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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
16/58

九話   『闇の騎士に追われて更に奥へ』

  《西の森》


 アンナは、イグニードの言葉に従い、近くの洞窟に身を隠し、状況の説明をしていた。

 その一方でミリナは、眠りつづけるカイルの手を指を絡めて握り、


「カイル様……カイル様……っ。お願いです……お願いですから、起きてくださいよ。私を、独りにしないでください」


 ひたすら呼びかけていた。

 その痛々しい光景に、イグニードが見兼ねて、


「アレ、起こしてあげたらどうですか? 妹……なんでしょ?」


 治療においては、右に出るものがいないアンナに、カイルの回復を進言する。

 だが、


「そうしてやりたいのはやまやまなのだが、如何せんカイルが倒れている理由が解らんのだ」

「えっ? 魔剣の使用多過なんですよね? 普通に『魔力欠乏症』なのでは?」


 当たり前の考察に、アンナは首を振って、カイルを見る。


「魔力補填は既に施した。他にも、体力回復から精神回復まで、思いつく限りは施行したが……駄目だった。

 これ以上は手の施しようがない。原因がわかれば、なんとかなるのだが……」

「……」


 心臓が動いているカイルは、死んではいない。

 だが、なんの異常もないのに起きることもない。

 アンナをもってしてもカイルの回復は、維持療法以外にはなかった。


 (もしかすると……『望叶剣の呪い』なのかも知れんな)


「姫殿下。その魔剣……俺に見せてくれませんか?」

「ん? カイルの横に落ちている刀がそうだ。だが、特殊な魔剣でな、触らん方がよいぞ」

「特殊な魔剣……まさかっ」


 アンナの説明を聞いたイグニードが、目の色を変えて《鉄刀丸》を調べ始める……と。


「望叶剣……」


 ボソッと呟いた。


 その名は、お伽話の中の名前。

 トウネ村の村民を除けば、カイルとアンナしか知らない名前。

 それを呟いた。


「なっ――」


 何故、解った。

 その言葉だけは、飲み込んだアンナに、イグニードは、自分の剣を抜いて、鉄刀丸と並べて見せた。


「わかりますか?」

「むぅ……」


 白銀の刀《鉄刀丸》と、深紅の刀のそれは、大きさから形まで全てが一緒だった。

 つまり、イグニードの持つ剣も――


「《炎龍丸》……望叶剣です」

「ムムムム……っ」

「言い触らすつもりはありません。言い触らした所で、誰も信じませんがね」

「むぅ~。そうだな」


 アンナは、カイルとの約束で、望叶剣の事は秘密する必要があったのだが、イグニードが、望叶剣を持っているのだから隠し様がなかった。

 仕方なく、肯定し話を進めることにする。


「まさか、カイルの剣、以外にも存在していたのか……」

「はい。何本か見かけた事がありますよ。勇者学校の生徒にも居たかと……他にはミリス聖教の――」

『そんな話ッ! どうでもいいですからッ! 何か知っているのならッッ! カイル様を目覚めさせる方法をお教えくださいよ!』


 ミリナがカイルを抱いて涙を流しながら、遮った。

 それを受けて、


「……望叶剣の力に当てられて寝ているだけでしょう。すぐに目を醒ましますよ……ほら」

「ッ!」


 イグニードが、剣を返しながらそういうと、ちょうど良くカイルが身じろいだ。


「カイル様ッ! カイル様ッ! カイル様ッ……」

「ん……グリム……?」

「ッ!!」


 寝ぼけているカイルが、ミリナの金髪に手を伸ばして……触る。


「いいえ。ミリナです。カイル様のミリナです」

「……ほんとだ。ミリナのさらさらで滑らかな金髪だ……ッ!」


 金髪の感触で、完全覚醒したカイルは、回りを見回して、状況を確認。

 アンナとイグニードを見つける。


「アンナ。あれからどうなった? そのオッサンは? なんか凄い視線で、睨んで来るんだけど……あれ? どっかで――」

「ムムムっ。カイル。ちょっと来るのだ。ミリナは待っていろ」

「ああっ! ああ!! カイル様ああああーーっ」


 ミリナの絶叫が響く中、アンナは、カイルを奪って洞窟の奥へと引きずって行く。

 そして、


「カイル。先ずは、状況を説明する。良いな?」

「あ、ああ。何がなんだか……」


『キング・ゴブリン』討伐後、カイルが突然気絶した後から、七騎士《炎王》イグニードの登場と思惑まで、全てを伝えた。

 その上でアンナは問う。


「どう思う?」

「つまり。イグニードが俺を睨んでたのは、不倫相手だと思われたからか……」

「違う! 違う! 違う! そこじゃないッ! この状況についてだ! ……それと私は結婚していないからなッ!」


 ガミガミ。

 大声で否定するところが逆にアヤシイ!! 

