第51話 昏睡の原因
納得したのか、それとも帰らならければならない理由でもあったのか今は分からないが何とかうろつく者の奴が引き下がってくれたのは良かった。
それはそうと今知らなくてはいけない事情がある。
「それで13ちゃん、肝心のビルヘルム王は?その後と言うか今現在の容態は?」
「回復途中だよ、不死魔族だから死にはしないよ、さっきも言ったけどもうすぐ目を覚ますはずだよ、まあ、もうすぐと言っても何日か後になるだろうけどね」
「魔宝原石はまだビルヘルム王の体内にあるのですか?」
「いい質問だね、ジェイク兄ちゃん。それを聞いて欲しかったよ。魔宝原石はここさ」
そう言うと13ちゃんはビルヘルム王が横たわるベッドの下から透明な、だけど青い宝石を取り出した。
「それは凍藍玉石!!」
ヒル姐が気づく。
「そう、ビルヘルム王が命に代えてまで守ろうとした氷魔術の魔宝原石凍藍玉石だよ」
そう言うと13ちゃんはまるでハンドボールか何かみたいに無造作に氷の魔宝原石凍藍玉石をヒル姐に投げつけた。
っ!?
ヒル姐は少し慌てながらもしっかりと魔宝原石を両手でキャッチした。
「あげるよ」
っ!?
「あげるって…!?」
「いや、あげるじゃないね、返すよ、か?この場合」
13ちゃんが顎に手をやり、考えている感を出すがこの際あげるでも返すでもどっちでもいい。
「ビルヘルムの王様が昏睡の今、その魔宝原石の持ち主、いや管理者はヒルディ姐さんでしょ?僕と交替するって言う事はビルヘルムの王様とその魔宝原石を護ると言う事だよ」
「私が…?」
「それはそうでしょ?大体君達は各種族の長や賢者にそれぞれの種族が守る魔宝原石をうろつく者の存在と陰謀を阻止する為に世界を回っているんだろ?ならヒルディ姐さん以外に氷の魔宝原石を守る人はいないと思うけど」
「確かにそうですね」
「ふ、ふん!私は最初から魔宝原石をヒル姐に返しなさいよって言うつもりだったわ」
「…分かった。このヒルディ・ファビウス、命に代えてでもこの凍藍玉石を我が父ビルヘルム王と護ると誓おう」
「うん。だけどヒルディ姐さん、引き継ぎはまだ終わりじゃないよ」
「ん?まだ何かあるのか?」
「うん。僕と握手をして」
13ちゃんが左手を差し出す。
「?握手と言えば右手じゃないのか?」
ヒル姐は警戒している訳じゃないだろうけど不思議そうに聞く。
「ただの挨拶や引き継ぎ宜しくと言う意味で握手する訳じゃないよ、いいから、さあ」
「あ、ああ…」
っ!?
ヒル姐が13ちゃんと左手で握手した瞬間、2人の手と手が光った!
「こ、これは…!?」
眩しく光る光を見つめながらヒル姐が聞く。
すると程無くして光は消えた。
「これで引き継ぎは終わりだよ」
っ!?
