第3話 【検査の結果】
窓からの陽射しがキラキラとカーテンレースに反射している、良く晴れた秋空だ
もう11月になってしまった……
病院に入院してからもう2週間も経ってしまったけど今日は俺の検査の結果が出る日だ
かなり時間が掛かったけど俺の身体の事を考えると仕方がないよな……
結果はたしか午後って言ってたな、お昼も食べたしもうすぐかな?
父さんも母さんも午後には顔を出すと言っていたからもう時期来ると思う
両親と先生が来るまで俺はベッドに横になって待つことにした
ベッドで仰向けになると俺は初めて病院に来たときの話を思いだした
先生は俺に女の子の子宮みたいなのがあるとか言ってたけど、どうなんだろう?
出血のことも気になるし……
出血も今は止まってるけど薬のおかげなのかな?
あの日から出血が止まらない俺は先生に止血薬を処方してもらって飲んでいる
俺はこのまま男でいられるのかな?でも身体は女の子かもしれないんだよな?
もし検査の結果が女の子だったら俺どうしたらいいんだ?
考えてたらなんだか心配になってきて俺は枕に顔を埋めた……
“トントン”
しばらく枕に埋もれているとドアをノックする音で俺は顔をあげた
「誠~ 入るよー」
母さんだ、手には袋を持っている、何か持ってきてくれたのかな?
「調子どう?」
袋をベッドの横のかごに入れると俺の顔を覗きこんだ
俺の様子を見てなのか、いつも通り元気に振る舞っている
「親戚からりんご沢山貰っちゃったから持ってきたよ、食べる?」
ウサギ型のりんごがタッパーに綺麗に並べられている、母さんなんか自慢気だし……
俺が悩んでるのに母さんは元気だな…… 心配じゃないのかな?
「なんか検査結果ドキドキだねー」
そういいながらりんごに楊枝を刺して食べられるように準備している
「そりゃドキドキするよ、俺女の子かもしれないんだし……」
そんな会話をしているとまた病室のドアが開いた
父さんも来たようだ
「おぅ身体はどうだ?ちゃんと出して貰った薬飲んでるのか?」
部屋に入るなりいきなり止血薬をちゃんと飲んでるか聞いてくる相変わらずだな……
「ちゃんと飲んでるよ」
俺はりんごを一口かじって当たり前そうに答えた
父さんはベッドの横にあるイスに腰掛けて俺を見ている
いつもより少しピリピリしているのが俺にもわかった
「今日の結果次第でお前の人生変わることになるかもしれんな
誠、もしお前女の子だったらどうするんだ?」
唐突に一番聞かれたくないこと聞いてきた、真面目過ぎてたまに答えに困る……
「まっ…… まだ判んないだろ?先生の話聞いてから決めることだし……」
父さんは俺に女の子になって欲しいのか?多分父さんの事だから悪気がなく聞いただけだと思うけど……
りんごをみんなでつまみながら、しばらく話こんでいた
俺は検査の結果の時間が気になって壁の時計を見た
もうすぐ両親がきて1時間くらいたつみたいだ……
「先生はまだかしらね?」
母さんも気になったのか時計を見ながら言っている
“コンコン”
ちょうど会話が途切れたのを見計らったように先生が病室に入ってきた
「いやいやご両親、お待たせしてすみませんでした。誠君も待たせたね」
先生は少し肩で息を吸っている、忙しかったのかな?
