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第5話『思い立ったが吉日』

 思い立ったが吉日。

『魔王選抜総選挙』の結果発表会場から、自身が住まうベルモアの豪邸へ飛んで帰ると、魔王になるはずだった悪魔の娘は急ぎ荷造りを始める。


 あれを探し、これを探しと、家中をひっくり返しながら旅立ちの準備を進めるイスティアに、屋敷の使用人である悪魔達は皆困惑し、彼女を説得し止めようとするが、残念ながらまるで効果がない。


「お嬢様、お考えなおしください!! 『魔王の座を再びベルモアに』というお嬢様の曽祖父様の代からのその悲願が、ついに叶おうかというこの大事な時になって、何故今さら人間界に行くなどと申すのです!!」


 もっとも長くベルモアに仕えてきた使用人の爺やもイスティアを止めようと必死に説得を試みるが、彼女の反応は変わらない。


「今だからよ。私が子供の頃、人間界に行こうとしたら危ないからってお父様達に止められてたの、爺やも覚えているでしょ? 今の私なら止められる理由もないわ」

「大有りです!! 魔界の王に選ばれたお嬢様が勝手にいなくなってしまっては、再び魔界はその座を狙い、血で血を洗う抗争に突入するでしょう!! お嬢様の勝手で魔界の戦力が大幅に低下してしまうのですぞ!!」

「その事なら安心して、次の魔王はちゃんと指名してきたから」

「な、なんですと!!」

「『人間界で暮らす』このナイス提案をして、私に幼き日の夢を思い出させてくれた子にお礼として魔王の座を譲ってきたわ」

「そんな無茶苦茶な!! どこの馬の骨ともわからぬ輩が魔王など、誰が認めましょうか!!」

「もう、うるさいわねぇ。だったらあの子にでもやらせたらいいじゃない」

「あの子とは?」

「2位になってたあの子よ。名前はシルヴィだったかな、ほら、あのロラゼールの子」

「な、なんてことを!! よりによってロラゼールの小娘に魔王の座を譲るなど!! 絶対になりません!! なりませんぞ!!」


 顔をさらに赤くし声を荒げる爺やにうんざりするイスティア。


「もう、だったらそっちで好きに決めちゃってよ。とにかく私は魔王なんてめんどくさそうなもん興味ないから」

「お嬢様!!」


 イスティアの固い意志にお手上げの使用人達。

 そこへ、イスティアの父親でもある屋敷の主人が会場より一足遅れで帰ってくる。


「旦那様がお帰りになられました!!」


 使用人のその声に、イスティアは嫌な顔をする。

 彼女は父親が帰ってくる前にとっとと出発するつもりだったのだが、思いの他荷造りに手間取ってしまった。


「イスティア!! イスティアはおるか!!」


 どしどしと足音を鳴らしながら大柄の悪魔がイスティアのもとへとやってくる。

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