九・五話 『闘いは二人の魔剣士が引き起こす』
《西の森》
『七騎士』ブラックとイグニードが戦う場所。
木々を燃やし、薙ぎ倒すその闘いは、ブラックが率いてきた、王国随一の上級騎士達ですら棒立ちで見守るしかない闘いだった。
イグニードが望叶剣《炎龍丸》を一振しただけで、森の木々が百本以上消し炭になり、ブラックが帰す刀で切り結べば、その炎が霧散する。
次元の違う闘いのなかで、ブラックは一度、距離を取って会話を求む。
「……何故、王を裏切った」
「なんだ? ブラック。何時にもまして饒舌じゃないかーーッ!」
しかし、イグニードに会話に答える意気はなく、開いた距離を詰め、横一線ッ!
ゴウッ。
紙一重で躱したブラックの背中で爆発。
炎熱で吹き飛ばされ、額が割れた。
「……炎の魔剣技。やはり威力が高いな」
ブラックは、額から流れ落ちる己の血を拭って覚悟を決めた。
裏切り者を斬る覚悟を。
「闇よ渦巻けッ!」
剣を地面に指し、黒霧を発生させる。
基本魔法属性七つの中で、炎属性は一番、殺傷能力が高い。
つまり、普通に振るうのが最強の魔法。
対するブラックの闇魔法は、属性攻撃力で言えば底辺だが、その真骨頂は妨害能力。
それを駆使して闘えば、どんな敵にも負ける事はない。
黒霧に捕われたイグニードの脚が鉛に埋まった様に重くなる。
「ふんっ。燃えろ!!」
ゴウッ!!
しかし、イグニードの炎は、ブラックの生み出した闇を一瞬で吹き飛ばす。
普通に振るえば最強とは、そういこと。
イグニードには小細工は必要ない。
あるゆる物を一瞬で塵にしてしまう。
……一瞬。
「《闇の精霊よ・誓約と制約の契約をもって――」
ブラックはその一瞬を作り出したかっのであった。
「――・覚醒し給え》究極闇魔法!! 《ブラック・ホール》」
――。
その一瞬で、闇の質が変わる。
黒い黒い黒霧が大量に発生し、次々と森を飲み込んでいく。
「ちっ。知らない魔法だ。奥の手か……? 厄介だな」
魔法使いの奥の手。
それは状況を一辺させうることのできる切り札であり、普段は仲間にも見せることない技。
警戒する必要があった。
「燃えろ!!」
ゴウッ。
だから、イグニードは迫って来る黒霧をまず、焼き払う。
先ほどの様に、囚われる危険を冒さない。
シューッシューッン。
「なっ!」
それは、ある意味正解で、不正解だった。
黒霧を燃やそうとした炎は綺麗さっぱり吸い込まれ、爆風がチリヂリに吹き飛ばす。
炎が吸い込まれるという不気味な現象に、嫌な予感を覚えたイグニードは大きく後退すると……
霧散させた黒霧が一瞬前までイグニードが立っていた場所を丸ごと消失させた。
土も、木も、空気すら、消失し、すっぽり空いた空間に、物質が流れ込む。
《ブラック・ホール》それは、
「全てを吸い込む闇の霧か!」
その魔法の前には、最強の炎も吸い込まれ、下手に吹き飛ばす事も出来ない。
ブラックが隠していた奥の手としては十分過ぎる魔法だった。
「理解が早いな。だが、気づいた所で炎使いの貴様に活路はない」
《ブラック・ホール》を纏った騎士剣で、イグニードに斬りかかる。
スンッ!
イグニードは、その攻撃を躱しかなかった。
時間が経つ毎に、最強の騎士イグニードの逃げ場が、ジリジリとなくなっていく……
その時。
イグニードは急に構えを解いて、
「あーっあ。駄目だな、これは。流石にブラック相手だと手加減してたら勝てない。ちょっと本気を出すしかない」
自分の身体に『炎龍丸』を突き立てた。
ゴウッ。
炎に包まれるイグニードは、戦慄するブラックにそのまま言う。
「そういえば、俺が裏切った理由だっけ? それはな――」
どがぁあああんッ!!
