第50話 死神
「今回は僕の話からだね」
今回は…って、少女は誰に向けて回を割っているのだろう?
まあ、いいか。
「お願いします」
「僕の名前は13。不死魔族で死神だよ」
「死神!?死神って言ったら神って言う位だから不死魔族ピラミッドの頂点って事ですか?」
「それは違うよ、ジェイク兄ちゃん。確かに神だけど不死魔族の長はビルヘルムの王様だよ」
「どう言う事?」
「元々不死魔族を支配していたのは冥王で、不死魔族に限らずだけれど死を管理しているのが死神だよ」
「で、今はヒル姐の父上ビルヘルム王が不死魔族を支配している訳?」
「アンバー姉ちゃん、確かにビルヘルムの王様は不死魔族の長だけれど支配者と言うのはちょっと違うかな」
「何が違うんです?」
「不死魔族の代々トップを君臨していた冥王共はそりゃやりたい放題だったよ、他種族との争い、アンデッド達の野放し、略奪から殺戮、何一つ世の中に役立つ事はしないまさにゲスの極みだったね、おかげで僕達の管理管轄外の死が絶え間なかったしね」
「それが不死魔族の支配者で冥王?」
「そう、兎に角、世を混乱させる事だけにしか頭使わない奴らだったね。他種族と交流する者、冥王に意見する者、冥王のやりたい事を邪魔する者は呪いや暗殺の類で殺しては不死魔族の部下にしたり消滅したり、要するに力づくで支配し好き勝手やってた訳だれども、まあ兎に角下衆な奴だったよ」
「そこへ父上がアニエスに殺され図らずも不死魔族となり、冥王サーベラスと対峙勝利し不死魔族の長になった?」
「図らずもかどうかは置いておいて答えはその通りだよ、正確には僕もビルヘルムの王様に少しだけ肩入れしての勝利だったけどね」
「何故13ちゃんはビルヘルム王についたのです?」
「それはいい質問だねジェイク兄ちゃん。答えは簡単さ、ビルヘルムの王様がいい人だからだよ」
「何故いい人だと?」
「これはあまり言いたく無いのだけれど僕達死神は常に管轄下の生きとし生けるものを監視しているんだ、何故なら死に際には駆け付けて魂と肉体との関わりを絶ってあの世に連れて行かなきゃならないからね」
「じゃあ何でヒル姐の父上はあの世に連れて行かないで不死魔族にしたの?」
「何で?かい?面白い質問をするねアンバー姉ちゃん、それはビルヘルムの王様溺愛のヒルディ姐さんのたっての願いだったからだよ、ねえ、ヒルディ姐さん」
ヒル姐をチラ見すれば少し息を吸う様な仕草をした。
「私が禁忌魔術を使い父上ビルヘルムを黄泉帰らせたからな」
無表情の13ちゃんが心なしか微笑した気がするのは気のせいか?
