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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
二章 ローゼルメルデセスの姫
13/58

七・五話 『姫は運命の出会いを果たす』

 無事に依頼を受けた二人は、馬車に揺られて半日。

 大陸最大の軍事国家、城塞都市『ローゼルメルデセス王国』に到着した。


 目的は、大量発生しているという『ゴブリン』の情報。

 依頼書には、ローゼルメルデセス王国近隣としか記されてなく、先ずは情報収集から始めなければ行けなかった。


「めんどせぇ……砂漠で一粒の砂を探してる気持ちだよ」

「ふふ、近隣と解っているのだ、そこまで途方も無くはないだろう」

「ん?」

「ん? なんだ? 人の顔をジロジロと見るでない」

「いや……なんでもない」


 アンナが裏表なく微笑んだ事に一瞬、引っ掛かりを覚えたカイルだが……

 流石に微笑んだ程度で驚くのは、いくらアンナでも失礼と言うもの。


 違和感を飲み込んで、入国審査を通過。

 賑わいを見せるローゼルメルデセス王国の繁華街に脚を進めた。


「カイル。ローゼルメルデセス王国に来るの初体験か?」

「何故、そのワードを選ぶ! 

 ……俺は、故郷の村と、トウネ村。そして、学園都市……メルエレン王国しか知らないよ」


 そもそもカイルは、ユウナとレンジ。

 そして、孤児院の子供達の事しか興味はない。

 世界的に有名なローゼルメルデセス王国の事も、勇者学校の事も知らなかった。


「ならば、『ローゼルメルデセスの七騎士』の事も知らんのか?」

「七騎士?」


 その言葉は……


「聞いたことがある。前にユウナが言っていた。……大陸最強の騎士団だろ?」


 カイルはユウナが『強い男が好きなのよね。こんな男と結ばれたいわ……強いって言ったらカイルも……(もごもご)……ね』と、ヤケに突っ掛かって来たのを思い出す。

 その時カイルが無視したことが発端で大喧嘩に発展したのは過去の話。


「少し、違うな。『七騎士』とは、ローゼルメルデセス王国で、《王級》騎士の称号を持つ、七人の騎士団長の事だ」

「……っ」


 王級。

 それは、努力だけではけして到達出来ない、選ばれし天才のみが到達出来る領域。

 そこに到達したもの名は、歴史に残る事になる。 

 ミリス歴史史上は約千人。

 

 その力に恐怖と畏怖を込めて人は『異能者』と呼ぶ。

 文字通り異能の様な力ということ……

 

