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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
19/58

十・五話 『少年は友のために剣を取る』

 一同は、カイルの気絶を受けて、一度、野営を張った。

 アンナは、その中の一つのテントに、カイルを寝かせ、今後の方針を決めることにした。


 全ての中心である、ミリナリア。

 カイルに忠誠を誓った、ローゼ。

 カイルに敗れ、半鉄化状態のゴルドンとグリーヌ。


 気絶しているカイルと、仕切るアンナを入れれば五人がテントの中に集まっていた。

 殺伐としている中で、一番最初に口火を切ったのはゴルドンだった。


「マイエンジェル。私の身体は何時までこうなのだ? 糞餓鬼(カイル)はともかく、エンジェル達に危害を加えることはない……信じてくれ! むしろ! 害虫からエンジェル達を守る事こそが私の使命なのだ!」

「兄様よ……頼むから、有難迷惑な使命感に燃えるでない。それと、その状態異常は、私でも《ディスペル》出来ん。カイルが起きたら謝って治して貰うことを推奨する」

「ノオオオオオオーーッ! これではマイエンジェルを抱擁できないでは無いかぁッッ! オイッ! クソガキ!! 起きるのだ! 早く私の身体を元に戻すのだぁああああーーッ!」


 喚き散らして暴れようとするゴルドンだが、身体が鉄になっているためピクリとも動けない。

 同じ境遇のグリーヌはゴルドンと対照的に一言も喋らず瞳をつぶっている。

 また、ミリナは会議そっちのけで、眠るカイルを介抱と称し、だらしない表情で、布団の中に侵入、ぬくぬく寛いでいる。

 そんな、ミリナの行動を、(とが)めたいローゼだが、ミリナは一応、姫君。不敬なことは出来ないため、対応に手を焼いていた。


 つまり、誰もアンナの事など見ていないのであった。

 

「フフ……」


 その光景がアンナには可笑しかった。


(数刻前は、命懸けの死闘を繰り広げていた連中が、今は馬鹿騒ぎか……。カイルと居ると、何時もこうなるのだな……だが)


 冷笑しながら喧騒を見渡し……ゆっくりと立ち上がる。

 そして、


(やかま)しいわぁああああーーっ!!」

「「「「……」」」」


 一喝。

 一瞬で全員を黙らせた。

 そして、



「ミリナ。何度も言うが、カイルのソレは『魔力欠乏症』に近い。恐らく意識はあるからな。今やっていること、全部カイルに筒抜けだぞ?」

「ヘッ!? ち、違います! 違うんです。カイル様~っ! 私がカイル様が動けないことを良いことに、イロイロ体験してみようだなんて思ってないんです」

「……」


 真っ赤になって飛び起きるミリナ。

 ……次。


「ローゼ。貴殿はカイルに剣を捧げたとは言え、我が王室にも剣を捧げた事を忘れるでない。王国の一大事に呆けている場合なのか!? 良く、考えよ」

「……っ! ハッ。そうでした」


 我に返り佇まいを直すローゼ。

 ……次。


「グリーヌ。貴殿は目を開いて、真実を見るのだ。そして、己が闘う意味を、自ら見いだせ。騎士ならば逃げることは許さんぞ?」

「……真実。……闘う意味」


 スッと目を開き、思考し始めるグリーヌ。

 ……次。


「兄様……は」

「……?」

「コホンっ。『お兄ちゃんっ。私に力を貸して(甘声)』」


 ズキュッン!!

 

「お兄ちゃんに任せるのだッ! マイスイートハニーィィィィィーーッ!」


 絶頂。


「お兄様……ちょろいです」


 ボソッと誰もが思ったことをミリナが呟いた所で、アンナは場を完全に掌握した。

 そこで本題に入る。


「では、兄様。今、私達に降りかかっている事で、兄様が知っていることを全て話してもらいたい」

「……うむ。そうだな。全て語ろう。何が起きているのか。恐らく、私は全ての真相を知っているのだからな」


 ゴクリ。


 全員が真相という言葉に唾をのみ、身構えた……

 そして、


「結論から言おう。私達王室を洗脳し、ミリナリア暗殺を企んだのは、《炎王》イグニードだ」

「なッ! イグニード!? ……いや、『私達』?」

「落ち着くのだ。スイートハニーエンジェル。ここからは順をおって話そう。奴の復讐劇……その全ての始まりは十年前の『黄金龍襲来』」

「っ!」


 十年前……カイルの村が、黒龍に襲われていた同時期。

 ほかの場所、大陸各地に同規模の『龍』が一斉に出現し暴れていた。

 その内の一体、黄金の身体を持つ『黄金龍』が、ローゼルメルデセス王国に出現したのである。

 