「本来ならあの禁忌魔術は禁忌だから妨害する事も出来たんだけれど何故かあの時は妨害しない方が得策な気がしたんだ、まあ実際その勘は当たったと思っているよ」
「死を管理する死神なら生殺与奪の権利があると?」
「いや、違うよヒルディ姐さん。僕らは死を連れて行く事は出来るけれど生は与えられない、残念ながらね、言うならヒルディ姐さんが禁忌魔術を使った時は見て見ぬ振りしただけだよ」
「ヒル姐の前で言うのも何だけど、そんな事していいの?」
「ダメだね、僕もルールを破ったからこうしてここにいるんだけどね」
「ルールを破ったからこうしてここにいるって言い方は何かペナルティを課せられたって事ですか?」
「そうだよ、僕はルールを破ったからペナルティを課せられているんだ」
「そのペナルティとやらは?」
ヒル姐が13ちゃんに質問してはいるが、そのオッドアイの瞳をしかめるようにしているのは気まずい答えを聞く事になる気がしているからか…。
「死神としての職務を外されたんだ、そりゃそうだよね死を無視したのだから」
「つまり死神じゃなくなった?」
「いや、死神の職務を外されただけで僕自身が死神である事に変わりはないよ、ジェイク兄ちゃんが魔術を使えなくなったとしても魔族には変わりないでしょ?そう言う事さ」
「死神の職務って…?具体的には何なんです?」
「まず管轄下の生き物の監視活動が出来なくなる、つまり一箇所にいながらにして全世界が見れたのが見れなくなる、ただ幸いな事にビルヘルムの王様に紐づく人物は見れたから君達の事は見続けられたけどね」
「それだけ?」
「それだけじゃないよ、世界が見れなくなるイコール瞬間移動も出来なくなった」
「瞬間移動って出来るんですか?」
「うん、これは選ばれし者の特権でね、さっきも言ったけど死神は死を迎えに行かなければならないからね」
「後は?」
「後は斬魂鎌って言って魂と肉体を切り離す技が使えなくなったから一撃昇天の必殺技、そう文字通り必殺なんだ、必ず殺せるんだけどこれも出来なくなったね」
「分かった、つまり“ただの”強い者になったと言う事だな」
「平たく言えばそうだね」
「死神の職務を外されたのは分かったが何故ここにいる?」
「ここにいるのは僕が好きでいるだけだよ、今ビルヘルムの王様に消えられては僕が死神の職務を放棄してまでビルヘルムの王様についた意味が無くなるからね」
「要するにビルヘルム王を護っているって事?」
「そうだよ、ビルヘルムの王様を護りながら君達が来るのを待っていたんだ」
「僕達を待っていた?」
「ああ、待っていたよ。ここは結界が張ってあり尚且つ城の奥に隠された部屋だからうろつく者もそう簡単には見つけられないだろうから実際は護っていたと言うより君達を待っていたのが現実かな」
「僕達が来るのを待って僕達にこの事を伝える為に待っていたと言う事ですか?」
「その質問は半分だけ正解だね、残り半分の答えは僕と交替して欲しかったんだ」
「13ちゃんと交替するって、ビルヘルム王を護る役目を交替って事?」
「そうだよ、それが完全に正解の質問だね」
「ちょっと待ってよ、私達があなたと交替してこの部屋でビルヘルム王を護ってあなたは私達の変わりに旅をするって事?あなた私達の事見ていたなら私達が趣味趣向で世界旅行してる訳じゃない事は知ってるわよね?」
「もちろん知っているよ、アンバー姉ちゃんは勘違いしているみたいだけれど僕と君達全員が交替する訳じゃないよ」
「え?…じゃあ誰とよ?」
「私しかいないだろう…」
「…………………」
ヒル姐の申し出に13ちゃんも無言でいる。
「ビルヘルムは自分の父親だし、そもそも父を不死魔族にしてしまったのは私の責任でもある、その責任を果たすなら私以外にいないだろう」
「…それはそうかも知れないけど」
「旅半ばでリタイアするのは申し訳ないが自分の親の面倒を他人に押し付けてまで旅を続けられはしないだろう」