イグニードの身体を包んでいた炎が縛散し、爆炎が巻き起こる。
「――復讐だよ。それ以上を端役に語るつもりはない」
炎が晴れた時、イグニードは炎の鎧を纏っていた。
「それは……なんだ!?」
「『炎神の鎧』奥の手……って、程でもない。ただの本気かな」
「――っ」
つまり、今までは『本気』じゃなかった。
そういうこと。
「全てを吸い込む闇……純粋な魔力だけで、そこまで極めたのは敬意に値する……が!」
ゴウンッ
たった一振り、それだけで、世界が炎に包まれた。
その炎は《ブラック・ホール》の闇すら燃やしてしまう。
「魔法は魔力だけで完結するほど簡単じゃない。悪いな。俺は一つ次元が上の魔法を使うんだ。それは人間の力じゃ何があっても及ばない」
物理的にも魔法的にも、あるゆる物を吸い込む魔法。
それが《ブラック・ホール》
間違いなく、究極の闇魔法。
しかし、本気をだしたイグニード……望叶剣の力の前にはただの闇と変わらなかった。
「俺の炎は『復讐』の炎。正真正銘『万物全てを燃やせる』炎だ。かかってこいブラック。骨の髄まで灰に帰してやろう」
「――っ」
その力の一端を、王国騎士団『七騎士』のブラックは知っていた。
「貴様っ! その力――」
ゴウッ。
その先を言う前に、ブラックは炎に焼かれ塵となった。
「端役が喋るなよ。興ざめするだろ」
イグニードの炎は、そのまま、ブラックの部下達も灰に変えた。
『炎神の鎧』を解いたイグニードが、ぐらりとよろめいて膝を着く。
「ちっ。一度、限界か。だが、配役は終わっている。後は、幕が上がるまで待てば良い。そのために餌を巻いたんだからな……フフフ」
イグニードの薄く笑う声が森にこだまするのだった。
《大樹海》
カイルの先導で、樹海を抜けようと、さ迷うこと二時間。
お昼時に森で採った食物を三人で食べていると……
「カイル様」
唐突にミリナがカイルの名を呼んで膝に乗った。
「喉が渇きませんか?」
「そうだね、俺も渇いたかな? ちょっと待って、今、水魔法で、出すから」
「低級までとは言え、六属性使えるとこういう時には便利だな。私の分も出すのだ! ナマでたのむ」
「ナマしかねぇーよ!!」
ミリナの可愛いお願いを叶えるために、アンナの偉そうな言葉は無視して、魔法を詠唱……
「カイル様。魔力の無駄はイケませんっ!」
……しようとしたカイルの腕をミリナが掴んで止める。
「……え? そうだけど……でも、喉の乾きを我慢させるほど切羽詰まってないよ?」
「でもも!! 何もありません! ダメです。駄目です。無駄使いはイケません。……ですよね? お姉様」
「う、うむ……そうかもしれんな」
ミリナの気迫に押されたアンナが、肯定してしまう。
「だけど、喉渇いたんでしょ? 我慢するの? 俺は嫌だよ?」
ニタリ。
それがミリナの狙いだった……
「いえいえいえッ! カイル様。私に良い考えがあります」
「良い考え?」
「はい。それは――」
バサリ。
「ちょっミリナ!?」
鼻息を荒げたミリナがカイルを押し倒し……
「――唾液の摂取です」
「むっ! いかん。いかんぞ! ミリナ。ふしだらだ」
「ですね。では、お姉様は普通にお水を飲んでください。私とカイル様だけで供給しますので」
「……!?」
ミリナは姉を黙らせて、カイルと瞳を合わせると、口を開けて舌を出す。
「これこそ本物の自給自足。ささ、カイル様からどうぞ? 早くしないと渇いてしまいますよ?」
「ま、待って! 待って!! 唾液を呑むなんてッ!」
「呑むなんて……なんですか?」
「……良いの?」
「是非……じゅるり」
ゴクゴク。
カイルとミリナの距離がちょっと縮まった。
事後。
「私、このまま一生、迷っていたいです」
「なんて言うかミリナは、強い子だよね」
「むしろ人生に迷っている節があるな!」
喉が潤った一行は、再び樹海を進んでいく。
「カイル様。もし、本当にここで暮らす事になった時は……」
「ミリナ。ナニを言うつもりか知らんが、その心配は無用のようだぞ?」
「……えっ?」
カイルの背中で小さく驚くミリナの視界に、岩山道が広がった。
もうそこに、木々は茂っていない。
迷いの森と言われた『大樹海』を抜けたのである。
「さ……流石は……カイル様ですね……」
「なんか微妙に落ち込んでない?」
「気のせいです」
樹海を抜けた事で、一度ミリナを降ろして、景色を確認。
そこは、勾配の緩い砂利道が横に広く続く場所……その場所にカイルは見覚えがあった。
「アンナ。ここは……っ!」
「うむ。昨日、通ったな。『ローゼルメルデセス王国』と『旧メルエレン王国』の国境付近の山道。珍しく運が良いぞ」
そう、勇者学校はもう目と鼻の先……と言うにはまだ早いが、危険なローゼルメルデセス国内をもう少しで抜けられる場所だった。
その事実に、カイルも少し安心する。
……が。
ゾクリ。
「ッ! アンナ! ミリナッ!」
「む!?」
「っ!!」
危機察知の第六感。
それはカイルが唯一といって良い優れた才能。
背筋が痺れるその感覚を感じて、ミリナを抱き、アンナの背鰭を掴んで全力で飛び下がった。
その瞬間、地面から大量の茨が生え出して、カイル追う。
《炎の精霊よ・灼熱の玉となりて・彼の者を燃やし尽くせ》
跳躍しながら、アンナを後方に投げ捨て、右腕を構えて、茨に向かって炎球を放つ。
ボンッ!
