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空の媛

 エリーが精霊の託宣を受けた時、すべての爪が等しく青色に染まったことを覚えている。

 でも、今朝の私の爪は。

 親指と小指が青に。

 人差し指と薬指が赤に。

 そして中指は、緑・黒・黄の三色が縦じまに染まっていた。


 爪の色の異常だけではなかった。

 水の媛さまの代替わりの時のように、通常は先代さまが亡くなられてから、新しい副の媛さまの爪の色が変わる。

 どの館も三人の媛さまが揃っておられる中で、新しく精霊の託宣が下りたのは異例の事態で。



 朝食を終えて、精霊の館へと呼ばれる。

 五つの館の媛さまと副の媛さま、全員が集まっておられる会議室に連れて行かれて。

 手と足の爪を見て頂いたあと、媛さまがたは大きな円卓を囲んで座られ、話し合いの場が整った。私も戸口に近い辺りに座るように言われた。



「副の媛、急いで精霊にお伺いをたててください」

 水の媛さまが、自身の副の媛であるエリーに指示を出す。

一三(ひとみ)の方の後継をどうするか、確認をお願いします」

「後継、についてですか?」

「そうです。急いで」

「はい」

 急かされた副の媛さまが、部屋を出ていく。


「一三の方」

 声を掛けてこられたのは、草の媛さま。媛さまの中でも最年長の方だと聞く。

「もしも、『水と火の日以外にも舞いを』と言われたら、できますか?」

「それは例えば、”草の舞い”を、という意味でしょうか?」

「できますか?」

「……いえ。私には、火と水の舞いしか……わかりません」    

 眷族的な発想でいけば、草は水の応用、風は火の応用、でいいのかもしれないけど。

 憶測で捧げるのは、精霊に失礼だ。


 静かな相談が媛さまの間で行われているうちに、水の副の媛さまが戻って来られて。

「次の一三の方は、一四(ひとよ)の方に、と」

「ありがとう、副の媛」

 水の媛さまへと連絡を終えた副の媛さまは、軽く私の肩に手を置いてから、自分の席へ座られた。


 新しい一三の方の託宣が下ったからには、私の部屋は明け渡さねばならない。

 では、私の部屋をどうするのか?

 そもそも、私は何の媛なのか?

 館を取り仕切る責任者である媛さまがたの話し合いは、言葉も声も穏やかなのに、妥協を許さない真剣勝負の世界で。


 事の成り行きを見守るうちに、自分が媛になることの実感が湧いてきた私は、心の中で“見えない何か”に問いかけ続ける。



 精霊の花嫁となる運命なら

 何故、フレデリックに出会わせた?

 “媛”となる運命なら

 何故、私に恋を教えた?

 精霊の花嫁となる運命なら

 何故、大公閣下の暴挙を許した?

 “媛”となる運命なら……?