「でも……」
アンバーが言葉を続けたそうだが無理に言葉を飲み込む。
「旅については心配いらないよ」
13ちゃんが人差し指を立てながら言う。
「え?どう言う事です?」
「言っただろ、僕と交替するんだよ、その言葉の通りさ、ヒルディ姐さんはここでビルヘルムの王様の回復を見守りながら警護する、僕はヒルディ姐さんの変わりに君達と各種族を巡る旅について行く、そう言う事だよ」
俺とアンバー、ヒル姐は顔を見合わせる。
「何だい?君達、僕じゃあヒルディ姐さんの代わりが務まらないとでも思っているの?」
「いや、そう言う訳じゃあ無いですけど…」
「心配はいらないよ、魔力感知眼なら僕の方が感度、計測可能距離も上だし魔術、武術ともに君達より上だと断言できるよ」
………………。
いつもなら挑発的な発言に噛み付くアンバーも流石に呆気に取られているようだ。
そりゃそうだよね、いきなり仲間になる宣言からあれだけ謙虚さの欠片もない見事なまでの自信の塊発言されれば噛み付くシマも無いだろう。
「そう言う訳で宜しくお願いするよ、ジェイク兄ちゃんにアンバー姉ちゃん」
「え…?あ、ああ、えっ…と…」
「ちょ、ええ?ちょっと、ヒル姐ぇ??」
「あ、ああ、確かに実力は間違いなさそうだ…はっきり言って私達全員でかかって敵うかどうか…と言った実力だろう」
「そう言う事じゃなくって…!」
「アンバー姉ちゃん、力もある、事情も理解している、それなのに何が不満なの?」
「いや、不満とかそう言うんじゃなくって…ただ…」
「ただ…何だい?」
「いきなり会って仲間に入れろって言われても…」
「ああ、そうか、僕は君達の事を見ながら早く会いたいと思っていたが君達は僕の事を知らなかったからね、人見知りをしている訳だね」
「いや、人見知りと言うより戸惑っている方が強いかな?」
「戸惑うのは分かるがよく考えてみてよ、この提案は誰が損するの?いや違うな、全てにおいて丸く収まるんじゃないかな」
「私達はヒル姐と離れるのは寂しいわ」
「アンバー姉ちゃん、アンバー姉ちゃんらしくもない意見だね。寂しい寂しくないの問題じゃないのはジェイク兄ちゃんとアンバー姉ちゃん、ヒルディ姐さんの3人つまり【紅炎の焔】の皆さんが誰より分かっているはずじゃないの?」
「……………………」
13ちゃんの言う通りだ。
「13の言う通りだな、我が父を見るのは娘の私の責任、世界の為に旅を続けるのはお前達が決めた使命、それに手を貸してくれると言っている死神、今選択すべき選択肢は私と13が交替しお前達は旅を続ける事だろう」
…………………。
「人生や旅に別れはつきものだよ、寂しい思いなら前の獣人族でもしただろう、それと一緒だよ、永遠に会えない別れじゃない、ヒルディ姐さんとはまた会えるしビルヘルムの王様もやがて目を覚ました時、僕が立っているより最愛の娘ヒルディ姐さんがいた方が感動すると思わない?」
「…そうですね」
「…分かったわ、あんたを【紅炎の焔】に入れてあげる。ヒル姐のお父様護ってくれたし、うろつく者相手にするのに仲間はいた方がいいしね」
「ありがとうアンバー姉ちゃん、そう言ってもらえて嬉しいよ」
嬉しいよって言ってるけど無表情だから感情が分かりづらいな。
「ジェイク兄ちゃん、僕は感情表現が下手だけれど僕は今、今までで1番喜んでいるんだ」
「あ、ああ、そうなんですね…」
「そうだよ、何なら喜びの感情を前面に出そうか、わーい、わーい」
わーい、わーいって言葉を言っても顔が無表情だからな…
「サ、13、ジェイクとアンバーを宜しく頼むぞ」
「任してよ、ヒルディ姐さん。こう見えて僕は律儀でね、任された以上は期待以上の働きをするよ」
「あ、えっ…と、13ちゃん宜しく」
「こちらこそ宜しくお願いするよジェイク兄ちゃん」
「わ、私もヒル姐がそう言うなら仲良くしてあげてもいいわよ」
「ありがとうアンバー姉ちゃん、仲良くしてくれていいよ」
