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本当の俺は   作者: i
12/13

第12話 【俺の卒業】

3月も今日で終わりか……


明後日は高校の入学式、俺も高校生だ

まさか女の子になって入学する事になるとは夢にも思わなかった……


俺も女の子になって4ヶ月か……

何だかんだで、男の子の時には無かった充実した時間を過ごせてきている

勝手の違う服装にもようやく慣れてきたし、身の回りの事もようやく1人で出来るようになってきた

言葉使いも、この2週間で少しづつだけど、女の子っぽくはなった気がする

俺がここまでこれたのは、うるさいところもあるけど俺を助けてくれる歩美と、見守ってくれている家族のお蔭だな……


「ねぇ!成実ったら!」


「へっ?」


「“へっ?”じゃないわよ…… ボーっとしてどうしたの?」

出会ってから毎日俺の家に来るようになった教育係りの歩美が俺の顔を覗き込んで言った


「いや…… カレンダー見てたら、わたしが女の子になって4ヶ月も経ったんだなーって思って……

そしたら色々思い出しちゃってさ……」


「そうか、成実も過去を振り返る余裕が出てきたって事だね!」


「別にそんなんじゃないけど……

て言うか…… 歩美なんか近くない?」


顔を覗き込んだままの状態で話をしてるから、話す度に歩美の吐息が俺にかかって恥ずかしくなるよ……


「ふふっ!成実呼んでも全然気付かないからさ!顔見てたら可愛くなっちゃって、チューしたら気付くかなって……」


「ちちち……ちゅーなんてダメダメ!

歩美何やってるのよ!?しかも女の子同士だなんて……!」


歩美とはあれから毎日一緒に居るから段々歩美の行動がエスカレートしてきてる気がする……

ボディタッチから始まり、今日はキスをしようとしてたし……

なかなか気が抜けない……


キスは男の子とするもんだし、女の子とキスなんて……

まぁ、俺はキスなんかした事もないから歩美が相手なら少しはいい気もするけどやっぱり女の子同士だから駄目!

どうせなら男の子の時にそう言う事やってほしかったよな……

まぁ あの時の俺じゃ、こんな状況には天地がひっくり返ってもならなかっただろうから、キスなんか出来る状態にならなかっただろうけど……


「仲がいいから女の子同士でできるんじゃん!

