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第31話『予想ガイ』

 村を離れ、ひとり行くイスティアは新たな旅立ちに少々感傷的な気分になっていった。

 過ごしたのはわずか数ヶ月の間であったが、振り返れば些細な事すら愛しく思えるような思い出ばかり。


 そうしてぼんやりと考え事をしながら、当てもなく宙を行く彼女を……。


「お~い!!」


 誰かが呼ぶ。


 ミレアの声ではない。

 若い男の声だった。


 誰かと思いイスティアが声のする方を見ると、そこにあったのは必死に走るリュークの姿。


「リューク?」


 何故彼が自分の後を追ってきたのか彼女にはわからなかった。

 村での暮らしの中で特別親しい仲でもなかったのに……。


「どうしたのよ、リューク」


 息を切らしながら追いかけてきた男のもとに降り立ち、イスティアは尋ねた。


「どうって……、君が勝手にどっか行っちゃうから……」

「仕方がないじゃない。正体ばれちゃったんだし」

「それはそうなんだけど……。だけどいくら何でもこんなあっと言う間になんて、あんまりだよ……」


 落ち込むリューク。

 沈んだ表情を見せたまま彼はイスティアに問い掛ける。


「イスティアはその……、ミレアも言ってたけど、悪い悪魔なんかじゃないんだよね? 俺たちをオークから守ってくれたんだし」

「う~ん。悪いの基準がよくわかってないしなぁ」

「俺たちを食べようだとか、そういうひどい事をする為に村にいたんじゃないんでしょ?」

「まぁね。ちょっと利用しようかなって思ってただけ」

「その利用って具体的には何なの?」


 不安げに尋ねるリュークにイスティアは素直に彼女の目的を教える。


「人間がどんな暮らしをしているのか間近で見て知りたいないなぁと思って」

「どうしてそんな事を……」

「どうしてっておもしろそうだからよ」

「お、おもしろそうだから?」

「うん、それだけよ。私は魔界が退屈なところだったから人間界に遊びにきたの。だから人間界のいろんな事を知りたい、体験したい。特に人間はすごく興味深いわ!!」


 悪意のない表情だった。

 まるで純朴な少女のような笑みを浮かべるイスティアに、リュークは安堵する。


「そっか……。よかった」

「なによ、急に嬉しそうにニヤけちゃって」

「ううん、別にいいんだ、気にしないで。イスティアが思った通りの人で嬉しかっただけだから」

「人じゃなくて悪魔よ」

「あっ、うん。ははっ、そうだね」


 そう言って笑うリュークにイスティアは呆れながら言う。


「というか、あなたそんな事を聞く為に、こんな所まで私を追ってきたの? とんだお馬鹿ね。まだオーク共の生き残りがその辺うろついてるかもしれないのに、危ないわよ」

「いやっ、それだけってわけじゃないんだけど」

「他にも何か理由があるの?」

「うん、まぁ……」

「言っておくけど説得して連れ戻そうっても無駄よ」

「それはわかってる。そうじゃなくて、その……」


 何度も口ごもるリュークにいい加減苛立ち始める悪魔の娘。


「もう、はっきりなさいな」


 その叱咤にリュークは覚悟を決め、己の思いをイスティアに告げる。


「イスティア、俺も君の旅に、一緒に連れてってくれないか!!」


 予想外の展開だった。

 気弱な男が何を思ってそんな事を言い出すのか、イスティアにはまったく見当が付かない。


「連れていけって、どうしたのよ急に」

「急にじゃないよ!! 俺、イスティアと結婚出来てすごく嬉しかったんだ!! それなのにもう離れ離れになるなんて、俺嫌なんだ」

「ああ、そういえば結婚したんだったったけ」


 イスティアは今日の出来事だというのにリュークとの結婚などすっかり忘れていた。


「う~ん。でもなぁ、あの結婚は村で暮らす為にやった事だし、今となってはもうどうでもよくない?」

「ひどい……」


 ある程度予想できた事だが、面とこうまで興味なさげにされると、さすがのリュークも傷ついた。


「それにリュークも弱ちい人間だし、正直旅の足手まといになるだけでしょ。悪いけど連れて行くのはちょっとなぁ……」


 容赦のないイスティアの言い様にもリュークはめげずに言い返す。


「足手まといなだけなんて、そんな事ないよ!! ほら、イスティアはまだ人間社会の事あまり知らないでしょ? 俺ならわかる事も多いだろうし、きっと役立つよ!!」


 実際は辺鄙な村で暮らしてきただけの男が知る事などそう多くはない。

 それでも彼はイスティアと一緒にいたいが為に必死だった。


「う~ん。そうかな?」

「そうだよ!!」

「でもリュークは本当にいいの? 急に村を飛び出したりなんかして」

「家族はもう流行り病のせいでいないし。村での友達が多いわけでもない。俺にとってはイスティアといる事の方が大切なんだ」


 その熱意が伝わったのか、それとも単に役立つと判断したのか、あるいはその両方か。


「んじゃあ、まっいっか」


 イスティアはリュークの頼みを了承する。


「本当に?」

「うん」

「やった!!」


 喜ぶリュークにイスティアは言う。


「一応言っておくけど途中で死んでも自己責任でお願いします。まぁ出来るだけ守ってはあげるつもりだけどさぁ」

「はい……、死なないように頑張ります」


 こうしてイスティアはリュークとの旅を始めるのでした。

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