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本当の俺は   作者: i
13/13

第13話 【高校の入学式】



揺れる電車の中で俺は、吊革に掴まりながら窓から見える田園の景色を見ている


縦浜市営地下鉄は、途中地下から地上に出る区間がある

俺はこの地上に出る区間の風景が、いつも俺が知っている地元の風景とは違っているから新鮮に見えて面白いのだ


周りには俺の高校の制服を着て、同じスクールバッグを持った学生と、その学生の保護者の姿が目立つ


「次は 外町台 外町台です お出口は左側です」

車内アナウンスが流れる……

間もなくして電車は駅に停車した……


俺は降りていく人を待って、1番最後に電車を降りて、駅のホームの隅で深呼吸をする


「どうしたの成実?深呼吸なんかしちゃって」

いつも一緒に行動している歩美が俺に言った


「うん……?高校が近くなってきたらなんかね…… こう言う雰囲気、久し振りだから緊張しちゃって…… 息も整えたし、行こうか」


今日は4月2日、俺の通う高校の入学式なのだ!


忠志も同じ高校だけど、今日は待ち合わせがあるって言って朝は1人で行っちゃった

折角同じ学校だから、俺は一緒に行きたかったけど仕方ないな……


もしかしたら忠志は、女の子と一緒に歩くのが恥ずかしかったのかも知れないな……

年頃の男の子だし俺がもし同じ立場なら、一緒には行かないかも……


今日の入学式には、俺の母さんが見に来てくれる予定で、1度、仕事場に顔を出してから、こっちに来てくれるみたいだ


俺は歩美と並んで駅を出て、街路樹が並ぶ歩道を歩いて、入学する大和大学附属学園に向かった……



駅から5分くらい歩道を真っ直ぐ歩いて、俺達は高校の校門までたどり着いた

校門のところに先生らしき人が立っている


1ヶ月前に母さんと来た時とは違って、沢山の生徒がいるな、新学期だから当たり前なんだけど……

それにしてもこんなに桜の木があったとは知らなかったな

前に来た時は、そこまで注意深く見なかったし……

学校のフェンス伝いに桜の木が咲き誇っていて、入学を祝ってくれているみたいだ


俺達は校門に立っていた案内の先生に、昇降口前の掲示板で、クラスと番号を確認して各教室で待機するように言われ、俺達は昇降口に向かった


校門から石畳になった道を校舎に向かって歩く


学生用の入口は、前に母さんと来た時の来客用の入口よりも、確か少し向こう側にあるんだよな?


「成実!あそこ沢山人居るよ、あそこじゃない?」

歩美が昇降口の方を指指して言う


俺と歩美はその人だかりに近付いて集団に入って行った


周りには、俺の同級生になる学生が掲示板を見て、それぞれのクラスを確認している

顔を知っているのか、話をしている学生もいる


ざわざわと騒がしい集団の中を、掲示板まで歩美と一緒に進むと、俺達は掲示板を見上げた


「さて、私逹は何組かな?成実と同じクラスなら良いけどなー」


なんだかドキドキするな……

俺も出来れば歩美と一緒がいいな……


俺は左上に貼られた1組のクラス表から見ていく……

自分と歩美、後さりげなく忠志の名前も探してみる……


クラスは全部で5クラスか……

名前を見てると女子もいるけど、やっぱり圧倒的に男子が多いんだな……


「う~ん…… なかなかないな……」

俺は1組の表を見終わって、2組の表に目を移す……


あっ!あった!忠志は2組みたいだ……

えっと俺の名前は……


「あった…… わたし忠志と同じ2組みたい……」

そう俺が歩美に言うと


「私も2組!やった!成実と一緒だね!」

そう言って俺の両手を握って“ブンブン”と大袈裟な握手をする


「痛いって……!歩美喜び過ぎだよ!」

俺も内心嬉しくて、少しハニカミながら歩美を見た


ドキドキしたけど、歩美も忠志も同じクラスで良かった!

