵集まって来たのである。

 

「フフフッ。さぁ。いかれよ。ここは我輩が何人足りとも通しませんので」

「グリーヌ。まさかっ!」

「いかれよ! 我が王よ!!」

「っ!」


 言葉から覚悟の重みを感じとった。

 アンナは同じく絶句しているカイルの腕を取り背を向けた。


「勅命だ。我が騎士ならば、死ぬな」


 そういって、カイルと共に王宮に足音を消した。

 グリーヌは、それからゆっくりと、ローゼの体を、柱の影にかくし、その騎士剣を預かった。

 そして、夥しい数の王都兵に向かって、剣を構えると……


「御意。……すまぬが、貴様ら、死にたくない輩は後ろに下がれ、我輩……今から鬼人と化す」 


 グリーヌの気合いに空気が脈打ち、壊れた建物が音を立てて崩れる。

 瞬間、本当に鬼の形相になったグリーヌが、なみいる敵兵を吹き飛ばしていた。

 ……この、ミリナを巻き込む長い闘いの中で、一番激しい大激戦となるのであった。


 

 




 



 


 







 


 


 


 





 


 





 






 


 

 




 



 











 

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