 と、からかいたくなるカイルだったが、女の子には優しくしないといけないことを思い出して、辞めてあげる。


「……都合が良すぎる。誰かの手の平の上で踊ってる気分だ」

「私もそう思う。おなごが踊るのは、好きな男の腕の中と相場が決まってるのにな」

「……下ネタなのか、違うのか、微妙な例えやめてくんね? ツッコミずらい」

「突っ込みたいのか? 生死の危機を感じると生物は子孫を残そうと――」

「黙れ! そして、俺の良心を返せ!」


 何時でも何処でも……誰にでも?

 にやにやふと、ざけるアンナをたしなめて、カイルは、状況を整理する。


 一、現在、ローゼルメルデセス王国は、禁忌の姫、ミリナを抹殺しようとしている。

 二、それを、カイルとアンナが阻止するために、逃亡中。

 三、既に、王国騎士団が動いている可能性が高い。

 四、七騎士最強のイグニードは、アンナに協力。

 五、イグニードも望叶剣を所持している。


 ざっと纏めると、こんな感じ。

 だから、


「ユウナの後始末は一つずつ……」

「ん? それは?」

「教訓。どんなに無謀なことでも、地道に一つ一つ片付けて行こうって意味」


 この複雑化してきた状況でも、一つ一つ目的を明確にしていく。


「イグニードの事は、妻のアンナに任せるよ」

「二度目だ、勝手に私を既婚者にするでないッ! あやつと私では、歳が十以上も離れているのだぞ」

「うるせーな。王族の政略結婚なんて、そんなもんだろ? それに、女は強い男が好きだって聞いたぜ? ダンディーで、最強とか、最高じゃねぇーか! 貰ってもらえ。良かったな。お前みたいなガサツで下品な女、権力目当てでも、もう一生現れないぞ」

「嫌だ。嫌だ。嫌だ! 私はあやつと結婚したくないのだ! 絶対に嫌なのだ!」


 じたばた暴れるアンナ。


「男の強さしか見れん女など、ただの雌。理性のない動物だ。女と言うくくりに入れるでない!! 野生動物の雄と、ちちくりあってれば良い」


 一々敵を作る発言に、カイルはウンザリしながら……


「早く結論を言え」


 何故か、ちょっと気になった。


「うむ。つまり、女が見るべきは――」


 (心か? 心だろ!! そうだよな! それなら――)