「早速だけど結果がでているから報告するよみなさん診察室までご案内します」
息を整えた先生はそういうと廊下に出ていった
母さんは病室の備え付けの冷蔵庫に残りのりんごを片付け始めた
俺は部屋に置いてある車椅子に乗り移動の準備をした
先生に移動の時は車椅子を使うように言われているから面倒でも乗るしかない……
まぁ誰かが押してくれるから楽でいいんだけど見た目が俺は好きじゃない……
俺は父さんに車椅子を押してもらい廊下へ出ると先生が待っていてくれた
母さんが廊下へ出てきたところで俺は先生の案内する診察室に向かった……
先生についていくと、最初に診察を受けた3階の診察室を過ぎてしまった
「先生?診察室過ぎちゃいましたけど?」
「あそこは臨時の診察室だからね、普段は使わないようにしているんだよ。今日は1階にある少し大きな診察室に行くからね」
診察室って大きなのもあるんだ?ほんとに大きな病院なんだなぁ……
そんなことを思っていると先生は突き当たりにあるエレベーターの扉を開けて待ってくれている
さっきまで俺と話してたのに先生早いな……
俺たちはエレベーターに乗り込むと先生が1階のボタンを押した
扉が閉まりエレベーターが動き出す
車椅子に座ってるせいか、エレベーターが下がる時のフワフワ感が顔に感じてなんだか気持ち悪いな……
そんなことを感じているとほどなくして1階についた
扉が開いて先生が俺たちが降りるのを待ってくれている。
「もうすぐそこだからね」
俺たちがエレベーターから降りると先生はそう言って廊下を歩き始めた
それにしても人が多いなぁ……
病院の入り口近くなので総合受付とエントランスには沢山の人が行き交っている
歩く人を避けながら俺たちは先生についていった
廊下を奥まで行くと小児科があった、俺たちは一番奥にある小児特別診察室というところに案内された
小児科って1つだけじゃないんだな、内科も外科も内循環器科とかもあるし……
こんなに科目があるのは知らなかったな……
診察室に入ると応接間があってテーブルにはパソコンが置いてあった、俺は車椅子から降りると手前の3人位掛けられそうなソファに座った
両親も俺の両脇に腰掛ける、先生はテーブルを回り込んで向かい側のイスに座った
わざわざこんなところで検査結果を話さなくても…… なんか恐縮してしまった……
「では、よろしいかな?」
一呼吸おいて先生が言う
「よろしくお願いします……」
なんだか物凄く心臓がバクバクいっている
俺、緊張してるのかな……?
先生はいつもより神妙な顔になり話を始める
「では、検査の結果をお話しします。まずCTに写っていたもに関してだけど、血液の成分と細胞検査の結果からみて女性の子宮と卵巣に間違えないでしょう」
そうか…… 俺やっぱり女の子なのか……
でも俺、男のものもついてるんだけど?
やっぱり先生が言ってた稀な症状ってやつか?
「でも誠には男の子のは付いてますよね?」
母さんが前に先生に質問したことをまた聞いている
まぁ両方の器官が実際にあるとなればやっぱりそこは聞きたくなるよな……
「病院に来られたとき少しお話ししましたがやはり誠君は先天性の身体の異常が有るようですね
染色体も女性との結果がでています
誠君の場合は男性になる染色体も持っているようでかなり身体に悪影響が出ているようです
医学的な言葉で言うなら性分化疾患という症状ですね」
俺、もともと身体に異常があるのか……
男らしくないのも生まれつきなのか?
性分化疾患って性別がわからないって事だよな……
男の子なのに身体の中身が女の子って……
ワケわからなくなってきた
先生はパソコンに検査で新しく撮ったCT画像
を映して説明を続ける
「今回の出血も男性の陰茎の奥に女性の膣があり、そこを塞いでいた膜が破れて少しづつ蓄積された血液が流れ出たものですね
まだ子宮内に血液が固まったものもあるようでその周りの臓器を圧迫しているようです」
かなり現状は悪いようだ
両親も黙ってパソコンの画像を見ている……
「ホルモンバランスも非常に悪くおそらく誠君自身気付いていないようだが、脱力感や倦怠感の症状はかなり前からでているのではないかな?太って見えるのもむくみが原因だね」
学校の成績も悪くなってきたのは身体のせいだったのかな?
なんとか勉強はうちで復習してたからギリギリついてはいけてたけど……
確かにボーッとすることはあったけど性格だと思っていた
馬鹿にされてた体型も身体が治れば少しはスマートになるのかな?