命中。
茨に炎が燃え移り、灰になるのを確認してから、着地。
脚の裏で、砂利を弾きながら慣性を殺し、ブレーキをかける。
高熱を持った脚の裏が焼けた感覚を歎く間もなく……
ブンッ!
「――ッ!」
死角からの斬激。
首を狙われて放たれたその攻撃を、予測していたカイルは、鉄刀丸を捩込んで防いだ。
「我輩の茨に対して、的確に炎魔法。奇襲を読んで一太刀防ぐとは……殿下が認めるだけのことはあるな」
受け切れずに転がったカイルとミリナの回りを見慣れない騎士達が取り囲む。
その数は千人を越える。
そして、その集団から一歩でて、騎士剣を振りかぶっているのは緑髪の女。
「我輩は、第四騎士団団長のグリーヌだ。貴様とその娘を斬りに来た。理由は……言わなくても良いな?」
「ちっ。誰だよ。運が良いってほざいた奴は。七騎士様の登場じゃねぇーか」
油断なく鉄刀丸を構えるカイルがぼやく。
「何を言っている。貴様らの頭が足りないだけだろ? 国境線を塞がない訳がないと何故解らない?」
「――ッ!」
言われてみれば当たり前の事に、カイルは口を閉じるが……
「カイル様が『脳無し鬼畜色ボケ変態野郎』ですって!! 許しません」
「……ミリナ。ちょっと黙っててね」
「わかりました。一生しゃべりません」
「一々重いよ!」
「それがカイル様への愛の重さです」
「それ、ニコニコ笑って言う台詞じゃないからね!」
いつも通りのミリナに調子を取り戻し『大樹海』を歩きながらアンナに聞いた、七騎士について思い出す。
『七騎士の中でも恐らく一番、カイルが闘い易いのはグリーヌだろう』
『え? グリーヌって確か第四騎士……上から四番目に強いんだろ?』
当たり前のカイルの返答に、アンナはその時首を横に振った。
『七騎士の序列は、あくまで七騎士同士の序列。しかも、七騎士全員が序列にそこまでのこだわりはない。目安程度だと思っておくんだな』
そのうえで、
『しかし、七騎士第三以上の騎士は、正真正銘の強者。準帝級級の実力だ。望叶剣を使ったカイルでも、勝てないだろう。会敵したら終わりだと思え!』
底冷えする声色でカイルに忠告した。
『だが! 逆にいえば、それ以外は殆ど変わらない。相性次第で、第四以下なら勝ち目はある。
そして、一番、勝ち目が高いのがグリーヌということだ』
『なんで?』
『グリーヌはカイルと同じ、脳筋騎士だからだ』
その時、アンナは自信満々で頷いていた。
絶対に勝てると念押ししてくれた。
ぎりりりっ。
鉄刀丸を力強く握って、臨戦態勢を取る。
周りを囲まれた以上、斬り抜けるしか活路はない。
「鉄刀丸ッ! 力を寄越せ!!」
最初から全力。
『キング・ゴブリン』を倒した《鉄神の鎧》を纏う。
そして突撃!
「何!? 正面から突撃だと!? 馬鹿め!」
いくら『鉄神の鎧』を纏ったと言っても、実力上級のカイルと、実力王級のグリーヌでは、天地がひっくり返らなければグリーヌの方が強い。
その事実は、カイルの突進を見切って完璧に合わせるグリーヌが証明する。
「愚かな。ならば死ねいっ!」
剣が交わり、カイルの剣をグリーヌが吹き飛ばす。
ここまではもう予定調和……
の、はずっだった。
ズンッ!
