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第52話 新リーダー襲名と旅立ち

 昨日はここ不死魔王城までの長旅の疲れに加えてうろつく者(プラウラー)とビルヘルム王の経緯、そして13(サーティーン)ちゃんとの出会いと何かと疲れてしまい泥の様に眠った。


 先程、目が覚め今はヒル姐の部屋の窓から眼下に広がるプラハス大陸を眺めてる。

 

 ふと視線を下にやれば城門では旧ケルベロスことドムリアが朝から門番をしているのが見える。

 夜通しか、或いは城門の脇にある見張り台で休みを挟みながらなのか、何れにしてもああやってガッチリと見張りをしているのだろう。


「う〜ん……ジェイク。おはよう」

「おはようございます、アンバー」

 アンバーも疲れていたのだろう、寝ぼけ眼を擦りようやく起きたという感じだ。


「ヒル姐は?」

「僕が起きた時にはもう部屋にはいませんでしたから顔でも洗いに行ってるんじゃないですか?」

「ふ〜ん。じゃあ私も顔洗いに行ってくる」

「はい」

 そういうとアンバーは部屋から出て行った。



 それにしてもうろつく者(プラウラー)め、まさか既に魔族に次いで不死魔族にまで接触していたとは。


 これって、俺とアンバーが不死魔族の王女ヒルディと冒険者パーティを組んだ事を懸念してうろつく者(プラウラー)は完全体で無いにも関わらず接触した?

 ヤツにしてみれば隠密に行動したい訳だから自分の存在を知られるのは得策では無い。

 更には自分の存在を知る魔族の俺やアンバーが他の種族へ警告して回るのも、増してや種族間を越えた同盟を組まれるなんて事はヤツにとって大きな懸案事項になる事は間違いない。

 俺達と獣人族の接触は竜人族(ドラゴニュート)の獣人族王女誘拐事件の一件があって図らずも叶った訳だけれど、これも結果的にヤツを焦らせる要因になったのだろう。


 そう考えればヤツが完全体では無いにも関わらず次々と襲撃を掛けてきた事も合点が行く。


 そこへヤツにしてみればルーファスや13(サーティーン)ちゃんといった思いもよらない邪魔立てが入り計画は失敗に終わった。

 だからと言ってヤツが諦める事は100%無い。

 逆に言えば、これだけ煮え湯を飲まされる経験を積まされたうろつく者(プラウラー)にしてみれば次は万全の体制で来るのは間違いない、それはつまり次回こそは隙が無いと言う意味だ。


 今までだって結果的に失敗に終わっているからまだいいものの、1つ違えば世界は大変な事になっていただろう。


 もしかしたら今こうして考えている間にも何処かの種族に接触しているかも知れない。


 それは無いか…?


 ルーファス曰く完全体に戻るには数十年かかるだろうって言ってたからな。

 ヤツもよっぽどの馬鹿じゃ無い限り2度も焦って未完全のまま襲撃はして失敗に終わっている事を鑑みれば未完全のまま襲撃してこない可能性の方が高いか…?


「…ェイク」


「ジェイク!」


 っ!?


「あ、ああ、ヒル姐、おはようございます」


 うろつく者(プラウラー)の事を思案している間にヒル姐が戻っていた。


「どうした?何やら考え事をしていたみたいだが……なんて愚問だな」

 ヒル姐がバツの悪そうな笑顔を見せる。


「ええ、ちょっとヤツの事を考えてました」

「ヤツとはうろつく者(プラウラー)か?」

「ええ」

「確かにヤツは色んな意味で想定外の行動を取っているな」

「はい、ルーファスとの闘いで傷ついた体を完治させてから魔宝原石ミスティックジェムストーンを集め出すものと思っていた裏をかいたのか、焦っているのか分かりませんが未完全体であるにも関わらず僕達やビルヘルム王の前に現れてみたり、まあ、結果的にはたまたまにしろ未遂に終わってはいますが…」

「うむ、そうだな。ヤツはルーファス殿以外なら未完全体でも勝てると踏んだのが間違いだったのか、13(サーティーン)の横槍や私達の力がヤツの想定外だったのか、何れにしてもヤツにとってみればアンラッキーな部分もあったな」

