第16話『裸の付き合い』
「じゃ~ん!! どう? すごいでしょ!!」
温泉を前にしてミレアは誇らしげな顔を浮かべながら言った。
しかし彼女の期待に反し、イスティアの反応はいまいちだった。
「すごい?」
「えっ……、だって温泉だよ、温泉!! お湯が自然に沸いてるんだよ!! 毎日お風呂に入れちゃうんだよ!!」
「でもお風呂なら家にあるでしょ?」
「ないよ!! そんなの!!」
この地方で自宅に風呂を持つ者など一部のお金持ちの家ぐらいだ。
当然、ミレアの家にもありはしない。
「もしかして……、イスティアってお嬢様だったの?」
「そんな事ないと思うけど……」
実は魔界で暮らしたお嬢様ですなどと、素直に告白するわけもいかず、てきとうに誤魔化すイスティア。
「むむむ、とにかく!! 入ってみたら絶対気に入るはずだよ!! だって、とっても気持ち良いんだから!!」
ミレアは目の前の温泉を必死にアピールした。
彼女は悔しかったのだ、小さな村の唯一の自慢と言える温泉を前にして、こんなにも興味を示されないなんて……。
「お風呂なんてどれも一緒じゃないの?」
「そんな事ないよ!!」
そう言って衣服を脱ぎ捨てると、ミレアは温泉の中へと入っていく。
「ほら、イスティアも」
彼女の誘いに従いイスティアも身につけていたボロ衣を脱ぎ、裸となる。
その裸体を見つめながら、ミレアが言う。
「イスティアって、おっぱい大きいのね……」
ゆるゆるのボロ衣を纏っていたせいで、彼女は気付けなかった。
イスティアが己には無い、たわわに実った女の武器を所持していた事に。
「そうかな?」
魔界で暮らす淫魔には、もっと胸が大きいのがいくらでもいる。
イスティアはこれまで自分の胸が特別大きいなどと考えた事もなかったのだが……。
村の栄養事情のせいもあるのだろうが、確かに見てみれば、ミレアの胸はずいぶんとつつましやかである。
「うぅ、えっち……。 あんまりじろじろ見ないでよ……」
見比べられているのを察知したのか、顔を赤らめて胸を隠すミレア。
――えぇ……、さっきまで私の胸をまじまじと見つめていたのに……。勝手な子だなぁ。
などと思いながら、イスティアはミレアと共に温泉に浸かるのであった。




