第7話 【俺は眼鏡っ子】
エントランスを出ると、久し振りの外の空気がとても新鮮に感じた……もう3月も目前に迫っているからなのか、予想とは裏腹に暖かくて少し暑い……
4ヶ月前は男の子として病院に来たのに出る時は女の子になってるし…… 変な感じだな……
「誠、母さん車持ってくるからここで待ってて」
「うん、わかった」
俺は病院で使っていた物が入ったボストンバッグを肩に掛けて母さんを待つ事にした
病室から見てた時はあまり感じなかったけど、かなり大きな病院だったんだな……
目の前はロータリーになっていて、真ん中に噴水がある
天気がいいから水がキラキラしていて綺麗だ
俺は暫く病院前の景色を観察していたが飽きてしまった……
母さんなかなか来ないな……
バッグを持って立ってたから疲れちゃったよこれだけで疲れちゃうなんて俺、体力落ちたな……
それにしてもこのバッグってこんなに重たかったか?
もしかして女の子になって力が弱くなったのか?前はこのくらい普通に持てた気がするけどな……
仕方がない…… バッグ汚れちゃうけど降ろして待つか……
俺はバッグを降ろしてその上にお尻を着いて座った
エントランス前は階段になっている
左右はスロープになっているからお年寄りにもやさしい造りだ
「はぁ…… 母さんまだかな…… 」
午後の診察が始まる時間が近いからエントランスの出入口には知らない間に人が沢山出入りしている
俺は気付いてないふりをしていたけど何人かの男の人が俺をチラチラ見ているのがわかった……
俺、やっぱり変な格好なのかな?それとも元男の子だって判っちゃったかな?なんにしても見てたって事は何かが変なんだろうな……
なんか晒し者みたいで恥ずかしい
母さんと一緒に行けば良かった!
うつ向いていると白色のワンボックスカーがエントランス前のロータリーに停まった
「誠! ごめんね~ 待った?」
「待った!だいぶ待った!かなり待った!」
「ごめんごめん、何かあったの?また顔赤いわよ?」
「男の人達が俺の事見てた気がして…… たぶん元男の子だってわかったのかも…… 変な人に見られてたかな……」
「ふぅ、誠それは違うわ、ここにいる人みんな元男の子だなんて思わないわよ」
「だってチラチラ見てたし……」
「さっきも言ったでしょ?誠が美人だからよ、誰だって美人で可愛子がいたら振り向くでしょ?しかもこんな階段の縁に1人で座ってたら見られるのは当たり前よ」
「じゃあ立ってれば良かったの?」
「そうね、立ってたらそんなにワンピースの中見えないからね」
「えっ?」
「タイツ履いてて良かったわね、夏だったらパンツ丸見えよ」
「えっ?あっ!」
俺は慌てて立ち上がった
どうやらかなりの人に階段の下から服の中を見られてたみたい……
それで俺の事見てたのか…… 滅茶苦茶恥ずかしい……
また顔が熱くなってきちゃったよ!
「座るなら股はちゃんと閉じないと見えちゃうから、顔赤くするくらいなら今度から気を付けないとね」
はぁ…… 女の子って大変だ…… 先が思いやられるよ……
「さて、それじゃ眼鏡買いに行くわよ、車に乗って!」
俺はハッチを開けて荷物をラゲッジに載せ助手席に座る、母さんは運転席に乗り込むと車をだした……
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まださっきの顔の火照りがとれないよ……
少し風に当たって落ち着こう
俺は窓を開けて外を眺める事にした
なんか久し振りにこの街並み見たなぁ……
見慣れてたはずだけどがなんだか懐かしく感じる……
俺が入院している期間って結構長かったもんな……
もう春になるし、俺も高校生か…… 季節が変わるのは早いなぁ……
そんな事を考えていると顔の火照りもとれてきたみたいだ
顔に当たる風も冷たく感じてきた
「ねぇ、眼鏡どこで買うの?」
「縦浜タワーに行くよ、あそこなら色々あるからね」
あんな人の多いところに行くのか……
さっきあんな事あったばかりだし気を付けないと……
そう言えば、俺の通ってる中学校が近いな……
もう卒業になっちゃうけど俺、学校行かなくていいのか?
「母さん俺、学校もう卒業になるけど行った方がいいのかな?」
「もう卒業まで1週間位しかないから来なくても良いって担任の先生言ってたわよ?身体の事情もあるし困るだろうって、卒業証書だけ春休みに入ったら取りに来てくれって連絡あったよ」
「そうなんだ……」
少し寂しい気がするけど仕方ないな……
まぁ、こんな身体じゃ学校なんか行っても馬鹿にされるだろうし、また嫌な奴等にいじめの的にされるだけだから……
もう2度と会わなくて済むって思えば…… 良かったかな……?