 それを知っているアンナは小さく唾を飲み。

 続くゴルドンの言葉を予測して……


「『黄金龍』はなんとか、イグニードと、駆けつけた勇者が、撃退したのだが……その時、イグニードの最愛の婚約者が……戦死したのだ」


 そして、最愛の婚約者を亡くしたイグニードの苦しみと悲しみを想った国王は、王国一の美少女として頭角を現していた娘であり、第一王女でもあるアンジェリーナを許婚とすることを約束した。

 だからソレはアンナも知っている。


「つまり、イグニードの目的は、私の美少女さが気に食わなかったということか?」

「違うッ! マイスイートハニーエンジェルは世界一美しいに決まっている。奴も、アンジェリーナには本気で心を許していただろう」

「で、あろうな……ならば?」

「……洗脳されるとき奴は言っていた。『国を固め、魔大陸へ進攻し黄金龍を討つ』とな」


 かつての恋人、その敵討ち。

 それこそがイグニードの狙い。


「ム?」


 そこで、アンナは首を捻った。

 まだ一つだけ、解らない事がある。


「報復したい。ソレは解る。ならば何故、ミリナを暗殺しようとしたのだ?」

「うむ。私にもソレは……解らん」


 一同が再び口を閉じた時。


「そんなこと。イグニードに直接聞けば良いだろ?」

「カイル!?」


 カイルの目覚めに一瞬、驚いたアンナだったが、すぐに冷静になり瞳を細める。


「ムッ? 直接……聞く、だと?」

「そうだ」


 その場の全員の視線を受けながら、カイルはカイルの身体を甲斐慨しく支えてくれている、ミリナの肩に手を添えて、


「ミリナが殺されなきゃいけない理由が、イグニードひとりと言うのなら、逃げ出すより倒した方が早いだろ? ミリナにとっても、それが良いに決まっている」

「カイル様……」


 敵はもう、ローゼルメルデセス王国では無くなった。

 イグニードただひとり。


「奴を倒して、このふざけた闘いを終わらせるんだ。今度は七騎士だって味方してくれる。違うか?」


 肩を竦め、イグニードとグリーヌの鉄化を解き、三人の七騎士に問い掛けた。

 すると、すぐさまローゼは膝まづき、


「ハッ。御心のままに」


 ずっと瞳を閉じていたグリーヌは瞳を開けて、


「王が洗脳されているというのなら、それを解くのは臣下として当然の役目。洗脳を解くまでの協力。それで良いなら、我輩も力になろう」

「なんでもいいよ。ただ、ミリナに剣を向けたことは後でしっかり謝って貰う」

「是非もない」


 最後に、ゴルドンが……


「私は……私は……貴様の……仲間に……など、ならんわぁああああーーっ!」

「グフゥゥッ!?」


 グーでカイルの溝打ちを殴り飛ばした。

 唐突過ぎて、何が起きたのか解らなかったカイルは、非常にゆっくりとした体感時間で宙を舞い、ミリナは悲しそうに手を伸ばし、ローゼは目を見開き、グリーヌは瞑目し、アンナは頭を抱えた。


 ズドガァッッン!


 ゴルドンは、スクリュー回転で、吹っ飛ぶカイルを満足そうに見送た後、


「姫は私が護るのだーーッ!」


 と叫んだのだった。

 その後、乱闘になったのだが、アンナとミリナの仲裁により、なんとかゴルドンとカイルはイグニードを打倒する方向に纏まったのだった。


 《ローゼルメルデセス王都》

 その近辺に、アンジェリーナ率いる騎士団が集結した。

 