ヒル姐が頭を押さえる。
「ヒル姐!?」
「ちょ、大丈夫!?」
「な…!?」
頭を押さえたヒル姐がオッドアイの目を見開き13ちゃんの方を見る。
「ちょっとあんた!ヒル姐に何をしたのよ!」
アンバーが魔力を増幅させる。
「落ち着きなよアンバー姉ちゃん、ヒルディ姐さん2人に説明してあげてくれない?」
「あ、ああ…それが…13の声が頭に直接聞こえるのだ…」
「え…!?」
俺とアンバーは思わずヒル姐に聞く。
「聞こえるだけじゃないよ、次はヒルディ姐さんが僕をイメージして僕に心の中で呼びかけてみて」
「………………」
「うん、そう、聞こえてるよ」
「………………」
その後、2人の間では二言三言交わしたみたいだが俺達には聞こえない。
「ヒル姐?」
アンバーが声をかける。
「あ、ああ、すまない、大丈夫だ…ただ少し驚いてしまってな…」
ヒル姐が頭を押さえたままアンバーに答える。
「僕に残された死神の能力を分けたんだ。何しろ代理とは言えいきなり不死魔族代表をする訳だし、うろつく者にいつ襲撃されるとも限らないからね、連絡は常に取れる様にしておいた方がお互い安心でしょ」
「分け与えた死神の能力って?テレパシーみたいな力ですか?」
「ん?テレパシー?テレパシーとは何か僕は知らないけれど僕とヒルディ姐さんはお互い話しかけたい時に相手をイメージして心で念じればいつでもどこでも話しかけられる様にしたんだ。離れていても何かあった時に駆けつけられる様にね、まあ、世界を見る力と瞬間移動の力は無くなったけど連絡位は取れる少しだけ残った死神の力さ」
「すごい!!死神の能力ってなかなか便利ね!私とジェイクにもその力分けてよ!」
アンバーが目を爛々とさせ13ちゃんにねだるがそれは無理だろう。
「いいよ」
「いいんかい!!」
「何よ!ジェイク、いきなり大きな声出して」
「いや、そんなに簡単に死神の能力って貰えるんだなぁって…」
「簡単にあげないよ、ただ君達は仲間だしこれから世界を救おうと言うんだから持てる力は分けられるなら分けた方が合理的だと思ったから特別だよ、但しこの4人の間でしか会話出来ないよ」
「いや、4人だけでも離れていても会話が出来れば十分です」
「そう。じゃあ順に僕と左手で握手して」
俺達は順に13ちゃんと握手をして死神の能力の一片を手に入れた。
試しに心で会話をしてみたが頭の中が痒いような痛いような何とも言えない感じだ。
まあ13ちゃん曰く魔力も大量消費するし慣れもしないから非常用もしくはたまに使う位の方がいいとの事だ。
確かに少し会話しただけで目の前がグルグルと回る感じがしている。
「あ、後さっきここまで案内した門番のドムリア、彼もここに残って門番とファビウス家の警護を続けるから宜しくね」
「彼は13ちゃんとペアじゃないんですか?」
「ドムリアとペア?可笑しな事を言うねジェイク兄ちゃん」
「そうですか?僕はてっきり死神コンビかと…」
「あはははは。って言う風に“あ”の後に“は”を続けて笑うトコなんだろうね、ドムリアは死神じゃないよ。番犬だよドムリアは」
「ちょっとぉ、その言い方はヒドイんじゃない?いくらなんでも犬呼ばわりは」
「だって彼は犬なんだから犬、番犬でいいじゃないか」
ん?もしかしてそう言う事か?彼、つまりドムリアは犬扱いされる事に性的欲求を満たされるクチか?
「違うよ、ジェイク兄ちゃん。やっぱりジェイク兄ちゃんはバカなの?」
っ!?
しまった!心の声がテレパシーで伝わったか?
「心の声なら相手に届けとイメージして使わない限り伝わらないよ、大体にして頭痛や目眩がしていないだろ」
っ!?ならやっぱり読心スキルか?
「もういいよ、ジェイク兄ちゃん」
はっ!!
無表情な13ちゃんだが今明らかに呆れた表情したよね?
「ドムリアは魔術で人型にしたけど元は地獄の番犬さ、ビルヘルムの王様が冥王サーベラスを倒した際に地獄の門は封鎖して門に拘束されていた番犬のケルベロスを解放して飼い慣らしたんだ」
「あの顔が3つある狂犬のケルベロス?」
「そう、だけど狂犬じゃないよ地獄の門に括り付けられ自由を奪われ怒り狂っていただけなんだ、みんな誤解しているけど本当は優しく忠実な犬なんだ」
「でも人型になったとは言え顔は一つだったけど?」
「どうせなら一つに纏めた方がお互い話しやすいだろ?3つも顔があってそれぞれが言いたい事言い出したら聞きにくいし、第一食費も3倍になるんだよ」
合理的と言えば合理的だが、そういうんでいいの?
「で、今は我が城の門番をしていると言うなら地獄の門番と同じで自由になりたいと願いはしないのか?」
「言ったろケルベロスは本来優しく忠実なんだって、冥王サーベラスを倒し自由を与えてくれたビルヘルムの王様は恩人以外の何者でも無い、彼は自分の意思でこの城とビルヘルムの王様を守っているんだよ」
「でも何で名前がケルベロスじゃなくドムリアなの?」
「地獄の門番ケルベロス、彼はそのイメージと記憶を消したいんだ、だから魔術でとは言え人型になり名前も改名したんだ」
「まあ…そういう事なら引き続き城を守ってもらえれば心強いな」
「うん、戦闘力だけなら僕に負けず劣らずだから安心していいよ」
無表情だがこういう自意識過剰なトコは誰かとキャラ被るな。
「ところで、ビルヘルム王の体内に吸収された魔宝原石はどうやって取り出したんです?」
「なに、簡単だったよ、ズルい力で大体この辺かな?って言う辺りを刈り取って魔宝原石を取り出したんだよ」
っ!?
