第30話『イスティアとミレア』
「他に行くってどこへ行こうっていうの?」
「てきとうにぶらぶらとかなぁ」
「そんな……」
イスティアのいい加減な返答に言葉を失いながらも、それでもなんとか引き止めようとミレアは説得を試みる。
「行きたい場所があるならともかく、そうじゃないのならここに残るべきよイスティア」
ミレアの発言に村人達がどよめく。
何て勝手な事を言い出すのかと、憤る者達もいた。
そんな中で悪魔と村娘の会話は続けられる。
「どうして?」
「だって、あなたは悪魔なんでしょ?」
「そうね」
「だったら他の村や街の人に見つかったら大変よ!! 火あぶりにされてしまうわ!!」
「捕まらなければどうってことないわ。大丈夫よ、人間って弱ちいし」
「そうかもしれないけど……」
「ミレアは心配性ねぇ」
「心配にもなるわよ、友達だもの」
悲しげに震えるミレアの瞳。
「私にはわかるの。イスティアは悪魔かもしれないけど、悪い悪魔なんかじゃないって!!」
「あなたはそう思ってるのかもしれないけど、他の人達はそうでもないみたいよ」
イスティアに好意的な人間は決して多くはない。
彼女がここに残る事を良く思わぬ者の方が圧倒的に多いのだ。
「皆にもわかってるもらえるよう私が説得するわ!!」
健気に訴えるミレアだが、イスティアの決意は変わらなかった。
「必要ないわ。最初からある程度お邪魔したらどっか行くつもりだったしね。あながち皆の言う事も間違いじゃないの。私はこの村の人達を騙して利用していた」
「そんな事ない!! 考え直してイスティア!!」
「悪いけどもう決めた事よ。お別れね。皆も喧嘩なんかしないで仲良く暮らしなさいよ~」
そう言い残し悪魔の娘は宙を飛び村から去っていく。
もう彼女を止める事は出来なかった。
遠ざかっていく悪魔の後姿にミレアは叫ぶ。
「約束したじゃない!! 何があってもずっと友達だって!! イスティアの馬鹿!! 嘘つき!!」
その叫び声を耳にしながらイスティアは心の内で、本心での別れを告げる。
――さようなら善き隣人達。そしてまたね、私の初めての友達。