あ~あ、無理矢理でもしとけば良かった!制服着た成実見てたら無性に悪戯したくなるのよね!」


「なにそれ……?もうバカな事言ってないで学校行く支度してよ!」


今日は俺の通った中学校に、卒業してから取りに行ってなかった俺の卒業証書を受け取りに行く事になっている……

遅くなっちゃったけど、ようやく俺も本当の意味で中学校卒業を迎えられる訳だ


学校に出向くからには正装をして行こうと歩美と話をして、高校の制服を着ていく事にした

俺は、昨日やっと届いた真新しい高校の制服を今日初めて袖を通したのだ


高校の制服はブレザーとスカートのセパレートになっていて、女の子って感じの制服だけど、色合いは結構俺好みだ

下は赤いチェックのプリーツスカートで制服としては短めの膝上くらいの丈のスカートだ


スカートは嫌だったけど指定されているから仕方がない……


上は淡いブルーのカッターシャツで、紺色のブレザーとの組合せが格好いいと思う

左胸に大和台の頭文字の“Y”に附属の“附”が真ん中に入ったエンブレムが付いていて、何処の高校なのか判るようになっている

靴下は紺色のハイソックスで、指定の物になっていて、に金色の校章が付いている


歩美も制服を着てきているから互いに俺の部屋でお披露目しているのだ


「私はもう支度出来てるよ!準備出来てないのは成実でしょ?」


「はいはい、すみませんでした!あとネクタイ付けたら終わりだから」


俺の行く高校の女の子の制服は、リボンとネクタイの両方を付けられる規定になっている

リボンは赤い色で今日、歩美がつけているやつだ

リボンはフックで留めるだけで扱い易いけど、俺はやっぱりネクタイの方が身が引き締まる感じで好きだな……


「成実の制服姿にネクタイか……

可愛いし、なんか男受け良さそうだよね!」


「男受けなんか考えてないよ……

正装するならやっぱりネクタイだよね!」


「ふ~ん、まっいいけどね、成実らしいと言えば成実らしいしね」


俺は手に持っていた赤地に白色のストライプが入ったネクタイを、父さんに教えて貰ったプレーンノットと言う簡単な結び方で首元に巻いた


「これでよし!」


「もうちょっとネクタイの締め方も柔軟さが欲しいところだけど、まぁ今日は許してあげるかな」


「許すも何もちゃんと付けてるんだから問題ないよ」


「やっぱり成実は真面目だね」


「いつも通りだよ、さ、歩美そろそろ出掛けよ」

そう歩美に言って、俺は玄関に降りようと自分の部屋を出ると、向かいの部屋から丁度出てきた忠志と目が合った


「うお……!姉ちゃんの制服姿マジヤバイな…… 眼鏡にネクタイの組合せできたか……」


「ヤバイって何が?

それよりもさ、なかなかネクタイ良いと思うでしょ?正装にはネクタイが1番似合うよね!

このネクタイ自分で結んだんだよ!凄いでしょ?」

そう言ってネクタイを手に持って、忠志に見せつける


「へー、姉ちゃんやっぱり器用だな、ネクタイ結べる女の子って家庭的でいいよな

俺はネクタイ付けた女の子好きだから、これから毎日ネクタイ姿姉ちゃんが見れるわけだな!」

そう言って俺を見ながらにやけている


「別に変な格好してないでしょ?何喜んでるのよ……

歩美といい忠志といい、きっとわたしと趣味が合わないのね」

そう言い俺は忠志を睨み付ける


「趣味と言えばそうだけど…… そう言う事じゃないんだな

姉ちゃんは男心くすぐるのが上手いよね!兄弟じゃなかったら付き合いたいくらいだな」


「だよね!忠志君わかってるじゃん!わざとしてないところが成実って感じだよね!」

俺の部屋から出てきた歩美が俺の後ろで言う


「も…… もう!正装なんだからいいの!これからわたし達出掛けてくるから!忠志は留守番しててよね!」

そう言うと俺は忠志の前を横切って、玄関へ向かった……



俺が玄関で靴を履いていると……


「成実~、置いてかないでよ~」

後から2階から降りて来た歩美が言う


「2人して変な事言うからでしょ!」


「はいはい、ごめんごめん!チューしてあげるから機嫌直して!」

そう言い歩美は俺の右の頬っぺたキスをした


「ひゃう!」

不意にキスをされて情けない変な声を出てしまった……


突然の事で動揺して頭の中が真っ白だ


「機嫌直った?」


「ち…… ちょっと……!キスは駄目ってさっき言ったじゃん……!」


「いいじゃない、減るもんじゃないし、機嫌直してくれないと今度は口にしちゃうよ?」

歩美は微笑みながら俺に寄ってくる……


「もっ…… もう直ったから!大丈夫です……」


「よろしい!じゃ、成実出掛けよっか?」


「ふぅ…… うん、行こう」


家出る前に疲れちゃったよ……

それにしても女の子の唇って柔らかいんだな……

でも女の子同士は駄目だよな……

さっきのは不意に来たからもうしょうがないけど、歩美には気を付けないとな……

またキスされちゃったら大変だ……!

歩美の前ではボーッとしないように気をつけないと……


俺は歩美の対応策を考えつつ、靴を履いて家を出た……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺の通った中学校は、JR桜町駅の近くにある

自宅から歩いて15分くらいの距離だ

俺は5ヶ月前、最後にとおった中学校への通学路を歩美と歩いている

まだ春休み中なので、学生の姿は俺達以外見当たらない……


まぁ、俺にとっては知ってるやつに会う確率が少ないから好都合だけど……


久々に歩く通学路の景色に少し懐かしさを感じながら、俺達は中学校の校門の前まで着いた


「なんか懐かしいなぁ……」


「そうか、成実はもう5ヶ月も前に来たのが最後だもんね

そう感じても仕方ないよね」


「まぁね…… ここに来たら嫌な事も思い出しちゃって校舎に入るのためらっちゃうね……

あんまりいい事も無かったし……」


「成実はそれがトラウマなんだね、でもそれはもう昔の事だし、同級生はみんな卒業しちゃったから心配ないよ!」


「そうだよね、でも…… 誰か知ってるやつ居たらどうしようとか思っちゃって……」


「大丈夫だよ!もし誰か知ってる同級生いても成実の姿見て誰も気付かないって!」


「そうだね……もしいても気付かないよね?