「それよりも高校入学までの間に少しでも女の子らしく振る舞えるようにしないとね、中西先生の娘さんにも手伝ってもらわないと……」
「俺このままでもいいのに……」
「良くないわ、女の子は俺とか言わないし股も男の子みたいに開かないのよ?大変だけど休んでる間に言葉使いと仕草はできるだけ直さないとね」
「はぁ…… 頑張るよ……」
また服の中見られたら嫌だしな……
外出歩くのがこんなに大変になるとは思わなかった……!
俺高校ちゃんと通えるかな?心配になってきたよ……
40分位車で走ると、縦浜みらい地区に入った
ここ数年で高いビル群が沢山できて観光スポットになっている
俺達市民も日用品の買い物が出来るから毎日沢山の人で賑わっている地区なのだ
縦浜市を代表する町並みでよくパンフレットなどで見掛ける
渋滞を抜けて、大通りに面したところから車は縦浜タワーの地下駐車場に入った
「着いたわよ、行きましょうか」
俺と母さんは車を降りてエレベーターで1階フロアへと出た
「さっ行くわよ、人沢山いるから気を付けてね」
「わかったよ……」
中央に見えるエスカレーター近くまで歩いてフロア案内を見る……
沢山お店があるんだなぁ……俺あんまり来たことないからドキドキするよ……
それになんか人の視線が気になる……
凄く見られてる気がするのは気のせいかな?
気を取り直して俺は眼鏡屋のあるフロアを探す……
目が悪くて目を細めないとなかなか文字が見えないや……
「そんな顔しないのっ!眼鏡屋さん2階にあるみたいね、JONSって店みたいよ、そこまで我慢して頂戴」
怒られたし…… 癖なんだから仕方ないじゃん!
エスカレーターに乗り2階に移動する、上がってくにつれて俺は服の下が気になってしまった
エスカレーターになんか乗ったら、この服下から見えちゃうよな……
俺はとっさに手を後ろで組んだ
女の子って気が抜けないな……
エスカレーターを降りると右の奥の方にJONSと言う店を見つけた
どこ行っても人が一杯だ…… 人目も気になるし外出なんてもうしたくなくなっちゃったよ……
「ここだね」
「いっらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
眼鏡を掛けた女の店員さんが対応してくれている
後ろで髪をとめて俺よりも少し背が高そうなスタイルのいいお姉さんだ
「今日は娘の眼鏡を探しに来たのだけれど、病院の処方箋あるからこれに合わせて作って貰えるかしら?」
えっ!?むっ娘?
そうか俺、女の子になったんだっけ?
聞き慣れない呼び方に少し動揺してしまった……
「わかりました、眼鏡とコンタクトどちらになさいます?」
「この際両方お願いしようかしら?お洒落にも気を使う年頃だからそれでいいでしょ?」
「いいけど…… お金沢山掛かるんじゃないの……?」
「お金の事はいいの! 今はある程度掛かるのわかってるんだから」
「じゃ……じゃあ両方でお願いします……」
店員さん俺と母さんのやり取り見て少し笑ってるし…… 恥ずかしいな……
「わかりました、娘さん思いのいいお母さんですね!」
「まあ……」
「眼鏡はフレームが選べるのでご覧ください、色も豊富に揃ってますから気に入るのがきっとありますよ!」
店員のお姉さんはフレームが列べてある棚に俺を案内してくれた
色々あるんだな…… なにを基準に選べばいいんだ?
どうせならあんまり目立たない色使いのフレームがいいよな……
暗めの色は……
ブラックかグレーだな、あっ パープルも捨てがたい、迷うな……
丸いレンズなら顔も目立たなくなるかな?
俺は丸いレンズのグレーのフレームを手に取り掛けてみた
鏡を見を見て顔の見え具合を確かめる
「可愛いらしくて良いじゃない」
母さんに可愛いって言われた……
可愛いヤツは選びたくないからやっぱり丸いのはやめた!四角いヤツにしよう!
隣の棚にある四角いレンズのライトパープルのフレームを掛けて具合を見る
なんか顔がキツそうな雰囲気になったけど可愛いって言われるよりマシかな?