 それが七人も、ローゼルメルデセス王国には存在する。


「第一騎士団団長『炎王』イグニード。

 第二騎士団団長『光王』ゴルドン。

 第三騎士団団長『闇王』ブラック。

 第四騎士団団長『緑王』グリーヌ。

 第五騎士団団長『療王』ローゼ。

 第六騎士団団長『鉄王』シルバ。

 第七騎士団団長『幻王』ブラウン。


 王国最強の騎士達だ!」

「っ!!」


 カイルが気配を感じて回りを見渡すと、背鰭の長い騎士の正装をした七人に囲まれていた。

 音も気配も、カイルには気づけなかった。


 動揺するカイルをおいて、七人の騎士の一人。

 白髪の女性が騎士剣を抜く。


「私は、ローゼ。逆賊。そのお方を今すぐコチラに渡しなさい! 大人しく渡せば命だけは助けますが?」

「ローゼっ!? ……って」


 寸前でアンナが語った騎士団長の名前。

 そう、カイルを取り囲んだ七人の騎士こそが、アンナの語った『七騎士』だった。


 そのローゼの視線はアンナを捉えている。

 騎士達の狙いはアンナ。


「チッ! ふざけんなっ!!」


 反射的にアンナを庇ってカイルも片手剣を抜く。

 それが開戦の、のろしとなった……


 カイルが剣を構えようとした瞬間。

 ローゼの姿が霞んで消えた。


「ここですが」

「っ!!」


 そして、カイルの目の前にいきなり出現した。

 同時に、顎に掌底。

 頭蓋に響く衝撃で、後ろに吹き飛んだ。


 チラチラする視界の中で、受け身を取ろうとした身体を、後ろから羽交い締めにされる。

 ……ローゼに。


「くっ……瞬間移動いや。高速移動……か」


 早すぎて、カイルの導体視力では終えないだけ。

 掌底に乗っていた体重が、ソレを証明している。


「まだ、意識ががありますか……ではッ!」

「ちっ……」


 首を絞められて、意識が落ちそうになるカイルは、腰にさげているもう一振りの剣。

『鉄刀丸』に手をかけて……


「そこまでだ!」

「「っ!」」


 そのカイルの腕と、カイルの首に向けられた六本の騎士剣を……


「七騎士よ。そやつは、私のパートナーだ。それ以上の無礼は許さんぞ?」


 アンナが制止した。


「えッ? あっ! し、失礼しましたっ!」

「むむ? パートナー?」

「……」


 アンナの言葉を聞いて、

 白髪のローゼが慌ててカイルを離し、

 金髪の男、ゴルドンが眉をひそめ……

 赤髪の男、イグニードが静かに瞳を閉じた。


 解放されたカイルは、意を決して聞く……


「アンナ……お前。お前っ! お前はっ!」

「そうだ。カイル。私は……」


 カイルの言葉を聞いて、アンナは胸を張って仁王立ち。

 更にゴルドン以外の七騎士が一斉に頭を垂れた。


 その光景にカイルは確信した。

 そうアンナはっ!


「アンナの……偽者だったのか!!」


 通りで、清々しく微笑んだと思った。

 ローゼル王国に来て以来のモヤモヤしていた疑問が晴れた瞬間だった……


「私は本物だぁああああーーッ! って、私にツッコミをさせるでない」


 アンナは、カイルの頭をひっぱたき、気を取り直して、仁王立ち。

 そして、その正体を明かした。


「私は、アンジェリーナ・ローゼルメルデセス。この国の『第一王女』なのだぁああああーーッ!」


 そういう事だった。 

 


 『ローゼルメルデセス城』地下室。

 幾重もの結界に隠されているその六疂程の部屋に、幼い少女が暮らしていた。


 少女は、ある事情によって、生まれてから一度として、その部屋の外へ出た事がない。

 そもそも、少女がここに隠れ住んで居ることを知る者は、世界中含めても数人しかいない。


「熊さん。独りは淋しいですね……」


 そんな少女の唯一の楽しみは、


 お気に入りの人形達との語らい。

 書物を読みあさる事……

 そして……


『ミリナリア。アンジェリーナだ。起きているか? 入るぞ?』

「お姉様っ!!」


 稀に少女の元に訪ねて来る大好きな姉。

 アンジェリーナ・ローゼルメルデセスとの邂逅の時間だった。


 ガチャリ。


 内側からでは、けして開けることの出来ない扉が開く。

 少女は入ってくるであろう姉に、嬉々として飛び付いた。


 ガシッ!


「……っ!!」

「あれ? ……お姉様? 少し筋肉が付きましたか? 身体がカチカチして……匂いも……男らしく……っ!」


 違和感に、顔を上げると……

 姉とは似ても似つかぬ、全く知らない黒銀の少年だった……


「おい。アンナ……この子……誰?」


 そう、アンジェリーナ・ローゼルメルデセス。通称アンナに連れて来られたカイルである!!

 

「だ、誰です……か?」


 まさかの人違いに、困惑する少女だが……

 困惑しているのは、カイルも一緒。

 いきなり全く知らない少女に喜々として飛びつかれたら驚く……


「や、やあ……? 君は……君はっ!!」


 だが、カイルは気づく。

 少女が……少女が!!