あれこれ考えているうちにも先生の話は続ける
「男性器は完全に女性器が肥大してそのように見えるだけのようだね
誠君がこれから先、男性として生きていく場合は生殖能力がないので将来的にもかなり不利になるね、子供も持つことは不可能だからね。
身体も手術をしない限りはどんどん悪い方にいってしまうよ
ただ女性になる手術を受けた場合、手術した後に月経の症状が出てくれば生殖能力は残せる可能性があるね
誠君の身体に一番負担を掛けないようにするのであればこの選択をしたほうがいいでしょう
でもこれに関しては男の子として生きてきた誠君の意思があるので私からはなんとも言えないがね」
ショックだ、俺は男としては一生一人前にはなれないらしい
女の子としてならまだ希望はあるけど気持ちの整理がつけられる状態じゃない……
「誠君の身体は現在限界のところで踏ん張ってくれているが、今後すぐにもっと状態が悪くなってもおかしくないね
身体の状況からみて2週間後にはどちらかの性別にする手術が必要になるね
今すぐ答えは出ないと思うので2週間後までにはご家族で話し合って決めて頂きたい」
手術の期限までに決めなきゃいけないのか……
男でいるか女になるかすぐになんか決められないな……
父さんも母さんもずっと黙ってるし……
「検査結果は以上になるから2週間後までには決めておいてね、私はこれで午後の診療に戻るよ」
「ありがとうございました、なんとか考えてみます……」
俺と両親は先生に挨拶をして診察室を後にした……
病室に戻り俺は車椅子を降りてベッドに腰掛ける、途中売店で買ってもらったお茶を飲んで一息いれる
何にも考えたくないのに頭の中は自分の身体の事を考えてしまう
俺が女の子か……
「俺、女の子の身体だったんだね」
不意に聞いてしまった……
母さんは俺の身体が女の子だと聞いてどう思ったのかな?
俺は男じゃなかったのはショックだけど女の子の身体にすることで身体の不調が治るならとか少し思ってしまった……
まぁこのままでいても中途半端だしな……
「まぁ話を聞いたときは驚いたけど…… でも誠は昔から少し女の子っぽいところあったからね、身体が女の子ってキッパリ言われたら変に納得しちゃったかな」
冷蔵庫からりんごのタッパーを出しながらそんなことを言う母さん
「納得しちゃったって…… なんだよそれ……」
変なこと言うからお茶溢しちゃったよ……
自分じゃ女の子っぽいなんて思ったことないけどな……
他人からみたら俺って女の子っぽいのか?
「あんたたち双子で二人とも男の子だけど忠志と誠は遊ぶ相手も違ったし欲しがるオモチャも違ってたから、たまに女の子じゃないかって思うことはあったよ」
母さんはタッパーをベッドの机の上に置いてりんごをつまみながらそう言った
なんだかニコニコしてるし……
母さん俺の身体心配じゃないのかよ……
「母さんなんでそんなニコニコしてるんだよ、俺ショックだったのに……」
他人事だと思って……
なんか腹立たしくなってきた
「ごめんね、でも先生の話聞いたらやっぱり誠は女の子なんだなって、もうなるようにしかならないと母さん思っちゃったから。
お父さんも同じこと思ってるんじゃないかしら?」
そう言うと母さんは父さんの方に目を移した
「たしかに誠は女の子みたいな時期あったな、せがまれたオモチャも女の子の物だったしな、身体が女の子なら誠がそうなる道を選んでも父さんは反対しないよ」
真面目に答えてるけど父さんは俺に女の子になってほしいのか?
顔が少しニヤついてるし……
「俺まだ女の子になるなんて決めてないよ! 」
なんか勝手に女の子になるような話の流れになってるし……
「もういいよ! 俺の事だから少し考えさせてよ!」
なんだか興奮したせいか暑くなってきたからお茶を一気に飲み干してしまった
父さんも母さんも俺が女の子になってもいいと思ってるのは良くわかったけど、俺は気持ちの整理がつかないからすぐには決められないよ……
「まぁどのみち2週間たったらどっちに手術するか決めなきゃいけないんだから、後は誠がよく考えて決めなさいね」
母さんはもうどっちにするか決まったかのような顔をして言った
俺はどちらを選べばいいのだろう……
どっちを選べば一番いいか頭では俺もわかってる……
でも気持ちが追い付かないよ……