よし…… 歩美いこ!」

歩美の言葉に勇気づけられて、俺は校門をくぐって昇降口に向かった



昇降口に入ると春休み中で、校舎は静まり返っている……

3年生の下駄箱が並ぶ所からエントランスに上がって、そのまま同じ1階にある職員室に俺達は向かった


誰もいないから俺の知ってる中学校じゃないみたいだ

誰も居ないのは判ってはいたけど、状況を実際に見て少し気持ちも落ち着いてきたな……


廊下を東側に向かって少し歩いて俺達は職員室前に着いた


「私が先に入ってあげるね」

そう言い、歩美は職員室のドアをノックした


“コンコン”


「失礼しまーす!」

歩美が先に職員室に入り、後から続けて俺が職員室に入る


中には数人の先生が机の前に座って事務作業をしていた


「おう、ちょっと待っててな」

1人の先生が俺達にそう声を掛けた


春休みなのに先生は休みじゃないんだな……

前に“長い休みがあるのは学生の時だけだ”って担任の先生が言ってたのを思い出した

本当だったんたな……


作業を終えたのか、声を掛けた1人の先生が俺達の所に歩いてきた

どうやら声を掛けたのは俺の担任の先生のようだ


「おー!中西!久し振りだな!卒業してからまだそんなに日が経ってないのに雰囲気変わったな!

それが中西が通う高校の制服か?なかなか似合うじゃないか」

久々に会うからなのか、先生は歩美と嬉しそうに話している


「脇田【わきた】先生こんにちは!そうですよ、先生が見たいと思って着てきちゃいました!うちの高校、女子はリボンとネクタイ両方選べるんですよ!」


「ほう、バリエーションが楽しめる訳だな、中西の高校は男子生徒が多いようだが、評判はかなり良いところだからな、高校でも頑張れよ!」


「はい!」


「ところで今日は何の用事だ?そっちの子は同じ制服みたいだが中西の友達か?」

脇田先生は少し俺の方を見て歩美に話をした


どうやら俺が“稲垣誠”だって気付いてないみたい……


「やだな先生!何の用事って連絡したじゃないですか!」


「連絡って、中西がか?」


「違いますよ!こっちの子ですよ!」


「ん?そっちの子はうちの生徒だったか?すまん…… 見覚えがないんだが……

中西、冗談は頂けんな……」

まじまじと俺の顔を見る脇田先生

全然俺だと気付いてくれない……


「冗談なんて言ってないですよ!連絡しましたよ?この子、稲垣君ですよ!卒業証書取りに行くって連絡したじゃないですか!」

暫く間が空いたあと、脇田先生は目を丸くして俺を見た


「えっ…… えっ!?あっ!??稲垣なのか!?本当に稲垣なのか!?」

脇田先生はびっくりしたようで何度も名前を聞いてくる

それに驚いて、職員室にいた他の先生も振り返って俺を見ている……


「はい、稲垣です、先生お久しぶりです」

久し振りに対面したせいか、緊張したが先生に1礼して挨拶をする


「あわわ…… こりゃたまげた!!中西と同じ年頃の割に、偉く美人な子だと思ったがまさか稲垣だったとは……」

先生はまだ信じられないような目で俺を見ている


先生も美人って言ったし……

余計な事は言わなくていいのに……


「稲垣の事情は聞いてはいたが、ここまで判らないくらいになるとは想像してなかったよ

稲垣、身体はもう大丈夫なのか?」

少し落ち着きが戻った先生が俺に言う


「はい!大変な事は多いですけど、身体はもうなんともありませんよ!ご心配お掛けしました!」


「それは良かった!病院に入院してから俺も心配で、1度は見舞いに行きたかったんだが先生も忙しくてな…… すまん

それにしても稲垣、なんだか話し方が少し明るくなったな、今の姿に合っててなかなか印象がいいぞ!」


「そうですか?あんまり変わってない気がするんですけど……

女の子になったからじゃないですか?」


「それもあるかもしれんが、俺の知ってる稲垣はもっと言葉数が少ない印象で、いつもうつ向いてる姿しか覚えてないからな

今の稲垣は、胸を張って生き生きしているし、姿も健康的になって若いエネルギーに満ちているな!