「ええ、おそらく次は万全の体制で来るでしょうけれど懲りずにと言うか、裏をかいてと言うか、今こうしている間にも何処かの種族に接触しているかもと思うと…」

「確かにその可能性も無くは無いが、今ここで考えても仕方あるまい、少なくとも今の段階では魔族、獣人族、不死魔族の魔宝原石ミスティックジェムストーンは揃えられまい」

「…そうですね」

「うむ、この後、13(サーティーン)も交え今後の活動方針を話し合うのだし、そこで我々の方向性を決め、行動するのみ、だ、そうだろ?」

「ですね」


「何話してんの?」


「あ、アンバー。いえ、この後13(サーティーン)ちゃんを交え今後の活動方針を決めようって話をしていたところです」

「そうね、今日からはヒル姐が不死魔族を護り13(サーティーン)が仲間に加わるんだからね」

「それじゃあ朝食にでもするか、あいにく侍女がいないから自分達で準備するのだかな」

「準備って言ったってジェイクが空間から出すだけだけどね」

「はい、それじゃあ食堂に行って朝食にしますか」



 ー



 朝食をとった後、俺達はビルヘルム王と13(サーティーン)ちゃんがいる例の隠し部屋へと向かう。


「やあ、来たね」

「ああ、待たせたな」

「いや、待ったと言う感覚は無いから大丈夫だよ」


「それじゃあ今後についてなんですが…」

 俺達は昨日出したテーブルセットを囲み座る。


「うん、始めようか」

「旅の途中で離脱するのは心苦しいが、私はこの城で父の回復を待ち、氷魔術の魔宝原石ミスティックジェムストーン凍藍玉石(フリーズアクア)を護るとする」

「僕はヒルディ姐さんと交替する形で君達の仲間に入れてもらう、でいいんだよね?」

「ええ、宜しくお願いします」

「だけど13(サーティーン)は冒険者登録しているの?」

「いや、僕は死神だったからね、わざわざ冒険者登録なんかはしていないけれど問題無いでしょ」

「まあ、13(サーティーン)ちゃんなら登録申請すれば問題無く登録できるだろうから次の街の冒険者ギルドで一応冒険者登録しておくと言う事で」

「次の街と言えば次はどの種族の所へ行くつもり?」


「そうですね…13(サーティーン)ちゃん、ここから最も近い種族の街は何処か分かります?」

「分かるよジェイク兄ちゃん、僕の頭の中には世界地図がインプットされているからね、獣人族の都ナランティアを除けば炭鉱族の都グラッグモールだね」


「炭鉱族と言えばハワードさんみたい口が悪くて頑固者が多いのかしら?」

「炭鉱族は気の強い種族だよ、閉鎖的な所もあるけど好奇心は旺盛だし手先は器用、ただ喧嘩っ早くて酒好きな種族でもあるね」

「つまり、ハワードさんみたいなのばっかって事ね…」

「気に入られれば家族の様に接してくれるけど、気に入られなければ口をきいてくれないどころか街から追い出されるよ」


「まあ、何れにしても魔宝原石ミスティックジェムストーンを保有する全ての種族を回るつもりですから、どの種族だろうと遅かれ早かれ回るには違い無いですし」

「そうね、で?炭鉱族の都グラッグモールって言うのはどこら辺なの?」

「炭鉱族の都グラッグモールはここプラハス大陸の西側、マウニダク山脈にあるよ」


「そこまでは歩いてどれ位かかります?」

「歩いてなら3ヶ月位かな?でも君達にはバイクとやらがあるだろ?それで行けば何て事無いよ」


13(サーティーン)はバイクの事まで知っているのだな、なら話は早い、私が乗っていたバイクをお前に卸そう」

「いや、僕には必要無いよ」

「何でよ?あ、さてはあなた怖いのね?」

 アンバーが冷やかす様に八重歯を見せ微笑する。


 13(サーティーン)ちゃんは至極冷静にと言うか、冷めた目でアンバーを見る。

「ジェイク兄ちゃんはバカだと思っていたけどアンバー姉ちゃんもバカなの?」


 っ!?

