第26話『理由』
「ああ、かわいそうに」
「せっかく二人が一緒になれためでたい日だったというのに……」
「ああ駄目だ!! ミレアが転んじまった!!」
「追いつかれるぞ!!」
裏山の村人達は口々に嘆くばかりで、誰一人と逃げるミレア達を助けに行こうとしなかった。
ミレアの両親すらも魔物に追われる娘達を見て、泣いて嘆くばかりである。
そんな村人達の様子にイスティアは少しだけがっかりした。
この人達も同じだと。
魔界の者達と同じで、我が身可愛さに彼女を見捨てようとしているのだと。
――あれほど仲良く暮らしていたのに……、あんなにいい娘なのに……。オークの群れに追われている程度で見捨ててしまうね。
だが、そうやって村の人々に落胆するイスティア自身はどうなのか。
己の正体がばれるのが嫌で、ここに身を隠している自分自身は、彼らと何が違うのか。
魔物に怯え震えるだけの村人達と、魔界で暮らす身勝手な者達と何が違う。
その事に気付いた時、イスティアはミレアの言葉をふと思い出した。
――『困ってる友達を助けるのに理由なんて必要ないわ』。
あの時、そう言って微笑んでくれた彼女ならば、こんな時きっと……。
体が勝手に動いていた。
イスティアは一瞬にして裏山からミレア達のいる場へと移動してしまう。
そしてそのまま、まさにミレアに襲いかからんとするオークを素手で殴り飛ばす。
まるで巨人にでも殴り飛ばされたかのように吹っ飛ぶオーク。
「あれ、なんでイスティアがあんなとこに!?」
「さっきまでここにいたのに!!」
「しかも今あいつ素手でオーク殴り飛ばしてたよな!?」
ついさっきまで裏山にあったはずのイスティアの姿がミレアのもとに移動している。そしてオークを相手にしている。
村人達には何がなんだからわからない。
いったい何が起こっているのか……。
その混乱は助けられたミレアも同じである。
どうして彼女がここに?
どうして危険を顧みず助けに現れたの?
どこから?
隠れていたままなら危ない目にあわずに済んだかもしれないのに。
色々な疑問が浮かんでくると同時に、感情も混乱する。
自分を助けてくれた喜び、そして友の身にも危険がせまる事に対する申し訳なさや、悲しみ、無茶をしようとしている友に対する怒り。
そんなごちゃ混ぜになった感情のままに、ミレアは大声をあげる。
「イスティア、どうして!!」
「『困ってる友達を助けるのに理由なんて必要ないわ』、でしょ?」
そう言って笑うと、イスティアは人の身の姿のまま次から次へと襲ってくるオーク達を相手に無双し始める。




