第24話『誰になるかな』
魔界で生きる者にとって強さは重要だ。
それが全てと言っても過言ではない。
イスティアも強い男と結婚し、強い子を産む事こそが魔界の女の幸せだと両親から聞かされ育った身である。
悪魔である彼女から見れば、人間の強さなどたかが知れているが、それでもあえて条件を出すならやはり『強さ』しかないだろう。
イスティアの要求に、村の人々は考える。
強い男と結婚したいとはいっても、殺し合いは論外として、喧嘩で決めるなんてわけにもいかない。
どうしたもんかと思っていると、相撲で決めようという声がどこかしらからかあがる。
相撲ならば死人や怪我人が出る恐れも少ない。
祭りの余興にもなろう。
という事で、独身男性人参加による相撲大会が急遽催される事となった。
当初、勝ち残りのトーナメント方式で行う事を考えていた村の人々だが、村一番の怪力の持ち主グリゴールが提案する。
「そんな決め方じゃ俺が勝つのがわかりきってるぜ、面白くない。丁度いいハンデだ。俺が全員相手してやるよ!!」
怪力男は少しでもイスティアに良いところを見せようとしていたのだ。
他の参加者としてもまともにやったら勝ち目が非常に薄い事を理解している。
グリゴールの提案を断る理由はなかった。
「よ~し、まずはどいつからだ!!」
やる気満々のグリゴールに、他の参加者は顔を見合わせるばかりで、なかなか声があがらない。
彼らが考える事は同じ。
みんなグリゴールが疲れ始めたところを狙って勝負しようと思っていたのだ。
「おいおい、なにびびってんだ!! とっとと始めようぜ!! ……ったく情けねぇ。俺の不戦勝って事でいいんだな!!」
そこまで言われて、ようやく一人参加者が先陣をきる。
「俺がいくぜ!!」
「よぉ~し、きやがれ!!」
グリゴールの一戦目。
「うおぉおりゃ!!」
それはあっと言う間の勝負であった。
無論、怪力グリゴールの圧勝である。
「よ~し、次だ、次だ!!」
「今度は俺だ!!」
そして二戦、三戦と連勝を重ねていき、勝つたびに笑顔でガッツポーズしてイスティアにアピールするグリゴール。
だが勝ち続ける怪力男を眺めるイスティアの反応は芳しくない。
それもそのはず、村一番の怪力と言っても、しょせん人間の内の話で、イスティアから見れば、とてもレベルの低い相撲勝負であったからだ。
――はぁ……、わかってたけど、やっぱりへぼばっかりね。まぁいいけど……。
そんなこんなで相撲勝負は進んでいく。
そして連戦につぐ連戦で、さすがに疲労の色も見えてきたグリゴールだったが、見事最後の一人となるまで彼は勝ち続けた。
「なんだよ、最後の相手はお前かよ、リューク」
相撲勝負の最終戦。
その相手は村一番の腰抜け、リュークであった。
「最後の最後までびびって、残ってるなんてお前らしいぜ。けど結果は見えてんだ。怪我するだけだからやめときな」
馬鹿にするように笑うグリゴールだったが、リュークの方とて黙って引き下がるわけにはいかない。
イスティアほどの美しき女性を、花嫁に出来る機会など生涯一度あれば幸運といえる。
他の男達がそうであるように、リュークもイスティアに一目惚れしていた。
相撲勝負をやりもしないで、諦めるような事を彼とてしたくなかった。
「そんなのやってみないとわからない……」
「ああ、はいはい。じゃあ怪我の一つや二つする事になっても、逆恨みすんじゃねぇぞ!!」
いくら疲労があろうとグリゴールにとってリュークは負ける気のしない相手だった。
子供の頃からリュークとの力の差は圧倒的で、イジメまがいの事もさんざんやって、からかってきた相手だ。
大人になった今でもそれは変わらない。いや。むしろ力の差はより開いたとすら言える。
最後の対戦カードに、村の人々もイスティアの花婿はグリゴールで決まりだと考えていた。
実際勝負が始まってみれば、その優劣は明らか。
堂々たる怪力男に対して、リュークはその場に立っているだけでも精一杯の有り様で、体格がまるで違う相手にたいして、立ち向かっていける勇気を彼は持てずにいた。
「えらそうに言って、結局びびって動けねぇかよ。情けねぇ、一発で決めてやるぜ!!」
立ちすくむリュークに、グリゴールから仕掛ける。
その一発目で勝負は決まってしまった。
「あっ痛!!」
突進しようと足を踏み出したグリゴールが途中で滑って転んでしまったのだ。
「……おい、これって」
「おいおい、なんだこれ」
勝負を見守っていた村人達がざわつく。
滑ろうがなんだろうが足の裏以外の部分が土俵に触れた時点で負けは負けである。
つまり……。
「リュークの勝ちだ!!」
「まじかよ!! あの腰抜けが勝っちまった!!」
「ラッキーな野郎だぜ!!」
間抜けな幕切れにさわぐ村人達。
「待て!! 今のは違う!! 足が滑っただけだ!!」
必死に言い訳するグリゴールだったが、まわりの人間はそれを認めてくれない。
「言い訳すんなぁ!!」
「お前の負けだグリゴール!!」
「ざまぁみろ!! 威張りくさってるから罰が当たったんだ!!」
普段からグリゴールの事をあまり良く思ってない連中はここぞとばかりに囃し立てた。
「くそぉ!! てめぇら!! 俺はハンデとして全員相手してやったんだ!!」
がなる怪力男。
「一回の仕切り直しぐらい許してくれてもいいだろうが!!」
それでもまわりの村人達が仕切り直しを認めてくれないと見るや、対戦相手のリュークに脅すように詰め寄るグリゴール。
「おい!! リューク!! 仕切り直しだ!! いいだろ!!」
しかしリュークもこんな奇跡的な勝利が続かない事はわかっている。
転がり込んできた幸運を手放すような真似を彼だってしたくない。
「勝負は勝負、一回きりだ!! 俺の勝ちだ!!」
声を少し震わせながらもリュークは断言した。
「てめぇ!!」
それでも掴みかかって仕切り直しを認めさそうとするグリゴールに村人達が慌てて止めに入る。
「見苦しいぞグリゴール!!」
「そうだ!! 負けは負けだ!!」
そして五人、六人がかりで取り押さえられる怪力男。
彼は最後の悪あがきとばかりに叫ぶ。
「てめぇらがどう思おうが勝手だがな!! 問題は肝心の花嫁様がどう思うかだろうが!! イスティアは強い男と結婚したいって言ってんだ!!」
グリゴールがイスティアを見て言う。
「こんな腰抜け野郎と結婚なんて嫌だよな?」
「いや全然」
すがるように問う怪力男に対して、イスティアの返答は素っ気無い。
彼女としてはいちおう条件を出したものの、そこまでこだわりがあるわけでもなかった。
どっちが花婿になろうが悪魔の娘にとっては同じ事であり、ラッキーだろうがなんだろうが、リュークが勝ったのならリュークでいいと考えていたのだ。
「ぎゃはははは。花嫁様がああ言ってんだ。これで文句なしにリュークが花婿に決定だな!!」
村の人々がグリゴールの痴態を笑い、リュークの幸運を祝福する。
そんな中、村の人々のもとへ一人の男が慌てて駆けてやってきた。
彼は相撲観戦に興味を示さず別行動をしていた村人の一人であったのだが、どうも様子がおかしい。
顔色を青くしながらその男は叫ぶ。
「大変だ!! 魔物が……、魔物が出たぞ!!」