 やっぱ俺の事、バカだと認識していたのね…


「ふふん、そんな事言って図星なんじゃない?キキキキキ」


「はぁ…いいかい?アンバー姉ちゃん、僕は死神だよ?魔力も魔量も君達より上だしあの程度の物に乗る事に怖気付く理由が無いよ。僕が必要無いと言ったのは僕は飛べるからさ、飛んで移動できる僕がバイクをわざわざ使うより飛べないヒルディ姐さんの為に置いておいた方が何かあった時に便利だからさ」


「ぐ……し、知っていてわざとからかっただけよ!そ、そ、そんな事にも気がつかなかった訳?えっ…とぉ、わ、私なりにあんたとコミュニケーション取ろうとしてあげたんじゃない。は、は、ははは…」

 顔を真っ赤にしているアンバーを見れば当然そんな訳無い事は誰の目から見ても一目瞭然だ。


「そうだったんだ?それには気づかなかった。ゴメンよ、アンバー姉ちゃん」


 え?13(サーティーン)ちゃんは信じたの!?

 意外と13(サーティーン)ちゃんピュア?

 いや、もしかしたら気づいていてとぼけているだけか?


「っ!?ふ、ふん。わ、分かればいいのよ」

「うん、これから宜しくお願いするよアンバー姉ちゃん」

「ふふん、分かったわ」

 ドヤ顔のアンバー。


「やれやれ。じゃあ私はここに残るがお前たちは引き続き旅を続け次なる目的地は炭鉱族の都グラッグモールと言う事でいいな」

「「「イエッサー」」」


「あれ?13(サーティーン)ちゃんはイエッサーまで知っているのですね」

「うん。僕が君達の事で知らない事は無いよ、そう、知らない事は何一つ無いんだ」


 っ!?


 2回言う事に意味深さを感じるがスルーしよう。

 アンバーもヒル姐も聞かなかった様に宙を見ている。


「え、えーと、それじゃあ、い、いつ出発しますか?」

「そ、そうね、ヒル姐と離れるのは辛いけど、やっぱし早い方がいいよね?」

「う、うむ。ま、まあ離れても死神の能力でお互いに連絡は取れるしな」


「それじゃあ明朝出発と言う事でいい?」


「いいんじゃないかな」


「ところでジェイク兄ちゃん、アンバー姉ちゃん、ヒルディ姐さんが離脱して【紅炎の焔】のリーダーは誰にするんだい?」


「ジェイクでいいんじゃない?悔しいって言えば悔しいけど今までの旅もそうだけど闘いでも瞬時の判断はジェイクが優れていたのは事実だし」

「ほう、アンバーも大人になったな」

「な?何言ってんのよヒル姐!私はただお子様ジェイクに華を持たせてやっただけよ」

「ジェイクはいいかな?」

「え?ええ、まあそう言ってもらえるならいいですけど…」


「安心なさい、ジェイク!このアンバーがダメリーダーのケツは拭いてあげるから!」

「僕はジェイク兄ちゃんの汚れたお尻を拭くのは嫌だな、それ位自分で出来るでしょ?って言うか人にお尻を拭かれて恥ずかしくないの?」


「いや、13(サーティーン)ちゃん、実際に僕のお尻を拭く訳じゃなく、僕のフォローをしてくれるって意味だよ」

「ああ、そういう意味なんだ?そういう意味なら僕もダメジェイク兄ちゃんのケツを拭いてあげるよ」


「さっきから2人ともダメダメ失礼なんスけど…」


「よし!それじゃあ今から【紅炎の焔】のリーダーはジェイクだ!そして明日からは次なる目的地、炭鉱族の都グラッグモールを目指すと言う事でいいな!」

「「「イエッサー!!」」」



 ーーー



 翌朝



「それじゃあヒル姐、行ってきます」

「ああ、気をつけてな」


「早くお父様目覚めるといいわねヒル姐。私、旅を続けながも1日も早くヒル姐のお父様が目覚める様、祈ってるわ」

「ありがとう、アンバー。父が目覚めたら死神の能力で連絡するな」


「ヒルディ姐さん、分かっていると思うけれど僕に任せておいてくれれば何も心配いらないよ」

「そうだな、2人を宜しく頼む。それから……父の事、改めて礼を言う、ありがとう…」

「お礼はいらないよヒルディ姐さん、僕が好きでやった事だし」

「…そうか、それでもお前には感謝している。もし私に出来る事で恩を返せる事があったらその時は何なりと言ってくれ」

「そうだね、もし何かしらして貰う事でヒルディ姐さんの気が楽になるとするなら一つお願いしようかな」

「ああ、何だ?言ってくれ」

「ドムリアを、彼を宜しく頼むよ。彼はずっと一人ぼっちだったんだ。ヒルディ姐さんさえ良ければ友達になってあげてくれないかな」

「何だ…そんな事か。それなら頼まれなくてもそうするつもりだったさ。何しろ父上を護ってくれている頼もしき恩人だ、父上が目覚めたら友達どころか家族として迎え入れると約束しよう」

