第8話『旅立ちの時』
そんなこんなでイスティア旅立ちの時。
家族(父親は除く)や使用人に見送られ、いざ旅立たんとするイスティアに妹のルルイエが目に涙を浮かべて姉に問う。
「姉さま、本当に行っちゃうの?」
まだ幼いルルイエにとって、大好きな姉との別れはつらい物だ。
引き止めるように問い掛ける己の妹にルルイエは言う。
「ええ、行くわ……、人間界に。大丈夫よ、ルルー。別にもうこっちに帰って来れなくなるわけじゃないもの」
人間界と魔界とは『門』を通れば行き来出来る。
必要とあらば多少時間はかかれど、この魔界に帰ってくる事などイスティアにとって造作もない事であった。
「でも、でも!! 人間界は危険だって……、もしかしたら勇者が姉さまを襲ってくるかも!!」
「あら、『勇者なんて姉さまならイチコロだ』って言ってたのは、どこの誰だったらかしら?」
「それは……」
口ごもる妹の頭を優しく撫でながらイスティアは言う。
「心配しないでルルー。あなたの姉さまは世界一強い悪魔ですもの。勇者なんて束になったってかないはしないわ」
「姉さま……、お願い、私も人間界に連れてって……」
涙目で懇願するルルイエに、姉であるイスティアは優しく諭すように話す。
「それは無理よ。あなたはまだまだ未熟だもの。お父様とお母様の言いつけを守って、特訓して強くなって立派な悪魔ならなくちゃ、ね?」
さらに言葉を続け、彼女は言う。
「そうだ。もし、あなたがお父様とお母様の修業をクリアして、立派な悪魔になれた時、私がまだ帰ってきてなかったら、あなたから会いに来てちょうだいな、歓迎するわ」
そんな事を言い出すイスティアに、彼女の母親が言う。
「あら、ずいぶん長く向こうにいるつもりなのね」
「だってせっかく人間界に行くのよ。人間界はとても広いんでしょ? 隅々まで見ていきたいもの」
「呆れた子だこと……。まっ、好きになさいな」
母と姉とのやりとりを見ていたルルイエ。
彼女も姉の固い決意が変わらぬ事を察し、力強くイスティアに宣言する。
「わかった。きっと姉さまみたいなナウなヤングにバカウケなセクシーダイナマイトになって会いにいくわ」
ルルイエのセンスには時々イスティアもついていけない事がある。
彼女には理解出来ない言葉が飛び出してきたりもするが、いちいち気にしてはいけない。
「そうね。ワオでパンクなウケネライのタイヤキになって会いにきてね」
言葉の意味はわかってなくとも、てきとうに合わせて返答する。
それが姉としての度量というものだ。たぶん……。
「またね、私の姉さま……」
「またね、私のかわいいルルイエ」
再開を約束し、妹と涙の別れを済ましたイスティア。
ついに彼女は人間界に向かって旅立っていくのであった。
「お土産よろしくねぇ~」
母親に帰ってくる時のお土産を頼まれて……。