 集まった兵士の数は、第二・第四・第五騎士団合わせて三千人。

 今から起こるであろう大戦闘を予期して、誰もが緊張を高める中、その首脳陣も……


「カイルよ。解っているな? 目的はあくまで、王城に囚われている筈のお父様……ローゼル王の奪還だ。イグニードと闘う必要はないのだからな?」

「うむ。奴が出て来ても、我等、七騎士が相手をしよう。乳臭い糞ガキは、おしゃぶりでも、しゃぶってるんだな。ハッハッハ」

「……俺に負けた負け犬が、なにかわんわん吠えてるな。おい、ミリナ。ドッグフードはあったっけ?」

「ムッ!?」

「カイル様。カイル様。ソレは言ってはいけませんよ。お兄様が本音を付かれて狼狽しています。可哀相です」

「ムムッ!」


 ……別の意味で緊張が高まっていた。


「とにかく!! 時間を掛ければ戦力の少ない私達は不利、よって短期決戦となる」


 アンナは、この数刻の間になれてしまう程、喧嘩を繰り返すカイルとゴルドンを無視して、話を続ける。


「予定通り、守備軍はシルバが率いている。護りに定評のある騎士だが、ゴルドン兄様が直接叩けばなんとかなるであろう。グリーヌは全体の指揮を、ローゼは負傷兵を敵味方問わず癒してくれ」


 アンナ達の反乱は、隠せるモノではなく、王都に残っていた七騎士達が騎士団を率いて立ち塞がった。

 更に、アンナ率いる反乱軍の軍勢が三千に対し、王国軍は一万を越える。

 更に更に、時間を掛ければ、国中から、その倍の兵が集まって来てしまう。

 そうなれば流石に勝ち目はないが、七騎士の質で言えば、ゴルドンを擁する反乱軍がやや有利。


 ゴルドンに対抗出来るのは、イグニードだけであり、イグニードが出て来るならば、ローゼとグリーヌも参戦し、アンナが三人を強化すれば圧倒的有利で闘える。

 今、この状況でなら、ぎりぎり反乱軍の勝機はあった。


「ん? 俺は?」


 カイルは、着々と進む作戦にカイルの『カ』の文字も出て来なかった事を問いただす。……と。


「カイルは、私の超強化が無ければ、一般兵士以下なのだから、本陣でジッとしているのだ」

「ぐぅっ。いや、でもッ! 俺にはこの剣が――」

「その力は使うな!」

「……」


『鉄刀丸』を抜こうとしたカイルを、アンナが強く言い付ける。

 珍しく真剣な様子のアンナに、カイルは軽口も叩けなくなった。

 それに……


「カイル様……」


 カイルの腕を不安そうにミリナが引っ張り、益々ぐうの音も出なくなる。

 カイルの目的はあくまで、ミリナを護ること、ローゼルメルデセスの内乱を収める事ではない。

 不安に駆られるミリナの傍を離れないことこそが、カイルのやるべき事。


「大丈夫。俺はミリナの傍に居るよ。それが約束だしね」

「カイル様ーっ♪」


 今回ばかりは闘うことを諦めて、ミリナの頭をわしわしと撫でるカイルに、アンナが大きく頷いて……


「うむ。それで良い。カイルは雑魚なのだからな! 死なれては結婚出来なくなるからな。ハッハッハッ」

「結婚って……お前、マジで――」


 いつも通りの冗談に、カイルもいつも通りに答えようとした時。


「クソ餓鬼死ねぇええいーーッ!」

「ゴフッッ!?」


 ゴルドンのクロスアッパーが、カイルの顎を直撃。

 数十メトル後方へと吹き飛んだ。


 そして、すかさず、地に伏せたカイルに近づいたミリナが、


「浮気は駄目です。カイル様と結婚するのは私です」


 と言いながら、カイルの腕を胸に抱いて、自分のものだと主張……

 もちろん、ソレを見たゴルドンが再び……アッパーキック!!


「滅びよッ!!」

「グフッッ!?」


 直後、カイルは空中を舞ながら、思う。


(理不尽だーーッ!)


 混沌とし始めたテントから出たアンナは、独り静に溜息を着いた。


「本当に……これでよかったのか? 敵はあのイグニードなのだぞ?」


 全ての作戦を考え、数千人の兵士や騎士をたき付けたアンナには、その全ての命を背負う責任があった。

 その責任の重みが、アンナの表情をいつになく暗くする。

 