「金髪っ!! しかも、アンナとタメを張るほどの……いや! アンナよりも上質!!」

「ヒィッ!!」


 ソレに気付いたカイルは、離れようとする少女をガッチリ掴まえて、抱き上げると……


 スーッハーッスーッハーッ。


「ひゃぁぁあ!? ヤァ! 辞めて下さい!!」

「ごめん。この衝動は止まらないッ!!」


 一心不乱に弄り倒した……。


 数分後。


「あ、貴方は一体全体っ! なんなんですかッッ!!」

「変態だ」

「変態じゃないっ!」


 アンナに助け出された少女が、涙目でカイルを睨む。

 そこには、嫌悪感と敵意しかない。 

 そんな少女を見たアンナは満足して、


「うむ、掴みは完璧だな」

「どこがだよ!! 俺、完全に、嫌われてるよ! ここから仲良くなれる気がしねぇけど!」

「それで良いのだ」


 アンナはそういってから、まず。 

 カイルに少女の事を紹介する。


「カイル。この、金髪の世界一可愛い少女は、私の実妹。ミリナリア・ローゼルメルデセスだ!」

「姉馬鹿だな。確かに可愛いけれど」

「~~っ。可愛い……っ!?」


 更に、少女。ミリナリアにもカイルを紹介する。


「ミリナリア。この殿御は、私の男。カイル・……カイル……カイル~~なんだ?」

「俺は、王貴族じゃないから、家名なんてねぇーよ!」

「ほーう?」


 生っ粋の王族っ娘である、アンナは、初めて聞く下民の実態に……興味を引かれる。


「家名がなくて、結婚はどうするのだ? 婿の名に出来ぬではないか……!? どう証明する?」

「俺の村じゃ……嫁入りした女性は、肩に入れ墨を入れるんだよ。婿の名を魔法文字でな」


 魔法文字とは、魔法儀式に用いる特殊な文字の事。

 それで、人の名前を身体に刻めば…… 


「ムッ! おなごの身体に傷をつけるのか!? 一生消えぬではないか!」


 魔法契約が成立してしまい、絶対に消えない傷となる。

 だからこそ……


「……それで良いんだよ。一生消えない傷を付けても、一緒になっていい。なりたい。そう思える人とだけ結婚するんだ。

 ……まあ、今は軽略化して、結婚指輪(エンゲージ・リング)の交換で済ませる人も多いけど……って!! そんなことよりも!」


 聞きたい事があるのはカイルの方だった。


「アンナ……いや。アンジェリーナ様と呼ぶべきか?」

「辞めろ。くすぐったい。私のことは親しみを込めてアンナと呼ぶのだ」

「……じゃあ。アンナ。なんで俺をここに連れてきた」


 アンナがローゼルメルデセス王国の、第一王女だった。

 そのことは、実はそこまで驚かない。

 普段の言動から、アンナの身なりの良さは予想できていた。

 

 だが、ここは違う。

 王城の隠し通路を通り、何層もの結界の奥にあるこの部屋は明らかに異常だった。

 拘束を目的とした造り。

 窓もなく、日の光すら入らない。

 部屋にあるものは、積み上がった書物と、山のように重なったぬいぐるみ、そして、ベッドだけ。


 中にいた可憐な少女も、最高級の金髪を除けば、

 病的なまでに白過ぎする肌の色と、骨と皮だけの身体。

 

 その部屋が……少女。ミリナリアを、厳重に監禁していることは、馬鹿でもわかる。

 問題なのは、何故、そんな秘密の部屋に、カイルが招かれたのかと言うこと。


 カイルには、アンナの意図が何一つ解らなかった。


 (そういえば……俺は、アンナの事をなにも知らないんだよな……)


 だからといって、特に知りたいとも思わない。

 ……思わないが。

 ここまで来てしまったら知ろうとしない訳にもいかなかった。

 アンナの意図次第で、今後のカイルの行動方針は変わることになる。

 もちろん、七騎士に襲撃された事も考慮すれば、アンナが敵に回ることも十分ありうる状況。

 カイルは、絶対に、ユウナとレンジの元に帰らないと行けない。


 スーッと真剣な眼差しになるカイルに……

 

「そんな目で私を見るな。カイルと事を構える気はない。七騎士が襲ったのは誤算だったのだ」

「……」


 アンナの言葉。

 この状況では、信じて良いのかも解らない。

 ……だけど。


 アンナの事を信じたい。

 トウネ村でのアンナを、カイルは信じたい。

 だから、信じたいから信じることにした。

 それがカイルという男。


 アンナはカイルに何かをするつもりはない。

 先ずはその前提で話をする。

 

「なら……他は?」

「うむ、ここには、カイルを連れて来るつもりだった」


 今回の『ゴブリン討伐』の依頼を最初に見つけたのはアンナだった。

 その時から、アンナの計画は始まっていたのである。


「全て、話す。だが、先ずは、私が何故、勇者学校賢者科に入学したかを話すべきだな。それが全ての答えとなる」


 そうして、アンナは話しはじめる。

 アンジェリーナ・ローゼルメルデセスと、たった一人の妹、ミリナリア・ローゼルメルデセスの話を……


 十年前……《ミリス歴2003年》


 ローゼルメルデセス王国に二人目の王女ミリナリア・ローゼルメルデセスが誕生する。

 国民達は歓喜し、祝福で、踊り回った……


 しかし!