 なぜ? ナゼ! 何故……。


 問いかけは、運命の理不尽を思わせて。

 泣き喚きたい。いや。

 いっそのこと、馬鹿笑いがしたい。



 歌君にあるまじき、荒れた気持ちを抑えているうちに時は経ち、お昼の鐘がなった。

 そろそろ、話し合いにも結論が見えてきたような……気がする。



「では、一三の方」

「はい」

 水の媛さまに呼ばれて、椅子から立ち上がる。

「貴女は今後、“空の媛”とお呼びします」

「そらのひめ……」

「日と雨に舞いを捧げる、“空の舞媛”です」

「はい」

「そして、居室ですが」

 そう言って、水の媛さまが軽く咳払いをされた。


「現在使っておられる織殿を建て増して、そこで暮らして頂こうかと」

 つまり、水の館からは出ることになる。

「館には通常、空き部屋は一階にしかないので」

 人数が一定ではない染の子さんたちのための予備部屋は、数年前の神懸かった時に使わせてもらったけど。

 あれは、非常事態で。


「“媛”を染の子と同じように一階に住まわせる訳にはいかないですし、貴女は、高い所が苦手」

 水の媛さまが、今までの話し合いの要点を、まとめるように説明してくださる。

 先代さまや練方(ねりのかた)さまが住まわれる精霊の館は、神殿の入り口でもあるため、端近過ぎて安全性に問題があるらしい。


 建て増し工事が終わり次第、部屋替えをすることに決まって。

「空の媛さまの正装は、どうしましょう?」

 土の媛さまから、新たな議題がもたらされる。 

「五色のマーガレットストールかしら?」

「五色となると、改めて織らないといけませんわね」

「織るのは、どなたが?」

 媛さまがたが改めて相談を始める中、水の媛さまから

「空の媛さまは、どのように思われますか?」   

 と、意見を求められて。

「あの……正装で舞うわけですよね?」

「そうなりますね」

「では、なるべく腕の動かしやすいものが……」

 袖付きとはいえストールは、邪魔になりそう。


「以前使った、丈の長い袖なしの上着では、駄目でしょうか?」

 三の方さまが亡くなられた時、雨の中で精霊に舞いを捧げたことがあった。

 “舞君”の礎は、あそこにある。

「胸元のドレープなら、容易に色を変えれますし」

 新たに布を織らなくても、それぞれの館で仕立物をした端切れをわけてもらって付け替えれば、形になるだろう。

「なるほど。それはいいかもしれません」

 水の媛さまが賛成してくださって。 


 空の媛の衣装も決まった。 

 舞いは、毎日の正午。歌に合わせて捧げる。

 そして、取り仕切る館のない分、空いた時間は今までと同じように機を織る。



 私の居室を増やすだけだと思っていた織殿の工事は、意外と時間をかけて。

 衛士さんのための部屋まで用意され、“空の織殿”と呼ばれることになった。


「空の隊長を拝命しました。以後、よろしくお願いいたします」

「お世話になります」

 しゃちほこばって挨拶をするアンディに、こちらの肩にも力が入る。

 アンディを隊長として、そのほかにそれぞれの隊から一人ずつ選び出された衛士さんが、織殿の警護に当たってくれる。

 “空の衛士”と呼ばれることになる彼らのために、五色縞の布を織ることが、媛として最初の機織りとなった。


 黒から青を経て、緑、黄、赤。逆に赤から黄を経て、緑、青、黒。

 色の変わり目には、淡めの二色を混ぜて横糸に使うことで、中間色を作りだしながら、グラデーションのような縞模様を織る。

 出来上がった布は、縫方さんにお任せしてバイアステープを作り、制服のラインとなる。

 残ったその端切れも捨てることなく、彼らのベルト通しに色を添える。



 彼らの制服をきっかけに、私の正装が改められた。

 丈の長い生成りの袖なし上着に五色縞のドレープが施され、両脇を結び止めるリボンは、五本に増えた。それぞれの館の一三の歌君の布から作って貰ったリボンが使ってある。

 

 “空の媛の布地”は、五色の組み合わせで模様を織り出す、歌君とは全く異なるものになった。これは、布地を扱うお店から『空の媛さまの衣装のような布を』という依頼を受けてのことで。

 織機も、少しだけ複雑なものに変わった。



 毎日の舞いは、それぞれの歌を聞かせてもらった結果、土と火と風の日には日の舞い、草と水の日には水の舞いを捧げることにした。

 正午の鐘の少し前、その日の歌君を警護する衛士さんたちが、広場へと散らばって。彼らが持ち場について、人々のざわめきが落ち着いたところで、アンディを付き添いに私は、歌君を先導する形で広場へと出る。


 程よい雨に感謝し、草木の成長を讃える。

 日の恵みを祈り、吹き荒れる風を諌める。

 そして、大地よ穏やかなれと願う。


 朝に祈り、昼に舞い、夕べに歌う。

 争いよ去れ。

 天地よ鎮まれ。



 舞いと織りに日々を過ごす私が織殿から出る時には、必ずアンディが付き添ってくれる。舞いの時はもちろん、糸を分けてもらうために他の織殿を訪ねるときも、食事や入浴で水の館に行くときも。


