表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/33

第19話『ミレアのお願い』

「アムラ祭の伴侶選びの時にね、エリックを選ばないようにして欲しいの」

「エリック?」

「集会の時、私の隣に座ってた金髪の……。わからない?」


 イスティアを紹介する為に村の皆が集められたあの集会で、たしかにミレアの隣りに金髪で同じ年頃の男がいた事をイスティアは思い出す。


「ああ、いたね」

「あのハンサムな彼がエリック」

「どうしてエリックは選んじゃいけないの?」


 イスティアの純粋な疑問にミレアは一瞬口ごもる。


「そ、それは……」


 しかし理由も打ち明けずに強制するわけにもいかないだろう。

 彼女は意を決する。


「あのね、私ね。彼と約束してるの、今度のアムラ祭では彼を伴侶に選んで結婚するって。私、ずっと彼の事が好きだったの!! だから、イスティアに取られたくない……」


 思い詰めたような表情を浮かべるミレアにイスティアは言う。


「そんな顔しないでミレア。大丈夫よ、あなたがそう言うなら私はエリックを選ばないようにするから」


 その言葉に安堵の表情と笑みを浮かべる少女。


「よかったぁ。イスティアはすごく魅力的だから、アタックされたら彼の心がイスティアの方へ動いちゃわないか、心配で……。ごめんね、急にこんな事言い出して……」

「いいよ、気にしないで」

「……イスティアは誰か良さそうな人とかもう見つけてたりするの?」


 ミレアに問いにイスティアは少しだけ考えるしぐさをして首を横に振る。


「そっか。まだ村に来たばかりだもんね。でもきっと次のアムラ祭までには、イスティアにとっての素敵な人も見つかるはずだわ」

「そうかな?」

「ええ。根はいい人ばかりですもの!! そりゃちょっとした欠点ぐらいはあるかもだけど……」

「欠点?」

「うん……、まぁ、ちょっとスケベな人が多いかも……」


 顔を赤らめて言うミレア。


「ここ女湯なんだけどね。時々、のぞきにくるの。その度、神父さんにお説教されるのに、ぜんぜん懲りなくて。イスティアも気をつけてね」

「気をつける?」

「イスティアも嫌でしょ? 男の人に乙女の裸をのぞき見られるなんて」

「う~ん……」

「えぇ!! もしかして裸見られても恥ずかしくないの?」

「うん、まぁ別に……」


 イスティアは性的な感性にうとかった。

 魔界の悪魔に対してもそうであるから、人間相手ならなおさらである。


「ダメだよ!! そんなの!!」

「ダメなの?」

「だって、そんなの……、男の人に裸を見られるなんて、破廉恥でいけない事ですもの……。イスティアは変わってるわ」

「村の男に裸を見られるのは、そんなにイケナイ事なのか?」


 ミレアがうんうんと頷く。


「でも、さっきからあっちでのぞいているのがいるぞ」

「えっ?」

「この場合、イケナイ事してるのはのぞいてるあいつらか? それとも、のぞかれてる私らなのか?」


 草むらの影を真顔で指差しながら尋ねるイスティア。

 彼女の指先が示した先から、のぞき魔達が慌てて逃げ出す。


「きゃああああ!! 信じらんない!! 最低!!」


 間抜けなのぞき魔達の姿に悲鳴をあげて、怒り、罵倒するミレア。


「うぅ、もう、ほんと最低よ……。でも勘違いしないでね、この村だって、あんな変態ばっかりじゃないから!!」

「でもさっきはスケベな人が多いって……」

「そ、それはそうなんだけど!! だけどほんとにそんな人ばっかりじゃないから!!」

「そうなのか?」

「そうよ、エリックなら絶対こんな事しないわ!! 彼は王子様みたいに優しくて誠実で、とっても素敵な人なの!! 今まで一度たりとものぞきなんてしてないわ!!」

「じゃあ今日がその一度目なんだな」


 先ほどのぞき魔がひそんでいたのとは別の草むらを指差し言うイスティア。

 そこからまた新たなのぞき魔達が顔を出す。

 その中にはミレアの愛しのエリックの姿までもがあるではないか。


「いやぁぁぁぁ!! エリックまで!! 嘘よ、こんなの!! もう信じられない!! 最低!! 最低!! 最低!!」

「違うんだ!! ミレア!!」


 痴話喧嘩を始める二人。


「まさか、のぞきの神に愛された男と呼ばれたエリックののぞきがついに見破られるとは」

「お嬢さん、一流ののぞき師と呼ばれたエリックの術を破るとは只者じゃないね」


 エリックののぞき仲間達は逃げもせず開き直るように会話をしている。


「こら、やめろお前ら!! ミレアに誤解されるような事を言うんじゃない!!」

「誤解もくそもばれちまったんだから、見苦しいいいわけはよせ」

「そうだ、そうだ!! お前も神父さんの説教を受けろ!!」


 ミレアの純情はズタズタだ。

 王子様とまで言って恋をしていた男が、実はのぞき常習犯のスケベ変態野郎だったなんて……。


 泣きわめくミレア。

 必死に宥めるエリック。

 開き直るのぞき魔達。


 そして……。


「こらあああああああ!! お前ら、また!!」


 騒ぎに駆けつける村の人達も見える。


 とにもかくにも、その光景に、ここは賑やかな人達が暮らす村だなぁと思うイスティアでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