#125逝かないでよ!
「誰か〜いませんか〜」
声は響けど帰ってくるのは私の声。
そんなダンジョンで私は現在迷子である。
ああ、さっきからまっつーの灯火が小さくなっていってるよ。
それに身体である松明の松の木がどんどん短くなってるような気がする。
「まっつー………ちょっと聞いていい?」
「ぼぅ?」
「まっつーってさ?」
「ぼぅ」
「松明の幽霊的な存在なの?」
「ぼぅ!」
うん、幽霊的な存在らしい。
ということは私の大切な仲間が成仏する可能性があるってこと!
「その…聞きづらいんだけど………」
「ぼぅ?」
「まっつーのその松の木がどんどん短くなってるのって私の気のせい?」
「ぼぅぼぅ………」
「気のせいじゃないと。その松の木が全部燃えちゃうとまっつーはどうなっちゃうの?」
「ぼぅ………」
え!
「しょ、消滅!」
「ぼぅ」
「それじゃあ……まっつーは死んじゃうの?」
「ぼぅぅ………」
「無理しないで早く言ってよ!そんなことだったら私……ずっとまっつーを私のうちの暖炉の精霊にしてあげようと思ってたのに!」
家は暖炉があるお家を作って私の使い魔たちと仲良く暮らす予定だったのに………
まっつーの役割はこの世界の寒い夜を暖かくしてくれるお家の暖炉の精霊へと転職してもらって私を温めてもらう予定だった。
ココちゃんと抱き合いながら身体を温めるのも良いけど、人間は火に直接当たっていると健康的になれる説があるからココちゃんと一緒に健康になろうと思ってたのに!
というかよく見たらもうまっつーの松の木の持ち手部分が持てないほどに短くなってるんだけど!
その長さじゃ何分ぐらい持つの!
「あと何分くらい大丈夫なの?」
「ぼぅぼぅぼぅぼぅ!ぼぅぼぅ……ぼぅぅぼぅ!」
「長くて5分……短いと3分…………」
それじゃあ後少ししか一緒にいられないじゃん!
「まっつー……ここでお別れなの?」
「ぼぅぼぅぼうぅぅ!」
「つまり?」
「ぼぅぼぅぼぅ!」
「ここでお別れなの?」
「ぼぅぅ!ぼぅぼぅ!」
まっつーはいつも通り穏やかに言葉を発しながら、私の周りをクルクルと飛び回る。
しかしその内容はとても過酷なことだった。
「来世でも雪様の使い魔です……ってそんなこと言われたって嬉しくないよ!そんな………」
「ぼぅ……」
「そんなまっつーはたった一人なんだよ。まっつーはまっつーなんだよ!まっつーがいなくなったら、私を誰が守るって言うの!」
「ぼぅ……」
まっつーがクルクル飛び回るのをやめる。
「私は強くないんだよ。そんな私一人を残してどうして逝っちゃおうとしてるの……せめて……せめてお礼ぐらいさせる時間ぐらい欲しいよ……」
「ぼぅ…………ぼぅ……」
「きっと誰かが君のことを温めてくれるよ……そんなこと言われても嬉しくないよ。私はまっつーが良いの!まっつーの火で温まりたいの!」
「ぼぉぉぉぉぉぉぉ………」
「まっつー!」
空中を飛んでいたまっつーがカタンと音を立ててダンジョンの赤褐色の地面に落ちる。
そんな……あんまりだよ。
「………もう……逝っちゃうの………………」
「ぼぉ……ぼぅ………」
「そんな…………」
まっつーは……笑顔だった。
最後まで。
まっつーの灯火はこの後静かに消えていった。
「まっつー!」
「この声は雪さんですか!」
…………今の声はリックン!
小さな足音がこっちに近づいてくる。
私は薄暗い通路の奥を直視する。
すると私の元に走ってくるリックンの姿があった。
「雪さん!無事ですか!」
「り、リックン!リックン〜」
私は立ち上がってリックンの元に走り出す。
「リックン〜まっつーが…まっつーが逝っちゃったよ〜」
「雪さん、大丈夫ですか?まっつーって誰ですか?」
「まっつーはまっつーだよ〜」
私はリックンに抱きつくとただそこでまっつーの死を悔やむことしかできなかった。
次回予告
ペルが転移したメイリアスでも大事件が起きていた!
その大事件とは一体?