気にした事無かったけど、女の子になってからこんなに知らない学生の中で生活した事なかったから急に心細くなっちゃった……

ほんと一緒のクラスで助かった……

それに男子が多いから、また中学校の時みたいにならないとも言えないからな……


「さ!クラスもわかったし、そろそろ教室に行きますか!」

そう言い、歩美は俺の手を引っ張りながら校舎へ入って行く……


昇降口から校舎に入ると、横に広いエントランスになっていて、廊下にはタイルマットが敷き詰められている

右から順に、1年生、2年生、3年生と白い扉付きの下駄箱が並んでいる


俺達は“1年生”と書かれた下駄箱の前でローファーを脱ぎ、自分の番号が書かれたボックスに靴を入れると、真新しい上履きをバッグから出して、履き替えた


さっきのクラス表と一緒あった案内図では、俺逹1年生の教室はこの校舎の1階の東側にあるみたいだな

俺達2組の教室は、東側の廊下の突き当たりから2番目のところだ


俺と歩美はタイルマットが敷き詰められた廊下を歩いて教室へ向かった


廊下を歩いて教室の近くまで来ると、ざわざわ生徒が話をしている声が聞こえる

久々の学校の雰囲気に俺は、中学校の時の嫌な想い出が甦って少し息苦しくなってしまった……


「ここだね、大丈夫?成実?教室入るよ」


「まぁね…… 大丈夫だよ

歩美先に入ってくれるかな?」

そう歩美に言って、歩美は教室に入って行った


息苦しさを抑えて俺も続けて教室に入ると、今まで話していた生徒が一斉にこっちを向く

俺達の顔を見ると、また何もなかったかのように話始めた


俺は詰まる息を抑えつつ、教室の前の黒板に書かれた自分の席番号を確認してみる……


俺は廊下側の席の前から3番目みたいだ

後ろの席は歩美だ、良かった……


俺は息を整えると、他の生徒が座る席を縫って自分の席に着いた


後ろが歩美の席だから、精神的にまだ落ち着いていられるよ……


「ねぇ、成実大丈夫?調子悪いの?」

俺の顔色が思わしくないのか、歩美が心配して聞いてきた


「いや…… ちょっと昔を思い出しちゃって…… 大丈夫だよ……」


「そう?私がついてるから、心配いらないからね!」

歩美はそう言って俺に微笑み掛けてくれる


歩美が居てくれて良かった……

俺の中の中学校の想い出は、自分が思ってたよりトラウマになってるみたいだな……

教室に入っただけで気分が沈んじゃうなんて思わなかった……

先が思いやられるよ……


俺は気分を変える為、歩美の方を向いて話をする事にした


中学の時と違って、綺麗な教室だなぁ

壁が白くて明るいし、空調設備があるのか外より涼しい気がするな……


教室の雰囲気に気を良くして、暫く歩美と話していると、なんだか周りの視線が気になった


俺は気付かない振りをして歩美と話を続けていると……


「おい……!あの子見てみろよ……!メチャメチャ可愛い……」


「俺すげー好みだ……!名前なんて言うのかな……?」


どうやら男子がこっちを見てうわさ話をしてるみたいだ


「ねぇ……あの子モデルさんかな……?すっごくスタイルいいよね……?髪も綺麗な色だなぁ……」


「ほんとだ……!美人さんだぁ……!どこの中学だったのかな……?」

女子もこっちを見てうわさ話をしている


小さい声で話してるつもりだろうけど、教室にいると意外に良く聞こえるんだよな……


俺の事をうわさしてたらちょっと困るけど、

おそらく歩美の事をみんな言っているんだと思う


俺が見ても歩美は美人だし、背が高いからスタイルもいい

モテるのも頷けるよな


そんな周りの声を聞きながら、ふと目線を右にやると、真ん中の席に忠志の姿を見つけた

忠志は俺に背を向けて誰かと話している

相手は人が壁になって見えない……


「歩美、忠志いたよ、ほら、真ん中の席……

誰と話してるのかな?

忠志もう友達出来たのかな?」

そう歩美に話していると、壁になっていた生徒が少し前に動いて、忠志の会話相手の顔が見え、俺と目が合った


「え……?」

俺は見覚えのある顔に驚き思わず目を反らしてしまった……

俺は目線を落としていたが、忠志と話をしていた相手の目線はずっと感じる……


「成実どうしたの?」


「えっ……と、中学校の同級生が居るみたいなんですけど……」

俺の言葉を聞いて、歩美は忠志の席の方を見る……

歩美は少し席の方を見ると驚いたようで……


「えーっ!なんで力也がいるのよ!?」

歩美の声が教室に響き渡って教室中の注目を集める

力也はそんな事は気にせずに歩美に手を降っている……

歩美が叫んだの同時位に、教室に先生が入ってきた


そう俺の知ってる顔、高梨力也……

確か忠志の友達だよな?