これで俺も心配がなくなったよ!」


「そうですか?先生にそう言って貰えるとなんだか嬉しいです!ありがとうございます!」

そう言って俺は無意識に先生に向けて微笑み掛けていた


「おっ…… ははは…… なかなか眩しい笑顔だな、流石の先生もクラクラするところだったぞ!

いやいやいや!元生徒とは言え、美人の笑顔がこんなに近くで見られるとは!

今日は良い事がありそうだな!」

脇田先生は照れて持っていた書類で顔を扇いでいる


「もう!先生!成実が可愛いのは判りますけど、生徒相手に恥ずかしがらないで下さいよ!」

見かねた歩美が脇田先生に言った


「すまんすまん、つい嬉しくなってしまってな!そうだ卒業証書だったな、ちょっと待ってろ、今取ってくるから……」

そう言って脇田先生は自分の机に戻り、机の上に準備してあった筒をもって俺の前に戻ってきた


俺の前で咳払いをすると、筒の中の書類を出して両手で持つ

「あ~、稲垣、下の名前は前のままか?」


「いえ、違います、今は成実と言います」


「そうか、成実か…… 良い名前だな!親から貰った名前だ、大事にしろよ!」

そう言うと先生は両手に持っていた書類を読み始めた


「では!卒業証書 稲垣成実殿、あなたは中学校の課程を修めその業を終えたことを証する

稲垣!遅くなったが卒業おめでとう!」

そう言い、卒業証書を俺に手渡してくれた

それを見ていた他の先生も俺に向けて拍手をして遅くなった俺の卒業を祝ってくれた


「先生!ありがとうございました!わたし高校に行っても頑張ります!」


「おう!先生も応援してるからな!辛い事や悲しい事があっても今の稲垣ならきっと大丈夫だ!

大変な思いをしてきた数以上に、これからは楽しい事があるからな!

これから思いっきり自分の道を楽しめ!」


「はい!」

俺は先生がこんなに心配して、応援してくれている事に感動して熱いものが込み上げてくるのを感じた……


「泣きたかったら泣いても良いぞ?先生が胸を貸してやる」


それを聞いた歩美がすかさず……

「あっ!脇田先生のエッチ!成実が綺麗だからってこの状況に便乗して触りたいだけでしょ!」


「こ……こら!中西!なんて事言うんだ……!

そんなんじゃないぞ…… 胸を貸したいだけだ!」


「ほら!やっぱりエッチ!そりゃ成実は美人で小柄で触ってみたくなる感覚はわかるけどお触り厳禁だよ!先生は駄目~!」


俺は2人のそんなやり取りを聞いていたが、さっきの込み上げてくる熱いものが我慢できなくなった俺は、目の前に立っていた脇田先生に抱き付いて泣いてしまった……


「おっ!ははは…… あ~よしよし……」


「うそ!成実から先生の方に行くなんて!

もう!なんで私じゃなくて先生に行くのよ~!抱き付かれる準備してたのに!」


「俺は担任の先生だからな、中西すまんな!」


「あっ!先生!鼻の下伸びてる!このエロ教師~!」


そんな会話を聞きながら、俺は先生の胸で泣きまくった……

今までにないくらい泣いた……

これまでの辛かった事を流す悲しい涙……

これからの俺の人生で起こるであろう、楽しい事や明るい未来に対しての嬉しい涙……

両方が1度に押し寄せてきて止めどなく流れる……


これで男の子だった俺を卒業出来る気がした

ここからが女の子としての本当の入学だ……


俺の中で少し何かが変わった気がした……





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