 人の命を背負う事は、まだ十三歳の少女には重過ぎた。

 ソレでも賢明なアンナは、この状況で誰が上に立つべきなのかを解ってしまう。


「悩んでいるのか? アンジェリーナよ」

「兄様……」

「前から言っているが、アンジェリーナは人の上に立つ才能がある。次の王位を継ぐのもお前になるであろう」


 地平線に沈む真っ赤な夕日を眺めるアンナの隣に、ゴルドンが立った。


「私の言葉一つで、何人もの人間が死ぬ。……それが怖いのです」

「ふむ。だが、ソレをよくぞ皆の前で見せなかったな。それで良い」

「はい。承知しております。王族の揺らぎは下々の者に伝染する。けして、ソレを見せてはいけない……と」


 どれだけ重い責任でも、どれだけ怖い事柄でも、王族であるならば笑い飛ばすべし。

 それが、ローゼルメルデセス王家に生まれた者の在るべき姿。

 だから、アンナもゴルドンも笑う。


「しかし! 孤独である必要もない。ソレではいずれ、心を病むであろうからな」

「……と、言いますと?」

「ふんっ」


 ゴルドンは不満げに鼻で笑い、テントの中でのびている、カイルに視線を向けた。


「クソガキだが、よき男ではないか。早く婿にしてしまうのだ。さすれば奴も王族だ。泣き言の一つも言えるであろう」

「……ム? 良いのですか? アレは下民ですぞ?」

「身分などどうでもよいわ。重要なのは、お前が、心を許せるかどうかと言うことなのだからな。問題があるなら、適当に功績を取り立て爵位を与えればよい」

「フフ……やはり、兄様は兄様。変わらないなぁ……」

「奴の前でのお前の振る舞いに、無理がない。そういことなのだ」


 アンナは昔を思い出しながら、静かに笑った。

 ゴルドンは何時も、アンナの為になることをしてくれていた。


「兄様も人を見る目は確かなのだ。こうして普通に話していれば言葉にも力がある。性格(シスコン)人格(バカ)を治し、王位を継ぐ気はないのですか?」

「私は王族だが、騎士なのだ。騎士として生きる以上、何時、どうなるか解らぬ。私に何かあったとき、ローゼルを導くのはお前しかいないのだ。すまぬ、分かってくれ」

「……」

「まあ、クソガキが嫌なら、何時でも私が婿になるからな! 遠慮するなよハッハッハッハ」

「慎んで遠慮させてもらう!!」

「そういわず、申しで、何時までも待っておるからな! ハッハッハ」

「一瞬も待たんでよい!!」


 アンナの言葉などどこ吹く風で、盛大に笑い飛ばしながら、ゴルドンは兵を集結させ始める……

 アンナは、王女の仮面を被る前に、小さく呟いた。


「兄様……死ぬでないぞ? 近いうちに、私の子を抱いて貰うからな」

「ハッハッハーっ。私とアンジェリーナの子か! ソレはさぞ可愛いのであろうな!」

「違う! 私とカイルの子だ! 誰が兄の子など作るか!」

「よし! やはり、クソ餓鬼は殺しておこう」


 そうして、カイルが宙を舞うのであった。


(なんでぇーーッ!?)


 「我に続けぇぇぃーッ!」

「「「おおおおーーッ!!」」」


 開戦のノロシが上がったのは、日の入り直後。

 アンジェリーナをみこしに担ぐ、反乱軍三千人がゴルドンを先頭に進撃していく。


「ゴルドン……来たか。捻り潰せ! 義は我等にある!」

「「「おおおおーーッ!!」」」


 対する七騎士シルバ率いる五千人の兵がソレを受け止めた。

 そして、戦況は一気に乱戦へと移っていく。


 その様を、戦場を一望出来る丘の上の本陣からカイルとアンナは眺めていた。

 

「戦況は互角……か。二千人も兵力差があるのに凄いな」


 戦場で一騎当千と暴れ回るゴルドンの活躍をのんびり眺めながらそんな感想を漏らした。

 

「兄様の強さは、カイルも良く解っておるだろう。これくらい当然だ」

「……お前、本当、ブラコンだよな」

「カイル様~♪ カイル様~♪ 私はカイル様一筋ですよ?」

「ソレは……ありがとう? でも、こんな場所にミリナがいちゃいけないよ? 後ろのテントに入ってて」

「ハーイ♪」


 ミリナがピンク色の声で、テントの中に戻って行くのを見ながら、ゴルドンの強さを思い出す。


(ゴルドンとの闘い……『鉄刀丸』の力を解放して、アンナの超強化を受けても、まだ劣勢だったもんな。ローゼが力を貸してくれて、アンナへの狂愛を利用して、ようやく倒せた化け物だ。味方になるとこれ程頼もしいのか)