「――ちん○んの大きさだぁああああーーッ!」

「お前が一番野性的だよ!! くそやろう!!」


 微妙にそう言うであろう気はしていたカイルは、アンナを地面に叩き付け、踏みまくるだけで許してあげる。


「とにかく、それは、アンナの問題だろ? 自分でなんとかしろ!」

「うむむむ。是非もない」

「今は、ミリナの事だけに絞るんだ。他の全てを捨てて置け」

「……」

「誰かを救いたいなら、それ以外を捨てる覚悟を持て」

「うむむむ。昨日と言ってることが違うではないか」

「救うの捕らえ方が違うんだよ。まあ、今はそんな定義どうでもいい。アンナが救いたいのは誰だ?」

「妹だ」

「そういことだよ」


 つまり、イグニードや、その望叶剣についても一旦保留。

 カイルが気絶した理由も今は考えない。

 考ええるのは……一つだけ。


「如何に七騎士を振りきって、勇者学校にミリナを連れ帰るか。今はそれだけを考えよう」

「うむ。わかった」


 そこまで行けば、一先ずの安全が保障される。

 それから先のことは、未来のカイルに任せれば良い。

 そういう考え。


「それについての方策は?」

「徒歩で向かうしかないだろう……馬車は検問・封鎖されているだろうしな」

「道はわかる?」

「うむ。当然だ。私を誰だと思っている? 美少――」

「イグニードの妻だろ?」

「ムムムム!! だから違うと言っているだろう!」


 途中から駄々れもれの作戦会議を終えた、カイルが、アンナと、イグニードの所まで戻り、外に出ようとすると、


「カイル様っ!」


 ミリナがカイルのお腹に抱きついて、寛ぎはじめる。

 そこはもう、ミリナ専用だと言うように……


「カイル様~っ。お姉様と愛談したなら、次は私と愛交してくださいっ」

「言葉の意味がわからないけど、健やかな事ではない事は、ニアンスでわかるから不思議だ」


 言いながら、お腹に抱き着くミリナを、改めて抱き上げ肩に掴まらせる。


「わっ。ふふ、私、今、死んでも構いません」

「俺の、なによりアンナの努力、無駄にする台詞をサラっと言わないで」

「無駄ではありません。この時の為だったんですから」


 カイルにお姫様抱っこされることは、ミリナにとっては心から、これまでとこれからを全て捨てて良いほどの快楽に堕ちることと同じだった。


「ミリナは薄幸すぎるから、もう少し温かい世界に行こうな」

「いえ、極寒の世界で、カイル様に遇えるなら、いくらでも身を起きつづけます」

「……」

「カイル様を生涯愛します。カイル様だけを愛します。カイル様にしか、この身と心を触らせません。カイル様の臭いしか嗅ぎません。カイル様の――カイル様の――カイル様の――」


 ……ミリナの想いが重過ぎる!! 

 背中にどろっとした汗を大量にかきながら、隣のお姉様に縋り付く。


「ちょっ! アンナ! なんかミリナが怖い!! 助けてよ!!」

「ん? なんだ? うっとしいぞ? くっつくな」


 しかし、アンナは、めんどくさそうに、カイルの腕を払った。

 何時もなら、むかつくだけの塩対応が、ミリナの後だと清涼剤。


「言っただろう? ミリナは最初からカイルを好いていた。そうならないように、手は打ったのだがな……」


 (やはり、同じ血が流れる姉妹。同じ殿御に惹かれるのは必然だったか……だが)


「私と違ってミリナは少々、嫉妬深い。命に気をつけるのだな」

「え? 命……?」


 アンナから漏れれたワードにゾクリと背筋が震え、

 

 ギチ。


 カイルの肩に、ミリナの爪が深く刺さった。


「カイル様。私とお話しているのに、誰を見ているんですか?」

「っ!」


 ギチギチ。


 爪が刺さる痛みで反射的に振り返れば、ミリナの瞳が真っ黒に染まっていた。


「フフフッ。心移りとはイケないカイル様っ。どうすればカイル様を私のだけのものにできるでしょうか?」

「っ!」


 怖い。怖い。怖い。底冷えする声が恐すぎる。


「あっ! そうですねっ! カイル様が二心を抱くお姉様を、亡き者にすれば良いかもしれません」

「「……」」


 狂気の領域に達したミリナに、カイルとアンナは二人して震え上がった。

 そんな二人の反応に、ミリナはくすりと笑うと、カイルの肩に頭を載せて微笑んだ。


「もうっ。半分は冗談ですよ? 『お姉様』ったら」

「その言い方だと私の事は冗談じゃないと聞こえるのだが……」

「いえいえ。冗談ですよ。『だってお姉様が、私が恋する殿方に不貞を働く訳がありませんから』……ですよね? お姉様」

「ムッ! カイルは……私が見つけた……」

「なんですか? 良く聞こえませんが?」

「……」


 カイルに甘えつつも、ミリナの瞳は本気だった……。

 言葉を失ったアンナの代わりに、カイルがミリナの肩を触って言う。


「ミリナ。そういう色話は、全部終わってからにしようよ……外が騒がしくなってるし」

「全部終わったら結婚してくれるんですか!!」

「……」


 人生初のプロポーズに、カイルは戦きつつも、ミリナの真剣さを感じ取って、真面目に考えてみる。


 まず、ミリナはまだ、十歳。

 結婚適齢期が十二歳の王貴族の姫君だとしても早過ぎる。

 身を固める決断をするには幼過ぎるし、なにより、もっと色々な事を知ってから判断をするべきである。

 カイルとしても、まだ、結婚を考えた事など一度もなかった。

 よって、


「ミリナ。俺は、君と結婚――」


 しないよ。

 と、言いかけると、ミリナの表情は絶望に変わった。

 それがあまりに悲惨過ぎて、


「――しようッ!」

「なぁッ! カイル! ナニを言っておる!! 血迷ったか!」


 断ることを辞めた。

 すぐさま猛非難するアンナに、カイルは、ミリナの後頭部を撫でながら、


「いや、良く考えたら、ミリナって可愛いし、金髪だし、俺のことをそこまで思ってくれる人、そうはいない。第一、俺って人を選べる立場じゃないッ!! ミリナがしてくれるって言うんだから、してもらう!!」

「ムムム」


 正論……?


