第14話『結婚』
「一緒になる?」
男達の言葉の意味を理解しきれなかったのか、イスティアが聞き返す。
すると、彼らはもっと直接的な言葉に言い換えた。
「結婚だよ、結婚」
「ああ……」
意味を理解したイスティアが頷き、ほとんど間をおかずに返答する。
「別にいいわよ、それぐらい」
「それぐらいって……、いや、まぁそうしてくれたら俺達としても文句はねぇんだが……」
村人達の価値観でいえば、結婚とは乙女にとって一大イベントのはずだった。
それをこうもあっさりと了承するとは……。
行く当てもなく、野垂れ死にするよりはマシだとは言っても、少々のためらいぐらいはあってもいいものだろう。
ずいぶんとあっさりとしたイスティアの返事に、男達の方が戸惑いを覚えた。
「まさかとは思うが、おめぇさん結婚するって事が、どういう事なのか、わかってないとかはねぇよな?」
まるで小さな子供にするかのような質問にムっとするイスティア。
「馬鹿にしないでくれる? それぐらい知ってるわよ」
魔界で暮らす悪魔にとっても結婚とは、より強い子孫を残す為に必要な儀式でもある。
とはいえ、ここは人間界だ。
悪魔と人間達では結婚が持つ意味も多少なりとも変わってこよう。
けれども、彼女は知っている。
人間も結婚してある行為に及ぶ事で、子孫を増やす生き物である事を。
自分の持つ知識によほどの自信があるのか、イスティアは自信満々に答える。
「つまり、あんた達が言いたいのはセックスする相手を選べって事でしょ?」
恥じらいもくそもなく答える彼女に、なんと貞操感に欠けた女だろうと男達は驚く。
「お、おう。まぁそうなんだけどよ、ずいぶんとあっけらかんとしてんな。おめぇさん、その年で経験豊富なのかい?」
「ないわよ、結婚の経験なんて」
「いや、そうじゃなくてなぁ……」
男達の言葉にイスティアは考える、彼らが何を問わんとしているのかを。
いったい何の経験を問うているのかを。
結婚に関して悪魔達が求める経験といえば、やはりアレしかない。
それは殺しの経験だ。
より多く、より強い者を殺してきた経験こそが悪魔にとってのステータスとなる。
殺しの未経験者など馬鹿にされ、話にならない。
今回は人間が相手の話であるが、人間も口では平和、平和と喚きながら、なんだかんだで殺し合いばかりをしている生き物らしい。
であるなら、人間達もまた結婚において、強者の証、殺しの経験を重要視していても驚きはない。
「ああ、そういう事ね。ふふ、安心してちょうだい。殺りまくりよ」
自分の強さを疑われたと勘違いしたイスティアが自信満々に答えるが、もちろん村人達は問うていたのはそんなものではない。
性交の経験を尋ねていたつもりだった村人達はイスティアの返答を別の意味にとらえた。
「ええ!! ヤりまくりって、ええ!!」
――ふふ、驚いてる、驚いてる。人間の女は特に軟弱なのが多いと聞くわ。きっと私ぐらいの見た目の年だと未経験者が多いのね。
驚く村人達を見て、イスティアは鼻高々に笑みを浮かべている。
だが無論、彼らは違った意味で驚いているのだ。
「なんでこいつ、こんな自信満々に答えてんだよ……」
「おい、こんな奴村に連れてって大丈夫なのか? ヤりまくりって、安心どころか、不安材料だよ……」
こそこそと相談するように会話する男達。
「でも村は深刻な嫁不足なんだ。たとえ元娼婦だったとしても、受け入れてやろうじゃねぇか!!」
「そ、そうだな。だが神父さんにはバレないようにしないとな。あの人、こういう事にうるせぇから」
結論が出たのか男達は相談を止めて、イスティアと向き合う。
「まぁ、その、おめぇさんの過去については不問としようじゃねぇか。だけど、村には村の風紀ってやつがあるからな。あまりそういった事は口にしないように」
「そういった事?」
「だから経験がどうとか、そういう話だよ。うちの村の神父さんはそういうのに厳しい人でな。ややこしい事になりかねん。てきとうに誤魔化すようにしてくれ」
男達の注意にイスティアは疑問に思ったものの、彼らがそう言うならと、とりあえずは了承しておく事にした。
「わかったわ」
「よし、よろしく頼むぜ。え~と名前は……」
「イスティアよ。よろしくね」
こうして悪魔の娘は、人間達が住む村へと付いて行く事になった。