「隊長というのは、それが仕事ですから」

 なんでもないことのように、彼は言うけど。

「でも、他の隊長さんは宿直までしませんよね?」 

 私の居室の隣には、彼のための控え室も用意されていて、彼は宿舎へ帰らずに、そこで寝起きしている。

 休めているのかと、心配しているというのに。


「媛さまがご存じないだけで、宿直をしているようなものです。どこの隊長も、神殿に住んでいますから」

「は?」

「衛士のためのスペースに、隊長の居室もあります。宿直こそ、班長が交代でしてますが、隊長は媛の付き添い以外で神殿を出ることはしませんよ」

 それは、知らなかった。


 空の衛士さんの主な仕事は、織殿ごと私を警護することと、他の館との連絡役らしい。そして、私個人の警護は、隊長さんの仕事。

 『媛さまが織殿に居られる間は、ウィルたちに任せて休んでます』と言って、ドングリ目を笑みに緩めるけど。

 付き合いの長い彼には、いつまでも元気でいて欲しいと思う。


 若くして亡くなった、フレデリックの分も。




 十年一日のような毎日を過ごす間に、私が媛となってから、三十年が経とうとしていた。   

 その間に、水の媛さまの代替わりが二度あって。エリーも先代さまと呼ばれるようになっていた。


「空の媛さま、無理はしてない?」

 水の媛さまの頃は忙しくて、“お茶会”もできなかった彼女も、先代さまとなってからは、視察と称して空の織殿へ訪ねてきてくれる。

 この日も、少し休憩を……と、居室の方へと彼女を誘って。

「空の媛には、副の媛が居ないから、いつまでも引退できないわ」

 冗談交じりに言いながら、紅いお茶を注ぐ。


 “空の媛 ご用達”と、いつしか話題になっていたらしい大好きなお茶は、お店からの贈り物として、神殿に届くようになった。

 それぞれの媛さまや、精霊の館に住まわれる練方さまにもおすそ分けするほど頂いてしまって。

 それはそれで申し訳ない気持ちになる。


「空の媛さまのように、二つの要素を持つ歌君が現れるといいのだけど……」

「私は、変わり者なのね」

 そう言って、互いに顔を見合わせてクスクスと笑って、お茶を飲む。

 私が空の媛になって以来、神殿では複数の要素を持つ歌君を探しているのだけど、先代さまが言われるように未だ現れてはいない。

 ならば一日でも長く、私は媛として舞いを続けなければ。



 水の先代さまの心配は、神殿全体の心配でもあり、翌年から、舞いの回数を減らす方向で調整が行われた。

 その結果、舞いを捧げるのは一旬に一度。水の月には水の日だけ、火の月には火の日だけと、季節と対応する日にのみ広場へ出ることになった。


 歳と共に目も弱り、機を織るペースも落ちてきて。

 世間との繋がりが少しずつ薄れてきつつある。

 それでも、布地の織り上がりを待ってくれる人も居れば、『空の媛さまに憧れて……』と頬を染める若い歌君もいて。

 歩んできた媛としての時間の長さに思いを馳せる。



 そして、それから三年後。

 その年の火の季節は、ひどい暑さで。川も干上がりそうな日差しに、私は舞いの回数を増やした。

 火の日には、日の神様をお諌めし。

 水の日には、水の神様をお呼びする。


 三旬に二、三度の雨で火の季節をのりきり、なんとか例年並みの雨が降るようになった涼の水月には、肩の荷を下ろした気がして。

 終わった、とほっとしたら、溜まった疲れが出てきたらしく、寝台から起き上がれなくなってしまった。



 『少し休めば良くなるでしょう』と、薬方さんには言われたけど。

 水の月が終わり、風の前月の半ばになっても、体力は戻らず、一日のほとんどを眠って過ごす。

 足元もおぼつかなくなり、織殿内のご不浄まで行くのにもアンディの手を借りる。ましてや、水の館へ食事や入浴などには行けるはずもなくて。

