第12話『お話』
「どうしたんだ、おめぇさん。こんな森の中を一人で……。しかも靴もはかずに……」
そう言ってまじまじと見つめてくる人間の男二人組み。
訝しむ彼らに対してイスティアは正直に答えるわけにもいかず、言葉に迷う。
「そ、それは……」
「もしかしてワケありか?」
あると言えばあるような、ないと言えばないような。
他に良い返答も思いつかず、イスティアは彼らの言葉に頷く。
「この辺はときどき熊や狼だって出るんだぞ。そんな格好でうろついてたら、たちまち食われるど」
心配するようにそう言ってくるが、熊や狼など、竜をも簡単に倒してしまうイスティアの相手になるはずもない。
「大丈夫よ、たぶん」
「大丈夫っておめぇさんなぁ……」
イスティアの言葉に呆れる二人組みが互いに顔を見合わせる。
そしてこそこそと会話を交わした後、片方の男が切り出す。
「う~ん、まさか人を殺して逃げてきたとかじゃないんよな?」
イスティアは悪魔だが、まだ人殺しの経験はない。
竜ならたくさん殺してるけど、人殺しは未経験。
なので、彼女は人間達の問い掛けに首を振った。
「人殺しはまだよ」
「まだって……、あんたそんな予定でもあんのかい。復讐とかならやめときなよ。理由はしらねぇがそんな事したって何にもなんねぇよ」
予定……。
悪魔の中には人殺しが好きで好きでたまらないやつもいたりするが、イスティアにはそんな欲求ありはしない。
むしろ殺しや戦いには喜びを感じられない、魔界に住まう者としては非常に珍しいタイプの悪魔だった。
「予定もないわよ」
「えっ……、そうかい。それならいいんだけどよ……」
どうにもしっくりこない返答を繰り返すイスティアに途惑う二人組み。
また、ごにょにょと二人で会話を始める。
そしてそれが終わると改めて片方の男がイスティアに問い掛ける。
「あんた、どこか行く当てでもあるんかい? この辺にゃあ俺達の村ぐらいしかありゃせんぞ」
行く当て……。
四百五十年前、人間界に旅立つ際に彼女の母親が教えてくれた『人間界に詳しいという悪魔』。
そんな奴を見つけるのは『門』の座標ミスが起こった時点でイスティアは諦めていた。
もはや当てなどない旅を、彼女は四百五十年間続けてきていたのだ。
「当ては……、別にないかも」
「当てがないって……、どうすんだあんたこれから、そんな格好で……」
荷物もなしボロ衣まとった裸足の女の子。
その末路など容易く想像出来ると、二人組みの男達は考えていた。
「どうしましょ」
「どうしましょって……」
イスティアの返答にまた互いの顔を見合わせて内緒話を男達は始める。
その様子眺めながら……。
――人間ってこそこそ話すのが好きなのね。
などと、イスティアは呑気に考えていた。
そうしてしばらくたった後、男達が人に化けた悪魔の娘に提案する。
「このままおめぇさんみたいな娘っ子を森に放ったらかしってのも忍びねぇ。よかったら俺達の村にこねぇか?」