「なっ!? なぜ?」
しかし、結果はカイルの剣がグリーヌの腹を貫くというもの。
力も、速さも、技も、グリーヌの方が上。
それは間違いない。
カイルには、王級どころか超級の領域に至る才能もない。
それでも、
「馬鹿で愚かなのはお前だよ。グリーヌ。アンナの言った通りの脳筋で助かった」
「なんだと?」
グリーヌは警戒するべきだった。
「俺の剣は……ただの剣じゃない。『あるゆる鉄の頂点』に立つ魔剣。その鉄の騎士剣で、俺の剣は弾けない」
グリーヌが、茨魔法で距離をとり長期戦をしていたらカイルに勝ち目はなかった。
超短期決戦、それがアンナがカイルに授けた対グリーヌ用戦術。
向かってきた敵を迎え撃とうとする脳筋のグリーヌだから使える戦法。
「それがどうしたぁ! この程度で……ッ!」
「無理だよ。動くのは。この剣が斬ったモノは全て鉄化する。お前の体はもう……俺の支配下だ」
銀色の鉄になって動けないグリーヌの腹から、剣を抜く。
その横に、アンナが仁王立ち……
「エロい台詞だな!!」
「今回は……俺も言ってから思ったよ……でも、この緑髪巨乳を好きにできるのは……」
悪い笑みを浮かべて、五本の指をウネウネさせる。
すると、カイルが抱き抱えている、ミリナから黒い障気が発生。
……増援!?
『カイル様……その指でナニをなさろうとするお積もりですか?』
「っ!」
発声したミリナの声は、何時もの砂糖菓子の様な甘さを含んで居るものではなく、唐辛子の様な辛さを含んでいる。
「な、ナニって……」
「まさか、その下劣な牝の胸を揉もうとしていませんよね?」
「……してたら?」
「切り落とし、焼き払います」
本気の瞳だった。
「辱めは受けん。殺せ!」
「冗談だし、殺さないよ! 俺は殺人鬼じゃないからね」
ミリナとグリーヌからの非難の視線に、ちょっと悲しくなる。
「甘いな。我輩がそれで情をうつすとでも?」
「そんな事は期待していない。ただ……」
ミリナの前で人を殺したくなかった。
それに、
「お前には利用価値があるしな」
「っ!」
カイルはグリーヌの首もとに剣を突き立てて、周りの騎士を牽制する。
グリーヌを倒したとは言え、その部下千人の騎士は今だ健在。
まともに闘えば結局勝ち目はない。
「人質にさせてもらうよ」
「カイル様! そういって、淫らな事をするお積りですね! なぜですか! 私に言ってくれれば! たとえどんなハードな行為でも受け入れる準備があるのに……酷いです」
「……俺ってそんな鬼畜にみえるの?」
ミリナからの返答にジト目で返されちょっと本気で泣いてやろうかと思ったとき。
「そこまでてす」
「っ!」
背筋に刃物を当てられた。
新手の襲来。
……油断。
咄嗟に動こうとすると、
「やめた方が懸命です。動けば斬ります。……姫様もです」
「むぅ~」
それに合わせて刃物が肌に刺さらない、ぎりぎりの力で押し付けられる。
「私は第五騎士団団長ローゼ。今すぐグリーヌ様を解放してください」
そうしなければ刺す。
言外にそう言われ背中に嫌な汗をかく……が!
「嫌だね。あんたの剣からは、殺気を感じない……人を斬れないんだろ? 『療王』ローゼ。七騎士の中で一番優しい騎士」
「っ!」
殺気がないからこそ、カイルの危機察知が反応しなかった。
「その優しさ付け込ませて貰うぜ! その剣を俺に刺して見ろ。死ぬ前に必ず、グリーヌを殺す」
……嘘。
王級騎士相手に、そんな余裕はない。
そもそも鉄刀丸じゃ、人は殺せない。
それでもこのハッタリは、危機を乗り切る小さな舟になる。
……かもしれない。
「確かに、私には騎士として、姫様が友人と呼ぶ貴方の様な子供を斬る事はできません」
「……」
光明あり。
ローゼの独白にカイルが更なる策を巡らせようとした時。
「ですが!」
ローゼの騎士剣はカイルから、カイルが腕に抱くミリナの背中に向けられた。
「姫様と友人を誑す、『忌み子』を斬る事に躊躇いはありません」
「っ!」
そこに込められた殺気は本物。
カイルが動けば、今度は本当にミリナが斬られる。
だがそれもカイルの策略のうち。
「ミリナ」
「カイル様っ! 私は何時でも貴方を信じています!」
ぎゅっと抱いたミリナの身体を引き寄せる。
「っ! 愚かな行為です」
そんな行動をローゼが見逃す訳もなく、騎士剣をミリナに突き付けた。
この勝負、ミリナの息の根さえ止めてしまえば統べて丸くおさまる。
音速の剣がミリナに迫り……
ガンッ!