 食事は運んでもらい、入浴は看方(みとりのかた)と呼ばれる、精霊の館で高齢の練方さまを介護している方に手伝ってもらっての清拭ですませる。


 当然、舞いを捧げることもできず。

 自分が生き物として、じわじわ枯れてきているように感じていた。



 六十二歳になる年が明けて、土の季節も終わり。

 寝込んでから、半年が経とうとしていた。


 その日は、午前中に先代さまが見舞いに来てくれて。

「青い精霊樹に花が咲いたわ」

 と、一枝の青い花を寝台の胸元に置く。

「温の水月は、雨も良い具合に降っているし。このままいけば、草の季節の芽吹きも順調よ」

「もうそんな季節なのね」

 枝を手に取ると、青い花のかすかな香りがした。 


「先代さま。そこの……引き出しから、正装を出して貰える?」

「空の媛さま? どうしたの?」

「中庭に行きたいの」

 花咲く精霊樹を、この目で見たい。

 今日は幸い、雨が降っていないと、さっき先代さまから聞いた。


 先代さまに手伝ってもらって、正装へと着替える。

 最後に着たときには麻だった袖なし上着は、私が寝込んでいる間に綿の物へと、縫方さんが衣替えしてくれていた。



「お呼びか? 媛さま」

 着替えを終えた居室にアンディが入ってくる。

 私より十歳近く年上の彼は、老年期を迎えても、まだまだ元気で。

 私が引退するまでは、自分も現役を続けると言っていた。

「精霊樹へ行きたいので、手を貸して下さい」

「承知しました」

 失礼、と声を掛けられて、ひょいっと抱きあげられる。


 『子どもだった頃より軽くなった』と責める口調のアンディの腕の中で、身を縮める。

 この一旬は特に食欲がなくって。さっき着替える時にも、先代さまを嘆かせた。


「やはり貴女を抱きあげるのは、水の日ですか」

「今日は……水の日?」

「水の月、二旬目の水の日です。そろそろ、お昼の歌も始まる頃ですな」  

 アンディとそんな会話をしながら、先代さまの後について、精霊樹の元へと運んでもらう。 


 青い精霊樹の下へ辿り着く少し前に鐘が鳴り。

 歌が始まる。


 根元に座り込んだアンディにもたれるようにしながらも、手が舞いの仕草をたどる。

 水の神さまへ伝える、感謝の舞い。



 舞っているうちに、ふっと体が軽くなる。

 聞こえている水の歌が、いつしかお神楽へとすり替わる。


 萎えていた足が、地を踏みしめる。

 目の前に翳した手の甲から、皺が消えて。

 若返った体で、光の中を舞い歩む。



 ああ。私は今

 死んでいこうとしている。



 これは、花道。

 花嫁になるため

 精霊のもとへと続く道。



 日の神さまをお呼びするお神楽が始まる。

 お名前を宙に書いた所で、目の前に大きな気配が現れた。


「ようこそ参られた。我が花嫁」

 重々しい声にお神楽がかき消され。舞いの手が止まる。

 この方は……精霊では、ない。


「日の神さま?」

「さよう。我は太陽を司るモノ」

 待ちかねたと、微笑まれたのが分かった。 


「其方は、(われ)の巫女。百の転生を終えたあと、我が花嫁になるべき存在であった」

 揺らめく陽炎のような日の神さまだけど、不思議と仕草や表情が判るように思える。

「前の生で転生が百を迎えたというに、其方は自分で命を絶ちおって」

「……」 

 責めるような表情に、頭を下げる。



 日の神さまがおっしゃるには、自殺は神様の世界では、取り返しのつかない重罪で。本来なら、転生のカウントがリセットされてしまうらしい。

「あと一度であったものを、“更に百”は我が待てなんだ」

「申し訳ございません」

 日の神さまは、他の神さまの目をごまかし、リセットをかわすために、死んだ私の魂を界の異なるこちらの世界へと運んで。前世の舞いで縁が結ばれていた、“水を司る方”へ預けた。