「えっと…それで、ビルヘルム王の容体は今後どうなるのでしょう?」
「うん、恐らく近い内に復活すると思うよ」
「話が途中になっちゃってましたけどビルヘルム王はうろつく者と闘って魔宝原石を体内に取り込んじゃってその後はどうなったんですか?」
「ああ、ビルヘルムの王様が魔宝原石を体内に取り込んじゃって凍ちゃったトコで話が途切れていたね、話を戻そうか」
俺は一段落ついたので茶を煎れ直した。
「ありがとうジェイク兄ちゃん、でね、ビルヘルムの王様が魔宝原石を体内に取り込んじゃった事に我を忘れて怒るうろつく者の前に満を持して僕が登場したんだ、うろつく者は一緒僕に驚いた様だったけど構わず吹き荒れる手刀を振り下ろしたよ」
「で!?」
「もちろんパリイしてあげたよ」
「どうやって??」
「どうやって?って決まってるじゃないか、ズルい力でだよ」
「ズルい力??」
「ジェイク兄ちゃんの空間魔術みたいなもんさ、いや際限無く使えるジェイク兄ちゃんの空間魔術とは違うか、まあ使用限度は限られるけど反則的な力を出せるんだよ僕は」
「その反則的な力ズルい力でうろつく者の渾身の一撃をパリイされたうろつく者は大人しく引き下がった?」
「いいや、顔は微笑んだままだけれど感情的にはますます怒ったみたいでそれはそれは嵐の如く連打してきたよ、まあ僕はズルい力で尽くパリイしたけどね」
「でもさっきズルい力には際限があるって言ってましたよね?」
「うん、実際はヤバかったけれどジェイク兄ちゃんがさっきから思っている様に僕は無表情じゃないか、それが功を奏してうろつく者は僕のズルい力は無制限だと思ったんだろうね、諦めたのか時間が経って頭が冷めたのか冷静さを取り戻したよ」
「それで?冷静さを取り戻したうろつく者は?」
「『いや〜、すいません。つい我を忘れて剣を振り回しちゃいました、ところで貴方は?』って聞いてきたから死神だと教えたよ」
また13ちゃんはうろつく者の声と喋り方そのままに説明してくれる。
「と言う事はうろつく者は死神とは初対面だったの?」
「そうみたいだったよ、それから『その死神が何故僕の邪魔をするのです?』なんて聞いてきたから魔宝原石を君に壊させない為だと言ったら妙に納得してたね」
我を忘れた自分といきなり現れた無表情の死神、さらにその力は自分にも匹敵すると思わせる力の持ち主だった。
その死神が本人の意思とは別だが冷めた表情で魔宝原石を守る為だと言えば味方じゃないにしろ敵ではない、少なくとも魔宝原石の存在は守ったと言う意味では相通ずるところがあるかも知れないとうろつく者にしたら考えたかもしれ知れないな。
「何でうろつく者は納得したのよ」
「アンバー姉ちゃん、それは後でジェイク兄ちゃんから聞きなよ」
「はあ?何でジェイクに聞くの?」
「今、ジェイク兄ちゃんが推測した答えが合っているからだよ」
「そうなの!?」
「や、まあ、その…はい、後で説明します」
読心スキルあるだろ?完全に。
「それでうろつく者は帰ったのか?」
「うん。僕の職業柄からビルヘルム王の死期が近いと思ったのか、はたまた長居出来ない理由でもあったのかは分からないけれど『ここは貴方に免じて一旦引き上げましょう、ただ魔宝原石は取り出しておいて下さいね、まあ頼まなくてもこのまま放っておけばビルヘルムさんは死にそうだし、死ななかったら死ななかったで貴方が処置するのでしょう、僕はどっちにしろ後から安全な橋を渡って魔宝原石を頂けばいいだけですからね』ってさ」
「確かに妙に納得するのが早いわね」
「13との闘い、更には父上とも闘っていたし例の分身魔術の効果が薄れてきていたから取り敢えず納得したていで引き上げた?」
「13ちゃん、その時のうろつく者の去り方はどんな感じでした?」
「光の結晶になり消えたよ」
「やはり、な」
アンバー、ヒル姐、俺は顔を見合わせる。
13ちゃんは変わらず無表情だ。