俺は仲が良いって訳じゃ無かったけど、中学の時に色々助けて貰った男の子だ


「はい!静かに!」

先生の声で教室は静まり返り、生徒は一斉に先生のの方を向く


「なんだか賑やかなクラスだね、自己紹介は式典の後のホームルームでやるからもう少し辛抱してくれるかな?

じゃ、一番端の廊下側の列から順に通路にでて、並んでください」


優しい話し方の先生だな、担任の先生なのかな?


見た目よりも若そうに見えるけど、歳は20代半ばくらいかな?

服装は式典に出席するから黒いスーツを着ている

ちょっと小太りで、少し前の俺みたいだ……

少し長めの髪でオールバックにしている、丸い顔立ちも愛嬌があって悪くはないな

身長も高くて、忠志より大きそうだ


先生は俺達にそう言うと廊下に出て行った

それに続くように俺達の列から順に廊下に出る……


歩美はあれからずっと、高梨に聞きたい事があるような顔をしている


忠志も高梨がこの高校に入る事、何も言ってなかったな……

何でだろ?式典が終わったら忠志に聞いてみよう


「全員整列しましたね、では、体育館に移動するのでついてくるように」

そう先生は言い、体育館へ向かって歩き始めた……


俺達は廊下を西側へ歩き、下駄箱があるエントランスを越えて更に廊下を西側に移動する

……


横に長い校舎だから、ずっと先まで見えるよ……


廊下を抜けると、見覚えのあるエントランスに出た……


俺が母さんと来た時に、入ってきた来客用の入口だ


そのエントランスを右に曲がって硝子張りの綺麗な廊下を少し行くと、正面に体育館通用口と書かれた出入り口があった

そこを出て屋根付きの外廊下を少し歩くと、正面に体育館の入口が見え、他のクラスが待機していた


俺達のクラスが最後に来たらしく、俺達が到着して直ぐに、式典の進行の説明を聞いて1組から順に体育館に入って行った


中に入ると、在校生と大勢の保護者の拍手に迎えられた


俺は緊張しながら拍手の中を歩き、2組の座席に着席する


母さん来るって言ってたけど、何処にいるかまったくわからなかったよ……


5組まで全てが着席すると、壇上に俺の知っている藤岡教頭が登って、式典開始の挨拶を

短く言い、俺達の入学式が始まった……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





1時間程で式典が終了した

俺達は拍手の中、体育館を出ると先生に連れられ各教室へと戻った


さすがに長い話を久々に聞くと疲れるな……

途中から飽きちゃってほとんど何を話してたのか覚えてないや……


「みんな、式典ご苦労様でした

疲れてると思うけど、これから2組の最初のホームルームを始めるよ」

先生はそう言うと、黒板に文字を書き始めた


「紹介が遅くなりましたが、私は2組の担任の大塚仁おおつかひとしと言います

体型は見ての通りですけど、これでも一応、受け持ちの科目は体育なんですよ

これから1年間、良いクラスになるように頑張りますから、みなさん宜しくお願いしますね」

先生の自己紹介が終わり、続けて先生が話す


「今日はこのホームルームで日程が終了なので、1人づつ自己紹介をしたら終わりにしましょう

では早速、窓側の人から順番に紹介をお願いしますね」

そう先生が言うと、窓側の前の席から順た番に自己紹介が始まった


教室には縦に7つ並ぶ席が5列あり、俺を含めて35人のクラスメイトがいる

俺が座る廊下側の7人以外はみんな男子だ


男子の制服はチェックのグレーのズボンに紺色のブレザー、白いYシャツに青い生地に白いストライプが入ったネクタイを付けている

女子とは違って、少し落ち着いた色合いの制服だ


俺は男子逹の自己紹介を横目で見ながら静かに聞いていた


2列目の真ん中位まで自己紹介が終ると、忠志の友達の高梨君の自己紹介が始まった


「え~、高梨力也です!縦浜中学出身です!趣味は筋トレで、マッチョな身体を目指してます!」

高梨君の話にクラスが笑う


歩美は全然笑ってないけど……

やっぱりムードメーカーは変わらないみたいだ

髪を切って俺が中学で見た時よりも短い

中学時代はバンダナを巻いていたけど、今日は巻いてないみたいだ

身長も伸びて雰囲気が大人っぽくなって俺が言うのもなんだけど、なかなかのイケメンだと思う


「男子と女子両方と仲良くやっていきたいと思うのでこれから宜しく!」

高梨君はそう言って席についた


また暫く男子の自己紹介を聞いて、3列目の忠志の自己紹介の番になる


「うす!稲垣忠志です!力也と同じ縦浜中学出身です!