「ッ!」
『鉄神の鎧』の能力。《自動防御》が鉄の壁となってミリナを護った。
カイルが護りたい者を守る。
それが『鉄刀丸』
「肉を斬らせて骨を断つ!!」
カイルの超至近距離からの反撃は、ローゼには躱せないタイミング。
カイルの勝ち……
「ムッ! カイル! 上空に結界をはれぇえええええええええいっ!!」
「……ッ!」
その一瞬前、突如アンナがそう叫び、カイルは攻撃を中断。
上空に鉄刀丸をかざす。
「《鉄刀丸》!! 護れええええええええーーッ!」
それと同時に、空が黄色く光り……巨大な球体が発生する。
カイル、アンナの言動に、ローゼとグリーヌも空を見上げてソレをみた。
「あれはっ! まさかゴルドン様の魔力!?」
「超級広範囲殲滅魔法……我輩達も居るのだぞ!?」
光の隕石爆撃。
その範囲は、山道で対峙する全ての人間が巻き込まれるものだった。
高速で落ちて来る殺戮の光の前に、《鉄刀丸》の鉄壁が山道全体を護る。
「何を!? あの魔法は第二騎士団長ゴルドン様の魔法! ただでさ高威力の魔法が強化されてその威力は《帝級魔法》相当に匹敵します。結界を張るなら、もっと範囲を絞って――」
ローゼの分析と助言は的確だった……が。
「ふざけんなっ! こんな理不尽な死なんて認めない!」
たとえそれが敵だとしても、カイルはこんな虐殺を許さない。
「黙って見てろよ! 腐れ騎士! 俺は俺の信念で! 護りたい者を護るために闘うんだ! 俺がすべて! 護ってやる!」
「ッ!」
衝突……凄まじい衝撃が、鉄の壁を割っていく。
しかし、確実にその進行は妨げた。
「ハッ! 姫様ッ! 貴女様だけでも救いますッ!」
広範囲を護るせいで押し負ける状況に、ローゼは一番失うわけには行かないアンナに手を指しのべる。
七騎士の速度なら今からでも逃げられるそういう判断。
だが……
「私に触るな!」
一喝し、カイルの腕を共に支える。
「私はもう決めたのだ! カイルと共に生きると! 《オーラ》《ウォール》」
防御魔法を展開し、カイルの強化。
一歩もうろたえず、ただただ危機に立ち向かう。
「私の殿御が、護ると言っている! だから必ずアレは止まるのだ!」
そこに迷いは一切ない。
「はい。カイル様なら必ず成し遂げます」
「っ!」
三人の信頼しあうその姿にローゼは静かに心を打たれていた。
だが、隕石は止まらない。
それを見てカイルが、
「俺の魔力を全て持ってけ! だから皆を護る力を俺に寄越せよ!! 《鉄刀丸》!!」
願いを叶える望叶剣。
その剣に願いをかけた。
そして、その願いを叶えるのが望叶剣。
《ライトニング・メテオ》によって壊される鉄の壁が再結合し、新たな形に収縮していく。
そして現れたその形は、巨大な『盾』
名を《鉄神の盾》
元々高い鉄の壁の防御力を極限まで高めた形。
《ライトニング・メテオ》と《鉄神の盾》が衝突し……打ち消した。
花火のように光る残骸が散っていく……なか。
「ハハハ……っ。やってやったぜ……」
「流石ですカイル様……?」
バタン……!!
カイルは唐突に倒れてしまう。
「カイル様っ! カイル様ぁああっ!」
「むむ!? ……またか!」
呆然とする七騎士ローゼとグリーヌ、その部下二千人の騎士達。
心配で涙を流してカイルの身体を揺するミリナ。
冷静に思考を加速させるアンナ。
《ライトニング・メテオ》を防いでも、危機的状況は変わらず、カイル達に振りかかる絶望は更に激しさを増していく。