第6話 剣と魔術
そんな世界滅亡的な闘いを目の前にいるルーファス、俺の父親はしたのかぁ。
何か凄すぎて他人事に感じるけど、ある意味この世界の救世主じゃん。
ん?待てよ?
「ちょっと待って下さい!
今の話からすると父様は世界を救った訳ですよね?
それなのに何で王族じゃなくなったのですか?」
ルーファスはミランダに視線を送るとミランダは頷いた。
するとルーファスはバツが悪そうに苦笑しながら顎の右側を右人差し指でポリポリと掻いた。
「さっき魔宝原石を叩き斬ったって言っただろ。
あれを咎められて、な」
「え!?
だってあれは世界を救う為の苦肉の策じゃないですか!」
「まぁ、そうだけど…。
実際叩き斬って一部消滅させちまったしな…。
実際、火属性の魔法は使えるけど、気持ち火力下がったし…」
「だからって…!
父様はラッキー要素高いとは言いますが結果、1番良い方向で丸く収めたじゃないですか!」
「魔族の得意属性を消滅しようとしたのは事実だし、若干とは言え火属性魔力落としたのも事実だから仕方ねぇだろ。
まぁ…王族剥奪だけで済んだし、王族じゃなくなったおかげでミランダと出会いそしてジェイクにも巡り会えたんだからこれ以上の幸せないだろ!」
「それは、そうかも知れませんが…」
「第一、王族じゃなくなったって何一つ不自由してないぞ。
確かにガキの頃、英才教育受けたって点では剣技、魔術ともに強くなれたから王族で良かったとも思うけど、もう大人になったから関係ないちゃあ関係ないしな。
あ、でもそういう意味じゃジェイクに俺が受けてきた様な英才教育ってのは出来ないかも知れないな…。
そこは、すまん…」
「英才教育は別にいいですが…」
チート能力に英才教育は魅力的だが無いものねだりしても仕方がない。
「だがな、俺が持つスキルは全て教えるから安心しろ!」
「そうよ、お父さん普段は頼りなさ気だけど剣技と魔術は王級だから安心して大丈夫よ」
「そうだぞぅ、俺は普段頼りなさ気だけど、っておい!!」
お、ノリツッコミ。
こーゆーとこだろうな、魔族の元王族ってイメージ無くってミランダの言う頼りなさ気ってのは。
「だけどな、ジェイク。
今言った通り、俺の持つスキルは全て教えるし学校にもちゃんと行かせるから安心しろ。
各分野のエキスパートを専属教師でマンツーマンとはいかないが、何、それは元エリート王族の俺がマンツーマンで教えるから大船に乗った気でいろ」
この人、ついに自分でエリート王族って言ったよ。
だがまぁ確かにこれ以上無い専属教師だろう。
「はい!宜しくお願いしますっ!!」
「ハッハッハ、任せとけ!」
「それでいつから教えて頂けますか?」
「よし、それじゃあ早速明日から稽古開始とするか?」
「是非お願いしますっ!」
魔術に剣技、これはオラ、ワクワクすっぞ!
「それじゃあ、そういう事で、さっき食べなかったランチ遅くなったけど皆んなで食べましょうか」
「おお、それがいい!オラ、腹ペコだぞ」
っ!!、…ホントに読心スキル無いよね…?
「それじゃあランスに言って用意して来てもらうわね」
そういうとミランダは部屋を出てランスを呼びに行った。
「ところでジェイク、」
「はい、父様なんでしょうか?」
「お前、たった4歳で今の会話理解出来てたな?」
「っ!?
え、え、ええ。ま、まぁ…。
ななな何となくですけど……」
ヤバ!!流石に言葉覚えたばかりの子供にしては理解しすぎたか?
夢中になってつい話し込みすぎた…!
「…………」
ルーファスが、そのグレーの瞳で俺の瞳を覗き込む様に見つめる。
何、何、何???
やっぱ読心スキルで思考読取ってる?????
「いいい一生懸命、べべべ勉強したのが、ややややや役にたたたたた立ちましたたた」
「…………」
ルーファスは眉ひとつ動かさず俺の目を見続けている。
やめてくれぇ〜、心の中読まないでぇ〜!!!
「ジェイク…。
お前…」
やっぱバレてるぅ!?
こういう場合、自分からゲロった方がいいのか???
そもそも言ってチートスキル持ち転生なんて信じるか???
ルーファスなら単純そうだから信じるか!?
いや、こうして、考えてる事も読まれてるのか???
どうしたらいいんだ?!
「やっぱ俺に似て天才だな!!」
あぁあ〜〜〜、詰んだぁ〜〜。
………ん?
「ふぇ?」
何と情け無い顔と声出してんだ?俺。
「いや〜、またミランダの前で俺に似て天才だとか言うとミランダの奴ヤキモチ焼いて怒るだろ?