力也とは小学校からの親友です!」


高梨君と同じくらいデカイ声だ……

身体がデカイ分、威圧感さえ感じるな……


「え~と、同じクラスに俺の姉ちゃんもいるから兄弟揃って宜しく頼むぜ!」

忠志の自己紹介に他のクラスメイトがざわめく


「マジで!?稲垣の姉ちゃんってどの女子だよ?」


「そりゃ本人に聞いてくれよ、これから女子の自己紹介もあるだろ?それまでのお楽しみな!」

そう言って忠志は席に座った


余計な事を言ってくれたおかげで、男子逹の姉ちゃん探しが始まったみたいだ……


こっちの列に向けられる視線が痛い……


7人しかいない女子も気になるみたいでヒソヒソと話声が聞こえる……


男子逹の自己紹介が終わり、最後に残った廊下側の女子の列の自己紹介が始まった


忠志のいらない話があって、俺達女子の自己紹介に、男子は興味津々みたいだ


男子が注目する中、一番最初の女の子から自己紹介が始まる……


俺はドキドキしながら自己紹介を聞いている


順調に1番目、2番目の女子の紹介が終わって、ついに俺の紹介の番になってしまった


はぁ…… こう言うの苦手なんだよな……

息が詰まる感覚はいつの間にか治ったけど、忠志のせいでドキドキが収まらないよ……


「成実…… 大丈夫だよ……!がんばって……!」

後ろで歩美が気遣ってくれる


そうだ、俺女の子になって自分を変えようって決めたんだ

苦手でも頑張ってやって克服しなくちゃ……!


そう自分に言い聞かせて、俺は席を立ってクラスメイトの方へ体を向ける


「あ…… 稲垣成実です、皆さんこれから宜しくお願いします……

さっき紹介にあったそこの稲垣忠志の双子の姉です」

俺の話にクラスメイトがざわめく


「うおぉ…… マジか…… クラスナンバーワン美女の弟が稲垣か……信じられねぇ……」

俺と忠志の顔を見比べて安逹君がぼやいた


クラスナンバーワン美女って……

さすがに言い過ぎだと思う

現に俺の周りの女子はみんな可愛いし、俺よりもずっと女の子っぽいと思う


「稲垣さん!好きなタイプの男はどんな!?」

赤木君が手を挙げて俺に聞いた


俺の自己紹介をしてるのに、なんで質問されてるんだ?

しかも好きなタイプって……

“俺、男だったから解りません!”って言えたら楽なのにな……

なんて答えよう?


俺は少し考えて……

「え……と、話をちゃんと聞いてくれて、気が合うなら……」


男が相手じゃなくても、話を聞いてくれる人が気が合うって事だよな?嘘は言ってないしいいか……


「俺、聞き上手!稲垣さん宜しくな!」

赤木君は勝手に嬉しがっている


そうしている間に次の男子が……


「稲垣さん!趣味とか教えてよ!」

佐伯君が俺に聞いてきた


趣味……?

なんでそんな事聞くんだ?

趣味なんか俺ないけど……

歩美と毎日女の子になる為の練習は趣味にはならないよな……


そう言えば…… 歩美と初めて会った母さんの店で、いい物見つけたっけな?