 生まれたばかりのミリナリアの身体に、『呪い』の紋章が浮かび上がった事で、事態は急変する。

 世界最大宗教『ミリス聖教』では、先天性の『呪い』は災い呼ぶ、忌み子とさてきた。

 これは、熱心なミリス教徒でなくとも、大陸全土で信じられている因習。

 それは、軍事国家であるローゼルメルデセス王国でも同じだった。


 王族に『禁忌の子』が生まれた……

 そんなことが広まれば、王国は内部から崩壊し滅んでしまう。

 それほどの事態に陥っていたのだった。


 その最悪の事態を避けるために、ローゼルメルデセス王――ミリナリアと、アンジェリーナの父は、出産中の事故として、処理し、死産として扱った。

 そして、王女出産に関わった全ての者を口封じに処刑。

 禁忌の子を産んだ王妃をも……処刑した。


 王国存亡の為には仕方なかった事だと言える。


 その時、王妃が遺した遺言に従い。

 ミリナリアだけは、城の地下深くに監禁し、自由を奪うことで、処刑だけは免れたのだった。

 かくして、第二王女はローゼルメルデセスの歴史から完全に消され事態は無事、収束したのだった。


 八年後……アンジェリーナが、その部屋の封印を解き、ミリナリアと邂逅するその瞬間までは……


 当時から既にキレ者だったアンジェリーナは、すぐに、ミリナリアが、死んで居るはずの妹だという事を看破し、その事情も調べ上げた。


 全ての真実を知ったアンジェリーナは、実の家族も含め、世界中から忌み嫌われる、たった一人の妹を救う事を決めたのだった。


 だが、治療魔法の天才、アンジェリーナがあらゆる手を尽くしても、ミリナリアの『呪い』は解呪出来なかった。


 そこで、七騎士の一人、『炎王』イグニードとの結婚式前夜、初夜の儀を逃亡。

 そのまま呪いの解呪法を求め、勇者学校へと入学した。

 それが、アンジェリーナ――アンナのあらまし。


「へぇーーっ。で?」


 アンナの話を全て聞いた後、カイルは冷たい温度で、ミリナリアを大事そうに抱きしめるアンナを見た。

 その程度の不幸話はどこにでも転がっている。


「呪いで、ミリナリアの時間がないのだ。私だけでは限界がある。カイルの力を貸してくれ」

「時間がない……?」


 微かに眉を動かして、聞き返す。


「ミリナリアは『呪い』に寿命が吸われてる。このままでは、二年後……十二歳になる頃には……」


 死ぬ。

 その言葉をアンジェリーナは言えなかった。

 大切な妹の、涙が自然に出るほど、残酷な事実。

 もう、何度、枕を濡らしたかはわからない。


「私の目的は、ミリス聖教の《禁忌》に触れる行いだ」


 忌み子を匿い救おうとすることは、世界中を敵に回す。

 ミリス聖教の禁忌は、人々が忌み嫌う。


「だが、カイルは、《禁忌》に対して寛容だった」

「……ソプラの事か」


 トウネ村の一件で、アンナが見ていたのは、

 

 願いを叶えるという望叶剣の力で、ミリナリアを救えるか?

