第21話『乙女の夜』
そんな日のある夜、ベッドに入り寝ようとする頃になって、ミレアがイスティアに言う。
それはいつも明るい彼女にしては、不釣合いな寂しげな口調であった。
「ねぇ、イスティア。起きてる?」
「なに?」
「もうすぐ私達、結婚するのよね」
「そうね」
「なんだか不思議」
「不思議?」
「小さい時からずっと大好きだったエリック。彼のお嫁さんになる事が私の夢でもあったのに、どうしてかしら、いざその日が近付いてくると無性に苦しくてたまらなくなる時があるの……」
「エリックと結婚するのが嫌になったの?」
のぞき事件の後ひどく怒ったミレアはエリックとは口をきくのも拒むほど、二人の仲は最悪となっていた。
それでも、必死で謝るエリックの成果もあってかしばらくして仲直りし、このまま彼と問題なく結婚する事になっていたはずなのだが……。
やっぱり彼との結婚が嫌になったのだろうか、とイスティアは考えた。
しかし、ミレアはそうではないと否定する。
「まさか違うわ。ただ寂しいの」
「寂しい?」
「家にはお父さんやお母さん、それにイスティアがいる。外に出たらアリッサやマリー姉、村の皆がいる。そしてエリックがいて……、私は彼に恋する一人の女の子だった」
自分の不確かな苦しみを必死に言葉に変えるようにして吐露するミレア。
それをイスティアは黙って聞いていた。
「でももうアムラ祭を迎えてしまったら、そんな女の子のままではいられない。それがなんだか寂しくて、悲しくて……。おかしいわよね、村を出るわけでもないのに、こんな事を言い出して……。私、変になっちゃったのかな?」
不安げに尋ねる彼女にイスティアは言う。
「ミレアはミレアよ。結婚したって、してなくたって、変になっても、ならなくてもミレアはミレア」
器用とはいえない悪魔の娘なりの励ましの言葉。
それでも十分、彼女の思いは伝わる。
「ふふ、ありがと。ねぇイスティア」
改まりミレアはイスティアの顔を見つめた。
そして二人の乙女が静かに見つめあい、約束を交わす。
「結婚しても、何があっても、ずっと友達でいましょうね」
「ええ、もちろん」