俺はちょっとイライラしてきていたが、佐伯君の質問に答えた


「う~ん アロマが最近好きかも?」


俺はアロマなんか持ってもいないし使った事もないけど、素敵だとは思ったし興味は凄くあるから半分ホントで半分嘘だけど別にいいよな……


「アロマかぁ!可愛い趣味だなあ!」

俺の半分嘘な答えに、佐伯君は喜んでいる


俺が律儀に質問に答えていたからいけなかったのか、男子逹が次々と質問してくる……


“彼氏はいるのか”とか“寝る時は何着てる”だとか“雑貨屋に一緒に行こう”とか……

俺には到底理解出来ない質問の嵐だ……


男子が嵐のような質問をしてくる中、俺が困っていると、女子達が男子に向けて……


「もう!男子うるさいよ!稲垣さん困ってるじゃん!」


「そうよ!クラスでナンパ紛いの事するなんてサイテー!」


「詮索する男は嫌われるよ!」

女子達が男子に向けて言い放った


男子はそれを聞いて黙りこみ、静かになる……


それを見て大塚先生が


「男子は稲垣さんに色々聞けて良かったね、じゃ、次の人、自己紹介お願いね」


なんとか質問攻めから脱して助かった……

ホームルーム終わったら女子達にお礼を言わなきゃ……


静まり返った教室で、残りの女子が自己紹介をして、程なくして終わる


「じゃ、35名の自己紹介も終わったし、みんな顔も名前も覚えたね

明日は部活動を決めるからみんな家で何に入るか決めておいてください

それでは号令をして、今日はお仕舞いにしましょう」

先生の号令で起立、礼をして、ホームルームが終わり先生は教室を出て行った


部活か……

ここの学院は、みんなが何かしらの部活に入らなきゃいけないみたいだしどうしたものか……

俺ずっと帰宅部だったからな……

後で歩美に相談しよう


俺はそんな事を考えながら席に座ろうとすると、クラスの女子達が俺の席に集まって来た

それと同時に、歩美は高梨君のところへ一直線に向かう……


女子達に囲まれて、俺は少し心細くなった……


なんだろう……?俺もしかして高校じゃ女子達にいじめられるのか……?


俺は動揺して女子達の顔が見れない……

そんな俺の心模様を知ってか知らずか、1人が俺に話掛ける


「ねぇ!稲垣さん!大丈夫?」


俺はその声に反応して、思わず相手の顔を見てしまった……


なんだか俺の事心配してくれてるみたいだ……

確か俺の2つ前に座っていた相沢菜奈あいざわななさんだったっけ?


黒髪のロングヘアを頭の上で束ねてポニーテールが印象的な子だな

身長は俺よりも少し高そうだし、スレンダーで落ち着いた雰囲気だな


「相沢……さんだっけ?さっきは…… ありがとう……!」

人見知りでちょっとドキドキしているけど、頑張って俺はお礼を言った


「男はすぐ調子に乗るから!またちょっかい掛けてくると思うから、その時はまた追っ払ってあげるよ」

飯塚紗由理いいづかさゆりさんが俺に微笑んで話掛ける


ベリーショートでボーイッシュな感じで、身長は歩美位ありそうだ

運動が好きそうな雰囲気で体も引き締まった感じがある


確かにな…… 忠志もそうだけど、調子づいて余計な事言ったりするよな……

俺も男だったけど、あんなにプライベートの事聞いたりとか考えられないよ……


「飯塚さん……だよね?あの…… ありがとう!あんなになるなんて思わなくて……」


「まぁ、男子の気持ちも少しはわかるかな?稲垣さんの美人っぷり半端ないもん!」

西河彩夏にしかわさやかさんが少し苦笑いしながら俺に言う


俺よりも少し長いショートヘアで、髪を後ろで束ねている

身長は俺と同じくらいで可愛い感じの子だ


言うほど俺は美人じゃないんだけどな……

そもそも可愛いとか美人の基準がわかんないし……

教えてもらえるようなもんでもなさそうだから、うまく話を合わせて話題を反らすしかないな……


「西河……さんもありがとう、わたしみんなが言うほど美人じゃないって……」


それにしても、初対面なのにみんな優しいな……

さっきは男子達から庇ってくれて、今度は俺に話掛けてくれて……

今まで庇ってくれるとか、相手から話し掛けられる事なんかなかったから、なんだか嬉しくなってくる……


「え~!稲垣さんって凄い美人さんなのに~!もっと自信持った方がいいよー?

絶対すっごい可愛いんだから!」

星野真帆ほしのまほさんが俺の後ろで言う


ツインテールの長い髪が特徴的で、身長は俺よりも小さい

俺からみてもかなりの可愛さで独特の雰囲気があるな

何となくとっつきにくそうだけど……


自信を持つと言っても元が男の子だったから

なかなか簡単な事じゃないよな……

まぁ痩せて細くはなったし、4ヶ月女の子として頑張ってきたから自信は少し付いたけど最初から女の子だった星野さん達に比べたら全然だしな

容姿で判断するなら細くて女の子だったら可愛いって事でもないだろうし、女の子って難しいな……


「ありがとう、でも私なんかまだまだだと思うよ

それより、わたしなんかよりも星野さんの方がずっと可愛いと思うよ?みんなも美人だしね」

俺の話に星野さん達は“そんな事ないよ~”って言っている


俺より可愛いかったり美人なのは当たり前だよ

だってみんな初めから女の子だもん……

俺なんかまだまだ足元にも及ばないよな


「稲垣さんって髪の毛は染めてるの?目の色も綺麗だしお洒落だね!