 だからこそ、ゴルドンより強いと言われるイグニードが恐ろしいのだが……


「ん? どうしたのだ? カイルよ」

「いや……俺って場違いじゃね!? と思って」


 事がここまで大きくなってしまったら、もはやカイルに出来ることなど皆無と言っていい。

 アンナは、王女(アンジェリーナ・ローゼルメルデセス)として、作戦を考え全体の指揮をとっている。

 今も、先程から絶え間無く、アンナの元には兵が報告に駆け込んで来ている。

 

 本陣に残る他の者たちも、同様で、忙しなく動き回っている。

 ただひとり暇そうにしているカイルは、最早、邪魔と言ってもいいレベル。

 ……王女の横に居ることで、兵士達から向けられる謎の視線も痛い。


「なぁ、アンナさん……俺もテントに引きこもってた方がいいか?」


 出来るだけ邪魔にならないようにとの配慮。

 しかし……


「いや、カイルはここに居るのだ!」

「なんで?」


 純粋な疑問。

 カイルが居ることで、アンナも王族としての顔を見せずらそうにしている。

 明らかにカイルが居ないほうがやりやすい。


「この軍の神輿(みこし)は私だが、カイルは勝利の象徴なのだ。カイルが居るからこの軍は成り立っておる! ……事もある」

「……は?」

「自分でやった事を思い出せ。国から不当に追われていた第二王女ミリナリアを単独で守護し、王国からの数々の追撃を躱し続け、終いには、七騎士のうち、三人も、打ち倒した偉業! 兵達の士気の高さはカイルあってのモノなのだ!! ……ということが割とある、事もある。かもしれん」

「自信ないのな……いや! でも、そもそも、ソレは盛りすぎ……あんなん殆ど運だし、何より、アンナが居たから――」

「ソレは当然だ。カイルは基本、美少女の私が居ないと雑兵以下だからな。だが!! 兵達はそう思っていない……かも知れん」

「……」


 言われて兵達を見てみれば、確かに向けられる視線に、尊敬の念が混じっているのを感じられる気がした。

 そう、カイルは兵士達からしてみれば、王女を守る絶対的な正義の象徴!

 ……救国の英雄なのである!!


「ぐぅ……」

「なによりも、カイルを(あるじ)としたローゼはもちろん。兄様や、グリーヌは、一目置いているのだぞ? 七騎士に認められているのだ。胸を張るのだな。はっはっはっ」

「過大評価過ぎてお腹が痛い。やっぱりテントで、ミリナと遊んでようかな?」


 そういって、テントに戻ろうとするカイルの腕を、


 ギュッ


 アンナが掴んだ。


「むぅ……鈍感男め。ならば言い方を変える。暫く私の隣に居てくれ。……私にはカイルという日常の指針が必要なのだ。王女になどなりたくない。私は私でいたい……」

「……」


 腕を掴むアンナの指は微かに震えていた。

 恐怖……


(王女としての重責か……そういえば全然、下ネタを言っていない。良いことだけど……思ったより追い詰められて居るのか?)


「解ったよ。仕方ない。今だけはお前の背中を支えてやるよ」

「うむ! 流石は私の夫となるものだ!」

「おいっ! お前、最近、ちょくちょくソレ言ってるけど。ならないからな! お前がそれ程、恐がる王族の家系になんて絶対にならないからな!!」

「なにお言う!! 私は怖がってなどないぞ!」

「……ああそう。そういう意地張るんだ。なら、やっぱりミリナの様子、見に行ってくるわ。ミリナの方が素直で可愛いし」

「おまッ! 馬鹿ッ! 行くな! 私を置いて行くでないぃぃーっ!! 怖くはないが! 一人にはなりたくないのだ! 怖くはないがな! はっはっはっ! ……カイルぅううう!!」


 閑話休題。


「……しかし。互角ではダメなのだ」

「どういうこと? 時間をかけて、ゴルドンが暴れれば、なんとかなるんじゃないのか?」


 膠着状態になってきた戦場を見ながら、アンナが雲行きが怪しいと呟く。

 されど、カイルには、一向に曇ることのない、ゴルドンの活躍に、そうとは思えなかった。

 だが、アンナは戦場の反対側に指を指す。


「軍議を聞いてなかったのか? 言ったであろう。今、我等が戦っている兵は、王都軍の半分。時間をかければ、反対側の壁を護る兵が増援に現れ、敵は今の倍に膨れ上がるであろう……そうならないように城攻めの策も打ったが……」