 そして、

 能力(スキル)継承という、禁忌を犯したソプラの為に命をかけて守ろうとしたカイルの姿。


 普通の人間なら、ソプラの事情を聞いたところで、異端審問官に密告するところ……

 だが、カイルはしなかった。


 そのカイルを見て、協力してもらう事を決めた。

 カイルなら忌み子と嫌われ、幽閉された妹を蔑む事はないと思ったから……


「……」

「……? なんですか?」


 カイルは、暫く、ミリナリアの事を見てから……


「君は……どうなんだ?」

「私は……死にたくないです」


 ミリナリアは、俯きながらそういった。

 その言葉を聞いて、


「うん。解った」


 決めた。


「なら、約束するよ。君をその絶望から必ず救い出すと」

「……っ」


 恩人であるアンナの頼み。

 忌み子として生まれたミリナリアの運命。

 何より……ミリナリアの瞳に宿る。

 絶望の色を、カイルには見捨てられなかった。


「とは言ってもなぁ……『呪い』か」


 ミリナリアのように、先天的に呪われて生まれてくる子が、忌み子とされるにはそれ相応の理由がある。

 その一番の理由が、解呪方法がないこと……


「悪いけど、今すぐどうにか出来る事でもない……」

「うむ。それは解っておる」


 誰より簡単に解呪出来そうなアンナが出来ない以上、カイルに出来ることは、ない。


「なんにせよ。アンナの狙いは、勇者学校で『呪い』について情報を集めることだろ?」

「うむ」


 勇者学校に所属しているから、解る情報もある。

 それには勿論、様々な権利が増える勇者ランクをあげた方がいいに決まっている。

 

「なら、アンナ。先ずは、『ゴブリン討伐の依頼』を終わらせて――」

「カイル様!!」

「な、何? ミリナリア」


 突然遮られ、『様』呼びに驚くカイル。

 立場的には、王女であるミリナリアより、平民のカイルの方がミリナリアを『様』呼びする立場。


「お姉様の事を、アンナ。アンナと! それは愛称と言う奴ですね!?」


 言いながら、瞳をキラッキラ輝かせたミリナリアは、


「羨ましいですッッ!」

「……は?」


 カイルの両手を掴んで握った。

 そして、


「私にも、愛称をくださいっ!」

「愛妾!? ムムムッ! カイル。妹を傷物にしたら許さんぞ!」

「アンナは黙ってろ」


 (ニックネームが好きなのかな? そういえば、アンナも好きそうだよね。流石は姉妹)


 ミリナリア……ミリナリー……ミリナ。

 ミリナッ!


「じゃあ。ミリナで」

「ミリナッ! わぁ~っ。嬉しいです~~」


 諸手をあげてはしゃぎ始めるミリナリア。通称ミリナ。

 ……いいんだ、そんなんで。


「……話を戻して、『依頼』の為に、ゴブリンの居場所を割だそう」


 そもそも、カイル達は、そのためにローゼルメルデセスに来た。

 これで、目的は最初に戻った訳である。


「いや、その必要はない」

「なんで?」

「先ほど、私の専属メイドに聞いておいた。ゴブリンは、『西の森』に居る!!」


 アンナがローゼルメルデセスに入国した目的は二つ。

 一つ。ミリナとカイルの顔合わせ。

 二つ。ゴブリンの居場所の割だし。

 アンナは、その二つを同時に完遂していたのだった。


「すげぇな……」

「美少女だからな! (えっへん)」

「それは関係ない」


 一瞬、上がったアンナ評価が、急降下して……


「さて、目的地も決まった事だし、そろそろ行こうか」

「あ……っ」


 カイルが立ち去ろうとした時、ミリナが小さく声をあげ……カイルの手を握る。

 

「えっと……」

「あっ! すみませんっ!」


 困り顔を浮かべたカイルを見て、ミリナが素早く手を離す。

 その手をアンナが掴んで。


「私はもう疲れた。一晩、この部屋で休むことにする!」

「っ! お姉様っ!」


 ぱっと瞳を輝かせ、アンナに抱き着くミリナ。

 その様子を見てカイルは、


「ふん。シスコンだな。勝手にしろよ」


 そういって背を向け、


「俺は適当な所で野宿する」


 部屋を出ようとした。

 ……が。


 きゅっ。


 又しても、ミリナがカイルの背鰭を掴んでいた。


「カイル様も……」

「……」


 潤んだ瞳を大きく開き、たどたどしくも誠心誠意の言葉。

 それは、正直に言って……可愛らしい。

 アンナと同じ生物とは思えなかった。


「よしっ! カイルお兄ちゃんがなんでも言うことを聞いてあげるよ」

「ふぁ~っ。ふふっ。じゃあ……一つ、お願いしても言いですか?」

「良いよ~」

『デレデレだなっ!!』


 ……デレデレです。

 カイルという男はどうしようもなく、金髪少女には弱かった。


「私、お外に出てみたいです」

「え?」


 しかし、ミリナの願いを聞いたカイルは固まってしまう。

 呪いの子ミリナ。

 普通なら、生まれた瞬間に息の根を止められてしまうもの。

 そんな少女が外に出れば……残酷な結末が起こるに来まっている。


 この部屋の結界は、ミリナを監禁する檻でもあるが、ミリナを嫌う世界から守っている盾でもある。

 出せるなら、妹の為に命をかけるアンナがとっくにそうしている。


 それは出来ない。

 カイルは純然とそう言おうとして、ミリナに視線を向けると……


「やっぱり……ダメですよね……」


 ミリナが泣いていた……


「むむ!? カイル! その涙は――」


 少女の純粋な涙の前に!!