でもその能力の高さといい、精悍な顔つきと知性溢れる瞳は完全に俺似だな!!」
「精悍な顔と知性がどうしたとか言ってた?あなたぁ?」
「っ!?
ミランダ!
いいいつからそこに…???」
「やっぱ俺に似て天才だなあたりからよ」
「…や!違うんだ!
俺とお前に似てって言ったと思うけど…。
な、ジェイク???」
ルーファスがものすごいスピードでウインクしてくる。
そのウインクの圧、スゴイな。
ここはひとつ。
「精悍な顔つきと知性溢れる瞳が完全に父様似で母様の前でそれ言うとヤキモチ焼くと言ってました」
「ばっ! おま!!」
裏切りやがったなぁとルーファスの目が訴えかけてる。
その目はドナドナだ。
「やっぱりね、あなたぁ」
ミランダが目には見えない100tハンマー持ち出しか〇りモードに入った。
こういうところが俺がこの家族が好きたる所以何だろう。
この魔族転生はホントに楽しくなりそうだ。
「ジェイク、お前明日からの稽古体力づくりからなぁ!
剣技と魔術はまだ教えてやらないからなぁ!」
「なっ!?ズル!!」
「へへーんだ、父親を裏切った報いだ」
「あなた、ジェイクは悪く無いでしょ」
「そうですよ、父様!
まさか子供に嘘をつけと言うのですか?!」
「あ!今度は2人して組みやがったな!
もう完全に拗ねるもんね!
ジェイクは明日から10日間はランニングのみなぁ」
「と、父様!」
「あなた!」
そんなこんなで夫婦漫才からトリオ漫才に巻き込まれたところでランスがランチを持って来てくれ間に入ってくれ明日から剣技と魔術の訓練が始まる事になった。
ルーファスは、ぐぬぬと怒った桜〇花〇みたいな顔してたが…。
まぁいいだろう。
ーーー
翌朝、城の庭に俺と剣を持ったルーファスはいた。
ルーファスの剣を見るのは初めてだ。
昨日のゴブリンとの闘いは魔術を使ったが丸腰だったからな。
「さてジェイク、今日から剣技と魔術の訓練を始める訳だが、その前にひとつ」
そう言いながらルーファスは剣を静かに俺の前に置いた。
「その剣は俺の愛剣で紅炎龍剣と言う剣だ。
昨日話したプラウラーの手と焔紅玉石を斬ったのもその剣だ」
鞘に入ってそこに置かれているだけだが、何だろう?
何か存在感なのか威圧の様な迫力を感じる。
「抜いてみろ」
「え?」
いきなり真剣使うの?
ルーファスの顔を見るとゴブリンと闘ってた時と同じ顔だ。
その目には闘志の様な威圧感がある。
「どうした?抜いてみな」
「………」
俺はゴクリと唾を飲んだ。そうルーファスにも唾を飲む音が聞こえたんじゃないか?という位の固唾を。
その音に焦ったのか剣の存在感か知らぬ間に汗が頬を伝う。
ルーファスは何も言わずただ俺を見ている。
俺は何故か早く剣を抜かないとマズい気になり焦った。
焦る気持ちからか手が震える。
焦る気持ちがバレない様に必死に手が震えるのを堪えるが堪えられない。
気持ちとは裏腹にますます手が震えていくのが分かる。
何とか震えながらも剣に手をかける。
…重い。
体が小さいから当たり前と言えば当たり前だが物質的重力よりその存在感なのか、とにかく重い。
とても剣を鞘から抜く事さえ出来ない。
「まだ僕には剣を抜く事が出来ません」
「そうか」
そういうとルーファスは愛剣を軽々持ち上げ柄に手をかけた。
何なんだこれは?俺の力を試したのか?
それとも度胸試しのつもりか?
俺は手が震えた事の恥かしさと剣を鞘から抜けなかった力量不足から八つ当たり的にイライラした。
そんな俺の心情を知ってか知らずかルーファスは黙って、ゆっくりと鞘から剣を抜きはじめる。
金属的とも、湿った音とも、火炎的とも聞きようによっては様々な音色に取れる何とも言えない音を放ちその剣身が姿を現す。
その剣身は緋く斑らに光る両刃で刃文は無いが刃に紅い炎を纏う姿が揺れる刃文の様に見える。
紅い炎はまるで無数の小型竜がうねる様に波打ち生きている様にも見える。
その妖しい美しさと同時に今にも剣自身が襲いかかりたさそうな危なさも感じ、自分でも見惚れているのか警戒してるのか分からないが目が離せない。
やがてルーファスはゆっくりした動作で剣を鞘に収めた。
「ジェイク、お前剣を前にしてビビったな?」
「……はい」
悔しいがビビった…。
見栄張ったところでルーファスは見抜いているだろう。
ここは正直に感想を言うべきだろう。
「それは正しい反応だ。
ここでもしお前が平然と剣を抜き、ましてや振り回そうものなら俺はお前に剣技も魔術も教えないつもりだった」
え?