「し、しかし、ミリナは……まだ……幼すぎる……そうっ! 若気の至りかも知れんぞ! そうなったら捨てられるのはカイルだぞ?」

「失礼ですね! 私は、カイル様を捨てたりなんてしませんよ!」


 アンナの心配が不服なミリナが、声を荒げて否定するが……


「ああ。そうかもしれない」


 カイルは肯定した。

 そして、その上で、ミリナの瞳をジッと見つめて結論を話す。


「でも、それならそれで良い。ミリナが、俺を好きだって言ってくれた言葉の嬉しさは残る」

「カイル様っ! 私は――ッ!」

「それでも、もし、ミリナの気持ちが本当なら、若気の至りじゃないなら、ミリナは、ミリナが成長するまで待てるよね?」

「成長……ですか……? それは……」


 ミリナの命は『呪い』の影響で十二歳まで、後二年しか時間がない。

 だからこそ、勇気をだしてカイルに言い募っている。

 成長の時間は……


「俺が君を救い出す。その時まで、待ってくれる?」

「ッ!」


 そう、その時間を作ることをカイルは約束した。

 

「俺が結婚したいって、思うときまで……待ってくれないか?」

「……」

「今はまだ、考えられない未来の時まで、君が俺を好きでいてくれたなら、その時は、ミリナみたいな可愛い子、喜んで嫁に貰うから」


 それが、カイルが咄嗟に出せた精一杯の結論。


「ふふ。解りました。お待ちしましょう。……はい。カイル様が心を決めるその時まで、何時までも……お待ちします。約束……ですからね?」

「うん。約束だよ」


 その結論をミリナは、穏やかに微笑んで受け入れた。

 つまり、


「ふむ。即断できないから、時間を置くと言うことだな。このフニャチンめ!」

「もともこもないことを言うな!」 


 鋭いアンナのツッコミに、カイルは再び恐縮することになりながら、洞窟の外に出た。


「まあ、なんにしても……この状況をなんとかしないと、未来も何もないんだけどね」


 そういった、カイルの視線の先には、数百人の騎士団が洞窟を取り囲んでいた。

 そして、その騎士団を率いる黒い甲冑の男騎士が、騎士剣を抜いて堂々と宣言する。


「第三騎士団団長ブラック。勅命に従い『禁忌の子』を処刑する」


 それは七騎士が、遂にカイルの前に敵として、立ちはだかった瞬間だった。

 カイルを巻き込んだ、七騎士との争乱が今、幕を上げる。


 ブラックの名乗りを受けて、カイルはミリナの背中をさする。


「大丈夫です。もう、カイル様に私の命は託していますから……死ぬまで共に生きましょう」

「……微妙にバイオレスな台詞やめて」


 カイルにぎゅっとしがみつく事で、逃避の意思を示した。

 カイルはそんなミリナを護るために、鉄刀丸に手をかける……そこで、


 ――鉄刀丸を使ったら気絶する。


 ピクッ。


 一瞬の躊躇い。


「ふん。終いだ」


 それを見逃さなかったブラックが音を超えて、急接近。


「しまっ!」


 既に抜いている騎士剣で、カイルの首を斬り付けた。


 ゴウッ!


 寸前、空気の収縮、膨張。

 紅蓮の爆炎がカイルとブラックの中心で発生し、二人を後方へ吹き飛ばした。


「ぐッ!」

「……ッ!」


 ミリナを庇うだけで、精一杯のカイルは、石洞の入口に背中から激突し、ダメージを受けるが、ブラックは空中で回転し、水平に木に脚をついて受け身をとった。


「この炎! まさかっ! イグニード!」

「正解だ」


 望叶剣の刀芯に炎を纏わせて、受け身をとっている最中のブラックに水平斬り!


