3話 覚醒しまーす!
またもや暗闇だ。平衡感覚を失い、少し気持ち悪い。にしても、
「なにも説明うけてねぇな...。」
いきなり放り出しやがって!マジ意味わかんねぇ。
これからどうすりゃいいんだよ...。つか異世界ってどんなとこだ?モンスターとかエルフとかとかいんのか?そもそも俺がもらったスキルってなんだ?もしかしてほんとに勇者みたいなチートスキルなのか?
絶えず疑問が浮かぶ。ったく、仕事しろよ!あのアホ女神!
「ぬおっ!」
不意に、地面の硬い感触が足に伝わり、突如戻った平衡感覚に耐えきれず豪快に転ぶ。
「ってぇな......。」
体を起こし周りを見回す。
「草原...みたいだな。おっ、あっちに道がある。」
体についた土を手で払い、とりあえず道に出る。道といっても舗装されているわけではない。むしろ踏みならされてできた、獣道、という感じだ。
とりあえず歩くか...。
しかし、人と誰一人とも会わない。それにどこを見てもモンスターらしき生物は見ないし、異世界という実感がない。
「ったく、せっかくもらったスキルを試す機会がねぇな。」
1時間くらい歩くとようやく村みたいな物が見えてきた。
人の気配が全くない。門番らしき人もいないし、この村が異様な空気に包まれているのは明らかだった。
門をくぐり路地に入ると、道端に何かが転がっている。近くまで行くと強烈な腐乱臭が漂っている。
うすうす覚悟していたが、これは死体だ。しかも死んでからかなり時間がたっているのか所々白い骨が見えている。必死に込み上げる嘔吐感を抑え込む。腰に力が入らず尻もちをつく。
よくよく周りを見ると至る所に死体が転がっていた。
なんなんだよ!この村は...
なんとか立ち上がり死体だらけの村を散策する。死んでから数週間たち、原形をとどめないほどに朽ちている死体や、死んでからまだ、そう時間がたってないきれいな死体もあった。
なるべく見ないように歩く。そうしないと今にもおかしくなりそうだ。なんせ俺はグロ耐性というものがまるでない。
小学校6年生の理科の実験でカエルの解剖を行ったとき、俺は気絶した。それから俺はチキンと言われるようになったのだ。
だから、このような状況で意識があることすら信じられないのだ。
村を一回りして大きな建物に行き着いた。屋根に十字架がのっているあたりこれは教会だろうか。
教会らしき建物の扉を開け、覗いてみると数十人ほどが中の長椅子に座っていた。
全く動かず、うつむいたままなので一瞬死体かと思ったが、人の気配を感じたのか何人かが俺のほうを見てきたので生きていると分かった。
俺は恐る恐る一番近くに座っていた老人に、この地獄のような村のありさまについて聞いてみた。
「お前さんはユグドの王国の者か?みなれん格好をしておるが...。」
「いや、俺は日本...、東のほうにある島国から来たんですが、どうも迷ってしまったみたいで、この街に立ち入ってみたのですが...。」
「二ホン、か...。聞いたことない国じゃの。」
「まぁ、田舎なんで。それにしても外のあれって......。」
「見てのとおりじゃよ。はやり病で村の半分が死によった...。わしらもう半分が死ぬのも時間の問題じゃよ...。」
どおりで村に続く道で人に会わなかったのか。はやり病ってことは俺にも、うつっちまうってことか...?
だとしたらこの場所から離れねえと...!
そのときだった。奥にいた女性がいきなり、口から血を吹き出し倒れこんだ。
その吐き出された血の量に、一瞬気が遠くなるが何とか持ちこたえ近くまでかけていく。
その若い女性は苦しそうに咳き込む。その度に血が飛沫する。
「あのっ!ここに医者とかいないんですか!?」
「おらんよ。この村唯一の医者も先日この病にやられてしもぅたのじゃ。それにもうこの娘は助からんよ。なんせ、はやり病にかかっておる。みな血を吐いた後、衰弱して力尽きてしまうのじゃよ。」
「なんか...、なにか治療法とかないんですか。」
「そんなもんがあったら表が死人でうまることはなっかったわい。」
そんな...また人が死ぬのを見ていることしかできないのか...
まだ若い、たぶん俺より年下だろう。肌の透き通った美しい少女だ。教会に来るまでに多くの幼い子供や大人の亡骸をみてきたが、かわいそうだとはあまり感じなかった。が、今この瞬間にも目の前で一つの命が失われそうな時にただ、見ていることしかできない自分に強い憤りを感じている。
あの時と一緒だ!俺はただ見ていることしかできなかった。
ふと弱っていく少女の手を握った。
そのときだ。俺は気づいた。自分のもらい受けたある意味最強なスキルに。