「そちらはフレームが軽く出来ていてつけ心地もいいんですよ、色も豊富にあるので人気のフレームですね」
「母さんこれにしてもいい?」
「なんか落ち着いた形ね、いいわよ、クールな感じも似合うし」
「じゃあこれでお願いします」
「かしこまりました、ではカウンターで受付票の記入をお願いします」
俺と母さんはレジ横にあるカウンターに案内された
店員のお姉さんは受付票を母さんに渡すとカウンター裏で何かを確認している
「レンズもコンタクトも娘さんの度数の物が在庫にあるので30分位でお渡しできますね」
「良かったわね、在庫あるみたい」
母さんは受付票を記入して店員さんに渡した
「ありがとうございます、ではお会計よろしいでしょうか?」
そう言って母さんだけレジに行った
俺、値段見てなかったけど高いヤツだったのかな?
レジをチラッと見ると1万円が3枚トレーに乗っているのが見えた
滅茶苦茶高いじゃん!値段見て選べば良かった……
高いものを買わせてしまった罪悪感に俺が浸っていると会計を済ませた母さんが戻ってきた
「会計も終わったし、出来上がるまで少し店内で待たせてもらいましょ」
「そうだね…… 」
「どうしたの?」
「眼鏡あんなに高いの知らなかった…… 母さんありがとう……」
「気にしなくていいのよ、必要な物なんだから良かったでしょ?」
なんだかここ数ヶ月で沢山お金使わせてしまったな、高校も私立だし身体の事でもかなりお金を出してもらってるよ……
はぁ……
でもお陰で心機一転、頑張れる環境も整えて貰ったし、いつか恩返し出来るように頑張ろう!
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「稲垣様、お待たせ致しました」
店内を見ていた俺達は店員のお姉さんに呼ばれカウンターに行った
椅子に腰掛けると店員のお姉さんは眼鏡とコンタクトをカウンターに出してくれた
「稲垣様、眼鏡の見え方はいかがですか?掛けてみて貰えますか?」
俺は眼鏡を受け取り掛けてみる
うわっ‼ 凄くクッキリ物が見えるし!
店員のお姉さんこんなに綺麗な人だったんだ……!
よく見えすぎちゃってなんだか俺の中の世界観が変わっちゃうよ!
俺今までこんなに目が悪くてよく生活してたな……
初めから眼鏡あればもっといい学校行けたかも……
「よく見えすぎちゃって…… 問題なさそうです……」
「良かったですね、フレームはいかがですか?キツイところはありませんか?」
店員のお姉さんが俺の目を見て言うもんだから恥ずかしくなっちゃった……
よく見えるから目が泳いでしまった……
「だっ…… 大丈夫です!」
「少し高さが左右違うので調整しますね……」
店員のお姉さんはフレームを暖めて微調整をして俺に渡してくれた
「いかがですか?」
「今度は良さそうね、よく似合ってるわ」
「うん! さっきより良いみたい!これ、このまま掛けていってもいいですか?」
「いいですよ、では眼鏡ケースとコンタクトは袋に入れておきますね」
これで目を細めなくても見えるようになった!
顔のパーツも隠れて目立たないだろうから少し安心だ!
店員のお姉さんは眼鏡ケースとコンタクトを袋に入れて持ち帰れるように準備して俺に渡してくれた
「お待たせ致しました稲垣様、こちらに商品を入れてありますのでお持ちください」
俺は袋を持って母さんとカウンターを立った
店を出る途中で店員のお姉さんが俺を見て言う
「そういえば先程気付いたのですけど、お嬢さんの瞳の色綺麗ですねー、左右で色が違うので私見とれちゃいましたよ!」
「そうなのよ、綺麗な目でしょ? 」
お姉さん俺の目の色気付いたのか……
俺、いじめられてた原因の1つが目の色だから、あんまり好きじゃないんだけどな……
「はい! ブラウンとグリーンでとっても綺麗ですね! お顔立ちもスタイルもいいから凄く羨ましいです!」
なんか初めて目の事誉められたな……
散々けなされ続けてきたからなんだか嬉しいかも……
顔立ちとスタイルの事は聞かなかった事にしよう……
「これ…… オッドアイって言うんです、ちょっと特殊な目で…… 目立つのが嫌なんですけどね……」
「眼鏡と瞳の色がマッチしてとても素敵に見えますよ!」
お姉さん凄い笑顔で俺の顔を見てるよ……
恥ずかしくて思わず目を反らしてしまった……
「またこちらに来られた時は寄って下さいね、眼鏡の調整もクリーニングも無料で出来ますから!」
「ありがとうございます、また機会があれば……」
「じゃ、そろそろ帰りましょう」
「ありがとうございました!稲垣様、またのお越しをお待ちしております!」
俺と母さんは店を出て地下駐車場に向かった
もう夕方か……
退院してすぐだったからなんだか疲れたな……
やっと家に帰れるよ……
俺達は車に乗り、家路についた……