「……ッ!!」


 ザンッ!


 木を蹴って躱したブラックの後ろの木々が、数十本、丸ごと燃え尽きた。


「裏切ったのか」


 その事実に眉一つ動かさず、ブラックが、中距離魔剣技《闇飛斬(ヤミヒザン)》で闇の刃を飛ばして反撃する。

 

「ちっ。厄介だな」


 雨の如く降り注ぐ《闇飛斬》を全て、跳び下がって躱し、激突ダメージに咳込むカイルの首を掴み上げた。


「糞ガキ。望叶剣の剣士なら、お前も舞台にあげてやる」

「くはっ……!」

「カイル様に何を!! 離してくださいッ! 裏切るおつもりですか!」


 強烈な力で掴まれ、窒息状態のカイルを救おうと、ミリナがイグニードの腕を掴む。

 しかし、ミリナには、赤子の力程度しかなかった。


「邪魔をするな。憐れな呪われし姫よ」

「――ッ!」


 だから、ミリナの抵抗を無視。

 さらに強く、カイルの首を締め付ける。


「お前には色々聞きたい事がある……が、それは、次に会う時にしてやろう」


 アンナと話していた時にあった丁寧さは一切ない。

 今、あるのは野生の獣の威圧感。


「今は、姫を連れて逃げろ。ブラックは俺が……仕留めておく」


 バンッ!


 イグニードは言うだけ言って、カイルをアンナの足元に投げ捨てた。

 そして、


「勘違いするなよ? アンジェリーナは俺の女だ。お前が護るほど弱くはない。護るべき姫は呪いの姫。そいつをけして殺すな」

「くっ! お前! いきなり、なにを言ってんだ! 意味がわかんねぇよ!!」


 カイルは、立ち上がり困惑しながら叫ぶ。

 そんなカイルに、『ふっ』と、小さくイグニードは笑って言う。


「もう、気づいてるよな? この事件。裏で操っている『黒幕』がいる。お前と、呪いの姫には囮なって貰うって事だ。生きの良い餌にな」

「黒幕……ちっ! やっぱりか。ミリナを殺してなんになる!!」

「俺に聞くな。だが、もしかしたら、狙いは王女の命。じゃ、ない……のかもしれないな」


 そういう可能性もある。

 だからこそ、情報の足りないカイルは、黒幕の事を考えないことにした。

 けれど、イグニードは違う。


「俺は回りから切り崩そう。全て終わった後、アンジェリーナは返してもらう。それまで、呪い姫とアンジェリーナを預けておく。いけっ! 足手まといだ」

「くそ! くそ! クソォオ!! てめぇ! 人を囮にするなんてッ! 絶対に良い死に方しないからな!」

「……かもな」


 カイルは、イグニードに言いたい事が山ほどあったが、それを呑みこんで、ミリナとアンナを抱えて走った。


 今は、イグニードの言う通り、カイルはただの足手まとい。

 逃げるしか生き残る道はない。


「アンナッ! 道は!?」

「真っ直ぐ走れ!」

「カイル様ッ! 後ろから追われています。格好から上級騎士かと」

「チッ! なんとかしないと、仲間を呼ばれて詰む」


 改めて、七騎士との戦闘が、如何に無謀なのかを、文字通り身体にたたき込まれた。

 ……七騎士を呼ばれたら、その時点で勝ち目はない。

 かといって、このまま、逃げても疲労した所を襲われる。


「アンナっ! お前、薄着になってハニートラップをやって見ろ!!」

「こんな時にふざけるな!」

「ふざけてない! お前ならできる! 美少女だろ!!」

「なぬ!? 確かに……一理ある」


 もちろん、一理もない。

 カイルの狙いは、ハニートラップではなく……


「貴様ら私を見ろ!!」


 服を脱ぎ捨て肌着になったアンナが、カイルから降りて雌豹のポーズ。

 騎士達を誘惑する。


「どうだ! 私の姿に見とれるがよい。そして、私に忠誠を誓え!!」

「「「……」」」


 追っていた王女の可哀相な姿に、仕事人で知られる第三騎士団員が、全員固まって、アンナを見た。

 そして、ザワザワ。


「我等の王女殿下が……」「おいたわしい」「御乱心しておられる」「あの高潔だったお姫様が」


 うるっと涙さえ流し始める騎士団員達。

 その時間で、カイルはミリナを身体に固定。

 そして、魔法の詠唱までも終わらせた。


 サッ!