「芳しくないと?」

「……まだ、今のままなら間に合うであろうが……」


 アンナはそういって、真剣な様子で、戦場全体を見つめ……


「シルバの動きが妙だ。用意周到な奴が出ているにしては、静か過ぎる。何か臭うのだ」

「臭う!? オナラでもしたのか?」

「美少女はオナラなどせん! そうではなく……」


 ゾクリっ。


 突然、カイルの背筋に悪寒が走った。

 同時に、アンナが、感じとる。


「ムッ!? 超膨大な魔力反応!?」


 戦場のど真ん中に巨大な魔方陣。

 そこに、収束していく莫大な魔力。

 その中心に、シルバの姿があった。


「ふんっ。時は満ちたな……人事を尽くして天命を待つ! 至言なり」


 ニヤリと笑い、魔方陣の中心で、腕の動脈を切り裂き、ドバドバと大量の血液を投下。

 そして、


《鉄の精霊よ・契約に従い――》


 唄った……

 一小節毎に魔力が膨れ上がっていく……


《――契約者たる我が血を媒介に・いでよ!! 弱肉強食の王! 鉄龍!!》


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!」


 シルバの歌が詠まれ終わると同時に、空間がバリンと割れて、巨大な龍が姿を現した。


「なっ! 召喚魔法! 精霊を呼び出したのか!? しかも召喚精霊最上位の龍だと!?」

「ソレ、誰に向けての説明?」

「カイルだ!」

「俺か!?」


 契約により別次元の精霊を呼び出す超稀少魔法。

 召喚魔法を使える者は、代々受け継がれる血脈であったり、個人的な適正であったり、様々だが……

 召喚された精霊は、一概に人知を超越した圧倒的な力を持っている。

 精霊龍はそんな精霊達の中でも最強の存在。


 その証拠に、呼び出された龍が、十メトル近くある極太の尻尾を一振りしただけで、反乱軍兵士百人を纏めて戦闘不能に追い込んだ。


 更に、ズズズーッ! と大気を吸い込み、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォーーッ!」


 大声量で咆哮を吐き出した。激哮!

 龍の体内で、凄まじい魔力を練り込まれた空気は、破壊のエネルギーを纏ったブレスとなる。

 ソレは、


《鉄龍の息吹(メタルドラゴン・ブレス)


 超高密度の鉄の魔力エネルギーが、反乱軍に壊滅的打撃を与えた。

 これが、龍の力……そして、七騎士第六騎士団団長シルバの力だった。


「ムッ!? 兄様ッ! 対処を! 兄様ッ!」

「……ッ……ッ……ッ」


 最悪の状況を受けて、アンナはすぐに、最高戦力(ゴルドン)の投入を決めた。 

 対イグニードとして、温存させて起きたかったが、もうそんなことも言ってられない。

 アンナは完全に、シルバの力を見誤っていた。


「兄様ッ! 兄様ッ!?」

「……」


 が、通信魔道具からゴルドンの返信がない。

 鉄龍の一撃で、戦場は大混乱、砂塵が吹き荒れ、戦線は乱れ、ゴルドンの生死も不明。


「ムッ……グリーヌは、戦線の再構築で手一杯……兄様」


 既に、反乱軍の戦力は八割方沈黙……ゴルドンとも連絡が着かない。ゴルドン!!

 敵戦力は、逆にまだ、シルバを残して八割現存、更に五千の増援が迫っている。シルバ!!

 何より、《精霊・鉄龍》が、戦場のど真ん中で暴れている。


 ……敗北必死。


「ムム……」


 決断の時。

 これはもう、撤退しなければ全滅する可能性の方が高い。


「撤――」


 撤退!