「良いに決まってる!!」


 カイルは決め顔で親指を立てていた。


「ふぁ~っ。カイル様。大好きです♪ (ふふふ、チョロ過ぎです)」

「カイル~~ッッ!! ちょっとコッチに来い!!」


 ミリナに抱き着かれて、金髪を触ってデレデレしているカイルを、アンナが引きずって、部屋の外に出る。

 出てしまえば、中に居るミリナとは隔絶される。


「貴様ッ! わかっているのか!」


 壁ドンッッ!


「解ってるよ! 嘘泣きだろ? あの程度、ユウナと過ごした俺にはすぐ解る」

「っ!! ならば何故! 私の時は落ちなかったではないか! カイルはチョロく、ないはずだ!」


 壁キックッッ!?

 ……壁キックってなんだ?


「男には!! 例え騙されていると解っていても!! 行かなきゃいけないときがあるんだ!! 俺はっ!! あの金髪に触りたかった!! (涙血)」

「何、格好良いこと言っているのだ! 全然格好良くないからな!」


 アンナはカイルの変態加減に溜息を付いてから……

 真剣な瞳になる。


「下手に希望を与えてどうするつもりなのだ。ここからミリナを出すなんて不可能だぞ!」


 アンナだって、出来ることならそうしてあげたい。

 ミリナの願いを叶えてあげたい。

 でも、それは出来ないこと……


「今すぐ、謝って来るのだ! あの娘はきっと解ってくれる」


 ミリナも本当に出ようとはしてない。

 ふざけて言っただけ……

 アンナがそう呟き、事態を収めようとする。


「ふざけんなっ!」

「ッッ!」


 が、カイルの瞳も真剣だった。


「アンナ。覚えておけ。誰かを救いたいなら、救いたい人の本当の願いを我慢させちゃダメなんだよ」

「……ッ!」

「ミリナは今、出たがってる。その気持ちを嘘にして、どうしてミリナを救えるんだ。ミリナの今は、今しかないんだぞ?」

「……今は……今しかない」


 それは、かつて全てに絶望した、カイルだから言えること。


「ミリナを救うために、ミリナの気持ちを犠牲したら意味がないだろ?」


 そして、それは、アンナにも思う所があった。

 ミリナが何時も悲しそうにしている姿を何年も見てきていた。

 それに胸を痛めなかった事はない。


「カイル……カイルは最初から解って……だからミリナの――」

「いや、それは普通に金髪に触りたかっただけ」

「最悪だな!」


 そして、翌日の早朝。

 ミリナは、生まれて初めて外の世界へ飛び出した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ローゼルメルデセス城《玉座の間》にて、ローゼルメルデセス王は静かに瞳を閉じた。

 家出娘が帰還し、あろう事か、秘密の姫を外出させた。

 その報を受けた。


 長い沈黙の後、ローゼルメルデセス王、ローゼルは、決断を下す。


「『影』よ。ミリナリアを殺して参れ!」

「……」


 王名を聴いた黒ずくめ集団が、音もなく姿を消した。

 ローゼルは、誰もいなくなった玉座で、ブローチを見ながらため息をつく。


「ワシは……本当にこれで良かったのかのう……答えておくれコーラル」


 ……ブローチに映るのは、最愛の妻が魔法で投影された姿。

 呪い王女の存在は、絶対に隠さなければいけない事。

 この決断は正しい……正しい筈なのに……ローゼルは、頭の鈍痛を感じていた。

 そんな、ローゼルの姿を、影から見つめるものが二人……それは――


 カイル達が知らない場所で、ゆっくりと確実に、カイル達を巻きむ『奸計』が企てられていた。

 後に《王国史上最悪の一日》と言われる、一日が始まった瞬間であった。


 




 

 

 

 

 


 



 

 

  



 


 



 


 





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