それってビビるだろうって分かってて試したって事?
「今、お前は試されたのか?って思ってるだろ?
ああ、試したさ。
何しろ剣技も魔術も簡単に命を奪えるシロモノだからな」
「…………」
「昨日は俺が王族じゃなくなったって話だけで肝心な話してなかったからな」
「肝心な話?」
「ああ、肝心な話だ。
お前がショックを受けた生殺与奪の話だよ。
言ってみれば俺が王族だったとかプラウラーがどうしたとかはどうでもいい話だ」
確かにきっかけはルーファスがゴブリンを退治した事だった。
ルーファスとプラウラーの闘いの話に夢中になったが、確かに肝心な話だ。
「生きている者を殺す。
言うだけなら簡単だ。
だが理由はどうあれ殺すと言う事はそいつこの世からを消す事だ。
本来ならまだ生きてそいつにとって起こる良い事も悪い事も含め強制的に終わらせるって事だ。
そいつに家族や仲間がいればそいつらもそこから先、そいつがいない、会う事も話す事も出来ずに生きてく事になる。
つまり攻撃する側の一撃で全てが終わるって事だ。
逆に言うと敵の一撃で終わらせられるって事でもある。
これは分かるな?」
「はい」
「お前が昨日見た、俺が退治したゴブリン共。
彼奴らにも家族や仲間がいたかも知れねぇな。
だがな奴等は相手への慈悲も無くただ本能の赴くまま目の前の相手を襲う。
やめてくれって説得してやめる理性もない。
あそこでゴブリンに情けをかけて見逃してやれったところで奴等は恩に感じるでも無くまた襲ってくるだろう。
仮にゴブリンじゃなく他の魔獣や魔物でも同じだ。
中には我々魔族や人族みたいに言葉や理性がある種族でさえ理不尽な考えや自分勝手な理由で生き物を殺したりする悪い奴等はいる」
確かに前世の人間でも殺人犯やテロリストみたいに自分勝手な理由で簡単に人を殺す凶悪なのはいたな。
「この世に生きる者は3つのタイプに分けられる。分かるか?」
「殺す側と殺される側と………この2つでは無いのですか?」
「言い方が少し乱暴だがそんな感じだ。
襲う側と、闘わないもしくは闘えない者。
そして闘う者の3種類に分かれると俺は思っている。
襲う側は分かるな?さっき言ってた自分勝手な理由で相手を襲う者。
もちろん生きていく上で食料としての狩りとか敵討ちとか襲う理由がある場合もあるだろうがそれも含めて
だ。
そういう意味じゃあ誰もが襲う側になる時があるな。
次に闘わない、闘えない者。
これも分かると思うが力が弱い者や怪我や病気なんかで闘う事が出来ない者だ。
これも誰しもがなる可能性があるな。
最後に闘う者だ。
襲う側とある意味同じだが、違いは自分以外の為に闘えるかどうかと言う事だ。
さっき言ったが生きている者を殺すと言うのは、そいつに関わる全てを終わらせる事だ。
それは相手がどんな悪でもクズでも殺して気持ち良いものでは無い。
それが楽しいとか気持ちいいとか感じたらただの殺戮者だ。
何の為に誰を護るのか、その為に相手を倒すもしくは殺す事は正しいのか?
それを場合によっては瞬間的に判断し実行しなければならない。
そしてやると決めたら相手を殺す覚悟と自分が殺されるかも知れない覚悟を持って望まなければならない。
また剣や魔術を学ぶのもそう言った意味を理解して学ぶ必要がある。
剣や魔術は簡単に命を奪う事が出来る。
安易に学んでそれを振り回すのは間違っている。
お前が剣にビビったのは正しい反応と言ったのはそういう事だ。
少し説教っぽくなっちまったが大切な事だから学ぶ前の心構えとして分かっておいて欲しい」
「…分かりました」
確かにどんな理由があるにせよ人を殺すのは間違っていると思うが、それは文明が発達した前世で言うところの現代社会ってやつの場合だ。
この世界は剣と魔術を使い、色々な種族、魔物や魔獣が普通に闊歩している世界だ。
正しい力の使い方を学ぶのと合わせて色々覚悟を決めて生きる必要がある。
「あ、ちなみにこの剣な、魔剣だからお前が仮に抜けた所で魔力枯渇で振り回す以前にぶっ倒れただろうけどな」
な!?そんな剣抜かせようとした訳?
「いや〜、焔紅玉石斬っちまった
って言ったろ?
あん時から剣に魔力帯びて魔剣になったんだよ」
いや、聞いてねーし。
「それじゃあ、訓練開始すっか」
こうして剣と魔術の訓練が始まった。