「えっ…と…それは体の一部をズバッと切り取った?」
「いや、胴体を切り離してビルヘルムの王様の臓物の中に手を入れ探し出して、またズルい力で魔宝原石の箇所を切り出して魔宝原石を取り出したんだよ」
……………………………。
「で……えっ…とぉ…魔宝原石は無事取り出せた…?」
「そうだよ、さっき無傷の凍藍玉石を返しただろう」
「で……頭と四肢がバラバラになったビルヘルム王の胴体を戻した…?」
「戻したというか、切り離した部分を取り敢えずテープでとめておいたというのが正しいな」
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ヒル姐の方をチラ見すれば、今までに見た事ないアングリ顏で口を開けて言葉も無く視点も定まらないヒル姐がいた。
「え…えーとっ…そ、それじゃあビルヘルム王が未だ昏睡状態で眠っているのはうろつく者にやられた訳でも魔宝原石を体内に吸収した副作用でも無く…………」
「うん。僕がバラバラに解体したからだろうね」
っ!?
「ちょ、ちょちょ、ヒル姐ぇ!!落ち着いて!!」
「そうよ!ヒル姐!!13を殺っても事態は変わらないわ!!」
「………………………………」
目を三角にして白目をむいたヒル姐が13ちゃんの首を絞め宙に浮かし揺すっている。
「フンヌーーーーーーーーーーー!!!貴様か!?貴様が父をこの様な状態に!!!ゆるっさーーーーーーん!!」
「ヒル姐ぇ!!落ち着きましょう!!」
「そうよ、まず手を離して!!」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ……」
やっとの思いで13ちゃんの首からヒル姐の手を引き剥がした。
「……………………………………」
13ちゃんは変わらず無表情だ。
「ま、まあ、結果オーライと言う事で、それにもうすぐビルヘルム王も復活するんですよね?ね?13ちゃん!?」
「だから、そうだとさっきから言ってるじゃないか」
「きっさまーーーー!!まだ反省していなあと見えるな!!」
「……………………………………」
「わあ!!だからヒル姐、取り敢えず首絞めるのストップ!!!」
ーーー
「しかし不死魔族の生命力?復活力はスゴイですね、そんなバラバラにされても復活出来るんですから」
「ホントホント!!私も驚いちゃった!ね、ヒル姐!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
「だから僕は最初から…あぐぐぐ………」
俺は慌てて13ちゃんの口を塞いだ。
まあ、確かに13ちゃんじゃないが結果オーライで纏まって良かった。
13ちゃんの言う通りならじきビルヘルム王の目を覚ましヒル姐と感動の再会を果たすだろうし、そう、800年と言う年月に足してうろつく者との命懸けの闘いを乗り越えての再会だ、感動はひとしおだろう。
うん。そうだよ、そうに違いない。
そうだと信じよう。
じき目を覚ませばだが………いやいや、何を言っている!じき目を覚ますに決まっている!
大体にして消滅していないしぃ、頭と四肢もつながってるしぃ、ね!間違いない!
「きょ、今日は疲れたな…皆、私の部屋で良ければ今日のところは寝るとするか…?」
「そ、そうね、そうしましょ」
「そうですね、今後の事はまた明日話し合うとしましょう」
「それじゃあ僕はここで今夜もビルヘルムの王様といるよ」
「あ、ああ、すまない、と言うべきなのか微妙だが…頼む」
「うん。いいよ、それに近々ビルヘルムの王様が目覚めたらこの部屋にいる必要も無いからヒルディ姐さんも安心していいよ」
「…何だか心の底からありがとうと言えないが、取り敢えずありがとうと言っておこう」
「うん。いいよ」
「それじゃあ13ちゃんすみませんが僕達は一先ず休ませてもらいます」
「うん。おやすみ」
そうして久々に長いと感じた1日は終わった。
ああ…疲れた…。