 アンナが腕をあげ、そう叫ぼうとしたとき、カイルがその肩に手を置いた。


「アンナ……逃げた先に未来はない」

「……っ! しかし!」


 今ここで、決着をつけなければ、いずれ、王国中から集まって来る兵達にあらがう術もなく殺される。

 そんなこと火を見るより明らかで、カイルが解るなら、それ以上にアンナは悟っている。


「それでも! 私は王女として、責任をとらなければいけないのだ!」


 それが、神輿として、担がれたアンナの勤め。王女の役目。アンジェリーナの運命(さだめ)

 

(私の命を対価にすれば、兵士達に罪は及ばない。今ならミリナもカイルが居れば、学園都市に亡命してくれるだろう……私が命を差し出す事が――)


「――皆を扇動した私の責任だ」


 尋常為らざる覚悟。

 ローゼルメルデセス王国第一王女アンジェリーナ・ローゼルメルデセス。

 その顔を見てカイルは……


「ふんっ……」


 鼻で笑い。


「馬鹿言うな」


 ぺチンっ。


「アウチっ! ……な、何をするのだ!」


 デコピンした。


「アンナ、ソレは違うだろ? 俺は王女の家臣じゃない。自殺になんか付き合わねぇーよ」

「ムムムっ。ならばどうすると言うのだ!」


 どうするか?

 そんなのは決まっていた。


「何時だって俺は、この剣で護りたいモノを護るだけだ」


 鞘から『鉄刀丸』をスルリと抜いて、


「護りたいモノの中には、ミリナもいるけど……アンナも居るんだ。今更、お前を見捨てたりなんてしねぇーよ」

「……っ!」


 カイルに取っては、ミリナもアンナも生きていなくちゃ意味がない。

 闘いを始めた責任を取って貰うわけにはいかなかった。


「仲間を護ってかっこよく死のうとするな。生き残る為だけに頭を回せ。死ぬぐらいなら王女なんて辞めちまえ! 俺はアンナの為になら、幾らでも力を貸す! お前誰だ!? 俺となりに居るのは王女なのか? お前はソレを望むのか? どうなんだ!?」

「私は……」

「一緒にこの絶望をぶち壊そう……な? アンナ」


 指し述べられるカイルの手。

 その手を取ることが、どれだけ危険な賭けなのか、アンナは正確に計算できる。

 でも……


「……ふっ。フハハハハハハハハハッ――」


(……王族なら苦しい時こそ、笑う……か。うむ!)


「私は美少女アンナだッッ!! よいだろう! 私も今、新しく死にたくない理由が出来たからな!!」

「それ、ミリナだろ?」

「新しく、だ……この鈍感男メ! あとで教えてやる」

「……?」


 アンナはさりげなく、カイルとの距離を縮めながら……


「それで、どうするつもりなのだ? この美少女を煽ったのだから何か考えがあるのだろう?」

「……ああ」


 アンナの調子が戻ってきた。

 それは良いことなのだが、それと反比例するように……ウザい。


「『鉄龍』とシルバは俺とアンナで、なんとかする。後は全部、アンナがなんとかする! ……どうだ?」

「それ全部、私がなんとかしているじゃないか!」


 まさかの丸投げ。


「だが、殿御のアレに翻弄されるのが美少女の宿命か……うむ。よいだろう。任せるのだ! 身も心も運命も!」

「言い方! 一気に身も心も運命も委ねたくなったんだけど……」

「よい。恋とは落ちるもの。運命とは決まっているモノ。美少女とは私! 全て抗う事などできぬのだからな! ハッハハッハ」

「うぜえぇ……」


 アンナが自信満々に笑い反撃を決めた時……


「カイル様! また、危ない事をするのですか?」

「ミリナ……」


 涙で赤い瞳になったミリナがカイルに飛び付いた。


「行かないでください。私を守ってください! 約束したじゃないですか! カイル様ッ!!」

「ミリナ……ゴメン。でも俺は――」

「って、言うと思いましたか? えへへっ」

「え?」


 笑ったミリナは、そっと離れて涙を(ぬぐ)い。


「私は……っ」


 また……泣いた。

 それでも、ミリナは涙を拭って笑う。

 

「私は……大丈夫です。……っ、ですから……カイル様。お姉様をお願いします。……そしてどうか、生きて帰還し、ミリナをもう一度、撫でてください……そして……そして……っ」


 炎症を起こすほど、拭いても拭いてもあふれる涙。

 そのせいで、ミリナの白い肌が赤くなっている。

 ……ミリナの気持ち。


「ああ……――『結婚してください』――

 必ず……って! 今なんて言った!?」

「約束ですよ」

「ちょっ! ミリナ!?」


 エヘヘっ。

 と、ミリナは最後まで、泣きながら笑って、テントの中に戻っていった。

 ……そのテントからは、大きな泣き声が響いた。


 

 その頃……ゴルドンは、大量の血を流しながら、地べたを這いずっていた。








 


 


 


 


 




 



 






 

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