#136詠唱をしてみた
「着いたね」
「着きましたね」
メイリアスはさっきよりも状況は悪化していた。
周囲のお店はもうボロボロ。
今にも崩れて来そう。
「どうする?魔王軍を皆殺しにする?私としてはミケに手を出して来たら……ね。状況に応じて殺そうとは思うけど….…」
「僕はあまり敵を倒したくないな……出来れば和解したいんだけど………」
シロさんはそう言いながら純白の剣をそっと抜くと私の方に純白の剣を投げつけ……
「し、シロさん、何するんですか!」
「ごめん。ペルさんの背後でミノタウロスが鉈を振り下ろそうとしていたから……」
え……
私が背後を振り向くとミノタウロスが胸を押さえて倒れていた。
足音立てず私の背後をとるとは……
というか!
「それ忠告してもらえれば私避けれますよ!」
「そ、そうですよね……すみません」
もしかしてシロさんも戦闘狂?
いや、この大人しい性格のシロさんがあんな中二病のクロと同じわけがない。
「けどありがとうございます。私だってちゃんと戦えますから」
「わかりました。それでどうしますか?」
「何がですか?」
「周囲から敵が近づいて来ています」
敵から近づいてくるとは好都合。
ならば蹂躙するまでであるぞ。
「よし、迎え撃とう!」
「いえ、正面からぶつかっても勝てる可能性が……」
可能性?
「どっちからどのぐらい?」
「東区のあった方角からおよそ30体ほど……ペルさんはクロを助けたと聞いていたので相当の実力者だと思います。けど流石にこの体数を僕とペルさん二人で倒すのは難しいと思います」
そんな難しいことではないと思う。
私はスキルコマンドを操作する。
「シロくんよ、戦場において可能性という単語は無粋だよ」
「は、はぁ……」
あったこれか!
えっと……これ噛んだらどうなるんだろう………
「そんな単語じゃ何もできない。私はこのゲーム始まって以来ロクに戦闘してないんじゃ!」
「そ、そうなんですか?」
シロくんよ、私がつまり何をしたいか察してくれないのかい?
まぁ、なんと言われようともう突っ込んでくけどね。
私はエクスカリバーを鞘から引き抜いた。
「だから私はこの戦場で英雄になるんじゃ!」
私はそう言いながら北区の方角に走りだす。
この先に30体ぐらいいるなら火炎魔術である程度体数を減らして弱った奴らを殺す。
うん、問題ない!
「ぺ、ペルさん!そっちにいますよ!」
シロさんがそう言いながら後ろから走ってくる。
けどなんかシロさん遅くない?
一生懸命走ってるのはわかるけど……遅すぎない。
あ、ステータスが二分の一になってるんだった。
よし、シロさんが追いつくまでに30体すべて倒してやろう。
私は瓦礫を利用して高く跳躍する。
見えた!
ミノタウロスが10体、悪魔っぽいのが10体、そして人型の敵が10体。
よし、この体数なら……
「『炎の精霊よ、私に炎の力を授けて』フレイムマジック!」
魔力から炎に転換する時の魔力消費を削減し、火炎魔術の威力を上げる。
そのかわり他属性の魔術の魔力消費量が増えてしまうという魔術。
まぁ、私は火炎魔術をよく使うから関係ないけどね。
「次は……『炎よ、敵を焼き尽くす火球となれ!』ファイアーボール!」
私の周囲に火球が一つ生成される。
あれ、意外と小ちゃい。
ならもっと数が必要。
このゲームでは魔術の詠唱に決まった式句がないらしい。
基本的に発動できる式句がスキル欄に書かれている程度で後で改変も出来そうだった。
なら数を増やすなら式句一つで大量に火球を作れるはず!
「『炎よ…敵を焼き尽くす火球をいっぱい作れ!』」
あ、火球が一つ増えた!
……一つ出来たのは良いけどそれ以降生成されないんだけど。
「ぺ、ペルさん!」
あ、シロが下にいる。
というか私落ちる前に何かしないと敵に位置を教えただけになっちゃう。
じゃあとりあえず火球放ってみようかな。
私は火球を前方に放とうと動いてみる。
火球は勢いよく前列のミノタウロスに飛んでいく。
だが私はこの世界において魔術をかじっただけでは何も出来ないと確信した。
ボンボン……
火球二つがミノタウロスに当たる。
ミノタウロスは平気な顔……ちょっと痒そうな動きをしただけだった。
あれ、普通もうちょい痛そうにしない?
火の玉だよ。
火球だよ。
それ食らって無傷って何よ。
そんなミノタウロスって硬いの?
「ペルさん、伏せてください!」
へ?
私が伏せると目の前にいたミノタウロスの上半身と下半身がおさらばした。
いや、何した!
一体何をしたんだ、シロさん!
火球で傷付かない相手に何をしたんだ………
次回予告
ちゃんと特攻しないで作戦を立てて魔王軍を潰します。