第17話『いい湯』
「ふぅ~。ねっ、気持ちいいでしょう?」
「う~ん、普通……かな」
隣り同士に座り、湯に浸かりながら会話する二人。
「え~、そっか普通かぁ、残念。絶対気に入ってくれると思ったのに……」
自慢の温泉の素晴らしさをわかってもらえないのは残念だが、いつまでもそんな事を言ってても仕方がない。
ミレアは話題を変える事にする。
「でも、イスティアがこの村に来てくれて私、嬉しいよ」
「どうして?」
「だってこの村って女の人すごく少ないでしょ? 年の近い子ってなったら余計にだし」
無論、イスティアは見た目が若いだけで、魔界の悪魔である彼女は人間の何世代、何十世代分もすでに生きている。
しかしミレアがそんな事を知るはずもないし、気付く事もない。
「アリッサやマリー姉は結婚しちゃって……」
結婚し子供が出来た村の女達はその世話に忙しい。
もちろん畑仕事や牛や羊の世話の仕事もこなさなければならず、仲が良いといってもミレアと一緒に遊んでられる時間などほとんどありはしない。
「だから……、イスティアとお友達になれたらなって思うの……」
「私と?」
「うん、駄目かな?」
気恥ずかしそうにイスティアに尋ねるミレア。
友達になりたいと彼女が言うのならそれを断る理由もイスティアにはない。
「いいよ」
「ほんと!! 嬉しい!!」
屈託のない笑みを浮かべ抱きついてくるミレアに、イスティアも嬉しくなってくる。
「私もなんか嬉しいかも。友達なんて初めてだし」
裏切り当たり前の魔界で友情を育むなど簡単な事ではないし、ましてやイスティアはベルモアの悪魔として特訓をさせられる毎日を幼少期から過ごしていた。
親身に世話してくれる使用人達やかわいい妹はいたものの、それは友達と呼べる関係ではない。
ミレアはイスティアにとって初めての友。
「そうなの? ふふ、素敵な思い出いっぱい作っていきましょうね!!」
笑顔を向けるミレアにイスティアも笑顔を返す。
ただの湯だと思っていた温泉も、初めての友達と一緒に浸かっていると思うと、なんだか楽しく、気持ち良く感じてくるイスティアであった。