しかも礼儀正しいしホントいい子だわ~!

私気に入った~!」

矢田翔子やたしょうこさんが俺の頭を撫でながら言う


ロングのストレートヘアで、お化粧を薄くしてるみたいだ

俺と同じネクタイを緩めに締めていてカットシャツの上のボタンを外している、スカートも俺に比べると短いみたいだ

お洒落なのかな……?

胸が大きいのがブレザー越しでも良く判る


「あぅ……

髪は地毛の色だよ?目もお洒落じゃなくて、ちょっと左右で色が違うんだ……

わたしはあんまり自分の目が好きじゃないんだけどね

あと…… 矢田さん撫でるのやめてくれると、嬉しいな…… その…… そう言うの馴れてなくて…… 恥ずかしいし……」


俺は恥ずかしくて顔が熱くなってきてしまった


多分周りの女子には真っ赤な顔をした俺が見えてると思う……


俺の仕草に周りの女子が更に盛り上がっている


「えっ!髪も目も自前の色なの!?

いいなぁ~!羨ましい!なにもしなくてもお洒落って最高じゃん!ますます気に入っちゃった!」

矢田さんはそう言いながら、俺に顔を近付けて目をじっと見る


歩美と言い、矢田さんと言い、女の子はやたら顔を近付けてくるな……

しかも、矢田さん前のめりになってるから服の隙間から胸の谷間が少し見えちゃってるし……

恥ずかし過ぎて穴があったら隠れたい気分だよ……


「顔赤くしちゃって、稲垣さん可愛い過ぎ!ねえ、“稲垣さん”て呼びづらいし、女の子同士なんだから名前で呼び合わない?」

矢田さんは少し顔を離して女子全員に言った


女の子って会話の流れが早すぎて俺にはついてくのがやっとだ……

よくそんなに話題がコロコロと変えられるよな……

もう少し考える時間がほしい……


「賛成~!」

女子達は矢田さんの提案に意義なしって顔で返事をした


女の子の行動力って凄いな……

名前で呼ぶ事勝手に決まっちゃったよ……


やっぱり俺は女の子としてはまだまだみたいだ……

俺もこの子達みたいに女の子らしくなれる日が来るのかな?

見習って一人前の女の子になるように頑張るしかないな!


俺が暫く女子達と話していると


「あれー?成実、もう女子達と仲良くなったの?」

戻って来た歩美が俺の様子を見て言った


仲良くなったと言うか、ただ質問攻めに合っていただけだけどね……

でも初めてこんなに沢山話が出来て少し楽しかった!

みんな俺に興味があるみたいだし友達になってくれるのかな?


「うん、仲良くしてもらってるみたい……

みんな優しいよね」


歩美、高梨と何か話してたみたいだけど、どうしたんだろ?


女子達と話していて気付かなかったけど、男子達はもうみんな帰ってしまったみたいだ

教室には、いつの間にか女子しかいないや……


「みんな成実の事気に入ったみたいだね!この子人見知りだから馴れるまで時間かかるけど、馴れればいつもの頑固な成実見れると思うから!」


「へ~、成実って頑固なんだ?でもなんかそんな感じだよね!じゃ、これから私達のまとめ役って感じかな?」

彩夏が俺を見て言う


なんだかまた話が勝手に進んでく……

俺がまとめ役なんて無理だよ

今まで友達もいなかった俺がリーダーシップ取るなんて……

後で丁重に断ろう……


それよりも、歩美大丈夫かな?

なんか高梨と話してから機嫌が悪いような気がするな


「あはは…… そうかな……?

ところでさ、歩美どうしたの?何かあった?」


「えっ?まぁね…… 後で話すね

成実さ、今日午後少し付き合って欲しいとこあるんだけど時間いい?」


「うん、大丈夫だけど、どこ行くの?」


「力也の家だよ、成実にも少し関係ある話だから、一緒に連れてくって言っちゃったよ」


「え~!わたしも高梨君の家に行くの!?


高梨君がこの学院に入学してたのはびっくりしたけど、俺は友達じゃないからあんまり話した事もないしな……

忠志は高梨と友達だから関係あるのは判るけど、俺が関係あるってどう言う事なんだ?


「まぁ、いいじゃない、忠志君も来るって言ってたし!」


「わたし関係ないのに……」



俺は仲良くしてくれたクラスの女子に、このあと予定が出来た事を話し、“また明日ね”と言って、歩美と教室を出た……



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