 自分に由来する目印として、僅かな火の要素を染みこませて。


盟神探湯(くがたち)まがいの裁きに、其方が再び死を選んでおれば、さすがにごまかせなんだがの」

「ごまかすしか、方法はなかったのでしょうか?」 

 それ以前に、助けてくだされば。

 恨み言めいたことを口にすれば、軽く睨まれた気配。

「神たる我は、人界に手出しはできぬ。助けたくとも、助けられぬ」

「はぁ。そういうものなのですね」

「なればこそ、其方があの下郎に穢されかけたときの口惜しさは、いかほどであったか」

「でも、彼らは報いを受けましたよね?」

 自然災害に巻き込まれ、酷い亡くなり方をしたはず。


「あれは、神罰などではないわ。精霊が我の思いを忖度したまで」   

 日の神さまの眷族である火の精霊と、私の保護者を自認していた水の精霊が暴走したらしい。特に水の精霊は、直前に自分の歌君を殺されたせいで、ひどく不穏で。

 私の後見者の存在が悪用されるかも……という、水の媛さまの危惧に過剰反応して、『禍根は断て』とばかりに私の故郷まで滅ぼしてしまった。


「やり過ぎでは……」

「いかにも、やり過ぎよな」

「なら、止めてください」

「我も、怒りに我を忘れておったゆえな」

 しれっと言われてしまった。


 その、あまりにも何気ない口調に、精霊とか神さまといった人ならざる方とは、“そういうモノ”だと思い至る。

 百の転生で幾度、涙を流したか。

 そうして考えると、家族も故郷も。そして、遅い初恋だったフレデリックも。みんな、私にかかわらねば、長生きできたのかもしれない。


 ごめんなさい。

 そしてどうか、

 次の生では、幸せに。



 過去生のあれこれを語り合っていて、ふと気になった。 

「あの、日の神さま」

「なんじゃ? 我が花嫁」

「本当のお名前は、違いますよね?」 

 宙に古代文字を書いて見せる。

 人には発音できない、神さまの真名。 

「其方の好きによべばよい」 

 どれが良い? と、ズラリと言葉をならべられる。


 聞いたことの無い音の方が多かったけど。

 それは、時代・国・界を超えて、ありとあらゆる太陽神のお名前であることが分かった。

「いずれも、我が名ぞ?」

 こんなに名前があるなんて、聞いているだけで、疲れそうだ。


「……私の好きな呼び方をして、よろしいのでしょうか?」

「良い、良い」

「では、“背の君”とお呼びしても?」

 前世で、お祖母ちゃんから聞いた神話の……どの話だったか。

 夫を“背の君”と呼ぶと知ったときに、胸がときめいた。


「我を“背の君”と? 花嫁?」

「よろしいでしょうか?」

「よい。なれば、我は、其方をなんと呼ぼうかの?」

 百と一の名前の、いずれが良いかと、訪ねられて。


 百と二番目の名前を選ぶ。


「では、どうか“空の媛”と」

「ほほぅ」

 背の君が、楽しそうに笑う。

「では、空の媛。我の傍にて、我のためだけの舞いを」

「はい。背の君のお傍にて、舞いを。未来永劫」

 差し伸べられた手をとり、光の中へと歩み出す。


*****



 この世界は、五本の木を中心に成り立っている。



 黄色の実がなる木には、風の精霊。

 黒色の実がなる木には、土の精霊。

 青色の実がなる木には、水の精霊。

 緑色の実がなる木には、草の精霊。

 赤色の実がなる木には、火の精霊。


 遙かな昔から、それぞれの木に宿る精霊たちの力で、人々の暮らしは守られていた。



 精霊たちは人々の歌を糧に、世界を守る。



 風の精霊には、風の属性を持つ乙女。

 土の精霊には、土の属性を持つ乙女。

 水の精霊には、水の属性を持つ乙女。

 草の精霊には、草の属性を持つ乙女。

 火の精霊には、火の属性を持つ乙女。


 それぞれの属性を見定められた女性たちが、精霊の木へと歌を捧げる。



 そして太陽を司る神のもとでは


 五色の衣装を身につけた舞姫が

 背の君と慕う神に捧げる舞いを

 舞い続けているという。



END.

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