「それはきっと喜ぶと思うよ、ドムリアは友達はもちろん、家族というものを持った事も無いからね」

「そうか。では約束しよう、ドムリアは我がファビウス家の一員にするとな」

「うん。宜しく頼むよ、ジェイク兄ちゃんとアンバー姉ちゃんの子守りは僕に任せておいてよ」


「ちょっと、13(サーティーン)、誰が誰の子守りするですって?」

「ん?聞いていなかったのかい?アンバー姉ちゃん、僕がジェイク兄ちゃんとアンバー姉ちゃんの子守りをすると言ったんだ」

「何ですってぇ?ジェイクならいざ知らず何であんたみたいなガキに私が子守りされるのよ!」

「ガキだって?それは見た目で判断しているだけの話だね?」

「見た目以外何だって言うのよ!」


「分かった分かった、2人ともその辺にしておけ」

「はぁ…やれやれだぜ」


「ちょっとジェイク、何がやれやれだぜよ?」

「あ、いや…」


「やめろ、2人とも。まあ、13(サーティーン)よ、こんな調子が続くと思うが宜しくな」

「分かっているよ、ヒルディ姐さん。僕は【紅炎の焔】の事なら何でも知っているんだ、そう、何でも、ね」


 出た、13(サーティーン)ちゃんの意味深発言。

 どこまで何を知っているのか聞きたいけど聞けない…。

 アンバーも大人しくなった。

 う〜ん、確かに見た目だけなら1番年下だが、実質的なイニシアチブは13(サーティーン)ちゃんが持っていると言う図式は確立しているな…。


「えっ…と…そ、それじゃあヒル姐、行きます。また定期的に成り行き報告します」

「ああ」

「そ、それじゃあヒル姐また来るね」

「ああ、待っている」


「ドムリアさんもヒル姐とビルヘルム王の事宜しくお願いします!!」

 俺は少し離れた城門で門番を続けるドムリアさんに聞こえる様に大きな声で話しかける。

 するとドムリアさんは振り向き、いたって真顔で右手をあげた。

 それは任せろと言う意味だろう。



「ドムリア!また遊びに来るからね!!」

 アンバーも大きな声で話しかける。

 ドムリアさんは右手を振り答える。


「じゃあねドムリア、僕達はそろそろ行くよ」

 13(サーティーン)ちゃんは特に大きな声を出す事なくいつものボソボソした感じで言う。

 それじゃあいくら何でも聞こないだろう。

 あ、そうか、13(サーティーン)ちゃんなりに照れ隠しで独り言で言ったのか。


13(サーティーン)キヲツケテ」


「聞こえてるんかい!」


「当たり前だろ、ジェイク兄ちゃん、ドムリアは元々犬なんだよ?僕達より聴覚も嗅覚もよっぽど優れているんだよ」

「そ、そか…」

 大声を出した俺とアンバーは顔が赤くなる。


「そ、それじゃあヒル姐、今度こそ行きます」

「じゃ、じゃあまた…」

 俺とアンバーはバイクに魔力を流し始動させる。


「じゃあジェイク兄ちゃん、アンバー姉ちゃん、僕が道案内するから付いてきてね」

「ええ、お願いします」


 すると13(サーティーン)ちゃんは音も立てずに空へと上昇していく。


「それじゃあ連絡します!」

「ああ、気をつけてな!」

「またね、ヒル姐!」

「ああ、いつでも遊びに来い!」


「じゃあ行くよ」

「ええ、13(サーティーン)ちゃん」

 そういうと13(サーティーン)ちゃんは一気に加速し飛んで行く。


「わあ!?ちょ、ちょっと!!13(サーティーン)ちゃん待って!!アンバー、追いますよ!」

「う、うん!!」

「き、気をつけるんだぞ!」

「イ、イエッサー!ヒル姐、連絡します!」



 こうして13(サーティーン)ちゃんのペースに巻き込まれながら不死魔族城を後にし次なる目的地に向かうのだった。

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