第6話『お父様』
「いったい何を考えている!! 大切な魔王就任の挨拶を途中で投げ出すとは!! どういう事か説明しなさい!!」
ひどくお冠の父親にイスティアも事情を必死に説明するが、もちろんそんなワガママを認めてくれるはずもなく……。
「いかん、いかん、いかあああんぞ!! ついにベルモア家が魔界を牛耳ようというこの時になって、何故今さらそんなくだらない事を言い出す!!」
「くだらなくなんてないわ!!」
「くだらぬわ!! 第一だ!! そんなに人間界に行きたいのなら、お前が魔界を統べる魔王となり、軍勢を率いて好きなだけ行けばよかろう!!」
「別に私は戦いをしにいきたいわけじゃないの!! 戦争なんてめんどくさいものゴメンだわ!!」
「な、なんと!! 嘆かわしい!! わしはお前をそんな軟弱者に育てた覚えはないぞ!!」
「私がどう生きようと私の勝手でしょ!! ほっといてよ!!」
魔王となるはずだった娘と、魔王の父親になるはずだった男の言い争い。
二人の主張は平行線のままで決着がつきそうにもない。
「全くなんて強情な娘なんだ!! こうなっては仕方があるまい、実力行使といこう!!」
イスティアの父親はその巨躯をさらに隆起させ、娘の前に立ちはだかる。
「どうしても人間界へ行きたいという言うのなら、この父を倒してみろ!! イスティアよ!!」
「えいっ」
――ドカーン。
イスティアのパンチ一発で、屋敷の天井に穴を空けて飛んでいく彼女の父親。
彼はそのまま山三つ越えたはるか向こうまで飛んでいく。
「ああ、お嬢さま!! 旦那様になんて事を!!」
爺やがその光景に慌てるが、イスティアは気にしない。
「いいのよ、お父様は頑丈さだけが取り柄よ。あのぐらい、どうってことないわ。それに私が赤ん坊の頃、お父様の顎に会心の一撃を入れてた時も『この子は素質がある!!』と喜んでたそうだから、今もきっと娘の成長を喜んでくれてるはずよ」
「それとこれとは話が別なような……」
「とにかく、これでしばらくお父様は帰ってこれないわ。さっさと荷物まとめて出発しないと」
などと言っていると今度は別の悪魔がイスティアの前に現れる。
「お母様……」
それは彼女の母親だった。
そしてどうやら空中を飛んでいく旦那の姿も見ていたらしい。
やって来て早々に彼女は言う。
「まったく自分の父親を山三つ向こうへ軽々と殴り飛ばすとは、我が娘ながらなんて……、なんて……、なんて素晴らしいのかしら!!」