 木陰に隠れていたカイルが、アンナの前に飛び出して、魔法を発動する。


《ライト》!!


 それは、ただの目くらまし。

 強い光が発生するだけの魔法。

 上級騎士なら、目をつぶれば楽に躱せる魔法。

 けれど、アンナを可哀相な目で見ていた騎士達は、全員、目を光で焼かれた。


 それも、ただの時間稼ぎ……だが。

 カイルは、アンナを抱き抱えて走り出した。

 そして、


「ミリナ、アンナッ! 息を大きく吸ってとめろ!」

「はい。解っています」

「ん? カイル? 私はわからんぞ? なにをする――」


 つもりだ?

 と、聞くまでもなかった。

 なぜならその前に、カイルが大きく跳躍し、崖から谷底に流れる川の激流へ飛び降りたから。


「――つもりだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーッッ!」


 そう、谷底の川を見つけたカイルは、川に飛び込むために薄着になり、ミリナの命綱と、一瞬の目くらましの為の魔法の詠唱。

 そのために、カイルはアンナを使ったのである。


 説明されて、覚悟を決めていたミリナと違い、突然のスカイダイビングに絶叫するアンナの口を、カイルは着水前に無理やり閉じさせた。


 ジャボンッ!!


 ……川の激流に揉まれながら流されるカイル達を、第三騎士団の追っ手は発見する事は出来なかった。

 なぜなら、その川は、入れば脱出不可能と言われている《大樹海》に続いていたから。

 必然的にカイル達は、その『大樹海』に流れ着くことなるのであった。


     《大樹海》


「ゲホッ……ゲホッ……ゲホッ……。あ~っ、死ぬかと思った。ミリナ。アンナは?」

「死にました。死因はまさかの溺死ですね!」

「姉を勝手に殺すでないっ!」


 一時間程流され、沖に上がったカイルとアンナは、水を大量に吐きながら、仰向きに転がり、ぐったりと青空を見上げていた。

 ……ミリナはカイルの腕の中に納まって小さくなっている。


「なんとか、生き残れた……けど。まだ、終わってないんだよな」

「うむ。むしろ今からが始まりだ」


 七騎士の追撃を振り切った。

 とは言え、


「アンナ……道は?」

「わかる訳ないだろう。いくら私でも、これだけめちゃくちゃに流されてしまっては、どうしようもない」

「……だよな」


 この急いでいる時に、迷子になってしまったのである。


「でも、ここで歎いていても仕方がない。先ずは、このジャングルを抜けよう」

「抜けると言ってもな。ここは恐らく『迷いの森』とまで言われる大樹海。動けば動くほど、泥沼に嵌まってしまうぞ?」

「そうかもな……」


 樹海の影響で、磁力も魔力も不安定。

 方策なしに歩いても体力を失うだけ、ならば、川という水場が近いここから離れるのは得策ではない。


「普通なら」

「む?」

「だが、俺は生っ粋の森の民。この程度の樹海。迷うことはないよ」

「――っ!」


 木々を見分けられるカイルには、はっきり見える。

 樹海を抜ける道筋が。


「流石はカイル様ですっ。一生お供します」

「……」


 カイルは、腕をぎゅ~っと抱きしめられ、褒めたたえてくれるミリナに、激しい罪悪感を覚えてしまう。

 なぜならカイルの言葉の半分は嘘。

 いくら森生まれ森育ちのカイルでも、見知らぬ森では道が解らないから普通に迷う。


「ミリナ……」

「ふふ。カイル様っ。私は、カイルさまと一緒ならば、例え森を永遠にさ迷うことになっても、良いですよ?」

「……っ。まさか……君は!」


 嘘がばれている……?


「フフフっ♪ 私はカイル様が好き。それだけです」

「……っ」


 笑顔でそういったミリナはとても可愛かった。


「アンナ。太陽に向かって――」

「走るのか!」

「歩くんだよ!! それと暇だから、七騎士について詳しく教えろ。あいつら強すぎる」

「うむ。先ずは先ほどのブラックから……」


 そんなミリナを撫でてから、立ち上がり、カイル達は動き出す。

 大樹海を抜けるために……



 






 


 





 

 





 


 


 















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