第20話『村での生活』
人口百人に満たぬ小さな村で暮らし始めたイスティアは、ミレアの家で世話になりながら、村での生活に欠かせぬ基本的な事を学んでいった。
仕事の事から、道徳的な事や慣習的な事まで、魔界で暮らしてきた彼女にとって知らぬ事は多くあった。
そして、それを少しずつ学んでいく事はイスティアにとってあまり苦な事ではなかった。
むしろ新鮮で興味深く楽しさすら感じていた。
その楽しき学びを続ける中で、大きな存在となったのは他ならぬ初めての友、ミレアである。
ミレアはよく笑う。
そして、笑顔がよく似合う少女だった。
イスティアが困っていると、そのよく似合う笑顔で嫌な顔一つせず、助けてくれる優しい少女だった。
ある日の事、ミレアにイスティアが尋ねた事がある。
「私が困っているといっつも傍まできて助けてくれる。何の特にもならないのに、どうして?」
純粋に疑問に思い、口にした彼女の言葉にミレアは少しばかり戸惑いながら答えた。
「どうしてって……、友達だからだよ。困ってる友達を助けるのに理由なんて必要ないわ」
その言葉が何故だかひどく嬉しく感じた事をイスティアは覚えている。
そうしてミレアとの楽しき日々が数ヶ月経過して、季節も変わり、アムラ祭の日が近付いてきた。
それはミレアが結婚する日であり、イスティア自身も伴侶となる男を選び結婚しなければならない日である。
イスティアとミレア。
一つ屋根の下、まるで仲良き姉妹のように暮らしてきたその日々が終わりを迎えようとしていた。




