#139取引
「その取引は価値に合わない。そして貴様は何を言っている。魔神王様の娘であるアリス様は守護される必要はない」
確かに……
アロイトがいれば大概のプレイヤーは叶うわけがない。
「そう?これは互いに傷つけ合わない意味で言ったんだけど」
「貴様の狙いははなから分かっている」
「ならば取引の条件に一つ追加。アリスが貴方に生かして連れてくるように言われているクロとの交渉権というのはどう?」
え、クロさんを生贄にするつもり……
「貴様、どこまでこちらの事情を知っている」
「すべてかな?だってアリスがクロのことをずっと見ていることぐらいなんとなくわかるよ。今日の昼間、クロと接触して改めて確信した。誰かに見られていると……」
クロさんが誰かに見られているってどういうこと。
「ただ見られている感じは一つなのに様々な方角から同時に見られている感じがした。これはクロを水晶玉の対象にして常時観れるようにしているから。ありとあらゆる角度でね」
それってストーカーじゃ………
「貴様……」
「さらに言うと今はココちゃんも見てるよね」
え、僕も見られてるの!
「そ、それって本当ですか、ペルさん!」
「うん。こういうのはほんと気配じゃ感知できないレベルだもんね。いくら五感が鋭いクロだって気付きづらいだろうね。まぁ、私は獣人だからちょっとわかりやすかったけどね……と言ってももうこのレベルになると五感で感じ取るのはほぼ不可能に近いね」
「じゃ、じゃあどうやって感じ取ったんですか?」
「第六感!」
「だ、第六感!」
第六感って五感以外のもので五感を超えるもので理屈では説明しがたい、鋭くものごとの本質をつかむ心の働きだよね。
それって凄すぎる……
ペルさんってそんなにすごい人だったんだ。
「それで私と取引する?」
「貴様と取引しても我に得はない」
「そう?私はまだ貴方との戦闘でまったく本気を出してないよ」
ペルさんは戦斧を振り回しながら言う。
「ほう、それは興味深い。なら見せてもらおうか?貴様の本気」
「別にいいけど……条件。私以外の誰かに攻撃したら貴方の負けね」
「フッ笑わせる。我は貴様の一騎打ちをはなから望んでいる。そこらの雑兵には興味はない」
「そう?良かった」
シュッ…ペルさんの姿が消える。
「せい!」
カーン……金属同士がぶつかるような音が響く。
「貴様の本気とは速さのことか?」
アロイトの方を見るとペルさんはアロイトに戦斧を叩きつけていた。
え、さっきまでペルさんとアロイトの間には5メートルくらい距離があったのに一瞬で……
「私の本気がスピード?笑わせないでよ」
ペルさんはアロイトから一度距離を置こうと飛び去る。
しかしそれをアロイトは見逃さなかった。
「貴様、今油断をしたか?」
「してないよ。錬金術変形!」
ペルさんが錬金術を発動させると戦斧の鉄の部分の形が蛇みたいにくねくね動き出す。
そのまま接近していたアロイトに鋭く突き刺さる。
「ほぉ……錬金術か?それが貴様の作戦か?」
「まぁね。貴方の鎧の下……どうなってるのかわからないからとりあえず刺してみたって感じ?この状態なら貴方も行動できないし……けどこの感覚だと中身空っぽだよね。頭と一緒で」
ペルさん、それはちょっと失礼ですよ!
「貴様の作戦、実に面白い。だが貴様が一手打ったところでどうなる?戦士は一手行なった後も考えておかなければ勝てる戦も勝てない」
「確かにね……けど貴方はそんな余裕ぶってて大丈夫なの?それともそれが本気?」
パーン……
ペルさんの身体が宙を舞う。
今一体何が……
いや、それよりこのままだとアロイトの大剣でペルさんが……
このゲームで怪我をすると現実と同じような症状が出る。
今ペルさんが切られれば背骨が折れてしまう。
背骨が折れると脊髄に影響が出るはず。
それではろくに立てなくなる。
「ペルさん、危ない!」
「娘、死ね!」
カーン……
アロイトの大剣を一本の白い片手剣が弾く。
ペルさんは地面に着地するとそのまま距離を取る。
なんで戦斧を使ってたペルさんの手に片手剣が……
一体どこに片手剣を隠し持ってたんだろう」
「おお、今のに対応するとはなかなかの反射神経だ」
「それはどうも。付与魔術フレイム!」
ペルさんは片手剣にフレイムをつけると再びアロイトに向かって行く。
アロイトも大剣を構え、突進していく。
「剣技スラッシュ!」
ペルさんはアロイトと交差する瞬間、スラッシュでダメージを入れる。
「スキル投剣発動!」
振り返りって距離を取りながら片手剣をアロイトに向かって投擲……って投擲したらペルさんの武器が!
ペルさんは剣を投擲すると自分の赤いスカートの中に手を……
「ぺ、ペルさん何してるんですか!」
「え、武器出してるんだよ」
スカートから武器を出す……
え、スカートから細剣が出てきた!
け、けど!
「なんてハレンチなことしてるんですか!これは戦闘なんですよ」
「しょうがないじゃん。次元収納機能がついてるのがスカートなんだから」
「それにしてももう少し違う方法はないんですか!ぽ…ポケットとかついてないんですか?」
「残念。ポケット付いてないんだよ。あ、中が気になってるなら後で見してあげるよ。スカート脱いで!」
「ちょ!」
「「ぺ、ペルさん…そういうハレンチなことをココくんにしないでください!」」
「えーしょうがないなぁ……ここだ、スキル加速!」
ペルさんは接近するアロイトにスキル加速を使って大剣を回避していく。
そして背後に回ると……
「細剣技一点突き!」
ペルさんはアロイトの兜に細剣技を放つ。
今のは5連撃!
パーン……
この音。
この音が響くとペルさんが吹き飛ばされる。
これはアロイトの固有スキルなのか?
しかしペルさんの手にはもう細剣はなかった。
あるのは弓だった。
「弓技スターシュート!」
次回予告
ココちゃんが何かを驚愕している中、私たちのパーティ内の男子内で2番目の強さを誇る男がついに現れるよ!
さてどんな戦いをするのか楽しみだ!